第579話 現実的な伝承

 ……ガイエスくんはさ、歴史浪漫とかファンタジー的な活劇には……興味ございませんということなのかな?

 もー、伝承話って雰囲気じゃないよ!

 端的だけれども! ほぼ箇条書き!

 修飾語とか形容詞とか使おうよ!

 もっと、こう、演出を!


『英傑が西の村に出た魔獣を湖に追い詰めた。剣が届かなかったので風を操れるように神々に祈った。賢神一位が風に浄化の光を与えて授けた。剣を振るうと沢山の風が魔獣を倒した。湖の水は加護の力で魔獣の残骸を浄化した。英傑は『聖剣の英傑』と呼ばれるようになった』


 多分、ストーリーは覚えているけど、聞かされただけか、簡単なものを読んだだけだったんだろうなぁ……

 そして別の話の絵本にメモが挟まっていて『この賢神一位の話は似たのをマイウリアでも聞いた』って書いてあった。


 でも何処が違うとかさ、どう違うとか、逆に同じところはどこかとか!

 そういう情報が欲しかったんだよ!

 淡泊すぎるよ、冒険者なのにっ!

 そういう太古の浪漫を求めて旅をする……って、タイプじゃねーか。


 そーだったな。

 一攫千金でもないし、歴史の謎に挑む訳でもない。

 あいつに、なんで迷宮に行きたいんだって聞いたら『なんか、楽しい』って言ったんだよな。

 過去なんて積極的に穿り返さない、未来も必要以上に気にかけない。

 うん、そーいうところが実に『冒険者』じゃないか。


 冒険者がロマンチスト過ぎるのは、逆に危険だよ……な。

 ただ……もうちょっと、いろいろと表現してくれても……よかったんじゃ、ないかな……くすん。

 似たような伝承、他の絵本とかで探そうっと。


 他の三冊の本のうち、似たようなものを知っていると書かれていた絵本はやはり武器を使う話だった。

 マウヤーエートは『武具で戦う』ことが、前提……となると、アーメルサスはそれを摸した?


 いや、まだ結論を急ぐべきではない。

 武器や道具を使う伝承を選り分けて検証するか!

 ……でも、お腹空いたから、なんか食べよう!


 そうだ。

 夜の子供達、お魚が好きだったよな……それと、パンものよりおむすびとかのご飯ものがよく出ていた。

 ……よし、もう少し具材を工夫した『ごはんバーガー』みたいなやつを作ろうか。

 いつもの半分の厚みにした焼きおにぎりをバンズ替わりにして、金平をつくってはさむ……のもいい。

 でも蛋白質が欲しい……よし、すり身と豆腐を使った薩摩揚げ的な野菜も入ったパティにすっか!


 すり身はコピーしておいたスケトウダラから、俺の加護色が薄くなってきた頃なのでそれが使える。

 豆腐……より、おからを混ぜよう。

 で、子供達が好きな根菜類を軟らかく煮て、みじん切りにして混ぜ込む。

 塩は海塩を使って、オリーブオイルで揚げ焼き。

 マヨネーズと醤油を混ぜたソースは、あまり濃い味付けにしていないバンズ型ご飯とよく合う。

 丸くするより、ちょっと楕円にした方が食べやすいかも。


 どれどれ味見を……あ、すり身パティ、めちゃやわ、ふわふわだ。

 野菜の味もしっかりしているし、美味しい……!

