第582話 補足説明?

 本日は、またしても教会へとやって参りました。

 シュウエルさんが昼食当番らしいので、お昼少し前に行って衛兵隊食堂でご馳走になってから午後にトレーニングだ。

 今年の冬は、のんびりする暇がありませんな!

 全部自分のせいだけどねっ!


 そう教会に来たのは、先日お願いしてご了承いただいた『斜書体教科書』の納品である。

 販売台とか、什器とかも作っちゃいました。

 この『書体教科書』は、シリーズ化して『高額販売』をすることにしている。

 勿論『収益の全ては遊文館の施設費用として使用されます』との一文付き。

 書体見本さえあったら、俺が大人達への講義開始が遅れたとしても文句は出まい。


 教会に着き、もう皆さんは遊文館に行ったかなと思いきや、聖堂にはテルウェスト司祭を始め神官さん達六人が勢揃い。

 神務士トリオは……あ、遊文館に行ったのですな。

 皆さんこれから行くところだったのかも……お邪魔してしまったかな?


「「「「「「「大変申し訳ございませんでしたっ!」」」」」」」


 なになになにーー?

 この体育会系な、一列に並んでのお詫びとか、なんなんですーーっ?

 テルウェスト司祭まで、どーなさったのですかっ!


「……遊文館での子供達への対応で、我々も非常に……その……」

「いいえっ! 全部、私なのです、タクト様っ!」

 ミオトレールス神官が、殺人事件の自首でもしそうな雰囲気でずずいっと進み出てきた。

「私は、斜書体の見本帳をバルテムスから借りて……その、写しておりました!」

 ありゃ。

「その上、こともあろうか、バルテムスに揚げ芋をあげて誤魔化しておりましたっ!」

「それ……もしかして、あいつが食べたいって?」

「……」


 そうなんだろうなぁー、まったくもー!

 袖の下要求してるんじゃ、バルテムスも同罪だな。


「先日、バルテムスに詫びて、謝罪を受けてもらった証明書を……」

 おおお……正式な書簡じゃないか……ここまでちゃんとしてくださった方は、初めてですねー。

 てか、子供に詫びてくれた方も初めてだ。

 他の真っ赤っかさん達、絶対にそんな努力していなそうだしな。


 冬場、遊文館にしか謝罪すべき子供達がいないというのならば、その近くまで自分の足で行って衛兵隊員に呼び出してもらうとかミオトレールス神官みたいに作った書簡を渡してくれって頼めばいいんだ。

 そういう人がいたら、対応してあげてくれって受付をやってくれている方々にはお願いしてある。

 だけど、未だに誰ひとりそういう人は現れていない。


 真っ赤になったことで人目に触れる所に出てこないのは、謝罪の気持ちよりもプライドや不満が勝っているせい。

 そもそも、自分達の何が悪かったのかなんて考えてもなくて、不満爆発状態かもしれない。

 子供達からの許しがなくても、そのうちどーにかなるなんて思ってるとしたら……おめでたいにもほどがある。

 でも、真っ赤なままでも『本当に悪かったと思って行動してくれたら』少しは見直したんだけどなぁ。


 受け取った書簡を開いてみると、ミオトレールス神官の懺悔のような文章の後に、バルテムスの字で『揚げ芋くれたから怒ってないです。ありがとう』なんて書いてある。

 魔力文字で署名まで入っているとは……あいつ、賄賂じゃなくて対価のつもりなのかなー。

 うーむ、その辺はちょいと問い正しておかねば。

 もしも弱みを利用して相手への『誠意』を要求したのなら、それは駄目だと言っておかないと。

 対価としての取引なら、ちゃんとそう言って相手の了承を取らないとね。

 だけど、バルテムスの書いた字がなかなか綺麗で、思わずニヨってしまった。


「ミオトレールス神官も皆さんも、顔を上げてください。バルテムスも怒ってはいませんし、まぁ……やり方はあまりよかったとは思えませんが、あいつは『対価』をもらったという認識っぽいですし。俺が怒ることじゃないですよ」

 むしろ、この程度、と軽くみないでご対応くださったことには感心するし……嬉しいです。

 俺の言葉にミオトレールス神官達はほっとしてくれたようだが、一応、もうしないでくださいね? とは、お願いしておいた。


「それと……実は……」

 今度はテルウェスト司祭? なんですかぁ?

