第584話 新たなご提案
お昼ご飯は、最高に美味しい牛フィレステーキでした……!
エルディエラ領、レウスレントの南側は牛肉と、なんとワインの生産地なのだとか。
ここのワインは、王都でも好まれる最高品質らしい。
そして生産のメインは赤ワイン!
これは、是非とも手に入れたい。
またしても『ラグー』の幅が広がる素敵アイテムである。
シュリィイーレには、あんまり入ってこないんだよね、赤ワイン。
昔、父さんが隠し持っていたのを見つけたことはあったけど、結構高かったっていっていたし。
応接室の飲み会おじさん達も、赤ワインはあまり飲んだことないって言ってた。
多分、生産量の関係で、こんな辺境までは回って来ないということだ。
そしてレウスレントの牛肉は、このワインの搾り粕が飼料になっているという。
道理で、赤身がロンデェエストのものより柔らかい……!
所謂『ワイン牛』というやつだろう。
俺も日本で何度か食べたことがあるが、赤身好きとしてはめっちゃ旨いと言える牛肉である。
脂肪交雑……所謂『差し』が多くて口の中でトロリってのもいいが、やっぱり肉は噛み応えも大切なのだ。
このレウスレント牛は、最高に素晴らしい赤身肉のひとつであるといえよう!
はー……しーあわせぇ。
これ、切り落としでもいいから欲しいなぁ。
イノブタとの合い挽き肉でハンバーグにしたら絶対、美味しいと思うんだよなぁ。
素敵なお昼の後は、素敵なトレーニングタイム。
ビィクティアムさんもお帰りになっていて、久し振りにハイスピードプッシュアップを見ましたよ……ははは……あれは、無理。
やっぱりそこそこ筋肉が付いたとはいえ地区大会三回戦止まりくらいと、オリンピック表彰台では全く違いますね。
いくら俺が頑張っても、ビィクティアムさんの年齢の頃にここまでできるとは思えん。
いやいや、望みを捨ててはいけない。
精進、精進っ、と!
そしてちょっとだけ組み手もしてもらって、他の人とビィクティアムさんじゃ確かに違うんだと改めて思った。
おそらく、魔力量が近い方がいい……というのは、組んだ時に受ける放出魔力のせいだ。
肌が触れたりしただけではたいして影響はないものだが、組み手のように相手に対して意識が集中すると放出魔力もそちらに向かう。
魔力量が違えば放出魔力も変わるから、差があり過ぎてそれにあてられてしまうと訓練にならずどちらかが体調を崩すこともあるのだそうだ。
ディレイルさんとやっている時に、俺の周りをシュウエルさんが空制で結界みたいなものを張っていたのはそれを和らげるためだろうなぁ……
自然放出だと魔力は霧散するが、意識を向ければそちらに集中してしまう。
それを、受け取り過ぎてしまうと『酔う』感じになるのかもしれない。
放出魔力が多過ぎると、コミュニケーションに相当支障が出るな……
あ、そーか、夜のお子様達が大人を苦手なのって、これもあるかもしれない。
その子達に対して『可哀相』『守ってあげなきゃ』『保護してあげなきゃ』って感情が向くと、放出魔力が無意識に余分に向けられてしまうのかも。
そういう子供達って『魔力過敏症』といえるのかもな……
魔力がある世界ならではの『アレルギー』の一種なのかもしれないなぁ。
こてん、とひっくり返されて我に返る。
「タクト、組んでいる時に集中を切らすな」
「……はい」
いかん、つい思考優先になってしまう。
そしてちょっと早めに上がりと言われて、ビィクティアムさんに話しておきたいことがあるから、と長官室へ招かれた。
出された焼き菓子がビィクティアムさん作と聞いて、吃驚なんてもんじゃありませんでしたよ。
こんなものまで作れるようになっているとは……そうだ【
もしかしたら凄く使える魔法かもしれないし!
そうあって欲しいという、俺の願望ですが!
あ、紅茶、おいしーい……秋摘みだー、いい香りー。
さて、改めてのお話とは一体なんでしょうか?
「最近、皇国内でおまえが教えてくれた技術や魔法が、かなり使われているのは解っているよな?」
えーと、簡易調理魔具とか、そーいうのかな?
「千年筆や『移動の方陣』は勿論だが、この間の氷魔法による『耐熱軽量煉瓦の製法』やリバレーラで使われている干し葡萄から作る『葡萄酒の製法と魔法』、三椏紙や樅樹紙などの製法や魔法など全てだ」
あ、意外と色々あった……
「閃光仗は、全ての領地で衛兵隊の常備武具として使うことになったし、おまえが各組合に登録しているもののほぼ全てに、おまえの出身国の技術や魔法が使われているはずだ」
はい、確かに全部あちらの知識ベースですよね。
「これらは皇国の魔法や技術を更に発展させたものといっていいし、今後もこのような品物や魔法が出て来る可能性もあるだろう?」
「……あるかも、です」
「そして、おまえは遊文館を使ってそれらをシュリィイーレに全て残す、と言っていたよな?」
「はい」
もしかして、止められちゃったりするのかな?
