第589話 古の大陸を想う
いやはや、ガイエスのおかげで方陣と文字の関連についての新仮説が立ちましたよ。
お次は、検証の段階ですな。
どうせ危ないからよせって言ったって、ガイエスはこの大陸の外に出るのだろうから不具合が起きたその都度、連絡を寄越せと言っておく。
そのための通信機だしねー。
まぁ?
ガイエスくんは最強ですから、そういう心配もないんですけどねぇ。
そしてどーもまだ解らん、と聞いてきたのがカバロのことだ。
〈あのな、そうだとするとカバロはなんでだ? そもそもあいつの名前なんて、何処にも記載がないぞ? なんで『門』が使えるんだ?〉
「そんなの、おまえの所有徽章が着いているからに決まっているじゃん」
所有徽章には魔力登録がされていて、カバロはガイエスの『一部』として認識されているから『皇国籍』なんだよ。
カバロとガイエスは、ニコイチになっているってことですよ。
あの『祝福支援』の効果もあるだろうけどねー。
あの方陣、絶対に聖属性だよなー。
馬車方陣をくぐる馬達だってそう。
方陣門が使える家畜たちは、その大地と契約した文字を持つ人々の所有物だから、である。
……ってーことは、どの大地にも所属していない魔獣とか魔鳥は、方陣門をくぐれないってことかもしれないね。
試した人はいなそうだから、そのあたりも君の興味次第で検証してみてくれ給え。
〈方陣が強い魔法って言われていた所と弱いって言われていた地域があったのも、文字とその結びつきっていう差なのか?〉
んんん……その方陣の
「ほら、昔のやつで古代文字と現代文字が一緒に書かれているものがあっただろ? あれだと、皇国人とか方陣魔法師のおまえが使う分には『ただ単に無駄が多い方陣』だった。だけど、そうじゃない他国人だと魔力は沢山必要だけど大地との結びつきが強い文字が多く書かれている分、ちょっとだけ強力だったと思うよ」
現代文字で内容を理解して、大地との結びつきは古代文字が担ってくれる……って感じかね。
あ、そうそう、あのラプテリエって所の方陣が書かれていた本のこと、言っておかなきゃ。
シィリータヴェリル大陸の魔法じゃない可能性があると伝えると、ガイエスは少し声が沈む。
あの方陣には、今現在使われている全ての方陣に全く入っていない『円』が描かれていたのだ。
だから、現存している全ての文字で使えないのではないかと思う。
試しに一個描いてみたのは、前・古代文字であっても反応しなかった。
「あの本に載っていた方陣と思われるものに書かれていた
〈それって、海で使える方陣ってことなのか?〉
おっと、急に前のめりに来たけど、残念。
「いや……使えるとすれば……海中、だな。だけど、俺達には使えないよ。使える方陣にするための
現時点ではそこまでしか言えない。
解らないから、だ。
実は……日本語の訳文は、表示されたのだ。
だからきっと、日本語の
でもねー……それって、つまり、使えそうなのは【文字魔法】が使えて【祭陣】を持っている俺だけなんだよねーー。
この世界に俺以外に日本人が転移とかして来てても、全系統カバーの【祭陣】が使えなければ無理だろうし、この方陣が発動する条件がほぼ確実に『海中』なんだよ。
なので、俺でも無理。
海の中になんて入ったら、あっという間に魔魚に囲まれる。
周りに空気があったら、発動ができないとしか思えない
そんなおっかない所、俺は行きたくない。
もしかしたら海の中に国があって、人と違う形かもしれないけど知的生命体がいるのかもしれない。
彼らと地上の人達は、生きられる条件が違うのか、ただ単に行き来ができないだけなのかは解らないけど。
それともペルウーテのあの方陣は、単なる空想の産物で『海の中に人がいたらきっとこんな感じの魔法を使っていた』なんていうファンタジーなのかもしれない。
ガイエスはかなり残念だったのだろう。
めちゃくちゃ大きな溜息が聞こえた。
確かに、方陣が海で使えたらって思うよなぁ。
でもこればっかりは、いくら俺でも神斎術使っても無理。
海は、大地がないから海なのだ。
その後ちょっとだけ色々質問タイムがあったけど、取り敢えず前・古代文字の方陣をあちこちで試してくれるってことで今回の通信は終了です。
お疲れ様でしたー!
うーむ、この『前・古代文字』ってのも、時代が古代文字と被っているのであれば相応しくないなぁ。
改めた方がいいかもしれない。
神様的に、なんかいい案があったら教えてくれないものだろうか。
はー、お腹空いたー。
お昼ご飯にしようっと!
