第611話 大陸史で語られる貴族達

 不殺の石板は『大陸史』でした。

 やっぱり、一番北と一番南は対になっていたって感じだよな。

 そして、レイエルス侯から受け取った『英傑のことが解るかもしれない』という本と、一部が合致した。

 レイエルスの本にも、皇宮司書館で見つかっている本にも、同じ文章が載っている。


 そしてカタエレリエラの石板より後のことが書かれているかと思ったのだが、どうやらそれより前の部分だ。

 他の二大陸に作られた国名とその国々に入った家門の数が明記され、マウヤーエートとイスグロリエストの貴族家門の名前が列挙されている。


 ちょっとね、なかなか衝撃の真実?

 シュヴィリオンとレイエルスが……そもそも『最初の皇国の家門』に含まれてなかったんですよ。


 いや、イスグロリエストの大地との結びつきは、この大陸史が書かれた石板に神約文字で書かれているから完了している。

 つまり、当初は別の国にいた英傑・扶翼の二家門が、一族まるっとイスグロリエストに移って来ているってことですな。


 時期としては、世界で『信仰が揺らいだ時代』と思われるちょっと後。

 神典と神話の間の時期か、神話の時代のど真ん中……だね。


 信仰が揺らいだ後、神々の願いを叶えると誓いを立て、今度は『王』を立てて五つの国の再建が始まった。

 それまでは『王』はおらず、国としての纏まりもなかったのかもしれない。

 このときに今の国の名前や地域の名前などを、神々に承認されているみたいだ。

 

……ということは、信仰が揺らいだ時には別の国名だった?

 いや、共通認識の名前がなくて、思い思いに呼んでいたのかもしれない。

 つまり『天下統一』的なことが神々に認めてもらうということで行われ、まず『ハコの名前』が作られたってことか……

 まぁ、全てを神々が創っていた時代だからな。

 そうなるのか。


 王達が神々に何を願いどういう国にしたいかを確認した英傑と扶翼が、自ら従うべき王を選んで共にその国を立て直していった。

 そうして大地に蔓延ってしまった魔獣達との戦いと、内政がスタートする。

 その彼らの逸話や功績を、人の姿だけでなく動植物の擬人化なども使って著しているのが神話である。


 しかしその中で、いくつかの家門が神々からの依頼を受けたり、意見を変えたりして別の国に転籍しているのだ。

 リューシィグール大陸では、ロワイヨーム王国に国王と十六の貴族家門、バシレイア国は国主と六家門だった。

 だがすぐに、ロワイヨームとバシレイアで二家門がトレードのように移籍している。

 マウヤーエート公国に大公と十二の家門……こちらも四家門が、ロワイヨームへ流れている。


 この激しい移籍は、彼らの希望を神々が承認して行われているようだ。

 ということは、この頃に神々は人々に『文字』を与えており、やりとりができるようになっていたのだろう。

 移籍の理由までは書かれていないが、王の考え方や神々の願いへの取り組みで意見が対立した……とかかね。

 簒奪は確実な荒廃と破滅だから、自分達が王になることはできないので他の国に行くしかなかったということだろう。


 ニファレントは大陸の名前がそのまま国名になり、帝王家と十の家門。

 そして、イスグロリエスト皇国には、皇王と十八家門。

 そう、もともと『十八家門』だったのだ。


 大陸史ではその後『厄災が訪れた後にイスグロリエストを救うべく二家門が新たに神々の了承を得てその血統をイスグロリエストに結び直した』とある。

 その二家門がシュヴィリオンとレイエルス……元々は、ニファレントの英傑・扶翼家門だ。


 つまり……復興のためにかニファレント帝王との意見の食い違いか解らないが、この二家がイスグロリエストと結び、彼らの尽力で三角錐と石板での魔効素変換の魔法と技術が確立しているのだ。

 きっとこの頃、最も傾いていたのは……イスグロリエストだったのだろう。

 彼らは、神々との約束である樹海もりを半分も失ってしまった皇国に『星青の境域』を作る手助けをしたということのようだ。


 ここまでが皇国の建国と復興の物語として、この後は栄光の日々である……的に締めくくられ石板記載は終了している。

 そして神話に続いていき、国が安定しカタエレリエラの石板に書かれている時代に続くようだ。


 大魔導帝国の技術と魔法の一部が、シュヴィリオンとレイエルスからもたらされていたと考えていいだろう。

 極大方陣とか、あの『次元移動の方陣』とか、確かに皇国の魔法とは一線を画すものだったからなぁ。

 ニファレントから持ち込んだ魔法を元にしたものだけでなく『皇国独自の方陣』は、その後に発展したのかもしれない。


 その後のことは……レイエルスの本と皇家の本の記載にある。

 初めの方は不殺の石板と全く同じ記載だが、その後と思われる部分は両方の本で少し違う。

 二家門が、イスグロリエストに入ってすぐの話だろう。


 まずは、レイエルス視点。

 どんなにお世話になろうと、その二家門が皇国貴族として迎えられていたとしても『客分』であることには違いない。

 外様は遠くに配置する……これはどんな国であろうと、当たり前のことである。


 たとえ、神々からの願いであろうとも……ってか、本当に神々から言われて皇国に来たのか、自分達が最初に決めたニファレント帝王と袂を分かってイスグロリエストに来たのか、イスグロリエスト側でははっきりと解らなかったからかもしれないなぁ。

