第596話 土産話も盛り沢山

 よーく考えたら『転送の方陣』はGPSだったよ。

 ……すっかり、忘れてたね。

 そーいう追跡とか、ピザ屋の配達状況確認くらいしかしたことなかったからねっ!

 メモを送って数分後、俺がGPSを確認する前にガイエスから通信が入った。


〈すまん、気を遣わせた〉

「いやいや、全然っ! ありがとうなーーっ! すっごい貴重なものなのに、こんなに沢山! いくら? 高かっただろう?」


 これだけのオイスターソースを作るのは、かなりの量の真牡蠣が必要なはずだ。

 しかも養殖ではない、天然物である。

 どんなに豊漁だったとしても、決して安くはないはずだ。


〈いや、いい。俺がそれで料理を作ってもらいたくて、送ったものだから。なんか作ってくれ〉

「任せろっ!」


 なんだよもーーっ!

 嬉しいなーーっ!

 こんなに美味しいオイスターソースに醤油も入れたらまた違った風味と味わいになるし、色々プランがありますよー!

 だけど、絶対に高価だっただろうなぁ……どっかに値段表記ないかな?


「あ、ところで、今どこにいるんだ?」

〈……家〉

 なんとなく言い慣れていない感じが、微笑ましいですなぁ。

 冒険者になってからずっと旅ばかりだったって言ってたから、久し振りの単語なんだろうね『家』ってさ。

 でも、おうちにいるのなら安心して話せるな。


「それと、図鑑の加筆もありがとうな。清書したらすぐに送るから、また頼むな」

〈ああ。それはいいんだが、そこに載っていないやつもあったから、後ろの方に書き足してある〉


 え、載ってないもの?

 ……あー、鳥類かぁ!

 しまった、鳥の図鑑はあんまり載っていないものしか持ってなかったから……うわ、何この魔柄長鳥まえながどりって。


 真っ白の柄長って……シマエナガじゃん。

 北海道にしかいない、珍しい亜種なのに魔獣と一緒なのかよー。

 カワイイのにー!

 鳥類図鑑、買おう。


 それと……どう見てもハルキゲニアみたいなやつとか、食虫植物みたいのとかいますね……

 うん、こりゃ、地球上にいた絶滅種図鑑とか、想像の生き物図鑑とかも必要かもしれない。

 カンブリア紀のやつらなんて、よく考えたらめっちゃ魔魚とか魔獣向きかもしれないビジュアルだよな。


 そういえばそうだよなー、魔竜ってのがいたんだったよ。

 恐竜図鑑も、もっと載っているものを手に入れておかないと……ティラノサウルスみたいなのがいたら……コワッ!

 だけど、プテラノドンだったらちょっと見たい。


 そして話は、改訂版を渡した方陣のことに。

〈あの『前・古代文字』の方陣。まだ他国では試してないが、皇国内で今まで魔石が必要だった所でも全く要らなくなった。遠いと必要になるかもしれないが、領内の移動にはカバロもひとつかふたつでセラフィラント内の何処でも大丈夫だったぞ〉

「そうか、そりゃよかった。魔石、欲しかったら言えよ。まだ手に入れられるから」

 うちの地下倉庫に、たんまりあるからねー。


〈助かる。セラフィラントは、あまり赤いのがなくて〉

「石の種類で違いはあるか? カバロも赤い方がやっぱりいいのか?」


 色は解るんだけど、石の種類では検証ができていない。

 俺自身があんまり関係ないから、実感がないんだよなぁ。


〈赤でも……一番いいのは、赤碧玉せきへきぎょくだな。柘榴石ざくろいしもいいんだが、高いし……小さい物が多いし〉


 ふむふむ、赤碧玉レッドジャスパー柘榴石ガーネットか。

 多分、聖神三位の茜色に近い色合いだと、一番いいんだろうな。

 オイスターソースの代金替わりに、よさそうなやつを見繕って加工しておいてやろう。


〈カバロは、どれでもあまり変わらないけど、透明な方がいいかもしれない〉

 カバロは透明……水晶系がいいのかな。

 それとも透明度が高い、赤い石の方がいいか。

 動物の加護色って、そういえばちゃんと視たことがなかったな。


 もしかして『獣類鑑定』とかと併せたら、詳しく視えるようになるか?

 茸のこともあるし、お肉の観察と一緒に色々と……またちょいと実験モードだな。

 ああ【調理魔法】が、更に遠退きそうだ……


 見つけたら用意しておくと約束して、気になっていた伝承話をどんな感じで聞かされたのかっていうのを尋ねる。

 だが、どうやら本気で覚えていないらしい。

 そっか……似たような本が、なかったんだよなぁ。

 ミューラからの帰化民が多い、リバレーラ南部とルシェルスのものが全部来るまで、待つしかなさそうだな。


 そしてもうひとつ、気になっていたこと。

 アーメルサスが沈んだということで、冒険者組合がどうなったか……って話だ。

 シュリィイーレの冒険者組合では、時期的にあまり情報がまわって来ていないらしくヤハウェスさんも皇国の冒険者は大丈夫、としか解らないと言っていた。


 遊文館内だったからあまり詳しくは聞けなかったんだけど、ガイエスくんなら大丈夫! としか言われなかったんだよな。

 まぁ、確かに気になるのは、それだけといえばそれだけなのだが。

 ガイエスも同じようなことしか言わないのだが、どうやらヘストレスティアはそこそこ大変なようだった。


〈今は冬期で、北側の迷宮が閉まっているからまだいいんだろうが、対応が長引いて春までもつれ込んだら、セラフィラントは大変かもしれない。冒険者連中は今でも、迷宮品を売りに大勢来ている。混乱が続くようだとガエルティや周辺に留まって、様子見をするやつらが多くなる。そうなると治安の悪化もあるかもしれない〉


「そっか……それでビィクティアムさんが、陸衛隊の再編を急いでいるのか……」

〈まぁ、陸衛隊も護衛隊も強いからな、セラフィラントは。そういう心配はしていないんだが……多分、あいつら同士でいろいろありそうで……そっちの方が面倒事になりそうだ〉


 そもそも、皇国人は冒険者という人達のことをよく知らないらしい。

 シュリィイーレだけかと思ったが、ガイエス的には皇国の何処ででも実態を知らない人の方が多いという印象のようだ。

 セラフィラントならばある程度、他の地域よりは知っているかもしれないが日常的に接する人達ではないという。


〈皇国で……冒険者ってだけで嫌われたくは、ないからなぁ〉


 ガイエスは自嘲気味に、それでもあいつら荒っぽいからなぁ、と呟く。

 被害に遭わなくても、諍いなどしている場面を見てしまったら怖いと思うかもしれない。


 しかも彼らは、ほぼ全員が武器を持ち歩いている。

 そういう習慣がない皇国の臣民達には、それだけでも恐ろしさを感じてしまうだろう。


 そんな恐怖心が冒険者達に伝わってしまったら、きっと彼らは不快に思う。

 住民たちとの間に良好とはいえなくても、マイナスの感情を持ち合ってしまうのは……やっぱり、避けたいものだよな。


 きっとガエルティだけでなく、ヘストレスティア西側と海路が繋がっているオルツにも冒険者は増えるだろう。

 そうなるとおそらく、海衛隊もピリピリしそうだし。


 オルツには、冒険者を留めておきたくないからか冒険者組合がないという。

 となれば……セラフィラント内を移動することになるから、これまた気を遣うことだ。

 昔ここに来たやつらみたいな、犯罪者紛いのやつがいないことを祈るしかないよなぁ……


〈なぁ、一緒に送った金属板、読めるか?〉

 ガイエスに聞かれて、思いだした。

 オイスターソースが嬉し過ぎて忘れてたよ。

「んー……うん、読めそう……ちょっと待って」


 複製して、魔瘴素がない状態のものを作る。

 それを復元……お、文字が浮き出てきたね。

 オルフェ語だな。


 ……あ、やべぇ。

 これ、ムカつくやつだ。


 ガイエスに、多分嫌な気分になると思うけど、と前置きをして内容を読み始めた。

 読み終わったと同時に、何かをたたきつけるような音が聞こえた。

 机でもぶん殴ったのだろうか。

 その気持ちも解る……俺だって、こんなもの作ったやつに鉄槌を喰らわせてやりたい。


 所謂『殺人の許可証』だ。


 重い空気が流れる。

 ガイエスが、言葉を詰まらせているのが解った。


 ……言わなければ……よかったかもしれない、と後悔した。



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『緑炎の方陣魔剣士・続』の參第58話とリンクしております。


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