第594話 爆走!妄想列車『失われた大陸』号

「では……俺も今のおまえの話を踏まえて、聞きたいことがある」

 はて?

 ビィクティアムさんから聞かれることに、妄想で答えていいということかな?


「ニファレント大陸とリューシィグール大陸が沈んだのは、いつ頃だと考えている?」

「妄想、ですよ?」

「構わん。歴史なんてものは、そういうところから検証していくものだ」


 それは都市伝説的過ぎませんか……?

 実物の遺跡とかなんもなくて記述のみだから、それも仕方ないのかもねー。


「ニファレント沈没は……多分、皇国の神話時代のすぐ後じゃないかと思うんですよねー。もしくは、英傑と扶翼が魔獣達と戦っている神話時代の最中」

「どうして?」

「俺は、ニファレントが魔獣達との戦いに敗れてしまったんじゃないか……と思うので」


 ちょっと語弊がありそうだが、間違いでもない気がするんだよなー。


「ニファレントが沈んだ原因の魔法は『大地と空を切り裂く魔法』で、当時のニファレントの人達はそれを使えた……ということは、使っていた文字は前・古代文字……いや、神約文字じゃないかと思うのです。時代としては神々と強く結びついていた時代。でも、その魔法がどうして大陸そのものに使われたのか?」


「魔獣が……大量に湧いた、とでも?」

「そうかもしれないですね。魔獣だけでなく魔魚も魔鳥も魔虫すら……その全てが押し寄せてくるほどのことがあり、大魔法が必要になってしまった……とか。だけど、魔法が大き過ぎて全てを巻き込んだんじゃないかなーと」


 いや、俺が考えていることは、もっと愚かなことだ。

 ニファレントは古代三大陸において最も繁栄していたと、各家門の本に書かれている記載が多くあった。

 だからこそ、傲ったのではないだろうか。


 魔獣が少なかったとしても、強大な魔法を見せびらかすように放っていたのではないだろうか。

 もしくは、恐怖故に必要以上の魔法を使った。

 棒で叩くだけでいいのに、火炎放射器を持ち出した……みたいな。


 当時の『大地と結ばれていた神約文字の名前を持つ民』だったからこそ、馬鹿みたいに大きな魔法が使えた。

 俺達の持つ今の神斎術すら、超えてしまうくらいの。

 その魔法が、天変地異と言えるほどの自然災害を誘発してしまったのかもしれないと思っている。


「原因を作ったのは行き過ぎた魔法かもしれませんが、大地が損なわれたのはそれだけが原因ではないと思います。いくら神々からの恩寵である魔法と文字で繋がっていたとしても、人の魔法が神の創った大地を沈めることなんて、できませんよ」


 そう、できない。

 人にはそこまでの魔力なんてないだろうし、あったとしてもそれを放つということは間違いなく自殺行為だ。

 たとえ何十人何百人何千人が、同時に同じ場所に同じ魔法を放ったとしてもその規模の魔法になることの方が難しいとも思うし。


「その魔法を使った時に、偶々外的要因も加わって大地が沈むというほどの『事故』になったと考えているんです」

「偶然、ということか……」

「はい。多分……神々すら予想していなかった……とすると、まったくの外部『遼遠たる天空』という、この星の神々の力すら及ばない場所からの」


「遼遠たる天空、というと、神典冒頭の『まず初めに神々がおわした場所』か?」

「そうです。神々はその『遼遠の天』からこの星を見て大地と命をお創りになろうと決められた。その『遼遠の天』には、他にも多くの神々がいらして他の星へも命を創っていらっしゃる最中だったのではないでしょうか」


 走れ、妄想中二病超特急!

 神々が世界を創る前のことなんて、ビッグバンの特異点の向こう側みたいなもんだ。

 あるかどうかも解らない、誰も真実に辿り着けない場所だ。

 仮説も妄想も『言ったもん勝ち』的で『こういう説もありますよ』ってやつだ。


 この世界の神々が『万能』であるというのに、祝福と名前を与えた大地が滅びるなんてことを、もしも人やこの星自体に原因があるのだとしたら『神々が知らなかったはずはない』のだ。

 だが! 


 主神・宗神と五神はこの星においては万能であらせられるが、自分達が創っていない『遼遠の天』からの偶然の干渉にまでは予想も予測もできず、もたらされる結果もカバーできなかったということなのだ。

 そう、神々が万能であるのは、この我々が生きる大地ほしに対してだけであり『遼遠の天がいぶ』には干渉できない……と範囲指定をしてしまうのだ。


 神々はこの星を育み見守ることに、全てを尽くしてくださっている。

 外部は管轄外で、主神、宗神、五神はこの星だけを愛している……というのは、間違いではないと思える。

 まあ……それはこの星に起きた天変地異がなんだか解らないから、なんだけどね。

 隕石の落下なのか、地下からマグマでも湧き上がってしまったのか。


 全宇宙をこの星の神々がコントロールできているとすれば……起こる全てのことが神々が望んだことになる。

 だが、この星の神々は初めから『何も望んでいない』のだ。

 神典でも神話でも、神々は『自分達の望み』ではなく『人の望み』を叶えるための条件提示しかしていないのだ。


 そして『遼遠の天』と『人々に任せた神話の後の未来』には、アドバイスと恩寵をくれるだけで『干渉ができない』ということの理由があるはず。

 それを見失って、疑ってしまったからこそ、信仰が揺らいでしまったのだから。


 だから、この星を護る神々の手出しできない場所こそが『遼遠の天』で、その場所由来の原因だと『神々の予想を裏切る』ことが起こる可能性がある……としておけば、人が神々を疑う理由のひとつを潰せるのである。