 一部では神々の名を騙ったただの裏切り者……なんて思われたとしても仕方ないのかも。

 受け入れとか協力に対しても、意見が割れていた可能性もあるし。


 よくよく考えれば、変だったんだよなー。

 だってさ、家門の花が『玲桜ろうおう』と『花筏』だよ?

 あんな、凍土の領地にあるわけないんだよねー。


 そのことひとつとっても、あの北の大地は両家に相応しいと決められた場所ではなく『消去法的にそこしかなかった』場所な気がする。

 玲桜ろうおうと花筏は、ニファレントの花なのだと思う。


 イスグロリエストで与えられたのが『最も北の領地』と言われていた場所、今のヘストレスティア西側。

 そこでシュヴィリオンやレイエルスが納得していたのは、あの不殺の迷宮になってしまった場所の三角錐を護っていられたからだろう。

 最も大切な、自分達の出自に関わる記載のある石板を護れるのであれば、別に辺境でも気にもしていなかったのかもしれない。


 しかも自分達には、当時のイスグロリエスト皇国のものとは比べものにならない技術と最も強い魔法があるのだ。

 いざとなれば大概のことはできる、こんな土地でも自分達ならノープロ……とか、少し高を括っていた可能性もある。

 実際、凍土だった土地を人が住めるように、ある程度は作り替えられたのかもしれないし。


 だけど、そこは残念ながらイスグロリエストの大地とは言い難い、プレートの違う大地だった。

 思っていたほど魔法は上手く発揮できず、境域のための三角錐も考えていたより弱かったのかもしれない。


 しかし、他の場所の三角錐は上手く作動しているから『星青の境域』の加護としては問題なかったのだろう。

 そのまま功績が認められて信用を得て、何世代かは平穏に十八家門ともさしてトラブルもなく暮らしていたようだ。

 この上手くいっていた時代ってのは、神話の時代後半のことだな、きっと。


 だが、その時代の終わる頃……違う大地の三角錐は、殆ど役目を果たさなくなってしまいリカバリーでマントリエルに三角錐を造り、修理をすることになったのではないだろうか。

 確かめた訳ではないが、おそらく俺がナパーム弾を解体したあの辺りは、ガイエスに連れてってもらった遺跡に続くように作られていたんじゃないかと思う。


 それがうっかり迷宮に繋がったってのは……ヘストレスティアの大地が『神々と結ばれていない場所』だったせいだろうけどなぁ。

 なんでそんな通路が造られたかといえば、考えられるのは『マントリエルの大地に作る三角錐は、全てシュヴィリオンとレイエルスだけで造っていた』からじゃないかと思うんだよな。


