第561話 またしても……!

 蓄音器体操のあと、お子様達は元気に遊文館へ。

 俺は母さんが作ってくれた朝食を食べて……ひと寝入り。


 四時間くらいしか寝てなかったんで、昼前までしっかり眠ってしまいましたよ。

 本日はゆっくりお休みってことになったのでベッドに横たわりつつ、たまにナッツやレーズンなど摘みながら最近のことと今後のことを見直そうかと思う。


 それにしてもまだ怠さが抜けないとは……眠っていないってこんなにもダメージ残るものだったかなぁ……

 でも、なんで?

 なんだってこうも、虚弱になったんだ? 


 昔から筋肉なんてろくになかったはずなんだが、それでもちょっとはあのジムトレーニングやランニング程度が助けになっていたんだろうか。

 そういえば確かに、俺の腕、結構細いなぁ。


 ぼんやりと天井を見つめつつ考えを巡らす。

 ドルーエクス医師の言う『微細な完成していない魔力流脈』に『大量の魔力』が入ったせい……というのは、確かに納得できる話である。


 だが、よくよく考えると『極大方陣からの大量魔力供給』は三回目なんだよ。

 なぜ、最初の二回はここまで深刻な事態にならなかったのか……って方が問題というか、答えなんじゃないのか?


 俺の中の魔力流脈がまだお子様レベルというなら、一番最初の秘密部屋の時なんて今よりもっと整っていなかったはずだ。

 方陣へのお支払いは魔効素さんが賄ってくれたとはいえ、その後の俺にフィードバックされた魔力量は、今回のレクサナ湖拝殿霊廟の極大方陣シェアなんて比じゃなかった。


 なのに、あの時の俺は寝込んでもいないし倒れてもいない。

 水源奥のルビー部屋の時も。

 その上三角錐の石板からのものだってあったから、大量に魔力を使ったあとに大量供給されるという現象は何度も経験しているはずだ。

 そのどれもが、セラフィエムス蔵書のコピーとか完成してもいない【星青魔法】よりはるかに大きな変動だった。


 あれらの時と……半年前と、何が違っていたんだ?

 そこに、この魔力ただ漏れの原因があるんじゃないのか?



 しかしそれからずっと、考えても考えてもイマイチ、ピンと来ない。

 お昼ご飯のイノブタの生姜焼きはめちゃくちゃ美味しかったが、考えはまとまらない。


 母さんと父さんがふたりして作ったという、挽肉と玉葱たっぷりのコロッケも食べたけど全然閃かず部屋に戻った。

 コロッケ、スゲー旨かったので一旦台所に戻って、二個ほど部屋に持ち込んだ。

 コールスローサラダとよく合う。


 自分の部屋の机につくの、久し振りだな。

 前・古代文字の辞書ができてからはずっと、ここに座るとどうしても本を読んだりしちゃうから避けていたんだよな。


 ガイエスから届いていた怪しげな箱も、中にどーも古い羊皮紙の残骸っぽいものが入っているし、魔法を使いそうだから頑張って見ないようにしていた。

 あ、でも一緒に入れてくれている石だけは……ちょっと分類しておこうかなー。

 魔法使わなくても、なんの石かは解るしー。


 オルフェルエル諸島の迷宮の石は……泥岩みたいだね。

 泥岩は、結構珍しいかもしれない。

 組成……は、視ちゃ駄目。

 まだ、我慢……取り敢えず、壁のコレクションのところにラベルをつけて飾っておこう。


 書斎をもらって本棚から鉱石コレクション飾り棚になった壁一面を眺め、ちょっとニヤニヤする。

 いいよねぇ、コレクションを眺めるっていうのは心が浮き立つ。

 それにしても、増えたなぁー……あ、コレイルの金剛石でビィクティアムさんご家族に何か作ろうと……いや、これも春だな。

 これ全部以前は持ち歩いていたんだよなぁ……ん……?

 以前……?


 いつ、表に出したっけ?

