第604話 冬期計画後半戦
氷の隧道がなくなるのは、新年になったその日を予定しているようだ。
来月からまたランチもスイーツタイムも復活で、食材使用計画は小学校の給食献立表の如くできあがっている。
遊文館の分も、保存食もオールグリーン。
食べ物関連での憂いは、春まで全くないといえよう。
春祭りをどうするか……は、ちょっとこれからだがやってみたいことはあるのでその辺は後日。
トレーニングも午前中に行って、一日行ったら二日は自主トレ。
衛兵隊での試験研修生対応が佳境に入ったからと言うことと、調理実習期間が終了し方陣の実戦訓練が始まったことで修練場を使う時間が多くなったからだ。
午後は、俺の代わりに父さんが食堂を手伝ってくれる日だけになったので不定期である。
「書き出してみると、結構使える時間はあるな」
ノートにスケジュールを整理して、空き時間にやりたいこととやっておくべきことを埋めていく。
現代語訳は無理のない範囲で、夕食後に
でも【迅速魔法】併用で使えば、その時間でも二十冊くらいは書けるだろう。
終わったらちょっとなんか食べて、ソッコー寝ちゃうから平気。
偶に息抜きで翻訳しないで、夜の遊文館に行ってもいいし。
アトネストさんから借りたノートを読みつつ、安眠枕カバーはいい働きをしてくれているようで安心した。
血流とリンパが安定すれば、流脈の正しい位置への修復も容易になる……というのは、セラフィエムスの医学書からの受け売りである。
ま、リンパ……とは書いてはいなかったが、体内の流れってのはそれも込み、だからな。
眠気の方は上手くコントロールができるようになったみたいだけど、まだ時折片側に怠さが感じられるというのは俺と一緒だろう。
魔力流脈を調えて、魔法を使う時の左右のバランスを気をつけてもらえば少しずつ治るはずだ。
俺もまだたまに、シュウエルさんに身体の力の入れ方を直されるから。
でも、左手での箸使いは、かなり上達した。
元々アトネストさんは俺なんかよりずっといい筋肉と体幹を持っているはずだから、流れさえ整えば大丈夫なんだよ。
あとは……何か新しい魔法や技能が獲得できた時にどんな変化があるかで、調え方が変わるのかもしれないなー。
耐性系を持っていれば、苦痛はないかもしれないけど変化に気付きにくくて体調を崩しがちって書かれていたから無理しないでくれるといいんだけど……アトネストさん、真面目で抱え込むタイプっぽいからなぁ。
その辺のことは、司祭様にお願いしておこう。
アトネストさんだけじゃなくて、レトリノさんやシュレミスさんにも当て嵌まるかもしれないからな。
それから、スイーツと遊文館の新メニュー開発は
あ、そうだ、最近日照時間が全然足りていないストロマくんとクマ丸、それと珊瑚の褐虫藻の様子を確認しておかなくちゃね。
一応地下プラント施設と同様に、採光調整は魔法でやってはいるけど自然光との違いがあるかもしれない。
見た目では問題なさそうだけど、じっくり確認していなかったから神眼での観察日記をつけようかなー。
これは、蓄音器体操の後にやることにしよう。
あれからアコヤ君も温和しいものだし、真珠ができるのもだいたい三ヶ月って感じなんだよな。
……いや、普通じゃあり得ない速度だけどね。
うちのアコヤ君達は、頑張り屋さん過ぎる。
保留になっている他国伝承の無魔力筆記は『映像変換方式』にする方がいい。
やはり、自動筆記は元の文字の質次第で精度にばらつきが出てしまうから後の校正の方が大変。
それに俺が原本さえ書けば、自動的にできあがる【複合魔法】と【集約魔法】が組まれているので大丈夫。
まぁ、これに関してはまだまだ遊文館には出せないから春以降で問題ないやつだな。
あ、ヒメリアさんへのお詫び状を、もう一度見直しておこう。
レイエルス侯に確認したら、すぐに送ってもらわなくちゃ。
『ウァラク衛兵隊ベスレテア事務所宛』で大丈夫だよな?
