第592話 【烹爨魔法】検証
思いもよらないものが出て来てしまったので、ついつい他人様宛の手紙を読んでしまったのは反省している……年代がはっきりしていなかったとはいえ、手紙って解った時点で読まない方がよかったんだろう。
その件も併せてレイエルス侯にはお詫びをしてから、この手紙のことは決めた方がいいよな。
いかんなー、解読モードになっちゃうと歯止めが利かなくなってしまう。
古代文字の本に挟まっていたからって、同じ年代の古文書とは限らないんだもんな……ごめん、ヒメリアさん……
内容は誰にも言わず、レイエルス侯かヒメリアさんの許可を取るべきだよな。
レイエルス侯に確認してから、ビィクティアムさん経由……も、彼女が恐縮しちゃうかな?
確認したら、俺から直接お詫び状を送った方がいいかもしれない。
ウァラクのベスレテア……だったよな。
しまった住所、知らないぞ。
衛兵隊事務所経由で、届けてもらえるかなぁ……?
いや、それを渡すかどうかもレイエルス侯にお任せした方がいいかも。
そして、渡してもらえたら彼女にどうしてもらうか決めよう……怒られても仕方ないよなーこれは。
ちょっと後悔してしまったので、取り敢えず翻訳作業は一旦終了して、お次も後回しにしていた案件の確認をしよう。
そう、あの微妙に半端な炊飯器的【
ひとしきりの反省を終えて、詫び状と訳文を書いた手紙をしたためた後、自宅二階の台所で俺は米と向き合った。
俺のもらった【
素敵な炊き込みご飯や、炊飯器レシピの完璧な作成も確かに可能だ。
だが!
どうして味付けのサポートが、全くされないのか!
一番欲しかった『食材の状態次第でお味を自動調節してくれる機能』が、実装されていないのである!
これを次回アップデートさせるには、何をどうしていったらいいかの検討も兼ねて諸々の確認が必要だ。
大丈夫だ、神々はそんなに意地悪ではないはずだ。
段位を上げれば平気とか、別の技能を組み合わせて調味のカバーをできるとか、ヒントをくれると信じている。
本当にっ!
信じていますからねっ!
神様っ!
あ、五目炊き込みご飯のおむすび、やっぱり油揚げ入ると美味しいな。
折角油揚げ作ったんだから、お稲荷さんを色々なバージョンで作ってみよう。
豆腐系が夜に来る子達に評判いいし、甘めのものがあんまりないから喜んでもらえるかも。
おっと、脱線した。
五目ご飯の美味しさはいいとして、その他にどういう作用を及ぼしているかの検証だった。
お稲荷さんって名前もなー……それも考えて……
あー、違う違うーー!
「……これは、なかなか曲者だなー」
数時間の検証の結果……【
金属が! 粘土が! 岩石も! そして……あらゆる素材が『煮炊き』できてしまうのですっ!
溶解融解も思いのまま、分離抽出機能付のひとり
おむすびが綺麗に結べるはず……あ、いや、違う。
別に鉄とか溶かしたり合成したり、できなくってよかったんだよ?
そっちには『冶金遷移』さんがあるんだしさ。
つまり、【
自動翻訳さん的になぜこの字があてがわれたのか解らないが、器がなくても煮炊きができて、何を器にしてもできる……
つまりっ!
おあげの中に生米生野菜と調味料を入れ、この魔法を使うとその中で五目ご飯ができておあげに包まれている状態なのだ!
器となるものに全く影響せず、中身だけを『煮炊き』できる。
その器は『空気』でも『水』でも、中だけを一千度にもできてしまう……ということだ。
今はまだ第二位だから、熱だけを操る感じだが発熱から発火も操れる可能性を秘めている。
こぇぇー!
字面に騙されるが、がっつり攻撃魔法だろうよ、これーー!
いや『烹』には『煮殺す』って意味があったから、強ち間違いとも言えないか。
でも、緑属性の魔法って『一見するとそう見えないけど攻撃に使ったら強いよね?』が多い気がする。
だめだめ、魔法は平和利用が一番です。
暫くは、器が熱くならない電子レンジって考えているくらいがいいと思う。
何かと組み合わせたら、料理の方に振れないかなー。
とにかく、こいつで炊き込みご飯や蒸し料理をたくさん作ろう!
