第567話 子供達の傾向
リンゲルスさんに健診を受ける約束をさせて、俺は一度夕食を食べに家に戻った。
自販機には、甘口咖哩の方を増やそうかな。
今日の夕食は、父さんが作った回鍋肉擬きなのだ。
これ、ピリ辛加減が丁度良くって味噌の甘さもしっかりあって、最高に旨いイノブタ料理のひとつである。
そして!
これの時は俺は絶対にご飯なのだが、父さんはカンパーニュだと譲らないし、母さんはピタパンみたいなのに挟んで食べるのが大好きなのだ。
その上、三人ともいろいろ試して食べているので、食卓の半分がパンとご飯で大賑わいである。
炭水化物、万歳。
あ、全粒粉のパンもあるから、栄養価はそれなりにいいはず。
「うーん、確かに米でも旨いが、食べ応えはこの硬めのパンなんだよなぁ!」
「ご飯にこのタレが染み込むのがいいんだって!」
「それなら、こっちの平焼きパンに挟むと染み込んで美味しいわよ!」
旨いものは譲れない。
我が家のいつもの食卓である。
嗚呼、美味しい……!
デザートはー、胡麻がたっぷり胡麻団子ぉー。
だけど、表面に胡麻がついているタイプではない。
表面はつるっと真っ白なのだが、中に胡麻餡がたーっぷりなのだ。
これ、ちょっとだけ蜂蜜かけたりすると、激甘になって最高なのだ。
胡麻餡があまり甘めじゃないんだが、くるんであるお餅が甘いんだけどね。
「おかしい……いくらでも入る」
「本当ねぇぇ」
「あんなにイノブタの味噌炒め、食ったのになぁぁ」
スイーツは別腹。
これもまた、食いしん坊あるあるだ。
はー、しーあわせぇぇぇ。
さて……やって来ました夜の遊文館。
お子達は、だいたい十五人で安定しているみたいだ。
控え室のモニター前には、自警団からダンタムさんとレイエルスのイツィオルさんがいる。
このふたりはショコラ仲間である。
差し入れにストックしているアーモンドショコラを差し上げたら、子供みたいに大喜びする可愛いおじさん達だ。
そして、モニターを眺める眼はとても優しいが、顔の作りが厳ついダンタムさんがぼそっと呟く。
「去年もあの子ら、表に出ててなぁ……何度か、うちに連れてったことがあったんだけど……こんなに笑う子だったんだなぁ」
イツィオルさんも頷いているってことは、やっぱり大人がどんなに優しくしても恐怖が勝ってしまう子達がいるのだろう。
「あれ? 神務士さん……?」
教室内にアトネストさんが移動してきた。夕食後で部屋に戻るのはだいたい九刻半くらいってところか。
うん、丁度いいかな。
「ええ、あのアトネストさんはまだ適性年齢前で、ここの司祭様が保護責任なので」
子供達がアトネストさんに気付いて寄っていったが、何かを話してすぐにまた消える。
往復移動のお試しをしてくれているみたいだな。
どうかな?
もう一度、来られるかな?
おおっ、来た!
よかったー。
顔色も悪くないし、足取りもしっかりしている。
子供達と一緒に……暫くは本を読んであげるみたいだね。
まだ時間は早いから、それでもいいんだけど……できればアトネストさんは、移動してきたらすぐに何か食べてもらってからの方がいいと思うんだよなぁ。
このへんは、テルウェスト司祭からアトネストさんに言ってもらおう。
「子供達、神務士さんに随分懐いているなぁ」
「そうだな。わりと大人の体型だが……そうか、体格で判断してるってより、ああいう子等は放出魔力なんかを感じやすいのかね?」
「ああー、そうかもしれないねぇ! そういうのが過敏だと、確かに大人と一緒はつらく感じそうだ!」
「ここで見てると、今まで解らんかったことを客観的に見られるな……」
「うん、魔力の少ない子供達の方が、大人の魔力に影響を受けやすいのかもしれない……とか、思ってもみなかったことが解るよ」
なるほど、おふたりの分析は参考になるな。
放出魔力って、俺はまだよく解っていないからなぁ……今度、夜間対応してくださった方々から聞き取りをした方がいいかもしれん。
それによっては、どうしてこの子達が家にいられないかの原因のいくつかも突き止められるかもしれない。
家族が好きなのに、家族も大切にしてくれているのに、魔力が原因で側にいるのがつらい……なんてケースも、ないとは言えないもんな。
「アトネストさんは時々夜にいらして、子供達と一緒に添い寝をしてくれることになっています。もし、何か彼が慌てているようなことがあったら、俺かテルウェスト司祭にご連絡いただけますか?」
「ああ、解ったよ」
「この連絡板ってやつの、ここに魔力を流すと繋がるんだな?」
「はい、俺とは会話ができますが、テルウェスト司祭には通信石と一緒で光ったりする程度ですけど」
ホットラインが繋がっても中に入って対応できるのは、今のところ俺だけだからね。
本当は中の子供達が『大人を呼んで助けてもらおう』と思えるようになるのが一番なんだけど、ハードルは高そうだからなー。
アトネストさんが一冊読み終わって、何人かの子供達に手を引かれて教室の外へ?
あ、イートインスペースか。
子供達がどれが美味しいって、教えているみたいだな。
それをアトネストさんがすっげー真剣に聞いてるのが、かなり可愛い……っていっちゃ失礼かなぁ。
おや?
……夜は肉料理より、魚の方が好む子が多い……?
そういえば、秘密寝室奥の自販機も子供人気の高いハンバーガーやカツサンドより、野菜チップスとかオニオンリングがもの凄くなくなっていた。
肉巻きおむすびより、鮭むすびとか昆布の佃煮が具材の方が消費が早かったのも渋い好みだなと思っていたんだが、それだけじゃないのか?
アトネストさんも、野菜が好きだった……魔力量と、関係があるのかな?
入館証を翳してからでないと自販機から食べ物は取り出せないから、誰が何を買ったかのデータは蓄積している。
ちょっと、統計データを調べてみっか。
あの子達に必要なものを多く入れてあげたいし、なぜそれが必要なのかも……解るかもしれない。
「……なんか、嬉しいねぇ……あの子達があんな風に美味しそうに食べているところ、初めて見たよ」
「子供達って今まで、あまり食べなかったんですか?」
イツィオルさんがそうなんだよ、と溜息を吐き、ダンタムさんが悔しげに口をへの字にして腕組みをする。
「大人がいるとな、保護した子らは殆ど食べねぇ子が多かったな。食べてもちょこっとだけで……」
「冬場……ですよね? 何を食べていたんだろう?」
「豆を煮たやつは、食べていたな」
「芋とか……野菜が好きな子は多かったね。だけど、遠慮しているのかあまりパンとか肉は食べないんだよ」
ふむふむ、なんだか特徴があるな……よし。
魔法をどれくらい使っていいかを確認してから、データ集計して傾向と対策を検討しなくてはな!
アトネストさんと子供達は毛布とふわふわクッションを敷き詰めて、絵本を読みつつ……寝ちゃっている子も多いみたいだ。
明るめの部屋で寝付く子って、暗いと寝られないのかもしれないから灯りはこのままの方がいいか?
控え室で、光量を調整できた方がいいかなー。
うおーーーー!
今すぐいろいろリフォームしてぇぇぇっ!
あの教室の床下に、でっかいベッドが収納できるようにしたーーい!
そんでもって、ワンタッチで出て来るようにしてあげたーーい!
早く魔法解禁になれーーーーっ!
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