だが、ビィクティアムさんは軽く頷いただけで、そのことについては問題ない、と言ってくれた。
「ただ、その技術の出所をはっきりしたい。おまえが作り上げたものはニッポンレットウ……ニッポンの技術を元にした魔法である、として組合だけでなく中央省院に新たに作られる『賢魔器具統括管理省院』にて製法・魔法・製品・製作者についての情報が登録され保護されることとなる」
「それって……俺が勝手に使えなくなったりするものなんですか?」
「いいや、おまえやおまえが許可を出した者には、なんの制限もかけられない。ただ、それらの品や魔法、技術は国や他領での研究にも使わせてもらうことになる……いいか?」
「はい、それはむしろ大歓迎ですね」
そうして技術が広まっていけば、それに使用できる魔法も広まるから一見シュリィイーレにとって損に思える。
だが、知ったからといって、同じことができるとは限らないのだ。
同じことが簡単にできたとしても、地力となる『知識量』という点で、シュリィイーレ遊文館は遅れを取るつもりはない。
そしてそれを見せつけられる側にも『ある程度の知識と理解』がなければ、それがどれほど凄いことかが解らないのだ。
しかも、何も解らずにただ恩恵を享受するだけだと、その知識と技術は失われやすい。
それでは、未来に対してはただの損失でしかない。
悔しがって研究してくれるくらいの方が、余程いいと俺は思う。
「中央で管理することで、その知識と技術が全ておまえ個人からのものであるということを伏せられる。『ニッポンの叡智』というものが中央の省院管理で存在しているのだと解っていれば、おまえが知っていても『中央で管理している知識を利用しただけ』と思うだろう。そうなれば、出身国やその知識を狙われての事件などに巻き込まれることもなくなるだろう」
あ、そーか。
俺が組合に俺の名前で登録しているものは、衛兵隊預かりとか非公開設定をお願いしていない限り俺がその物品や魔法の作製者と解ってしまう。
そうしたら、産業スパイ的な人とか悪徳商人とかに手っ取り早く『俺自身』が狙われちゃう訳だ。
そうならないために『情報の全部は中央ですよ』をアピってくれるということですな。
聖魔法師保護と同じようなことだね。
情報を持っているのは本当は俺だけど、管理している大きい組織を前面に出して『大元はこっちの大きい組織』と思わせることで、俺はちょっとそこから借りた知識を使っただけ……と、偽装できる訳だ。
「ニッポンのこととおまえのこと、関連する全てを知っているのは皇王陛下、十八家門の現当主と次期当主、そしてシュリィイーレ教会の司祭と神官、シュリィイーレ衛兵隊の一部だけ、だ。おまえの警護は、今後ともシュリィイーレ隊とシュリィイーレ教会で行う」
「……警護……」
おおおおーー……なんだか俺ってば、もの凄い重要人物っぽいーー。
「それとな、おまえが知っている神々についてのことを……我々に詳しく教えてもらえる機会を作らせてもらえないか?」
「へ? 神々のことなんて、神典と神話で……あ、各ご家門の蔵書からのことも含めて、ですか?」
「そうだ。それに『生命の書』にどれほどの信憑性があるか、書かれていることの検証やニッポンの知識などのことも……色々と教えて欲しい」
「それは、シュリィイーレの中でしたら構わないですけど……春か夏になってからでいいですか? 俺まだ全然、お預かりしている本の訳文も間に合っていないし」
「勿論、全ておまえの都合に合わせるし、対価も用意する。金でも物品でも、継続する取引でもなんでもいい、と各家門から言質を取っている」
「各……家門?」
「教えて欲しいのは、次期当主の全員だからな」
タク・アールトサミットの再来か!
今度は神話伝承の
いや、サミット、じゃなくて、お勉強会?
でもまぁ……上の方々に知っていていただけるなら、俺としては面倒が減っていいかもしれない。
魔効素や魔瘴素のこととか、もう『生命の書』を読んでくれているなら知っているだろうし。
カタエレリエラの石板に書かれていたことは……本にして『蔵書にありましたよー』でお渡ししてしまうって方がいいだろう。
大陸史とか皇国の始まりとか、そういうことはお貴族様方にお任せして、俺は俺の持っているものを伝える方法を確立していくべきだよね。
ついでにカリグラフィーでめっちゃ格好良くした方陣とか、作っちゃいたいよねーー!
ただ、それでも三角錐のことやその中の修復工事については……まだ言わない方がいいかもなー。
極大方陣のことも、全てが全家門に開示されてはいないみたいだからそれ次第か。
あの三角錐も、極大方陣も……無闇に近付くと危険なだけだもんなぁ。
魔効素変換吸収が既存の魔法とか方陣でできるようになったり、その他のパワーバンクが見つかったら……十八家門のどなたかには、獲得して欲しいけどなー。
俺としてはビィクティアムさんほど信頼できる人がまだいないから、教える気はないんだけどね。
そのうち誰かが見つけるかもしれないから……そしたら、それこそ『神のお導き』ってやつだろう。
それに……各領地の次期当主様方……ということは、そのご領地の食材とかもよぉくご存じ……ですよねー?
ふほほほほほほっ!
欲しいものをリストアップしておかなくてはーーっ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます