第563話 魔力と魔法と流脈と
間食を終えた俺が次のメニューを考えるべく食材ストックとにらめっこしていたら、物販コーナーからのお呼び出しがかかった。
あれれ?
補充していなかったかな?
「テルウェスト司祭……いらっしゃいませ?」
「度々、申し訳ございません……」
前回より、更に恐縮したご様子のテルウェスト司祭がいらしていた。
実は緊急用ということで、アトネストさん閉じ込め事件の後テルウェスト司祭の目標方陣鋼を物販スペースに置いてある。
この町の子供達より実をいうと神務士トリオの方が、遊文館内でへばっちゃったり魔力不足になる可能性があるので、司祭様と第一位神官であるアルフアス神官にすぐに来ていただけるようにしてもらったのだ。
ラトリエンス神官も第一位なのだが、魔力量と年齢が上という理由で、アルフアス神官にお願いした。
まぁ、取り敢えずテルウェスト司祭を応接室へご案内。
あたたかいココアなどお出しして、落ち着いていただいたところでお話を伺う。
「実は……アトネストに夜間の泊まりのことを話しまして」
断られちゃった……のかな?
「了承はしてもらえたのですが」
よかったーー!
「やはり子供達に何かあった時に、非常呼び出しで大人を呼ぶ前に連絡が取れる方法がないかと思いまして通信石を渡して試したのですが……」
あ……なんか、解っちった。
「通信が繋がるとアトネストさんが倒れる……とか?」
こくり、とテルウェスト司祭が悲しげに頷く。
そうなんだよね。
基本的に現在流通している通信石は、お貴族様や衛兵隊員向け……つまり、魔力量の多い人が使う設定なのだ。
貴石によるお呼び出しで光らせるだけでも、百から百二十、一言二言の音声または伝言メモで三百くらい魔力がいる。
「通信石って、黄属性ですもんね……」
夕方でフルチャージ魔力量ではない状態のアトネストさんでは、残念ながら使えないのである。
フルだって『大変です』って言っただけで、ご本人が大変になっちゃうだろう。
俺の通信システムでも、通話開始の起動時に魔力が百五十は必要だ。
通話中は俺の作った【複合魔法】の金属板で魔力を維持するから必要ないんだけど、そもそも通信システム自体が、最低魔力量二千以上の衛兵隊員の方々を対象にしているものなのだ。
「通信は……無理でしょうから、もし不安でしたら遊文館の控え室で誰かか見守りをしてくださる時だけ、泊まってもらう方がいいかもしれないですね」
アトネストさんの役割は、子供達の見守りとか安全確保とかそんなことではない。
警備員ではなく、ただの……言ってしまえば、子供達の『抱き枕的添い寝要員』なのである。
だから非常ボタンを押す押さないも、アトネストさんに決める権限はない。
「控え室に人がいる時に解る『在席状況確認板』を、テルウェスト司祭におあずけいたしますからそれをご覧になって依頼してもらってもいいですか?」
「ああ、そうですね……! ありがとうございます……魔力千以下というのは……本当に何をするにも大変ですねぇ……」
魔力流脈が正位置になって、以前より確実に魔力量が増えていると思うんだけど、どれくらいなんだろう?
「アトネストは今、やっと八百を超えたくらいです。他のふたりは、もうすぐ千二百を超えそうですが」
「短期間に伸びましたねーー! 魔力流脈の安定って大事なんだなぁ、やっぱり……」
「タクト様はいかがですか? ずっとお着けになっていて変化は?」
「俺は身体が柔らかくなったのと、肩が楽になった感じですねぇ……あとは、まだあまり実感がなくて」
「お身体が軟らかくなるのは、非常によい傾向ですよ。魔力流脈が隅々まで届き、魔力が無駄なく巡っているから身体が温まっているのです」
そうか……じゃあ、効いているのかな。
怪我を防ぐためにも身体の柔軟性は大切だよね。あれ?
そういえばさ、俺ってずっと『物理攻撃無効』の常時発動しているよね?
なんで魔力流脈にダメージ受けてんのかな?
……あ、そっか!
魔力で傷ついているんだから、物理攻撃とは違うのか。
流脈から漏れ出る魔力で攻撃を受けているということは、魔法攻撃を受け続けているのと変わらないってことなのか?
いや、魔法じゃなくって、その大元の魔力に攻撃されているってことかな?
自分自身とはいえ。
「司祭様……魔法攻撃を受けたとして……耐えきっていたら、何か変化ってあるんですか?」
テルウェスト司祭はちょっと不思議そうな顔をしつつ、そうですねぇ、と左側に視線を向けつつ答えてくれた。
「攻撃とは少し違いますが、回復でも強化などでも魔法を長時間かけると、一時は拒絶反応のようなものが出ますが、一定時間を超えた場合人によって違う変化がある……と聞いたことはあります」
「変化、ですか?」
「ええ。魔法の場合は、そのかけられているものと反対の属性に対しての耐性や強化の技能が出ることが多く、稀にそれを打ち消すような魔法が獲得できると言われています」
「実際に、その例が?」
「故意にそのようにした実験的なものはございませんが、ある医師が同じ魔法をかけ続けていて具合が悪くなったという青年を診たそうです。その青年は怪我をして以来利き手に力が入らなくなったとかで、ずっと【強化魔法】をかけ続けていたとか」
「期間はどれくらいですか?」
「具合が悪くなったと言ってきたのは、三カ月間ほどかけた頃だったようです。医師は【強化魔法】は止めて【回復魔法】をかけるようにと方陣札で対処したようです。しかし青年は、こっそりと【強化魔法】をかけ続けていたそうです。そして医師の診断から二カ月ほど後、彼自身の【強化魔法】が自分自身には全く効かなくなったというのですよ。ですが魔法自体は非常に強く、他のものには最高の魔法がかかるのです」
自分の魔力による魔法に対しての耐性がついたってことか?
