第630話 春のウキウキご連絡

 ビィクティアムさんに諸々のご報告が終わり、夕食タイムの忙しさも終了。

 まぁ……本当の意味での『重要案件』は、サミットの時に皆さんに聞いてもらいたいので言ってないから爆弾投下はもう少し先。


 家族で美味しい晩ご飯も食べ終わって、すっきりさっぱりした心持ちで自室に戻った。

 おや、ガイエスが何かを送ってきていた……こ、この見慣れたピンクの千鳥は……アリスタニアさん!

 え、え、え?

 あいつリエルトンでこれ、預かったの?


 届いていたのは、書簡とインク瓶がみっつ。

 内容は、以前見本をもらった藍銅鉱のインクが安定した色を出せるようになったようで、名前を『賢者の蒼碧』として商品化するので見本をどうぞ……というもの。

 おおおー綺麗だなー!

 名前は、神話の『賢者』から取ったんだね。

 うん、あのお話は人気があるらしいから、この色墨も人気商品になりそうだよねー。


 以前に貰ったものより、少し緑が強いかな?

 いや、光の加減だろうか。

 あれ? これって【時間魔法】の方陣札?

 小さい紙の方陣札を『賢者の蒼碧』で書かれた文字にあてるとあら不思議、あてた箇所だけ色がグリーンに変化する。


 うーわ、何これぇ! 楽しいーー!

 色変ができる、遊べるインクなんだなー!

 アズライトの蒼からマラカイトのグリーンへ、方陣札を使って時間を操ることで空気に反応させて一部分だけでも色味が変えられるというものだ。


 うーん、アリスタニアさん面白いもの作ったなー。

 このインク、次の便で買わせてもらおうっと。

 お手紙書かなきゃ……あれれ、もう一枚手紙が……

 あっ……あああーーーっ!


『ガイエスさんが、ルシェルスで見つけた水牛の乳を取り扱っている所が『契約制』と嘆いていらしたので、リエルトン港で契約して取り寄せられる手配を進めておりますっ!』


 なんとっ!

 ガイエスが『物流』を手に入れた……!

 え、何それ、無敵じゃん?

 リエルトンなんて、皇国の物流の要じゃん!


『でもぉー牛乳の入れ物はぜーんぶ、途中のティエロテで降ろしちゃうので、水牛用の入れ物を初便の戻りで載っけてくださぁい』

 載っけます!

 いや、こんな砕けた書き方はしていないんだが、なんとなくアリスタニアさんの声で聞こえてくると脳内変換がこんな雰囲気ってことだ。


剣月けんつきの便でお送りする分と、こっちでお預かりする保管分もっ! お願いしまぁす!』

 いっくらでも載せますともぉっ!

 いゃっほぉーーう!


 もー、契約制だっていうから諦めているんじゃないかと思っていたけど、ガイエスくんったらこーんな交渉までしてくれていたなんてぇ!

 流石行き届いているねぇ、冒険者にしておくのは勿体ないくらいですよ!


 そうだ、モッツァレッラの作り方をビィクティアムさんにお伝えしておけば、今後はセラフィラントでも作ってくれて、水牛の乳の需要が増えるかも!

 あ、でも水牛って搾乳量が少なそうだから、牛乳を使ったものでも同じ製法のチーズを作ってもらう方が、水牛製に特別感が出ていいかな。

 パスタフィラータのチーズは、ぜーったい人気になると思うんだよなー!


 保存袋もできるから、チーズにすれば液体の乳より輸送が楽になって、美味しいチーズ料理がまた増えるかもー。

 リンディエン卿とゲイデルエス卿にも、お伝えしておこうーっと。

 ルシェルスは何処に物品を輸送するにも大変な領地だから、結構埋もれている素敵なものが沢山ありそうだぞ。


 地下で早速、水牛用の缶を作製。

 次の便はエシャレットも来るはずだから、それ用の入れ物と一緒にリエルトンまで運んでもらおう。

 牛乳用とは形を変えて、ちゃんと『リエルトン』の名前を入れておけば間違えないだろう。

 うわぁ、楽しみだなぁぁっ!