 いや、いつ【蒐集魔法コレクション】の表示位置から、鞄に移したっけ?

 えーと……湧水水筒を作った後で……町で【収納魔法】の話を聞いた頃だよな?

 去年の夏、だな?


 あっちの世界の本も、鉱石もガンガンに軽量化袋に入れて『魔力搾取』の起こる危険をなくした。

 その後で大量の魔力消費はしていても、大量の魔力獲得は……ない。

 三角錐に何度も行っているけど、魔法は貰わなかった。


 俺は神眼で自分の右手を視てみた。

 青い光が結構漏れている。

 文字を書くと、途端に漏れ出る量が増える。

 思い立ったことなら、やってみた方がいいかもしれない。


 今、【蒐集魔法】に入っている鞄の中のあちらの本を全て『直入れ』する。

 右手から漏れる魔力が……減った。

 だが、文字を書くと結構漏れ出す。


 ティエルロードさん達が持ってきてくれて、飾り棚に入れていなかった鉱石をがーーっといっぺんに【蒐集魔法】に突っ込んでみる。

 ……殆ど魔力が漏れ出していない……そして、文字を書いても、魔法を使っても、掌と指先以外からの魔力漏れが全くなくなった!


 なるほどーーーーっ!

 俺の脆弱魔力流脈を支えていた保護壁は、コレクションに入っている『あちらの世界の叡智』と『神々の大地からの贈り物』だった訳かーー!


 漏れ出る魔力を中に押しとどめてお堀のようにパワーバンクとして魔力を蓄え、更に漏れ出ないようにまさに『石垣』のように護っていてくれていたってことですかぁぁっ!

 ああ、コレクション!

 俺は君達に支えられ、君達に生かされていたのだな……!


 コレクションが【蒐集魔法】の中に少なくなってしまっていたから、魔力を蓄えることも堰き止めることもできなくなった。

 その上、筋力にも頼れない弱弱ボディの俺は、だだ漏れ穴あきバケツ状態になっていたということか!


 道理で筋肉がつかない訳だ……魔力として巡っているものが漏れ出ている流脈修理に殆ど使われてしまい、食べても食べても身体の補修どころか維持だけで手一杯だったのだ。


 あの【星青魔法】獲得の時にガッツリ持っていかれてしまった魔力強制搾取の時から、ろくに魔力流脈が治っていなかったということなのかもしれない。

 極大方陣、普通の人が開けたら確実にお陀仏だわ、こりゃ。

 いや、この世界じゃ、ホトケになどなれないか。


 あ、怠いの、なくなった……わっかりやすぅー……

 だけど、空腹は感じている。

 コロッケ、もう一個ないかな?


 ということは、パワーバンク状態を維持しつつ、まずは魔力流脈を調えて修復。

 筋力アップをして身体そのものに『防護壁』ができるまでは、強制搾取が起きないように、魔法を使うならしっかりと使用魔力量の調節をしなくてはいけないということですね?

 そんで身体の状態を確認しつつ、本を袋の中に、鉱物コレクションを棚に戻す感じになるのかなー……


 そうだ、万年筆用のインクは惜しみなく買っておこう。

 あれにも結構な魔力保持ができるからな。

 P社のインクで新色出てるー!

 あ、S社もーー!

 いや、これはずっと惜しみなく買っていたね、今までも。


 台所で玉子焼きを発見した俺は、それを頬張りつつ魔力漏れが少しだけという状態にコレクションを調整し、漏れがなくなったらまた調整する……というやり方をしていくことにした。

 この玉子焼き、甘くて旨い……伊達巻きみたい……好き。

 こうやって俺がすぐ食べられるものを、父さんと母さんが用意してくれてるんだよな……ありがたいことだ。


 あ、また身分証偽装の魔力量だけは、表示方法変えとかなくちゃ。

 マリティエラさんやリシュリューさんみたいに、すぐに鑑定できちゃったり魔眼の人がいるからねぇ。


 とにかく、これで身体を鍛えればちゃんと筋肉が育つかな!

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