だが、幾つかあるそういったケースでも、その魔法自体が強くかかり過ぎるようになってしまう人もいれば、今まで全く出てこなかった属性のものが出るようになり魔力流脈の流れが部分的に変化して戻らなくなったとか……魔法をかけ続けるってのは、なかなかリスクが高いようだ。
俺が【文字魔法】でやっている常時発動は、自動翻訳さん含め緋色金プレートで魔効素を魔力に変換してて、一度体外に出した自分の魔力じゃないから条件が違うのかな。
「じゃあ、魔力を浴び続けるってのは?」
「それはあり得ませんね」
そう言って、テルウェスト司祭は魔力という状態で放出されると、人に影響を及ぼす前に霧散してしまうから、一日中べったりとくっついていても『魔力』を浴び続けることはないという。
「自分で自分の放出魔力が多くても、なんともないのでしょうか?」
「体内の魔力流脈には問題がありますが、その他に身体的な影響が出るという話は聞いたことがありません」
ううむ……では、勝手に魔法攻撃説は違っていたことになるのか……
「魔力流脈が傷つくのって、肉体を【強化魔法】で強くするとなくなったりしないんですかね?」
「それは無理でしょうねぇ。魔力流脈自体が『魔力結界』みたいなものですし」
はい?
あれっ?
そんなこと、セラフィエムスの本に書かれていたっけ?
なかったと思うよ?
魔力流脈は筋力で支えるとしか……あっ、そーかっ!
俺が読んでいたのは『身体鍛錬法』と『身体構成大全』などなど『身体』に関するものばかりだ。
だが、魔力流脈が『肉体の器官』でなく『体内で魔力を巡らせるために作られている魔力結界が管っぽくなっているもの』だとしたら……載っていなくて当然だ!
載っているとすれば、魔法関連本か、魔力関連を元にした医学書……!
そして魔力結界なら、魔力でぶっ壊れたり修復できたりして当然!
神眼さんでも視えない筈だよな『管』なんてさ。
俺はリンパ管とか血管みたいなものを想像していたんだから。
対象を正しく理解できてないんだから、視える訳がねぇよなぁぁぁ。
ちらりと『結界を視る』ことを意識して掌を視ると、視えましたよ……『管状の結界』が。
そして所々、解れている感じも。
そーか、だから魔力パワーバンクで結界を作る魔力を維持して、ちょっとでもそっちの魔力を使うと『流脈という結界』を壊さないために強制搾取が始まるってことかー。
あれ? てーと、なんですか?
俺のコレクションの中のインクとか万年筆とか鉱石達は『加護法具に匹敵』ってことっすか?
あり得るなぁー、それー!
なんだかんだと、俺をずーっと護ってくれていたわけだしね!
だけど……魔力流脈を半端にしか理解していなかったのに、よく流脈補正法具が大丈夫だったよな……?
「魔力流脈に最も影響する魔力をもたらすものが『加護法具』ですから、加護が働いているうちは魔力を浴び続けている、と言えなくもないかもしれませんが」
テルウェスト司祭の言葉に、なんとなく……納得。
加護かぁ……俺ってば『加護と守護を与う』なんてことが……できるんでしたっけね……それ、だね。
俺が意識して『加護法具を作ろう!』って作ったから、目的に合わせた魔法を『加護として発動させる』ことに自動補正がかかった……感じなのかなー?
そんでもって神斎術だから、理解していなくってもまるっと全部オールオッケー! な魔法ってことですねー。
駄目じゃんっ!
またやってるじゃん、無意識発動!
そんなことやってっから、いろいろぶっ壊れるんだよっ!
だけどさ、こうしたい、って思うだけでできちゃうんだもんっ!
どう調整するかなんて、俺自身の精神性とか人間性次第ってことじゃん!
なんか責任大きすぎてコワイーー!
……ま、誰でも多かれ少なかれ、そういう何かをすることへの責任ってものはあるわけですけどね。
でかすぎる魔法を貰っちゃったからなぁー……あああー、せめて心穏やかに日々感謝を忘れずに生きよう……ってことくらいですか?
だけど、神務士さん達に変な影響が出ていなくて、本当に良かった……!
今後も経過観察は、怠らないようにしなくては!
「魔法と魔力って……解った気になってちゃ駄目ですねぇ……」
「ははは、タクト様はまだお若い。いくらでも学ぶ時間はございますよ」
はい。
精進いたします……
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