 けど、ちょっと分厚いな。

 口が小さい子は食べづらいかもしれない。


 そっか、中のパティをちょっと薄目にして、サンドイッチみたいにニコイチでパッキングしよう。

 同じ味がふたつ入っているものと、違う味と組み合わさっているものがあったら飽きずに食べられるかも。


 あと、意外と茸が好きみたいなんだよね。

 昼間の子達は殆ど食べたがらないんだけど、茸ご飯のおむすびが大人気。

 茸はシュレミスさんも凄く好きみたいで、この間茸おむすびと舞茸天麩羅サンドを抱きしめてニコニコしていたんだよな。


 だけど、茸に関しては味と言うより、食感かもしれない。

 それと地下で栽培している茸は自身に殆ど加護色を持たず、調味料の加護色を吸い取るようにして他の食材に影響させない作用があるみたいなんだよね。


 醤油を付けると大概のものは赤が強めになってしまうのに醤油をまず茸に付け、それと一緒に他の料理を食べると醤油を付けた味はするけど加護色の赤が勝ち過ぎない。

 なので、極々細かくみじん切りにした茸に火を通し、色々な調味料をそれに染み込ませておくと調味料の色に影響されずに食材の色を取り込める。


 ただ、この特性は地下栽培茸に限るようで、天然物だと山菜と同じように緑が強い。

 おそらく『菌』というものが、特殊なものだからだろう。

 今度塩麹を使って色々試してみようと思っているが……使う塩によって左右されそうである。


 あ、いかん、また『実験モード』だ。

 癖だなぁ、これ。

 お料理を楽しまねば!

