第598話 やること確認

 そして通話を切って、息を吐く。

 ホント、あいつの旅は情報量が多過ぎるよ。

 届けられたペルウーテの本をパラパラと眺め、ぱたんっと閉じた。

 今読んだら、またムカつきそうだ。


 だけど、あの『円』が使われている方陣擬きは、試してみたい……

 海水の水槽内でなら、何かできるかもな。

 いやいやいや、そんなものは後回しっ!


 まずは、もらったオイスターソースで新メニューにレッツトライ!

 おっと、魔獣図鑑もだ。

 いや、遊文館自販機の夜間新メニューが先か?


 あれっ?

 やりたいことが多過ぎるが……えーと、優先順位は……

 ちょっと纏めて書いておこうっ!

 特にガイエス関連……!


 えーと、オイスターソースの料理作り、ペルウーテの絵本四冊の翻訳、地理本は、もう少し読み込んでみよう。

 ペルウーテの神典と神話は……皇国語で書かれているけど、どこがどう違うかっていうのを書きだしておこうかな。

 オルフェルエル諸島のものは、来年ガイエスが来たらその時に受け取ったってことにして……

 ん?


 オイスターソース……あいつ、なんて書いてきてた?

 確か『今年の冬牡蠣で作られたもの』……だったよね?


 ……ダメじゃーーーーんっ!


 俺が今、持っているって知られたら、絶対に駄目なやつじゃん!

 だって『今はシュリィイーレには誰も入って来られない時期』なんだから『今年の冬のセラフィラントのもの』が届く訳ないんだよ!


 あっぶねーー!

 うっかり使ったものをビィクティアムさんに食べてもらったりしたら、マジで言い訳できなかったぞ!

 ライリクスさんとマリティエラさんには絶対に『セラフィラントのもの』ってばれるだろうし!


 暫くは『夏牡蠣で作った』ことにして、醤油を混ぜて解りづらくしたものくらいなら……いや、いやいやいや。

 それは、作ってくれた人に申し訳ない。

 こんなに美味しいものを作ってくださったのに、俺がその手柄を掠め取るような真似はできない。

 よし、俺が食材用保存袋をガイエスに渡して『買ってきておいてもらった』ことにしようっ!


 そして春まで『ばれない場所に保管』しておこうっ!

 遊文館の地下二階か、この家の秘密書庫だな。

 ガイエスにも言い含めておかねば……あの『転送の方陣』を禁止などされては、一大事である。


 越領でものを転送、しかも皇国内でも他国でも【収納魔法】に直接なんて、たとえ俺と方陣魔法師でしか使えなくてもまずいに決まっている。

 下手したらガイエスに移動制限とか、かけられちゃうかもしれない。

 そこ迄にならなかったとしても、警戒はされてしまう。

 そして、方陣魔法師ならまだしも、【方陣魔法】のない俺にどうしてそこまでの魔法ができるかってのも……知られたら、神斎術を公開せねばならなくなるやもしれん。

 ……もしもの時のために説明を考えておくか。


 その辺はよーくガイエスにお願いしておくこととして……

 まずは、オイスターソースのメニューだね。

 それと一緒に、注意事項を送っておこう。

 ばれちゃまずいので、小会議室の簡易キッチンで作ろうかなっ!


 さて……意気込んだはいいが、何にしよう。

 オイスターソースの炒め物などは定番で、確かに美味しい。

 だが冒険者さん的には、食べやすいものもいいだろう。


 俺としては……オイスターソースをマヨネーズと混ぜて使うのが……好きだったりする。

 なんにも具材がなくてもこれを食パンにピザソースみたいに塗って、オーブントースターで焼くだけで美味しいのだ。

 いや、流石にそんなものをガイエスに食べさせる気はないのだが。

 オイスターマヨは、一瓶送っておいてやろう。

 パンにつけても、野菜につけても、焼いた烏賊とか蛸につけても旨いからなっ!


 だがオイスターマヨは魚介もいいのだが、チキンとも凄く相性が良い。

 なので、今回は鶏胸肉のオイスターマヨ焼き。

 そしてやはり醤油バージョンも捨てがたいので、こちらは焼きおむすびにするのだ。

 フフフフフ、こいつが意外と美味しいのだよ。

 ほっほーいい香りー。


 この【烹爨ほうさん魔法】は、なかなか便利だなぁ。

 電子レンジで、IHコンロだもんなー。

 水分少なめだと、焼き物も炒め物もできるよーってか。


 そうだ、淡泊な白身魚はあったかな?

