第590話 色々考え中

 本日は午前中はトレーニング、ランチは試験研修生の試食。

 このランチがさー、今まで食べさせてもらったどの試験研修生の作ったものより美味しくてですね!

 シシ肉のベーコンを使った煮込みを、平たいパスタに包んで茹でている……ラビオリみたいな感じだが、ゆで汁がただのお湯ではなくてスープのようだ。

 煮詰まってとろっとしたソース状になっていて、これがまた……うっまっ!


「まぁ、これ、エルディエラ南側の包み煮込み料理ね!」

「ご存じなんですか、アンシェイラさん?」

「以前、エルディエラ領のシーヴェイス衛兵隊にいた時によく食べたわ。中は挽肉と玉葱を炒めたものが多かったけど、燻製肉でも美味しいわね」


 なるほどー、コレイルとエルディエラ南方は、パスタ系の包む料理が多いのかもしれない。

 これに使われているのも、リエッツァと同じ生地だね。

 茹でるのではなく、煮込む感じなんだね。


 なんていう料理なのか聞いたら、自動翻訳さん的には『包み煮込み』なのだが音としては『リエッツォーリ』と聞こえる。

 繰り返しても発音は直されなかったので、それでよさそうだ。

 このリエッツォーリも、色々と中身や煮込むスープを変えて楽しめそうな料理だね。

 んふー、美味しいー。



 午後は、遊文館で書き方教室第五回。

 これで初級編は終了だ。

 スタンプカード持って並ぶ子供達が、なんかワクワクしている……?

 あ、そーか。

 第五回の後に、初級終了の徽章をあげるって言ったからだね!

 勿論用意してあるよー。


「きらきらっ!」

「ごかくけい!」

「そうだよーアフェル、よく覚えていたなー」


 蓄音器体操組だけでなく、微弱回復や微弱浄化の方陣を手に入れて練習している子はそこそこいるらしく、次回から始まる『よく使う方陣』の描き方がメインの中級も楽しみだと言ってくれる子達が多かった。

 なんて勉強熱心で、いい子達なんだ……!

 俺も教材作り、頑張ろう!


 何人か、全部のスタンプが揃ってない子達が前回や前々回のものはもうやらないのか、と聞いてきたので新しく作ったミニ教室をご紹介。

 ここは毎日、第一回から今日の第五回までを時間割を作って流しているので、好きな回を視聴できる『アーカイブルーム』にしてある。

 各回の視聴は何度でもできるので、いつでも復習していただける。


 そして、録画版を見終わったらスタンプシールが座っている人がいる座席に一枚出て来るので、それをスタンプシートの該当回の欄に貼ってもらえたらいいのである。

 何度も見てシールをいっぱい貼ってくれてもいいのだが……ちょっと無駄かな、と思ったのでシールは二回目までの視聴しか出ないようにした。

 椅子に掛ける時に、入館証の千年筆で座席を出すために翳すから出欠確認は自動でできるのだ。


 勿論、このアーカイブ視聴は夜の子供達でもできる。

 夕方から朝方まで何度でも見てもらえるようになっているので、眠くなっちゃったら……また別の日に見てもらえる。

 昼も夜も途中入場・途中退場ができるけど、その場合は『スタンプシール』は出てこない。


 そして五回の講義分が全部溜まったら、スタンプシートを俺に見せてくれれば徽章を渡せる。

 夜は……難しいので、スタンプ満了のシートを翳すと自販機みたいに徽章が出て来るっていう装置も作った。

 丸いケースに入れたせいか、ちょっとガチャみたいになってしまった。


 ……


 おっと、いかん。

 子供達で儲けたい訳ではない。

 ガチャガチャでいろいろ作ったら、なんて思ったが『お金を使う遊び』なんてのは、大人になってから覚えればいいのだ!

 大人用……

 いやいや、今は駄目。

 遊文館にはそんなものを置く場所がないし、うちの自販機スペースギチギチだし!


 そんなことよりっ!

 大切なことがあるのですよっ!

 お子様達の遊文館での自販機売上げデータの分析と、対策である。

 遊文館の地下二階で、翻訳の終わった蔵書などを整理しつつデータとにらめっこ。


 予想通り、昼間は圧倒的にお肉料理と温かいものがよく出ている。

 だが、なぜか夜は温かいものよりも『食べ物自体を手に持って食べられるもの』が、とても人気がある。

 そしてサンドイッチやハンバーガーも動物性蛋白質よりも、魚や野菜がメインのものばかりが食べられていた。

 チーズと卵だけはどちらでも人気があるようだ。


 揚げ物もフライドポテトやオニオンリングはどちらでも絶好調なのだが、チキンになると昼間だけ。

 そして魚のすり身フライは、夜だけでしか出ない。


 初めの頃はどれもコンスタントに出ていたが、遊文館開館から約二ヶ月……このように偏りが出たということは、味と言うより食材に対して好みが分かれたということだろう。

 それが身体的なものなのか、魔力的なものなのかは、今後もリサーチを続けていくしかあるまい。


 それから暫く、昼間はタクトで、夜はレェリィで色々な子供達に意見を聞いてまわった。

 取り敢えず『レェリィ』は十五歳設定で外見を固定し、夜の見守りに参加してくださっている控え室の方々には『タクトの隠蔽姿』として認識していただいている。

 でないと、何処の子だ? って、自警団と衛兵隊員の皆さんが混乱すると思うので。

 魔法の説明にちょっと困ったが、そういう光を使った魔法があるということでご納得いただいた。


 そうして得られた聞き取り調査の結果としては……夜に来ている肉が駄目な子達のほぼ全員が『肉を食べるとなんだかお腹が痛くなる』というのだ。

 しかもどうやらその原因は身体的というより、魔力的なもののようなのである。


 なので……ここはセラフィエムスの研究で何かがないかと探っている訳ですが……これがなかなか。

 神眼さんで視ても、そういう子達と普通に肉を食べてもなんともない子達との差が全然ないんだよなぁ。


 俺が知らないことだから、鑑定も神眼でもヒットしないのか、別の技能や魔法が必要なのか解らないけど。

 医師の範囲で解ることだとしても……夜の子供達は、かかりたがらないだろうからなぁ……健診とか、してあげられたらいいんだけどなー。


 ともかく、夜は魚、昼はどちらも子供人気のものを中心にラインナップを調えよう。

 大豆蛋白とかも使っていけば、栄養の不足は減らせるだろうが問題は魔力加護色の取り込みの方なんだよね。


 この辺は残念ながら先達とおぼしき方々の文献が何もないので、俺が頑張るしかないのかもしれない。

 身体が育てば解消するっていうなら、いいんだけどねー。

 取り敢えず、俺としてはできる範囲でのサポートに徹しようと思った次第である。


 さて……各ご家門蔵書の翻訳も随分進んできたし、ちょっと後回しにしていた現代語伝承の清書も……と手に取った本から何かがぱさり、と落ちた。

 おや、どなたかが本の間に挟んでいたものが残っていたかな?


 どうやら、手紙のようであるが……んー……レイエルス宛っぽいけど……

 あ、この本はレイエルス神司祭から預かった、蔵書本のうちの一冊だな。

 それならば、レイエルスのどなたか宛……んんん?


「……エイシェルス……?」


 エイシェルスって、ヒメリアさんの家名だよね?

 なんで?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る