第581話 大切なのはバランスです

 五日間の大人出禁期間も終了し、また多くの人が戻ってきた遊文館。

 皆さんちゃんと、子供達に気を遣ってくれるようになったみたいで良い傾向。

 いつまでもつかは解らないけど、その辺は来てくださる方々を信じるしかない。

 ただ、それで子供達が横柄になってしまったり、俺様になってしまっては困ってしまうので、そこいら辺のバランスはレイエルス家門の方々と、子育て経験のある自警団メンバーに協力してもらう。


 医師組合からの健康診断場所の提供は、正式にお断りしたので来年以降のことはなんとか考えてくれると思う。

 それで遊文館の方の常駐を断られるかと思ったが、子供達についても同様の健診がしたいからと継続していただけることになった。

 よかった、よかった。


 そしてー本日はーナナレイア先生の健診日でっす!

「……うん、よく頑張りました」

 やったーーーー合格ですーー!

 ありがとう、シュウエルさん、ビィクティアムさん、衛兵隊の皆さん、コレクションさん!


「流石、衛兵隊だわ。あのタクトくんに、こんなに早くちゃんと筋力がつくなんて」

「そんなに酷かったです?」

「酷いっていうのは、もっとマシな状態をいうのよ」

 なんてこったい。


「だけど、これでやっと成人といえるくらいの筋力だから、まだまだ続けてね」

「はいっ!」

「良いお返事ね」


 ナナレイア先生の笑顔は、もの凄く久し振りに見た気がする。

 どうやら俺に限らず二十五歳以上で適性年齢前後までは、獲得魔法や技能が増えやすいせいで魔力が流脈を傷つけることが多いのだそうだ。


 特に、魔力量が元々多めだと、そのせいで精神的にも不安定になり感情のコントロールが甘くなりがちなのだとか。

 そういえば、魔力が多くて発散が少ないと、がーーって感情的に……あれれ?

 それって、流脈の形成具合も関係があるのかな?


「ええ、あるわ。魔力流脈が整っていないから余計に感情が振り回されてしまったり、敏感になりすぎてしまうことも多いの」

「魔力量の少なめの子は?」

「自分を押さえ込んじゃうわね……特に、同年代でそういう感情がぶれている子が近くにいると、余計に閉じ籠もってしまうわ。そういう時はなるべく離してあげる方がいいんだけど……家族だと、難しいのよね」


 そっか……屋上に来てひとりでいる子達は、そういう可能性もあるんだな。

 年の近い兄弟姉妹がいるか、確認……できるかな?


「そういう風に感情的になりがちな頃が、ちょうど『神認かむとめ』や『成人の儀』前後にあたるのよ」

「え?」


 神認かむとめの儀というのは、皇国では五歳・八歳・十八歳だったよな。

 成人の儀は二十五歳……つまりこの前後一年くらい頃が一番魔法や技能が出やすくて、流脈の成長があるから感情にも影響が出やすいということか。

 他国の人達で魔力流脈がちゃんと成長していなくって……皇国に来て成長し始めたら……同じように形成途中で感情的になるものなのかな?


「うーん……それは、身体の成長次第かしらねぇ」

「筋力とかですか?」

「内臓とか全部、ね。身体としてそっちがほぼできあがっていると、流脈からの影響は出にくくなるのよ。ただ……それも結構、人によって違うわ。その人にとって『育つべき流脈』が加護神で決まるから、その本来あるべきものが育っていないのなら……子供の時と同じとまでは言わなくても、流脈ができる時には感情が揺らぎやすいわね」


 魔力流脈関連は医療だけではサポートできないものだが、身体作りができなくては適切に成長しない。

 だが、魔力流脈が育たず身体だけができあがってしまうと、加護神による『基本の流脈』はある程度リカバリーできるものの魔力の少なさのためか子供の頃のようにはちゃんと育ちにくい。