 そしてウキウキ気分の翌日、各地から初荷が続々とシュリィイーレに入って来た。

 東門近くの馬車留めは満員御礼、東大市場と南東市場もフル稼働になった。

 春の到来である!


 賑やかな市場と天光の煌めく街路、馬車の走る音と人々の笑い声。

 毎年のことなのだが、この光景は見る度に感動するし心が浮き立つのである。

 これは、シュリィイーレの冬を乗り越えた者にしか解らない感慨だろう。


 遊文館外壁も春仕様ということで、カラーチェンジ機能で薄く半透明な若草色にいたしました。

 下側を濃く、上に向かって淡くなるグラデーションが綺麗です。

 庭の雪はさっさと溶かし、芝生の色も青々。


 実は試しにと、南門が通れるようになっていたのでちょいと南の森の泉から『育成水』をいただいて参りまして撒いてみたのですよ。

 これがまた、効果覿面……ふわっふわの芝生があっという間に整いましたよ。


 でも、効果がずっとは続かないようで、汲んでから育成水という状態でいられるのは一刻間……二時間が限界。

 俺の浄化水と一緒で、その効果を与えている場所から切り離すと普通の水になっちゃう訳ですな。


 でもこの育成水は塩分を加えてしまうと全く効果がなくなるので、海のものには使えませんでした。

 植物特化なんだね、きっと。

 でもそうか、育成水を作っていると思われる石板の方陣には『大地』という呪文じゅぶんがあったんだったよ、そういえば。


 おおー、お子様達が外の芝生でも遊び始めたぞ。

 うん、うん、元気に外遊びも、子供の頃は大切だからねっ!

 俺は全然やらなかったけどねー……


 その足で、商人組合とベルデラック工房へ。

 額燈火を作っていただけるか、依頼をするのだ。

 ヘッドライトは、便利だと思うんだよ。


 これに関しては、新技術や特殊な魔法がある訳でもない。

 いつもの小燈火の形が変わるだけで、白熱電球ではなく方陣を使うだけ。

 使うカバーの厚みなどを調整して、光に指向性を持たせるだけである。


 その光も『採光の方陣』だから熱を帯びることはないし、物理的に蓋をすることで付けたり消したりできるようにする。

 俺が提供するのは『採光の方陣』を描いた方陣鋼だけなので、湧泉水筒と同じ『ベルデラック工房製』となるのだ。


白熱電球に拘らず、魔力の少ない人でも使えるのは『額』という魔力放出ポイントに装着するからだ。

 起動した方陣へ少しずつの魔力注入をし続けることが、光らせ続ける条件になる。

 意識せずとも自然放出魔力があるのだから、それを利用して方陣の魔法発動状態を維持するのである。


 今までの燈火でこの方式が利用できず、白熱電球が必要だったのは【採光魔法】は付与して使うとずーーっと光りっぱなしでオンオフができなかったということと、方陣だとすぐに暗くなってしまって、都度起動させるのが面倒だったからである。


 そして手に持っていればいいが、腰に下げていたり壁にかけたりと身体から離してしまうと、方陣はあっという間に魔法を終えてしまうからだ。

 採掘はそんなに短時間ではできないし、全体が明るくても手元が明るくできなくては意味がないのである。

 ずーっと、片手に燈火を持っている訳にもいかないしねー。


 という仕組みと使用方陣を商人組合で説明すると、サクッとOKが出たのでそのままベルデラックさんに依頼完了。

 なんと、ベルデラック工房には工房の作業スペースを広げる計画があるらしい……お隣の家も買って改装をするみたいだ。

 なので、魔法付与と地下拡張はいつでも御依頼くださいね、と言っておいた。


 その時に……ベルデラックさんの横で微笑む、トリセアさんのお姉さんレルアンさんの姿を見つけてご挨拶。

 今年の秋には、ご結婚とのことですよ。

 ご夫婦の家としての、購入でもあるのかなー。

 春一番で、おめでたいことこの上ないですなぁ。


 明日は、ランチタイムが終わったら教会に行って様子見……してこようかな。

 そろそろテルウェスト司祭、帰ってくるんじゃないかなー。

 再編会議……紛糾していなければ、だけど。

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