あ、そっか【発酵魔法】と一緒に使ったら、調味料のレパートリーが増えそうだな!
温度調節が、簡単にできる魔法だもんな。
……これって、対象にもよるけど、熱での『消毒』ができるな?
魔法でも方陣でも『解毒』は、その毒そのものの知識がないとちゃんと働かないけど『消毒』は体内に入る前の予防的に使うには有効だ。
そして……『消毒』は、病原菌にも有効なのである。
この作用は『浄化』に似ているが、ちょっと違う。
確かに『浄化』『清浄』だと魔毒には大変有効だし、既に毒性を帯びている菌には効く。
しかし残念ながら『体内に入って初めて暴れ出す菌』は、自然界に多く存在しているもので『在って当然』のものだから体外での除去は無理。
態々指定して、狙い撃ちをしない限り『清浄』でも消せない。
そういうものをある程度予防できるのが『前もって菌を滅ぼす』という『消毒』なのである。
このあたりも研究しておくのは必要だなー。
なんでもかんでも消毒っていうのは違うと思うが、必要な場面は多くある。
【顕微魔法】とかと併用したら、菌が付着しているもの自体に影響させずに菌だけを狙い撃って高温滅菌……できそー。
あ、ちょっと菌とは違うけど……魔瘴素って、熱に強いのかなー……?
ガイエスが送ってきたシャフワトム近くの礫岩……うん、まだちょっとだけ魔瘴素が残ってんな。
顕微で魔瘴素確認……
おおっ?
消える個体と増える個体があるな?
あ、いや、増えたんじゃない。
膨張して……あ、破裂した。
おー消えるー!
あまり高温にしなくても『中から熱くすれば』弾けるってことだな。
だけど、これは効率悪いなー。
段位あげたら、もう少しよくなるかな?
そして、魔瘴素が弾けるとなんと魔効素に変わった。
これは【清浄魔法】では、見られなかった現象だ。
変換方式は『熱』だけではないのだろうが、ひとつの手段として『熱』は有効ってことだな。
あと調べたいのは……紫外線だが、これは後日にしよう。
今は【
消毒とか鋳造とかをやっちゃうとまた別の魔法になっちゃいそうなので、料理特化型と認識してあくまで『
二階の台所に、五目炊き込みご飯をはじめとする数々の実験結果を、全部ニギニギしておむすびに仕上げた。
ずらりとおむすびが整列している絵面は、炊き出しみたいな雰囲気である。
覗きに来た父さんに、ちょっと呆れられてしまった。
「おい、タクト……なんだって、こんなに色々な『おむすび』ばっか作ってんだ?」
「……美味しいよ?」
「それは解っとるが……八種類もあるぞ?」
「新しい魔法の検証結果です。料理系だと思ったんだけどなー……」
父さんに、まだ頑張ってたのかよ、と頭をくしゃくしゃってされた。
まだまだ頑張る予定だよ、と言うとぽんぽん、に変わった。
「技能系が足りねぇなら、まずは欲しいと思う『感覚』を意識しつつ全然違うことをしてみろ」
「違う、こと?」
「そうだ。感覚系の技能ってのは、満遍なく使わねぇと伸びないもんが多いからな」
確かに、人の感覚は視覚に頼りがちだ。
味覚系が欲しいのなら、見ていても聞いていても味を想像したらいいってことかな?
……お肉を見て……焼いた時に聞こえるじゅぅぅぅっていう音と肉汁の旨味、香りは味に直結しやすいけど、見た目で想像する味っていうのは……色に左右されがちだから……
「タクト、おむすび、潰れとるぞっ!」
あ、いっけねー。
「ありがと、父さん! 俺、頑張るっ!」
潰しちゃった豆ご飯の歪なおむすびを頬張って、俺は誓いを新たにする。
……この豆、もう少し塩味が効いててもいいかもしれない。
いやっ、違うって!
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