 お魚と野菜メニューは、順次増やしていこうかな。


 俺も手軽に食べられるお総菜的な魚料理、欲しいしなー。

 来年は、白身魚をいっぱいリクエストしようかな……鰯とかもいいなー。

 フライとか、つみれとかいいよねー。



 さーて、お腹もいっぱいだ。

 絵本探索の続きだな。

 まだ表に出せない、皇国のものと断言できない伝承や絵本はうちの地下秘密書庫に全て並べてある。


 まずは『戦う』ものを集めて、出て来る道具や戦い方ごとに纏めていこうか。

 剣、槍、砲などの武器を使う系。

 拳、蹴りなどの体術系。

 そして別の生き物や植物を操って戦う代理戦闘系。


 共通しているのは、これらの物語にはほぼ魔法が出てこないという点だ。

 たまに、方陣魔法が使われているが、攻撃の魔法が全くない。

 魔法はサポート系ばかりだ。


 そしてなんかたまーに『死なば諸とも』系が存在する。

 子供に見せたいものじゃないよな、これは。

 英傑だけが突っ込んでって死ぬならまだしも、村や町を平気で巻き添えにしているのは感心しない。


 そんな『民の命を勝手に巻き込んだ者』を、神々が憐れんだり讃えたりするのも違和感がある。

 てか、突っ込んでって死んだなら、その英傑の子孫は存在していないことになるんだから、皇国の英傑がそんなことをしている訳はないのだ。


 体術系は、そういうのが多いんだよな。

 つまり魔獣相手にはしているが、この手の話はほぼ『人』相手の戦闘をすり替えて書かれたものだろう。

 魔獣には、直接触れないのが基本の戦闘方法なのだから、体術を使うには魔法が必須だ。


 昔、父さんが素手で角狼を掴んで、町中へ持って入ったことがあった。

 俺と初めて出会った時だ。

 あれから、何度も衛兵隊や猟師組合がそうしているのを見ていたが……角狼の身体から、一滴の血も零れていなかった。


 手には浄化、そして角狼には空気操作系の魔法で『カバー』がかけられていたからだ。

 そんなこと、あの頃の俺には全然解っていなかったけどねー。


 それがなければ、身体の全てが『魔毒』という魔獣を町中へなど運べない。

 角狼の血が魔虫の解毒剤になることが解っていたから、捕らえられたら極力新鮮なうちに血を猟師組合で抜き取る必要があったのだ。

 今では各外門にその施設があるから、町中へ運び込むことは殆どないし……俺がすっかり魔虫を駆除してしまっているから、角狼自体の個体数が減っているはず。


 昔っから魔獣というのはそういう存在だから、いくら英傑や扶翼とはいえ魔法なしで魔獣には触れられないのだ。

 当然、体術など魔獣に対しては何ひとつ通じないし意味がない。


 拳も蹴りも同様である。

 魔法を使っていないという時点で、対人戦、そしてただの人殺し。

 皇国の物語であるはずがない、ということだ。


 同じ理屈で、火薬を使っているものもあり得ない。

 火薬では魔獣どころか、魔虫も燃えないのだ。

 ただ引き寄せて、凶暴化させるだけ。


 だから、これもまた人と人との戦であり、神々が禁忌としていることである。

 これらの物語は、自分達が起こした戦争や人殺しなどを『正当化』するために、昔の偉い人もしていたし神も褒めていた……と思わせるための創作であると考えた方が妥当だ。

 そして、こんな貴族など皇国には存在できないので……他国のお話に決定だ。


 こういう間違いは、伝えちゃ駄目だよなー。

 もしうっかりこの記憶が残っていたりして、魔獣に魔法なしの素手で挑むやつとかいるかもしれない。

 取っ組み合った瞬間に、全身毒まみれで悶絶するだろう。


 その上、火薬を使って攻撃して、逆上した魔獣にあっさり殺されるなんてことだってないとは言えない。

 攻撃を仕掛けたその馬鹿だけが被害に遭うなら自業自得だが、そういう状況であるならば確実に周りを巻き込むだろう。


 この世界での『人』は決して生態系の頂点ではなく、単体では魔獣に勝てる方が難しい弱者であるということは忘れてはいけないのだ。

 正しい武器を使用して戦うこと、正しい毒への備えなどを伝え続けていかないと、この星では人類なんてきっと簡単に滅びる。

 効果的な魔法がいくらあったって、何がどう効くのか解っていなければ戦いにすらならない。


 だから、魔獣との戦い方を間違っているこれらの本は、ただ単に危険書でしかない。

 間違った情報は無知よりもはるかに有害で、排除しなくてはいけないものだ。

 なんせ、皇国を一歩でも出たら、この大陸は『魔獣天国状態』なのだから。

 実際に魔獣がいて、死の危険が隣にある以上……これはフィクションです、なんて言う逃げ口上を入れたとしても流布していいものではないのだ。


 英傑や貴族だから倒せた……なんていうのも、他国なら『もうその人達はいない』から、ファンタジーなんですよ、で済む。

 しかし、皇国には実際に神話の英傑・扶翼達が存在しているのだ。

 彼らがこんな馬鹿げたことをやったとか、臣民に架空の功を誇るためだけに間違った危険な対処法を広めた……なんてことにもなってしまう。


 だが、単に全てを排除するのでは意味がない。

 これからの皇国の子供達は、ギリギリ魔虫のことは知っていたとしても魔獣を知る機会などほぼないと言っていい。

 必要以上に恐れさせることはないが、何がどう危険であるかということは知識としてなるべく正しいものを提供しておかなくてはいけない。


 ということで、魔獣への対処法が間違っているものは『偽書』認定をしていただいた方がいいよな。

 だけど……ちゃんと『こんなことを本当にしたらどうなるか』も書き加えて、教訓的に改訂してもらわなくてはいけないだろう。


 それと、対処法が間違いとまでは言えないけど皇国の人達の話じゃないよって明確に判る武器系は『他国の英傑の空想文学』として注意書きを入れていいかの確認をしよう。

 その辺は、司書書院管理監察省院のレイエルス侯にお任せする方がいいかもなー。


 それと、お任せするにも必要なのは魔獣や魔虫の知識だなー。

 虫と動物図鑑の皇国語訳で、どういう魔獣かはだいたい解るけど『正しい』とまでは言い難いし。

 まあ、このあたりのことは来年の春だね。

 魔獣に一番詳しくて、実戦経験が豊富にあるのはうちの特派員さんだからなー。


 あいつに皇国語訳した図鑑を渡して監修してもらったら、魔獣図鑑になるかな?

 よし、ひな形とか作っておこうーっと!

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