第605話 魔竜さんにご挨拶
きっとねー、冒険者さん達には怒られるとは思うんだよねー、こんなにさくっと迷宮の最奥に入れちゃうってさー。
遊文館地下三階建設終了の翌日の夜、俺は転移でぺろっと密入国している。
一応、閃光仗は持ってきたし『錯視の方陣』をガイエスに教わったように描いてはあるが。
飛んできたのは、小さな部屋のような場所。
ガイエスが描いたであろう昔の『錯視の方陣』が描かれた布……多分、古い外套が出入口と思われる所にかかっている。
あいつも『門』で来る時には、この部屋に来るのかもしれない。
その外套をそっと開けると……いましたねー。
神眼さんの暗視モードで視ているのだが、なかなかに大きな体軀の魔竜が寝そべっている。
ガイエス、スゲーな。
あれのおでこに、所有徽章くっつけたのか……
ちょっと心配していたのだが、あのサイズだとガイエスが作る『門』は通れなそうだ。
でも多分、所有徽章だけでは完全にガイエスの『所有』にはならないから大丈夫だけどな。
カバロが移動できているのは、おそらく『所有証明』がガイエスの身分証に書かれているからだ。
あいつが『魔竜飼ってます』って登録でもしない限り、完全にガイエスの麾下にもならないだろう。
そして……『名付け』されていなければ、『祝福支援』にも含まれないと思われる。
あの『祝福支援』は『個体認識』が絶対条件のようだ。
だから、魔竜という種類が解っているだけとか、所有していても馬というだけでは、支援の対象にならない。
あいつがカバロに名前をつけていなかったら……もしかしたら、ヘストレスティアから白森近くの狩猟小屋に来たあの時にカバロは死んでいたかもしれない。
本当にね、よかったよね!
そんなことになっていたら、あいつ凹むだけじゃ済まなかっただろうしな!
今度、身分証の裏書きに『カバロ』の名前も入れてもらった方がいいんじゃないのかな?
そんでカバロ自身にも所有徽章に『ガイエスの名前』と『カバロの名前』が入ったら、移動で使う魔石も少なくって済みそうだよなー。
……体重がかなりあるから、そうでもないか?
だけど、方陣を使ったり魔法をかけたりすることによる、カバロの負担も減りそうだもんなぁ。
それと『祝福支援』のデメリットも、解消できると思うんだよな。
この辺は、教えてやったらすぐにやりそう。
あいつ、ホントに『カバロファースト』だし。
さーて、魔竜さんへのご挨拶に持ってきた『シシ肉の赤茄子煮込み』も大きめ鍋にどっさり入りましたので小部屋の外へ出ま……ふぉああっ!
魔竜が小部屋の真ん前にいて、俺の作業を覗き込んでいた。
あーー、ビビったぁぁぁっ!
溢さなくてよかったぁ!
はいはい、今、お出ししますよ、少々道を開けてくださいな。
ガイエスが言うには『喜んでいる仕草』である、魔竜の『首振りダンス』が見られたのできっと歓迎してくれていると思う。
では、どうぞ。
小さめの頭のと長い首。
太い後ろ足には
どう見ても恐竜の竜脚類であるが……二足歩行のティラノサウルスみたいに前足が小さいものではなく、四足歩行可能な太めのものだ。
そして不思議なのは、前足というよりは『手』のようにさえ見える。
ネコの前足にちょっと似ている関節で、ぎゅっと握ると爪が引っ込んで丸まる『手』だ。
ものを掴むまではいかないが、支えたりホールドしたりはできそうだ。
図鑑、後で確認しよう……似たような恐竜、見たことがある気がする。
魔竜くんがお食事してくださっているので、俺はいそいそと寝床にしているという石板を拝見。
……うん、予想通り、三角錐の中にあったやつと同じ材質の石だ。
シュリィイーレ西側の真珠の石板と似ているな。
鑑定、記憶……よし。
ん?
この下、いや、石板の裏にも……何かあるな?
ちらりと魔竜を見ると、まだ楽しげにお食事を堪能してくださっている。
ちょいと軽量化して、持ち上げてみる。
あ、裏側に……九芒星。
確定かーー。
ここは、元々三角錐があった場所、だ。
石板の下には、小さな石がいくつか転がっていた。
残念ながら変質してしまったのか砕けたのか、元がなんだったのかは解らない。
そして石板をどかした場所から細く、魔瘴素が棚引く。
やっぱり、ここは吹き出し口。
地下の三角錐部屋が、魔瘴素変換に耐えられなくなって倒れ、部屋が崩れた。
そこに、迷宮が繋がった。
だが迷宮が大きくなる前に……この魔竜の幼体でも住み着いた?
