第562話 ネクストステップ

 ふっふっふっ、やはり魔力漏れ対策ができると体の疲れ方が段違いだぜ。

 現在、だだ漏れ対策で直入れしているあちらの世界の本は二百冊程度で、鉱石は百個くらいだ。

 これを毎日調整しつつトレーニングに励んでいると、しっかりお食事が身体の修復に使われるようになり更に筋肉を育て脂肪が溜められるようになる。

 そうして三日ほど経っただけでも、鉱石を五個、薄い本を二冊鞄に入れても漏れ出す魔力がなくなった。

 ……道のりはまだまだ長いが、千里の道の一歩を踏み出せたのだ!


「うん、よーくできましたぁ!」

「はー……初めて時間内に終わった……」

 だだ漏れセーブができているからか、はたまたセラフィラント式筋トレとこの半月ほどのトレーニングで少しは筋力アップしてきたせいか、途中でへばらなくなったぞ。

 でもなんだか俺に気付かれない程度に、ちょっとずつ負荷が増えている気がするのだが……


「うん、増やしてるよー」

 笑顔で断言された。

「タクトくんは、無意識の常時発動が多いからね。まだまだ基礎段階だしこれからもっときつくなるだろうし」

「え? これからって……体術で、ですか?」

「長官と組み手ができるなんて、なかなかない経験だから頑張って!」


 はぁぁぁーーーー?

 何言ってんですかっ!

 オリンピック強化合宿並みのことを常時やる人と、空いてる時間にちょっとジョギングくらいの一般人が何を『組む』と仰有るのやらっ!


「大丈夫ーその辺は、長官もお解りだし。それにね、長官の場合は『力の加減』をする訓練だから」

 ちらり、とビィクティアムさんの方を見ると、セラフィラント式で地力があった上にレイエルス式で筋肉盛ってきた二の腕が見えて絶対に無理だって……とブルーな気持ちに。


「なんて顔してる」

「だって、一方的にやられる光景しか浮かびませんよぉ」

「仕合いじゃないんだから、倒したりはせん。ちゃんと加減するし」

 そう言ったあとで俺に耳打ちするように、怖いことを言われた。

「おまえは俺より魔力が多いんだから、本当なら俺以上に筋力がないといかんのだぞ?」

 それこそ、無理ですって。


 すると背中をポンポンと叩かれて、

「まだ適性年齢前だからな、余計に鍛えておかないと魔力流脈がまた『ズレ』るぞ」

「『狂う』とか『壊れる』じゃなくて『ズレる』んですか?」

「ああ、おまえは俺と同じでほぼ全ての属性が使える上に、俺と違ってまだ細かい分岐ができあがっていない。そういう時に身体を調えておかないと、本来の流脈位置がズレて変に枝が伸び過ぎる」


 うん、うん、と頷いていたシュウエルさんも、そうだよ、と加わる。

「加護神の『本流脈』は大丈夫だけど、それ以外の属性を支える流脈は成長で位置が変わりやすいんだ。特に……タクトくんと長官は、聖魔法以上の魔法があるからね。今後そちらが強くなると今までの属性魔法より強いから、全部の枝まで魔力が多く巡るだろ? 筋肉が弱いと、正位置でない場所から壊れやすくなるからね」


 きちんと配線固定しておかないと、新しい配線が敷かれた時にずれることで断線の危険が上がるってことなんですねっ?

 その状態で聖魔法とか神聖魔法とか、魔力がゴゴゴって一気に巡る魔法使ったらどっちの配線も危険ですよねっ!


 そーか、だから小さめの魔法を使って、調整しながら流脈を安定させるんだな。

 魔法を使わな過ぎても、駄目ってそういうことなのか。

 一応、家の中で地下室リフォームみたいな馬鹿をしない限りは、今は一日三千程度は使って平気という許可が出ました。

 他の人達からしたら魔力切れ起こす量だが、俺とビィクティアムさんにはこれくらいじゃないと駄目らしい。

 だがこれでやっと、前・古代文字の本が読めるようになったぞ……!