それからも細々と、衛兵隊関連、教会関連、など、纏めていって……
一番ややこしくて楽しいのが、ガイエス関連。
まず、気になっているのは『カバロの天幕』である。
迷宮用のものは作ったけど、フィールド用の『カバロも一緒に入れる天幕』が材料不足で作れていない。
あの鱗は透明のやつだと俺の複製でも特性はほぼ変わらなかったのだが、赤い鱗はコピーのできるものとできないものがあって、できるのは複製する度に赤が薄くなって透明のものより脆くなってしまったのだ。
それではまったく意味がない。
……材料調達がてら……大冒険、しちゃうか?
既にガイエスが『目標の方陣』ではない、俺の『転移用の目標石』を置いてくれている。
そして冬期は閉鎖されるところだから、他の誰も入っては来ないと言うし。
来るならガイエスだけだってことだ。
行くなら……今だよなー。
不殺の迷宮の最奥。
最奥は魔竜だけだって言ってたから、魔虫もいないみたいだし他の魔獣が来ることもないみたいだし。
魔竜さんはシシ肉の赤茄子煮込みをお気に召してくださっているようなので、鍋一杯持参しての手土産付きだったら……鱗を何枚かいただけないだろうか。
そしてあわよくばちょっとだけでも、寝床にしているという『巨大石板』に触らせてもらえるんじゃないかなーと思う訳ですよ。
触れれば鑑定ができ、別の場所で複製が作れる。
今ならば、遊文館の地下が使えるからそこに複製を作っても大丈夫。
もし中に魔力や魔法があったとしても、それまでは複製されないので問題ない。
魔竜から寝床を奪っちゃうのも、可哀相だしねー。
魔竜ってコモドドラゴンみたいな爬虫類系なのかな?
それとも、恐竜っぽいのかな?
……図鑑、買っておこう。
そして、遊文館地下二階へ。
秘密の『地下三階』を造るのである。
ガイエスの話によると、地下の坑道が迷宮に繋がることがあるという。
そして『地中だけでできている迷宮』という存在も、確認されているようだ。
如何に皇国の大地が清浄で、魔虫がいないだろうと思われていても……現状、全く地中に魔瘴素がない訳ではない。
星青の境域復活でほぼなくなっているとはいえ、地中にはガウリエスタや国境の山々であるゴーシェルト山脈から細々と魔瘴素が流れ込んでいる。
だから、地下を深くするのは魔瘴素の魔効素変換ができないと危険なのである。
シュリィイーレが今まで、星青の境域の外にあっても何とかなったのは錆山がガンガン魔効素を噴出してくれてカバーしてくれていたからだ。
もしかしたら、他国にも錆山のような『神々の創った自然の防御システム』があるんだと思うのだが……荒れる勢いが早過ぎて、カバーしきれていないんじゃないかなー。
という訳で、やはり地下にはそれなりの対策が必要という結論に至りました。
うちの地下には既に、全ての壁と床に神約文字で作った『錯視の方陣』を描いてあるし、魔瘴素変換の魔法も付与済みである。
いやはや……地下に崩落以外にも、そういう危険性があることまでは考えていなかったよな。
地下二階くらいまでならなんの心配も要らないだろうが、地下三階以下……あの粘土層の下からは、警戒した方がいい。
皇国内で『地下を掘らずに方陣で移動』って考えたのは、そういう危険も考慮したのかもしれない。
だとしても、魔力を使い過ぎであるが。
あの地下をすり抜ける方陣、組み直せたら樹海に関係なく行き来がもっとできるように……は、無理か。
人だけならともかく、物品の流通には不向きだよなー。
まぁ、なんでもかんでも速きゃいいってもんでもないし、便利なことが正義ということでもない。
俺にとっていいことだとしても、他の人達にとっていいとは限らないしねー。
ただ、できるようになったら大貴族の方々には、ご連絡はしたい。
決めてもらうのは、彼らのお仕事だ。
よーーし、地下三階かんせーい!
おおー、魔効素バリバリだな。
広々空間には、一番大きかった湿原奥の三角錐に入ってた石板でも倒しておけるサイズのお部屋だ。
高さは……ちょっと無理なので、立てられないけど斜めに置くくらいは可能なので大丈夫だろう。
準備は万端。
……明日辺り……行ってみちゃおうかなぁ。
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