第607話 祝福支援の見直し
「じゃ、俺はもう帰るからー」
挨拶だけして、サクッと帰ろうかと思ったら全力で止められた。
えー、ここでお話しすることは、特にない気がするんだけどなぁ。
「何、言ってやがるっ! なんでこんな所にいるんだよ、おまえがっ!」
「ほらー、以前ちっちゃい石を置いて来てって頼んだじゃん? あれが移動の目標だったんだよねー」
あ、吃驚した顔になったー。
方陣がないから驚いたのかもしれないけど、自分の魔法として『移動』が使えるものを持っている……と思われるのは、ガイエスなら別に構わない。
ベラベラ喋るやつじゃないだろうし。
もう回収したから、とその石を見せると安心したような溜息を吐く。
なくても来られるようにしただけ、とは言わないでおこう。
「……まさか、ここの石板が目当て、か?」
「うん、それもあるんだけどね。カバロ用の、天幕の材料も欲しかったし」
「カバロのために、こんな所まで入り込んだのかよ!」
「だーって、他国に行ったら野宿は結構危ないだろ? 天幕があった方がカバロも安心しそうだし、雨が突然降ってきても平気だしさ」
「なんで俺に『材料採ってきてくれ』って言わないで、自分で来るかなぁっ!」
ガイエスは、石板までは持って来られないじゃん。
それに、邪魔したくなかったしさー。
皇国南部を楽しんでいるみたいだったしー。
今度来る時は、GPS確認してからにしよう……
ちょっと呆れたように溜息を吐くガイエスのすぐ後ろで、魔竜がこっちを覗き込んでいる。
振り返ったガイエスが、ビクってしたからこいつもそんなに慣れているって訳じゃなさそうだ。
よかった、俺だけがビビリなのかと思っちゃったよ。
「おまえはどうして? 魔竜に食べ物あげるつもりで来たの?」
沢山食べさせたけど……まだ入るかな。
この体格だし、入りそうだな。
「……いや、俺も、鱗を……おまえに渡すつもりで」
なーんだ。
それなら、俺が取りに来るって言えばよかったなー。
まぁ、ガイエスが来てくれて魔竜がなんか楽しそうだからいっかー。
寝床を少し離れ、ガイエスの隣に並ぶようにして首を上下に動かす。
でかいから厳密には『首の位置がガイエスの隣』なんだけどね。
何度か首を上下させた時に、ぽろり、と以前ガイエスがつけた徽章が外れた。
魔力、なくなっちゃったのかな?
俺の足下に転がってきたそれを拾ってガイエスに渡すと、それをしまって新しい銀色の記章を取りだした。
おお、自分の指輪印章の印面で、徽章を作ったのかー。
不銹鋼製だー、カッコイイー。
ふふふ、徽章になってもいい文字だな。
あ、でも不銹鋼製だと、大きさがそれくらいだと魔力保持力がイマイチかもしれないぞ。
カバロみたいに毎日一緒なら全然平気だけど、ここに来るのって半年から一年くらいあくこともあるだろうし。
「え、保持力?」
「不銹鋼って、磁性が全然ないから保持力が低いんだよ。ちょっとだけ貸して」
一個借りて、持っていたネオジム磁石を中に入れ込む。
思っていたより厚みがなかったんで、磁石も紙のように薄くなってしまったが……凄いな、ちゃんと磁石だ。
ミニ磁力シート、今後何かに使えるかもしれない。
そしてガイエスに渡すと、徽章に魔力を入れて魔竜のおでこにくっつけた……いい感じに吸い付くもんだなぁ。
魔竜くん、大喜びだな。
そんなに隣から離れないほど、ガイエスお兄ちゃんが好きなのか。
あ、注意だけはしておかないと!