「基礎訓練である程度調えたら、体術の組み手をすると『足りないところ』が解りやすくなるんだ。だから、相手を倒すとか早く動けるようにってより、どういう動きをした時に身体のどこに力がかかり過ぎるか、かからないかを見て訓練内容を変えていくために必要なんだよー」

「それには、本当は同等程度の魔力を持った者の方がいい。だが……おまえほどの魔力を持つ者などいないんでな。俺でなんとか、協力できればいいんだが」

 充分すぎますぅーー……

 だけど第二段階に進めた訳だ……よかった。



 今日のところは『回復』してから少し体を休めつつ、明日の朝の流脈状態で次の段階へのメニューを決めようということでおうちに戻って参りました。

 ランチの後で自室に戻って、できることを考える。

 残念ながら、今日だけは魔法は抑えめにということなので……遊文館に行ったり前・古代文字の本読んだりはNGだ。


 なのでちょっとあちらの料理本など見つつ、新作を作ろうかなーと思っている。

 最近鶏肉と卵が安定供給されるようになったから、そっちばっかりでお魚さんとイノブタ君がお暇になってきたからね。


 あ、これよさそうだな。『ピリ辛ポークの唐揚げ』!

 なかなかの腕白メニューだが、掛け垂れをさっぱり系にしたら食が進むよね。

 だが、トンカツとの差別化を図るため、片栗粉を使った唐揚げでありつつカレー味にしてみようか!

 そうと決まれば材料を用意して、まずは試作で俺の間食分を作ってみよう!


 実はこちらのイノブタは、あっちの世界の豚よりは野性味溢れるニオイがある。

 それを消すために生姜を使ったり卵をくぐらせてみたり、匂いが強めの調味料で味付けるのだ。

 カレーは『全部をカレーにする』という、強力な香りのスパイス。

 イノブタとの相性はいいはずだ。

 そして何より、カレーは美味しいのだ!


 だが、このままぺろっとした肉の形で揚げるのはつまらない。

 そーだ、以前あちらで入った居酒屋さんで面白い揚げ方していたのがあったよな。

 長めにスライスしたあまり薄くない三、四ミリくらいの厚みのもので、幅は五センチくらいだったかな。


 小麦粉を軽く振って下味を付けたらその幅の下の方、一センチほどを折りたたんで、くるくるっと巻く。

 同じように折りたたんだやつをその巻いたものを芯にして、二枚ほど巻く。

 下側が分厚くなるので、その部分を竹串か楊枝で何カ所か刺して固定。


 かき揚げを作る時の揚げ網の上に分厚い方から、低温の油に入れる。

 そしてもう片方で、おたまで油をかけてやると……上の薄い方が、花びらみたいに開く。

 揚げ上がったら……とろみをつけたソースを『花の中』に入れ込むのだ。

 花びらの部分はカリカリで、折りたたんで重ねたところはしっかり食べ応えのあるミルフィーユカツみたいになっている。

 パン粉はついていないから、竜田揚げっぽいか。


 確か『バラ揚げ』ってそのお店では言っていたけど、豚バラ肉と薔薇みたいな見た目を引っかけていたのだろう。

 しかし!

 皇国では薔薇は皇家の花であり、一般庶民のものではないとレクチャーいただいているので『薔薇揚げ』は使えない。

「……薔薇……じゃなくて、牡丹にするか」


 イノブタだしね。

 ブタってよりイノの方チョイスの『牡丹いのしし肉』ってことで? なんて。

 そして、皇国には『牡丹ぼたん』という花はない。

 他の国には、あるかもしれないが。

 あちらの図鑑を自動翻訳さんで表示した時に、全く古代文字も現代文字も表示されなかったからこの大陸にはない花なのかもと思うのだ。


 ソースはバーベキューソースもいいのだが、今回はカレー味がコンセプト。

 零れない程度に、ちょっとスパイシーなカレーソースを入れ込む。

 もともと肉の下味でカレー風味になっているから、外側サクサク中は少ししっとりのカレー揚げイノブタ『牡丹揚げ』でございます。

 掌サイズなのでこのままバンズに挟んでも良し、ご飯の上に咖哩をかけてこいつをトッピングしてもいい。


 さて、お味は……うんっ、カレー、やっぱ正解だな!

 あ、マッシュポテトと一緒でも美味しーい!

 魔法なしでここまでできりゃ上等じゃね?


 これ、生姜風味にするとか、トマトソースとか掛けてもいけそうだなー。

 そういえば、最近自販機の辛口咖哩の売上げが落ちてきているんだよなぁ。

 新商品を開発した方が、いいのかもしれない。

 まぁ、それも俺が健康体になってからだ。


 自分が食べるためだと、色相バランスとか気にしなくていいから好きに味付けできるよなぁ。

 遊文館自販機用は、またその時に調整すりゃいいし。

 こうやって『魔法なしレパートリー』が増えていくのもいいな。

 さーて、今度はお魚でなんか考えよーっと!

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