第583話 教科書自販機設置
その後……なぜか、神官さん達からの質問タイムに突入してしまった。
まぁ、異世界のことですから、ご興味がおありなのは解りますけどね。
「空を飛ぶ船とは、どのような物でどう動くのですっ?」
「羽がついてて、びゅーーんって感じです」
飛行機動力部の詳しい仕組みまでは知らないんすよ。すいません……
「爆発させて動かす……とは?」
「推進力を得られる、そういう燃料がありまして、翼の形など工夫して重力以上の揚力を空気から得て浮かぶのです」
多分、そんな感じ。
「海の上は別の船なのですか?」
「はい、別です。風とか電気とかで動かすものもあったので、大きさや形状も違います」
海は大型客船とか戦艦とかから、ヨットとかカヌーまでいろいろあって説明できません。
「魔獣とか……多かったのですか?」
「いいえ、魔獣はいませんでしたが……妖怪とかオバケとか物の怪……なんてものが伝承にはあります」
見たことはないけど、いるとされていたからね。
「神々のお姿は?」
「色々な姿の神がいらっしゃいましたけど……人と同じ形に表されるものが多かったです。絵とか彫刻とか。道端にも道祖神みたいに像がありましたよ」
お地蔵さんとかね。
これも『実物』は見たことはないけど、まぁ、人は神も人の形をしていると思いたいものだ。
なんだろう、この一問一答形式……
あー、高校の時に海外の姉妹校からアメリカ人の先生が来た時と似てるなー。
拙い英語で、どんな日本食が好きですかーとか、新幹線には乗りましたかーなんて、どーでもいいことをクラスのみんなが聞いてたっけ。
俺は、黙っていた気がするけど。
それからも暫く質問タイムは続いたが、ヨシュルス神官が神妙な面持ちで尋ねてきた。
「戻りたい……とは、お思いになりませんか?」
「ないですねー」
俺の即答に皆さん吃驚したのか、呆れたのか。
「もう、俺の故郷はシュリィイーレです。他の何処にも『戻る』なんて場所はありませんよ」
俺がこう言った時に、笑顔を見せてくれると……もの凄く、ほっとする。
この国を故郷と言って嫌がられていないんだ、と。
あーあ、情けないねー。まーだ、自信がないなんてさ。
あれれっ、なんでガルーレン神官やラトリエンス神官が……いや、皆さんがそんなにも感激したような面持ちでいらっしゃるのかな?
日本の誇る数々の技術力に、感銘を受けてくださったのでしょうか?
たいして説明できていませんが。
テルウェスト司祭が、まるで大切なものでも包み込むかのように俺の手を取る。
「あなたが、こんなにも我々にご自身のことをお話しくださったこと、その信頼に必ず応えるとお約束いたします。天地神明にかけて」
……神職の方々というのは、大袈裟過ぎるのが難点だと思う。
でも、まぁ、嬉しいですよね。
「ありがとうございます。俺ひとりじゃできないことは沢山あるので、皆さんのお力をお借りできたらこれ以上嬉しいことはありません」
本心なのだが、なんだか定型文みたいになってしまった。
「取り敢えず……この本の販売場所の設置、お願いしてもいいですか?」
「「「「「「勿論ですっ!」」」」」」
声、揃うなー。
体育会系神職……
台を設置して什器を並べる。
平置きだと解りづらいので、立てて置けるようにマガジンラックっぽくしてみました。
実は、これも自動販売機なのですよ。
一種類なので、簡易自販機ですけどね。
いつもここに人がいなきゃいけないなんて、大変ですからね。
それに、在庫補充が楽な方がいいし!
あ、しまった……プライスカード、作るのを忘れてしまった。
高額販売……って、いくらぐらいにしたらいいかなぁ?
「高額でお売りになりたい……と?」
「ええ、遊文館の子供達もそろそろお小遣いが厳しくなるでしょうし、一日一品くらいは無料にしてあげたいなーって。だから、売上げは全部遊文館に使いたいんですよね」
「でしたら、一冊十万……小金貨十枚で如何です?」
ナニ真面目な顔で冗談ぶっこいていらっしゃるんですか、テルウェスト司祭は。
こらこら、神官さん達、乗っからないでっ!
突っ込む人もいてください!
「それは、ちょっと高額過ぎですよ」
「そんなことはないと思うのですが……」
「お買い上げがご年配の南東地区の方々ばかりならいいですけど、四十歳前後の普通の方々だって欲しいかもしれないじゃないですか」
「あ、そうでしたね……では……小金貨五枚とか?」
十万から五万になったとしても、まだ高過ぎだなっ!