 流脈と魔力と身体、全てがバランスよく育つと加護神による基本流脈が十全に身体に魔力を満たす。

 だが、神認かむとめの時期に当たる時に魔力が一気に伸びやすいせいで、バランスが一時的に狂って感情に影響が出やすい……ってことだろうか。

 うん……そういえば、夜に来る子達、十歳手前の子と二十歳少し前……それと成人の儀前後が多いな。


神認かむとめ前後の子はどうしても魔力操作がしにくくなるから、発散のためか放出魔力が増えてしまうのよね……」

「流脈が育たないと発散されやすくて、そのせいで感情が乱れるってことですか?」

「そのへんは……一概にそうとは言えないんだけど、子供の場合は暴れる子がいたり、やたら大人に突っかかっていく子がいたり」


 昼間いる子達は、そうやって大人に絡んでいくタイプなのかもな。

 だけど、全然そうじゃない子もいるよな?

 そういう子達は、どうやってそのあたりのコントロールができているんだ?

 環境とか、触れ合う人による外的要因か?


「その時期は発散魔力の多い子達の場合、近くに聖魔法を持った人がいると一時的にそうなったとしてもすぐ落ち着くことが多いのよ。聖魔法がある司祭様や神官さん達とかって、他の人の発散魔力が苦じゃないのよね。だから、余計にそういう年頃の子供達って、教会の方々に突っかかっていったり我が侭言う子もいるわ。聖魔法でなくて聖属性の技能だけだとしても、他人の発散魔力に不快感を感じにくいのよ。そういう人に甘えられれば、なんとかなっちゃうんでしょうね」


 聖魔法や聖技能持ち……この町には、めっちゃいるよなー……

 他の町ではいたとしても、教会くらいのものかもしれないけど。

 そうか、衛兵さん達の子供人気が高いってのは、シュリィイーレ隊が貴系傍流がめちゃくちゃ多くて聖魔法持ちも大勢いるからかも。


 南東地区の人達も……そういう方が多そうだ。

 そーいや、俺の周りにお子達が群がるのも……もしかしたらそういう理由か?

 ぶっきらぼうにしてても、ビィクティアムさんの周りにもちっこい子達が寄って行ってたもんな……近過ぎてビィクティアムさんが吃驚するくらいの位置に。


 エゼルやバルテムスの突進も、ちっこい子達がわらわら群がってくるのも、俺が聖魔法を持っているせいということかもしれない。

 ……ちょっと、嬉しいな、それは。

 偶に面倒くさいけど、可愛い。

 あれ?

 でもそれって、反抗期のお子様の相手をするってことなのか?

 んむむむ……まぁ、しゃーないか。


 あれれ?

 でも、待てよ?

『流脈年齢』でいったら、俺もまだ『十歳』……だよね?

 馬鹿みたいに魔力があるけど……もしかして、めっちゃ不安定ってこと?


 えっとぉ、神認かむとめ時期……俺の流脈年齢五歳っていうと、成人の儀前後……うん、いろいろあったよね、あの頃って。

 丁度、セインさんに会った頃だなぁ……言ってたね!

 セインさんに暴言紛いの、というか、ほぼ暴言!

 ライリクスさんにもビィクティアムさんにも、甘え捲りだった頃だよね!


 そーだ、蓄音器と転移のせいで魔力爆上がりだったし、翌年は皇宮での叙勲式……そーいや、あの頃はがーーってしゃべり出すと止まらなかった。

 今は少しマシになってきてはいても、メンタルぐらんぐらんなのは……たいして変わっていない……?


 そっかーーーー!

 お子様達が俺に寄ってきているのは『お仲間』だからだーー!

 八年後、俺はまた不安定期に入り、司祭様達やビィクティアムさん達にがーがー言う困ったさんになってしまうかもしれない……

 その頃にはもう『子供免罪符』は有効期限切れなので、ただじゃ済まんだろ……


 気をつけようっ!

 よかった、今、自覚できて!


「ありがとうございます、ナナレイア先生のおかげです!」

 思わず真顔でお礼を言ってしまったら、突然どうしたのっ? という顔をされてしまった。

 だがしかし、この感謝は伝えておかねばならない。


 ああ、本当に! 

 流脈と魔力と身体のバランスって、ものすっっっっごく大切っ!

 そして心のバランスも、ねっ!

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