『本当は神々にとって、人などどうでもいいのではないか』という、不安を。


 心の中で、神々に愛されているのだと思えるだけで救われる人はいる。

 人と人との繋がりが上手く持てなくても、神々には見捨てられてはいないと信じられれば、それだけで。


「神々はご自身達のいた場所からの思いもかけない『事故』で、この大地を傷つけてしまったことを深くお悲しみになって懸命に修復してくださっている……きっと、今もその途中だと思うのですよ。ひとつの大陸が粉々になって、海に沈んでしまうほどの大事故だったのですから。そのことで人々の心が神々を信じなくなってしまうことも解っておいでだった。だから、他国の人々が神々の言葉や盟約や使命を見失ってしまっていて、大地を穢していくことも想定済。だけどゆっくり、ゆっくりではあっても神々はこの大地を癒そうとしてくださっているからこそ、皇国に信仰が甦りこの国だけでも人々の手で『本来あるべき姿』を懸命に保っている。他国は一度全てをくすかもしれない。だけど、神々は必ず他国の者達にも立ち直るきっかけを与えているはずなのです。それに気付くか、気付かないかは……その人々の手に委ねられているのです……っ!」


 ……という、妄想超特急車窓からの景色でございますが、如何でしょうか。

 いえ、受け入れてもらえなくても結構なのですが、俺はこのスタンスで行きたいですっ!


「俺の勝手な考えなので、神々に怒られちゃうかもしれませんけどね」

「……いいや、お怒りにはならないだろうさ……神々はきっと『おまえがそれを話すことすら織り込み済み』だろう」


 ビィクティアムさんは、優しいね。

 俺のファンタジー劇場に付き合ってくれるなんて。


「そのニファレントの大地は……どのあたりにあったと思う?」

「それにはまだ史料と情報が足りないので……今は、妄想もできません」


 海は広くて大きいのですよ。

 何処にも遺跡も痕跡もないのでは、なんともはや。

 もしかしたら、ガイエスがどこかでなんか見つけてくるかもしれないけどねー。


「リューシィグール大陸の時は、どうだったと?」

「それもきっと同じような理由だと思います。修復してくださっている途中で、我慢しきれなくなったリューシィグール大陸の二国で……もしかして、諍いか何かがあった。ニファレントほど大きなことではなくて、一夜にして大陸が没するということがなかったから逃げ出した人々が多くいた。だから完全にその国々がなくなったのは、時期的には現代皇国文字が神々に奏上された頃かなーって」


 だいたいそれが、セラフィエムス第十二代ご当主の時代だ。

 その時はまだ、シィリータヴェリル大陸に多くの人が辿り着いていたと思う。

 その人達はきっと、その頃は皇国より豊かだった『古代マウヤーエート』の方に移り住んだのではないだろうか。


 人々が少なくなったリューシィグール大陸は徐々に大陸が崩れていったか、住むことができないほど荒れてしまい神々が『大陸を沈めざるを得ない状況』になったのではないだろうか。


「魔獣が溢れ過ぎてしまったとか、大地自体が穢れ過ぎて、再生させることすら難しくなるほどだったのかもしれないと思いました。そして、再生させられないと神々が思われたのは、魔法と文字で大地と結ばれたはずの人々が、大地を見捨てて諦めてしまったから……ではないかと」

「人が結ばれた大地を捨ててしまうと、甦らせることもできなくなると言うことなのか。穢れてしまった大地が海に没したから、海の中に魔魚が蔓延ったのかもしれんなぁ……」

 それはありそう。


 魔瘴素が溢れた大地は、ボロボロに崩れていく。

 そして魔瘴素は海にぷかぷかと浮いて、少しずつ少しずつ沈んで行く。

 だけど穢れきった大地そのものがそのまま神々の手で沈められてしまったというならば、一気に大量の魔瘴素が海に入り込んでしまったことになる。


 深海魚や海洋生物たちがそれに影響されてしまうのは……仕方ないことだと思う。

 まぁ、魔獣や魔魚ってものが元々の生き物が魔瘴素で冒されてなるものだ、と仮定すれば……だけど。


 妄想でも想像でも、何かが壊れるとか滅びるっていうのはあまり気分の良いことではないよね。

 だけどきっと、どの星の歴史もそうなんだろうなぁ。

 神々がいてくれるだけ、ここは……マシなのかもしれないよね。



「……というところで、俺の話とお願いは『できるだけ皇家や貴族の方々と共有して欲しい』ということなのですが、俺が入ってきた時から全部『録画』していらっしゃいますよね?」

「よく、気付いたな」


 何を仰有る兎さん……じゃねぇ、ビィクティアムさん。

 この家の防犯と記録に監視カメラ推奨したの、俺ですからね。

 俺のコレクション内で、魔力防壁になってくれている録画石にも『転送動画』が入ってきているの解っちゃってますしね!

 これは内緒だけど。


「このことは俺の言葉で言うより……皆に見せたいのだが、構わないか?」

「はい、皆さんでご覧くださって構いませんが……このことでお呼び出しとかかからないように、お取り計らいくださいませ」

「……解った。そうだったな、設置したのはおまえなんだから、解ってて当然だったよな」


 こうやって少しずつ色々と開示していけば、俺に拘らずに皆さんが考察を進めてくださるだろう。

 そして俺がこれから書く『神約文字の歴史書』が、奏上されればまた段階が進む。


 そうすれば、前・古代文字……神約文字で書かれたセラフィエムス初代様の日記のことも『真実だから残っている』のか『特定の儀式がなされなければ神様チェックが入らない』のかが解ると思うんだよなー。


 あ、翻訳は全部承りますから、まだ打診がないご家門の皆様にもよろしくお伝えくださいませーー。

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