 自分達の土地にあるものが弱まっていると知られたくなくて、こっそりサポート用の三角錐を造り、なんとか修繕しようとしていたんじゃないだろうか……とも思う。

 あとは……マントリエルサイドが外様貴族と仲が悪くて協力しなかった、とか、当時の皇国にはその技術と魔法が足りなかった……とか、いろいろと勘ぐればきりがないのだが。


 ただ、やっぱりなんとなく、時系列は曖昧だ。

 これは、昔のものの『あるある』なんだろうなぁ。

 書いた後に、あそこではこんなこともあんなことも、って場所や時間がふっ、と飛ぶし、いつの間にかもの凄く過去のことを書き始めたりもしている。


 あちらの世界でもそういう古文書は多いし、なんせ『日本書紀』なんて、その代表みたいなもんだ

 あれを一度読んだだけで理解できる人なんかいないと思うくらい、同じエピソードがパラレルワールドの如くあらゆるパターンで書かれていたりする。

 それに比べれば、まだマシかもしれないが『古い』が『正しい』とは限らないからなー。


 その上、俺はあの魔竜もその歴史に一枚噛んでいる気がしている。

 魔竜とはどこにも書かれていないし、未知の生物とも書かれてはいないが『赤き厄災』という記載だけがあり……おそらく、あの赤い鱗の魔竜くんだろうなーという推測。

 不殺にいたあいつじゃなくても、かつては何頭も魔竜はいたかもしれないからな。

 隕石とか噴火だったら、もっと被害は広範囲で甚大だっただろうからね。


 その上、地震が起きコーエルト大河の川幅が広くなったのはこの『赤き厄災』の頃だろう。

 プレートが動いたのかもしれないけど。

 その後に魔魚の遡上を妨害するための可動堰を作ったのも、ニファレントの技術と魔法だったんだね、きっと。

 だから、今は全然直せなくって、撤去するにも血統魔法や神斎術まで持ち出さないと駄目だったんだろうなぁ。


 ふぅむ……レイエルスの方には、大崩落の原因がウァラクとは書かれていないな。

 解らなかったのか、知らなかったのか、知りようがなかったのか。


 ではお次は、皇宮司書館保有だった青い表紙の本。

 こっちの方が、時系列が解りやすいか?

 石板やレイエルス本との齟齬があるところだけ、確認しよう。

 ……こちらだと、初っぱなからシュヴィリオンとレイエルスは『最も北のシュディーヤ領』にいることになっているんだな。


 信仰が揺らいだこととかは、さらっと誤魔化してる?

 いや、そうでもないな……旧マントリエル崩落は地震によるものと書かれていて、そのことが原因で信仰の揺らぎが出た……となっている。

 ここでシュディーヤ領の二家が『星青の境域を展開する装置に貢献した』……とあるが、その知識と魔法が何処由来のものかは書かれていない。


 もしかして、知らなかったのか?

 シュヴィリオンとレイエルスは、ニファレントの魔法や技術であるということを公表していなかったのだろうか?

 それとも、既に二家が完全に神々の認めたイスグロリエスト籍になっているのだから、気にもしていなかったのだろうか。

 どっちもありそー。


 でもレイエルス文書で、マントリエルの転封後に起こったと書かれていた『コーエルト大河の崩落』も、皇家蔵書では旧マントリエル崩落と同時期になっているみたいだな。

 この辺りのタイミング、もしかしていろいろな文献で差があるのかもしれない。


 ただ、原因としては『旧マントリエルが沈むほどの大地震があった』ってのが、共通認識っぽいな。

 その上、その地震とは別に『大崩落と呼ばれる災害』もあったのだが、これがごっちゃになっているみたいだ。

 だから、信仰が揺らいだ時期ってのもあやふやになってきているのか。


 このタイミングは、レイエルスの方が辻褄が合う気がする。

 セラフィエムス家門の備忘録、まだ全部は読めていないから今後どこかで引っかかる記載があるかもしれない。

 これも、神約文字で書いて『歴史書』として奏上したら、神様が訂正入れてくれないかなぁ?


 あ、そーだ。

 コーエルト大河の崩落は、魔竜くんの映像記憶にあるかな?

 えーと……映像記憶の……【複写魔法】と『覚感技能』『感覚操作』『映写技能』……それと【造形魔法】で形にして……


 おーっ!

 できるけど、頭ん中の後ろの方が重くなるー。

 視覚野を使っているってことか?

 このままではいかん、補給、補給! 


 チョコ……いや、視覚なんだから、黄色系かなー。

 あ、タマゴサンド持ってた! 

 オイスターマヨ追加しちゃえ!

 黄色キラキラーー!

 ふぉーー旨ー……


 すげぇ、頭の中スーって楽になって、視界がめっちゃクリアだ。

 更にここで卵たっぷりプリン様。

 んんん、最高っ!

 ふいぃーー、楽になったぁ。

 なんだろう、この卵の即効性。


 しかし、五、六枚やっただけで、こんなに疲れるって。

 ……あれ、これって『念写』ってやつ?

 段々オカルトっぽくなっているぞ、俺……大丈夫かな?



 それっぽい感じの、フルカラー記憶映像だけプリントしてみたが……魔竜には時代とか時間なんてものの概念はないから、全然特定できない……いや、そうでも、ないか?

 映像記憶がフルカラーなのは、魔竜がまだ外にいた頃のものとみていい。


 結構上からの視点だな。

 あいつ、飛べたのか……ん?

 足元に土っぽいものが見えるな?

 山の上から見ている、とかかな。


 こっちのは、コーエルト大河かな?

 可動堰がないからよく解らないけど。

 随分と細いけど上空からの視点だから、崩落前か後かは解んない……

 上空?

 やっぱり飛んでいるのか……?

 あの感覚器官だと思っていた羽が昔は使えてて、不殺の迷宮に入ったことで退化している?

 何万年もあそこにいたのかもなぁ……


 うわ……何、これ……

 どういうこと?

 魔竜……海の中から、島を見ているのか?

 あいつ『地系』だったはずだけどっ?

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