「……名前?」
「そう、絶対に名前は、付けちゃ駄目だぞ」
「なんで? 俺には聖魔法なんてないし、付けたからって何も変わらないだろう?」
「あの『祝福支援』の方陣だよ。おまえが名付けると聖魔法での命名とまではいかなくても、おまえと名付けた個体に『絆』ができる。そうなると『祝福支援の方陣』の効果がその個体にもかかって、おまえの魔力を使っておまえから『加護』を勝手に分け与えるようになる」
つまり、ガイエス自身にかかる加護が減って、この魔竜が幸運を得る。
当然、カバロにかかる分も目減りするだろう。
ガイエス自身にも『幸運の加護』は掛かっているけど、ここまでとてもではないが幸運とは思えない魔竜からガイエスへの精神的フィードバックは、がっつり『不運』だろう。
「安易に作る『絆』は、危険でしかない。特に生き物への名付けは、避けるべきだ」
「あの方陣は……仲間を支援するもの、なんだろう?」
「その『仲間の支援』ってのが曲者なんだよ。支援される『祝福』は、ほぼ確実におまえからの強制的な魔力供給だ。おまえにもある程度は相手から『支援』が入るが、魔力ではなくて状態への支援……精神系魔法にかかりにくくなり、ほんの少しばかり回復が早くなるくらいだ」
「見合った対価ではない、ということか……」
「本当に命を張ってでも助けたい『仲間』のためならば、それでもいいだろう。だがカバロ以外の誰かを、庇護下に置きたい訳ではないだろう? 生き物への名付けは『個体認知』だ。あの方陣は個体として特定しているもので、おまえが身近に存在するのを許している個体、そして名付けなどして情が湧いた個体などを特に『仲間と認識』して発動する」
考え込んでしまった。
そうだよなー、あの方陣は精神系魔法を跳ね返せるほどだからメリットもあるけど、デメリットも相当大きいものだった。
なんとかその方陣を使う者も『仲間と認識』はさせられたが、そこまでが精一杯だ。
個別に名前や条件を、方陣上の
だが、あれを発動しているからこそ、カバロはかなり安全だと言える。
「そこで……ちょっと提案だ」
「何か、手立てがあるのか?」
「まだ有効かどうかは、確定ではない。だけど、おまえとカバロの繋がりを強めて、支援条件を絞れる可能性はある。そして、上手くいけば『祝福支援の方陣』を使っていたとしても、おまえとカバロ以外には『おまえの魔力を使って他の誰かに祝福を分けてやる』なんてことをせずに済むかもしれない」
かつて、あの方陣で『お仲間認定』されていたのは、『方陣使用者が認めた仲間』だけだった。
それを少し書き替えて『方陣使用者本人とその仲間』にしてある。
この部分を『方陣使用者の身分証に名前のある同行者』にできれば……カバロの名前を徽章なりで文字として表記したものをカバロに着け、ガイエスの身分証の裏書きに名前を入れればいい。
身分証の表書きに載せられるのは『奏上の儀』で神様承認が取れているものと、神様からのメッセージだけ。
だが、裏書きは『保証人』『所有者証』などの内容記載が役所や組合事務所でできる。
だから『騎馬の所有証明』に、カバロの名前を載せてもらうのだ。
「港湾事務所記載で『身分証の裏に方陣門での出入国許可』があって『騎馬一頭』ってなっているんだろう? それを『騎馬・カバロ』ってしてもらったらカバロの名前が、おまえの身分証に載る。皇国文字で……だ」
「あ、大地と、国と繋がるってことか……! それで、俺自身とも……?」
「結びつきが『文字で確定』されているから、方陣は『おまえとカバロだけが仲間』と認識しやすくなる」
……と思う。
そしてその結びつきのレベルに達していないものは、方陣の認定から外せるよう
そうなれば誰と一緒に旅をしようと、魔竜に名前を付けようと、魔力搾取もフィードバックもなくなるだろう。
ガイエスが、古い方の方陣を【収納魔法】に入れ続けていない限りは。
というわけで、今、ノートにあるものは
で、展開している【収納魔法】内の『祝福支援の方陣』は、できれば今すぐに脳内データもなくしちゃった方がいいんだけど……そこまで、できるもんなのかな?
「ああ、できる。新しいものを同じ名称で覚えると、古いものは【方陣魔法】では思い出せなくなる」
なるほど、所謂『上書き保存』と『名前を付けて保存』があるわけですね【方陣魔法】って。
データバンクっぽいなー。
ぐぐぅーー
魔竜さんから、仲間はずれにするなコールだろうか。
ぽん、とガイエスが魔竜の頭に触る。
……こいつは、なんともないんだな、そういえば。
俺が触れると……あ、また映像入ってくる。
さっきよりマシだけど……なんだろ、もしかして魔竜は俺達がここに来て嬉しいのか?
嬉しいとか楽しいとか淋しいなんて感情があるのかどうかは解らないが、なんとなく楽しげだからガイエスがたまに来てやるのはいいのかもしれない。
俺は……もういいかなー。
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『緑炎の方陣魔剣士・続』參第69話とリンクしています。
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