 お、すずきがあるな。

 では、こちらの蒸し焼きの粗ほぐし身にオイスターマヨを絡める。

 刻み葱と一緒にして、中華まんの皮でくるんで蒸し上げる。

 餃子みたいにして、上から醤油バージョンを少したらしても絶品。


 だけど中華まんっぽくしたら、このまま食べていいからファストフード的で食べやすい。

 ビスコットを作っているベルテア小麦が、この中華まんにはぴったりでしてねー。

 遊文館用に肉まんも考えて試作していたから、いいタイミングだったよねー。


 んんん、元々が美味しいソースだから、何しても美味しいー。

 勿論このまま、ホットサラダにつけて食べてもいいのだ。

 はー……美味しい。

 無限に食える。


 よし、ではガイエスの分を……五食分くらいずつ作っておけば、誰かと一緒に食べるにしても足りるだろう。

 気に入ったものだけは、追加オーダーも来そうだから【集約魔法】にしておこう。

 そんで冬のうちに俺が持っていると知られたらまずいものなんかは、全部来年の春に受け取ったことにするから絶対に新月しんつきの春祭りにシュリィイーレに来いと言っておく。


 あ、専用の保存袋は、温度管理も付けておくか。

 マチ付き手提げ付きの大きめのも作ったから、牛乳瓶とかも入れておいてもらえるし。

 ……魚釣り用とかキャンプの保冷バッグのノリだな、こりゃ。

 折りたたみできるから、五、六枚あればいいかなー。



 オイスターソースの方は、取り敢えずこれで平気……お次は、魔獣図鑑の増ページだな!

 えっと、コレクションさんで図鑑類をガツッと購入して【複合魔法】にしてある『シンボル化』と『自動筆記』&『レイアウト』……

 はい、魔獣図鑑・訂正書き込み用カードのできあがりー。

 これもトレカみたいだな……専用バインダーもあるし。


 次は、ガイエスが描いてくれたやつ。

 絵をコピーして、説明文は清書していこう。

 あ、オオコノハズクも魔獣なんだっけ……うわー……色が毒々しいー。

 イメージ変わるなぁ。


 魔賤鳥ホトトギスも魔獣なんだよね、そう言えば。

 えー、魔虫と一緒に出て来るの?

 全部売れるのか、凄いなホトトギス……おお、これ一羽で皇国小金貨七枚……七万かー。

 セラフィエムス第七代の姉君、コーデリネ様が研究していた鳥だよな、これ。

 そーか、それで有用性が確認されているから、高額取引されているのか。


 うわっ、これどう見てもグリズリーだけど、シロクマ?

 いや、真っ白の月の輪熊?

 ううむ、熊系は難し……あっ、これってトムソンガゼルみたいだけど、ギロギロ?

 他の動物も何種か混ざった感じにも見えるなー。


 おお、爪魔獣……テリジノサウルスでヒットしているぞ。

 頭……割れて、噛みついてくる?

 尾がもっと長いのか……こわぁ……でもやっぱり『似』付きが多いな、恐竜系は。

 この『毒魔爪獣どくまそうじゅう』って、怪獣の名前みたい。

 毒じゃない魔爪獣も、いるのかなぁ。


 このトビウオっぽいのも、ギロギロって書いてあるなー。

 魔頭羽魚まとうばうおっていうのか。

 え、船の上を這いずるの?

 キモッ!


 ううーん、あいつ、こんな気持ち悪いの、よく平気だなぁ……

 いや、端っこに『嫌い』とか『凄く嫌い』とか書いてるから、平気って訳じゃないらしい。


 それにしても……ガイエスって、やっぱり絵が上手いよなぁ。

 本当に、魔獣も魔魚も魔鳥も、ちゃんと気持ち悪いもん。

 魔柄長鳥まえながどりだけは、ふわふわですっごく可愛く描いているけどな。


 迷宮での冒険は心配だし、あいつの心に負担になることもあるって再確認した。

 だから、俺はせめて一緒になって落ち込むとか、慰めるとか、窘めるなんてんじゃなく気持ちが切り替わって楽しくなれるように、美味しいものを作ってやろう。

 使う度に、ワクワクするようなものと一緒に。

 あいつが信頼できる、最高の方陣を描いてやろう。


 そして、あいつから渡されるものを全部、受け取ろう。

 物品も、情報も、その時に抱え込んでしまったものも、俺でいいのなら全部。

 いつでも、俺はおまえの旅を楽しみにしているよって……言葉で伝えられなかったとしても。

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