「タクト様のお生まれになった国のことについて、神務士の三人にも……その、話してしまいました」

「それはいいですよ」


 けろりとそう言うと、皆さんとんでもなく、ドびっくり! みたいな顔になる。

 いや、だって俺がぺろっと言っちゃったことだしね。

 聖魔法師ってことがばれていないなら、教会的には問題ないだろうから出身地なんてどーでもいいでしょ。

 異世界って説明はできていないとしても、他国って括りだし、ミューラとかガウリエスタとかの亡国扱いの国と一緒だろうし。


「父も母も知ってますし、多分ビィクティアムさん達も聖神司祭様方もご存じでしょうし。特に秘匿する気もないですし」

「し、しかし、その、空を飛ぶ魔導船の話とかも……?」

「鉄の道をとんでもない速さで走る雷光の車も……大層なことなのでは……」


 空飛ぶ魔導船……と、鉄の道……?

 ああ!

 飛行機と新幹線のことか!


「確かに、今の皇国には存在しないものですけど、あの国のそれらの技術は皇国の魔法でいくらでも代用というか、もっと凄いことができてますから大したことはないんですよ」


 絶対に馬車方陣とか、移動・目標を指定できる魔法の方が上位互換ですから!


「道具とか技術力は確かに高かったし、とても便利でしたけど、皇国とは『方向性が違う』ってだけで、今のこの国に必要ない物の方が多いですよ。まぁ、偶にちょっと役に立つ知識や技術もあるのは、この国の魔法があるからこそ応用できているだけですから」


「応用、でございますか?」

「魔法がなくてもなんとかできるようにするために、様々なものを分析したり、試行したり、大勢の人達で研究した成果が多く人達の生活を支えていました。だから、魔法と合わせるともの凄くそれが簡単になったり、便利になる場合もあります。でも、皇国で日本の知識全てが使えるものという訳ではありません。環境も、時代も、文化も、神々のことも全然違うし」


 おっと、神々といったせいかテルウェスト司祭の眉がぴくっと動いた。

「……日本の神々は、今皇国やこの大陸を守ってくださっている神々と、ちょっと違うんですよ」

「そういえば……主神、宗神、五神だけではなかった……と聞いたことがございましたが……まさか、本当だったのですか?」

「『やおよろず』といいましてね、八百万、と書くのですよ」


 まぁ……これは正しくは数ではないのだが……セインさんにも昔、説明が面倒くさくて『神様八百万います』って言っちゃったからねー。


「すっごく、沢山、あちこちにいらっしゃったのです」

「なんと……そんなにも……」


 皆さんが絶句している。

 無理もあるまい。

 あちらでだって、日本の宗教観はかなり特殊だったのだ。


 あらゆる国々の神様を平気で受け入れて、自分達の馴染みのある神様と合体させたり同一視したりというだけでなく宗教儀式ですらイベント扱いで楽しんでしまえるお祭りピーポーとしかいえない宗教観だったのだから。

 本当に神々の力が及ぶ『恩寵まほう』がある皇国では、信じられなくって当然だよ。

 神様が何処にでもいて、色々な加護があり過ぎたら渋滞起こして大変だよねー。


「その、神々のことや、ニッポンの叡智は……やはり、シュリィイーレの子供達に……?」

 おっと、これは言っておかねば。

「日本は今ここにはない国ですし、その国の神々や神話などを皇国に持ち込む気も、広める気もありません。皇国には、素晴らしい神々がいらっしゃいますからね」


 そうそう、皇国には本当に神様達がいるからね。


「ただ……技術やそれにまつわる知識は、伝えたいですね。役に立つこと全部……は、俺の生きているうちにできるかはわかんないですけど」

 時間って、沢山あるようで気がつくと全然足りないっていうものだ。

 たったひとりでできることなんて、たかが知れているだろう。

「だから、皆さんにも、手伝っていただけたら……嬉しいです」


 取り敢えず、この斜書体の教科書販売から!

 よろしくお願いいたしますっ!

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