第606話 魔竜のお好み
ほんの、五分もしないような時間だったと思う。
触れた途端に俺の頭の中に雪崩れ込んで来た『感覚』は、魔竜のものだろう。
言葉でもなく、時系列順でもない、断片的な映像記憶のようなものが……昔の映画館で流されていたような、無音のニュース映像のようなものが入り込んできた。
多分、視界記憶だけ、だろう。
フルカラーの部分と単色だったり黒っぽかったりと違いがあるのは、この魔竜の覚えている度合いによるのかもしれない。
てか、魔竜って視界フルカラーなんだな……しかも、複眼だから、酔う……
目ぇ閉じると、まだクラクラするー。
魔竜の視覚記憶に、俺の持っている技能が共鳴したみたいな感じだった。
もしかして、魔竜なんていう生き物に触れたことで、魔法が勝手に動いている可能性もある……?
魔竜、こわっ!
いや……もしかしたら、俺、魔獣に触ったりすっとその映像が受け取れちゃったり?
……それはー……嫌だなー。
そして、魔竜の記憶にはやはり『落ちて』来たみたいだった映像があった。
この中での記憶映像と思われるものは、全部暗くて単色なのに……一瞬だけ、明るくて見えた画は……ありゃ、ガイエス、だろうなぁ。
その顔と魔力だけがフルカラーで、赤い瞳と赤い魔力として認識している。
あ。
もしかして、赤い瞳だったことで『仲間認定』してる?
魔竜の瞳がフルカラー判別できるとしても、そんなに色の区別がはっきりしていないのであれば、瞳の色を『同じ色』と思っても仕方ないかもしれない。
こいつの瞳の色は、ガイエスに似ているが、少しだけ暗い……『
そうか、こいつが……『
皇后殿下のために
八岐大蛇の別名と知っていたから、なんで『この世界にないはずの伝説』の生き物を表す単語があるのか不思議だった。
こいつがここにいたから、あの名前があった……ということは、別世界から来た訳じゃなくてこの世界の生き物か。
別大陸にいたのかもなー。
移動するプレートに載っかっていた生き物で、人がここに来るはるか前から生息していた種なのかもなー。
だとしたら……もしかして、ここに落ちたのって建設中?
三角錐自体はまだできあがっていなくて、こいつが落ちちゃったから諦めざるを得なくて……建設場所を変えた?
だけど、映像記憶の中に『地上を歩いていて落ちた』って感覚が見当たらないんだよなー。
んー、これはちょっと後で『記憶の書き出し』ができるか、やってみようか。
そのためには魔竜くん自体も、もうちょっと鑑定させてもらおう。
映像記憶の抽出方法は、おうちに帰ってからゆっくり考えることにして……当初の目的であるもうひとつ、カバロの天幕用に鱗をもらってもいいかなー?
部屋の隅に鱗が纏められているので、こいつ結構綺麗好きなのかもしれない。
赤いのいっぱいあるなー、少しもらっていくねー。
怒られないよな? とちょっと振り返ると、後ろ足の爪でがりがりっと背中を掻いている。
よく届くな……
ポロポロと赤い鱗が落ち、どうせならそっちが欲しいなーと思って眺めていたら猫手で俺のいる『鱗溜まり』にずいっと寄せる。
そしてまた、丸まってお休みモード。
あれ? 俺にくれたってことでいいのかな?
ツンデレかな? いや、赤茄子煮込みの代金だろうか。
ただのお片付けかもしれないけど。
折角だから、もらっていくね。ありがとう。
それにしても、どうして赤茄子煮込みが好きなんだろう。
興味が出て来た俺は、ちょっと家に帰って保存食などを物色。
もう一度、魔竜くんの前に戻るといろいろなレトルトを開けて並べてみた。
ぴくん、と反応し、顔を近づけて舌を伸ばしたのは……赤茄子もシシ肉も使っていないもの。
んー?
それじゃ、何が好きなんだ?
食べていたのは菠薐草と火焔菜のサラダと、鰊を使ったテリーヌ……ああー、火焔菜が好きなのかな?
昔、ラウェルクさんに教えてもらった、火焔菜のピクルスを一瓶、開けてやるとぐりんっ、と高速で首を回し舌を伸ばすどころか頭から突っ込む。
そーか、そんなに好きだったのかー。
喉の奥がぐるぐる鳴っているだけでなく、なんだか目を細めて笑っているみたいな感じだ。
瞼、あったのか……
やっと、可愛いという単語と繋がるが……まだ『怖い』が強いかも。
牙がさー、めっちゃでかいんですよー。
お、お、おおおおっ?
食べた後に、そのまんまの笑顔みたいな表情で、俺の身体にすり寄せてきた。
怖くて固まっちゃったよ……
もしかして、ガイエスのやつ、食べさせてやる度にこの『スリスリ』をされているのかなぁ。
あいつが剛胆になるの、解る気がする……あー、まだ心臓、バクバクいってるぅー……あはははー、膝が笑ってるー。
少し落ち着いたところで、軽く息を吐く。
さーて、そろそろ帰ろうかなー。
あ、あの小部屋の転移目標、石から壁に書き替えておかなくちゃ。
小部屋に入って、転移目標を書き込んで石を回収。
最後に、魔竜くんに挨拶しようか考えていた時に……光が漏れてきた。
……暗視モードだったんで、ちょい眩しかったが元に戻して、魔竜の寝室を確認する。
おおー、あっかるーい。
って、いきなりなんだなー、あいつ。
「おーい、突然『採光の方陣』使うなよー。魔竜が眩しがるだろー」
「うう゛ぇおええ゛あぁぁーーっ!」
不思議な声で驚くんだな、ガイエスくん。
魔竜くーん、お兄ちゃんが来てくれてよかったねー。
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『緑炎の方陣魔剣士・続』參第68話とリンクしています。
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