……違うな。
こいつが来たから、三角錐が壊れたのかもしれない。
だけど、壁にある切り込み接ぎの石積が、崩れたというより施工途中って感じだ。
それが崩れているのは、上部の一部分だけだから何か力が加わったというより経年劣化だろう。
そしてこの床もまた『建設途中』っぽい。
三角錐が完成する前に……作ることができなくなって放棄された?
だとしたら石は嵌め込まれておらず、神斎術も入っていなかっただろう。
それを考えると魔竜は下から掘って来たのではなく、上から落ちて来たというのが妥当な気がする。
建設中は、もしかしたら上に穴が開いていて、偶然落とし穴のように魔竜が落ちた?
いや、飛んでたのが落下してきたのかな?
だけどこいつの背に付いている蝙蝠みたいな羽は、飛ぶものとしては小さすぎるし魔力の流れからも感覚器官みたいだ。
羽に頼らず飛べたとは、この魔竜の形態だと考えにくい。
そもそも魔竜って、どっから来たんだろう?
それこそ、別大陸とかだろうか?
いや……俺みたいに別世界から、ここに放り出されたって可能性もないとはいえない。
神眼で『獣類鑑定』『身体鑑定』などの鑑定系を使いつつ、視ていくと爬虫類っぽくもあり、ちょっと昆虫みたいに外骨格に頼っている部分もある。
背中の鱗は魚みたいに並んでいるけど、背中は甲羅と魚のコラボで少し亀っぽい気すらする。
魔力流脈があるがとても単純で、分岐が殆どない。
魔法を使うための流脈ではなくて、生命維持だけだろう。
そして……この魔竜はどうやら『地系』と思われる。
無理矢理分類するとすれば『地竜』ってやつなのかもしれない。
鱗の生え替わりを繰り返してここで成長できるのは、石板と一緒に『魔瘴素を取り込んでいる』からだろう。
この石板は魔効素への変換システムだが、横倒しのせいか石板だけでは上手く働かなくなっている。
他の魔獣や魔虫と違い、魔竜という生き物は『自分の中で魔効素への変換』が可能なのかなぁ。
人が紫外線からビタミンDを作るように、体内で魔瘴素が変換されて魔効素とエネルギーになっているとか?
だから、この最奥の部屋の中は魔効素が多いのかもなー。
上に行けば行くほど、魔瘴素のオレンジが多めに漂って視えるからなー。
魔竜自体が、この国で三角錐と同じように魔効素放出の一翼を担っている、というわけだ。
こいつがいなかったら、もしかしたらヘストレスティアの西側はめちゃくちゃに荒れていたかもしれない。
それこそガウリエスタみたいな砂漠と、アーメルサスみたいな凍土の何も住めない魔獣だけの場所になっていただろう。
魔竜変換は残念ながら三角錐ほど大量には魔効素への変換はできないし、こいつ自身も魔瘴素から変換されるものが『食事』になっているっぽい。
この石板があって、ギリギリ均衡が保たれているって感じかもな。
もしも石板がなかったら、この魔竜は魔瘴素量の方が多くなって、この大陸で最悪の魔獣になっていたのかもしれない。
三角錐の石板は、ちゃんとこの大地を護る役目を果たし続けていてくれたということだ。
……お疲れ様でした。
でも、これからも宜しく。
残念ながらなんの手がかりもないのでどんな石を嵌ようとしていたのか、なんの魔法が計画されていたのかは全く解らない。
だけど、ちょっとだけ、この『寝床石板』は修復しておいた方がよさそうだ。
端が、結構ボロボロだもんなぁ。
そろそろ、変換効率も悪くなっているのかもしれない。
このヘストレスティアの大地も、残念ながら皇国の大地とは構造帯が違うみたいだ。
いや、ほぼ別プレートといっていいのかも。
ガストレーゼ山脈は、プレート境界線にできた山脈で間違いなさそうだ。
ここに、三角錐の建設予定があった。
と、すれば、やはりここが元々の『シュヴィリオンとレイエルスの領地』だったと思っていいだろう。
当時は、ガストレーゼ山脈はもっと、簡単に越えられる山々だったのかもしれない。
もしくは、あの『地中を通る移動方陣』のようなものが使われて、行き来が容易だった。
おっと、お食事が終わっておねむかな?
ごめんごめん、いまベッド、直すからね。
平らに横たわらせた石板全体を修復すると、ほんのりと全体から魔効素が立ち上る。
魔竜がその上にくるりと丸まって、ぐるぐるぐるっ、とまるで猫のように喉を鳴らす。
……鍋とかダンボールに入り込んで丸まる猫っぽいが、もふもふでもなくゴツゴツ。
見た目はガッツリ恐竜なので、可愛いという単語になかなか辿り着かない。
そしてぐいっと、顔を俺に近づけて、ふすぅー……と鼻息を漏らす。
あ、ガイエスの徽章?
それに気を取られて、俺の右手がふと、魔竜に触れた。
ぐわわわわーーーーっと目眩。
うわ、うわ、うわ、何これぇっ?
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