ちょっと時間が早いな……今日は、食堂開けないって母さんが言ってたからなぁ。
お出かけでもするのかな? と聞いてみましたら……おデートだそうで。
氷結隧道をお散歩しつつ、遊文館の屋上庭園に行くのだそうだ。
「そういう人達、多いのよ最近」
「そうだな。この間、ヴェルテムス達も来ておったぞ」
なんと、師匠たちご夫妻もですか。
おじ様おば様世代のデートコースに組み込まれていたとは、知らなかったぞ。
「屋上に行くと、ちっちゃい子達も多くて楽しいよねぇ」
「あの屋上には芝生で平らになっとる所があるからな。板倒しとかして遊んでいる子が多い」
板倒しってのは、ボーリングみたいなゲームだ。
色々な大きさの木や金属の板に点数を書いて、木で作られたボールを当てて倒し、点数を競う遊びである。
転がすだけではなく、足でボールを蹴らなきゃ駄目、左手で投げる、風魔法だけ使っていい……とか、いろいろとその都度ルールを決めて、その条件での点数をカウントするみたいだ。
夏場は家の裏庭や、緑地になっている公園でそれをやってはしゃいでいる子供達が見られる。
地区ごとにチームを作って、チーム対抗戦とかもやっているらしい。
「あのふわふわの球だと、なかなか倒れなくて面白いみたいよ?」
どうやら父さんと母さんはそういう『遊んでいる子供達』を眺めているのが好きみたいで屋上がお気に入りのようだ。
いってらっしゃーい……子供達の見守り、よろしく。
デートの邪魔をしたくないというのもあるのだが、ガイエスから預かったペルウーテの地理本ともう一冊の方陣研究本の訳文を作っておきたい。
ガイエスに、なるべく早く渡してやりたいからなー。
ぜーったいに、すぐに出発したくなっているに決まっているのだ。
まずはペルウーテの地理本。
これには、歴史っぽいこともちょっと書かれている。
それによるとこの島に入植してきたのは、だいたいアーメルサス建国の千年くらい前のようだ。
人々が移り住んだのはユンテルト島の方が早かったようで、どうやらかつての冒険家が『神に愛された国の名残』と讃えたのはユンテルトのようだ。
ペルウーテの地理本には『ここはユンテルトのあの町に似ている』とか『ユンテルトの森と同じ木々が茂る』なんて書かれているのである。
少数民族……といっても、それは元々ユンテルトにもペルウーテにも人が住んでいなかったので、新しく入った彼らのことを指していると思っていたのだが……どうも、違う。
偶に『現地民』とか『土着の民』なんて言葉が散見しているのだ。
つまり『少数民族』だった彼らを排斥し、島に居着いた民族が今のユンテルトとペルウーテの民。
どこか別の大陸からオルフェルエル諸島とアーメルサスに来た説が、更に濃厚になった。
なにせ、彼らは『東を目指して辿り着いた』のだから。
だが、追い出されてしまった少数民族もシィリータヴェリル大陸の人達ではなく、別の島や大陸から移ってきたのだと思う。
オルフェルエル諸島では千年弱の間に、何度もユンテルトとペルウーテの支配者が変わっているみたいだから。
この内乱で『神に愛された国の名残』は、全くなくなったのかもしれない。
皇国では神々から賜った大地を護ることが当たり前で、内乱なんて事態を考慮にさえ入れていなかったのか『ずっと森と水が護られているはず』と思い込んで、伝説が残っているであろうオルフェルエル諸島への道を探っていたのだろう。
皇国のスパンで考えると、皇国以外の全部の国で少なくとも五回は王権が変わっていそうだよなー。
そして皇国ではここがニファレント魔導帝国と繋がりがあるのでは、と考えていたようだが……多分、違う。
この島々に一番最初に入ったのは、どちらかといえばリューシィグール大陸の民じゃないかって気がする。
だって、この島々ができあがる遙か何万年も前に、ニファレントは亡国となっている。
オルフェルエル諸島は『周りが沈んで取り残された島』ではなく『火山活動で隆起してできた島』だからだ。
なので、消去法的にリューシィグール大陸のふたつの国のいずれかから、この島へと辿り着いたのではないかってことだ。
もう一冊の本に書かれている『海の中で使うような方陣』も、ニファレントではないと思う一因だ。
オルフェルエル諸島で崇められているのは、どう見ても『宗神』なのだ。
神典も皇国のもののカンコピではなく、ビミョーーに書き替えられている。
変えられている記載のひとつは『主神の瞳の色』である。
この神典の主神は、緑の瞳をしているのだ。
カタエレリエラの三角錐に書かれていたニファレントは、主神シシリアテスがその場所を決めたという大地。
リューシィグールは宗神が配置し、その間にシィリータヴェリルを置いた……と書かれていた。
それは、正典の第一巻の『大地創造』と同じである。
ニファレントであるならば讃えるのは主神シシリアテスで、宗神スサルオーラを讃えているのはリューシィグール……というのが自然なのだ。
ふぅぅぅむ……この辺のことは、別の資料も欲しいよねぇ。
陛下が再編しているという噂の『大陸史』……その史料って……きっと全部皇宮司書館なんだろうなぁ。
見たいけど行きたくはないので……春に届く家門の本から、別の史料が見つかるといいなぁ。
さ、訳文はできあがったんで、ガイエスくんに送っておきましょうか。
なんかまた、面白いものを見つけてきてくれるといいなー。
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『緑炎の方陣魔剣士・続』の參第52話とリンクしております。
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