うーむ、皆さん貴系の方々なせいか、金銭感覚が違い過ぎるぞ。
どんな本でもこの程度の厚みだったら……小金貨一枚、一万だったら『なんでこんなに高いんだよ?』と言いつつ、欲しかったらなんとか買えるって金額かな?
八千とか微妙な金額にしてもいいのだが、銀貨八枚よりは金貨一枚の方が清水の舞台くらいでいけんじゃね?
皇国に清水の舞台はないけど。
一冊買って、何人もでシェアしてくれたっていいわけだし。
俺がプライスカードを貼り付けたら、皆さんからブーイングが起きた。
何を言っていらっしゃるんですか!
食材買えないほどギリギリになっちゃったのって、もしかしてこういう金銭感覚のせいなのではっ?
春になったら、もう少し市場で勉強していただいた方がいいかもしれない……
さて、この後はシュウエルさんのお昼ごはーーん!
シュウエルさんって、エルディエラのレウスレント出身なんだよね。
あのご領地の南側の食材って、今まであまり東市場で見かけなかったから何があるのか楽しみだなーっ!
その後の教会の皆さん 〉〉〉〉
「まさに大魔導帝国の叡智の結晶のひとつ『自動販売機』が、遂に我がシュリィイーレ教会に! まさか、これが置かれる日が来ようとはっ!」
「しかも、この本のための特別仕様で、今まで全く拝見したことのない形です!」
「ニファレントでは『ジハンキ』と言っていらしたのだな……しかも、至る所に置かれていたなんて……!」
「ニファレントのことも、ニッポンと言った方がいいのではございませんか? その方が、うっかり誰かの耳に入っても解りづらいかもしれません」
「ああ、そうですね! ですが、話し合うことは、駄目ですよ!」
「……そうでした。あまりに嬉しくて、つい。あのように、私達の無礼極まりない質問にも全てお答えくださるなんて感激です」
「ええ……! タクト様から直々に協力して欲しいと仰有っていただけるなんて……!」
「あのように貴重な知識の数々を、惜しげもなくわたくし達に……この感動は、一生忘れません」
「タクト様はきっと故国では、高い位のご家門だったと思います。ですから大らかでいらっしゃるのかも」
「私もそう思うよ。子供でいらしたから、ご家門の本当の地位がお解りでなかったのかもしれないと、ね」
「ご両親は行政官と仰有っていましたから、当然中央省庁の方でしょうし」
「多くの神々と共に暮らしていた国だったのですね……となれば、魔法が強大であるのも納得です」
「しかし、タクト様はここに来るまで、魔法を一度も使っていなかったと仰有っていましたよ?」
「強大だからこそ、子供には理論だけ教えて実践は成人してからだったのではないか?」
「あ、ニッポンの魔法というのは、魔力が多く必要な魔法ばかりだったのかもしれないですね!」
「そうか……そのせいもあって、タクト様はまだ流脈が整ってないと言われてしまったのだな。皇国にいらして当たり前のように魔法を使っている我々をご覧になったから、ご自分も使ってしまって身体の成長が追いつかないほどに魔力がどんどんと伸びてしまった……本当ならば、ニッポンの方々は成人の儀までは、魔法を使うと危険なのかもしれない」
「だから、魔法を使わなくて済む便利な道具なんてものがあるのですね」
「そうか、子供用というのならば、気を遣った作りになるのは当然だ」
「そのことに気付かれたセラフィエムス卿が、今タクト様のお身体の成長を助けておいでなのですね!」
「ええ、きっとそうですね。なんにしても、タクト様がご無事でよかった!」
「テルウェスト司祭、聖神司祭様方に、今日のことは……?」
「我々がタクト様のご出身を知っているとご本人に告げたことだけは報告しますが、タクト様が我々にお話しくださった内容まではタクト様自身のことですから話しません。我々を心から信頼して、お心を開いてくださったのです。決して、裏切ることはいたしません」
「タクト様は、神々の遣わしてくださった『叡智の導師』ですね」
「おおっ! それは神話三巻の『蒼天の賢者』ですねっ!」
「タクト様にとてもお似合いの名です! いや……タクト様そのものといっていい!」
「神々から我々シュリィイーレは、あの方を守り育むことを任されたのです。家門や領地に必要とされなかった我々が、神々から。この使命、必ずや全ういたしましょう……!」
「テルウェスト司祭……もしも、聖神司祭への打診があったらどうなさるのです?」
「断りますよっ! 決まっているでしょう? 聖神司祭は、私でなくてもなれますが、タクト様のお側での『協力』は、我々だけに神々から示された『天啓』ですっ!」
「そのお気持ち、痛いほど解りますっ!」
「我々も、司祭位を取りたいとは思いませんしね!」
「司祭なんて、それこそ誰でもなれますからっ!」
(((((いや、そうでもないと思うが……)))))
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