第518話 後夜祭?
ランチタイム終了で、皆さんからいただいた沢山のリボンをまとめてキレイめの箱に入れた。
俺が買ったものも一緒に。
疲れた。
いつもよりちょっと早めに切り上げたのは、ライリクスさんのお宅にデリバリーに行くからだ。
ライリクスさんの家には、子供達の面倒をみてくれている人達を含めて十人分。
それと、ビィクティアムさんと父さんと俺の分。
ガイエスが帰る時に、ちゃんと寝ておけよ、と労ってくれた。
うん、そうする。
今でもちょっと眠い。
ちょっとメイリルクト飲んでおこう……うわ、全然酸味感じないぞ……やば。
でもこれで復活。
ライリクスさんのお宅にお邪魔すると、ビィクティアムさんが保存食を食べるかどうか悩んでいたので祝い膳をご提供。
よかった、食べた後じゃなくて。
どうやら元気すぎるくらい元気になったマリティエラさんが、お腹空いて死にそう、と言い出したがライリクスさんが動けずビィクティアムさんが……っていうことだったようだ。
母さんと医療チームは……と、別室を覗いたらこちらもお疲れモード。
赤ちゃんはすやすや眠っているみたいなので、ベッドの上が映る監視カメラを付けて隣のお部屋でも見られるようにしましょうか。
……ペットカメラのノリなんだよね、これって。
記録もしておけるので、数年後にでもお楽しみいただける成長ムービーとして保存しておくのもありですな。
あ、医師団の方々はちょっと吃驚している。
そうか、監視カメラってあんまり一般公開はされていなかったっけ。
ちょっとビィクティアムさんにジト目で見られた……
いいじゃないですか、これは『ドミナティアの宝具』ってことになっているから、ライリクスさんのお宅にあるのは問題ないっすよ。
戸締まりをして、父さんもこっちに来たので皆さんでお疲れ様のお食事会。
ライリクスさんとマリティエラさんも……って、マリティエラさん、平気なのかな?
「大丈夫よぉ。タクトくんの『治癒の方陣』ですっかり。助かったわ、回復までしか作っていなかったから」
「お役に立って良かったです」
「本当に、魔力不足も全然なくって、マリー先生ほどの安産はなかなかありませんわ」
そう言うのは看護師さんのひとり、以前リルーゴの実験をしてくれたアエリアさん。
「マリー先生は元々魔力が多い方だったし、心配はなかったけどねぇ。体力も問題なくて、本当によかったわよぉ」
母さんのお茶会友達、ほっとする優しい笑顔のファリエルさんは一番のベテラン看護師さんだ。
ここら辺のお母さんたちは殆ど、お産の時にファリエルさんにお世話になっているのではないだろうか。
医師としての魔法もお持ちなのだが、助産婦さん的に働きたいからと病院は構えていないのだそうだ。
「わたし、初めてでドキドキしましたぁ……無事で、本当によかったですぅ」
カーチェナさんはアエリアさんと同じ、マリティエラさんの助手の看護師さん。
メイリーンさんとも仲の良い、適性年齢になったばかりのお姉さんだ。
それから、マリティエラさんがお休みの時に病院にヘルプに来くれている医師のナナレイアさん。
万一の時のために来ていただいている。
マリティエラさんは大丈夫でも、赤ちゃんは解らないからねー。
そして一晩中いろいろとサポートしてくれたのはマリティエラさんと仲の良いアンシェイラさんとチェルエッラさんだ。
おふたりとも休みを取ってまで、付きっきりでいてくれたらしい。
このふたりはメイリーンさんとも凄く仲がよくて、チェルエッラさんなんてよく一緒に買い物に行ったりもしているらしい。
……メイリーンさんも、ぼっちだとか思い込んでてすみませんでした……
「タクト、おまえこんなに料理作って、大丈夫なのか?」
ビィクティアムさんがガイエスと同じような心配をなさるが、うちの在庫は平気ですって。
「……食材じゃない。おまえの身体のことだ。殆ど寝てもいない上に、祝い菓子や祝い膳まで……ちゃんと食べているのか?」
「今、食べようかと」
父さんと一緒に睨まないで欲しい。
ふたり共、怒ると顔が怖いんだから。
あ、美味しい。
マリティエラさんにみんなからもらったリボンを渡すと、一番上に乗せてあったヒメリアさんのものにソッコー食い付きましたよ。
その手元をビィクティアムさんも覗き込んで、これは素晴らしいな、とぽそり。
ヒメリアさんの作ったものですよ、と教えたらマリティエラさんの顔がぱぁっと明るくなる。
「なんて見事なのかしら。他のものも勿論素敵だけど、この金赤の刺草の刺繍は……シュリィイーレ隊のものね」
え?
そうだっけ?
襟から胸元と、袖口に入っている刺繍……あ、本当だ!
よく見ていなかったなー。
「流石だな。ウァラク隊の背刺繍を請け負っただけある」
「あの背刺繍、ヒメリアさんが刺したものなんですか?」
「ああ。あの刺繍を入れる方がいいと、ラシードとシュツルスに進言したのも彼女だそうだ」
真正中二病罹患確定確認。
でも、女の子でよくぞあのデザインを背に入れようなんて思ったよな。
しかもさ、ハウルエクセム卿とサラレア卿にデザイン変更を言える新人さんって、ハートが鋼鉄過ぎるでしょ。
いや、タングステンかな。
なんて頼もしい。
今度、その辺のお話をじっくり伺いたいものだ。
ベスレテア勤務と言うことをビィクティアムさんに伝えたので、近日中に礼に行くと言ってた。
ん? 『行く』?
……直で行ったり……しないよな?
行きそうだからコワイよ、ビィクティアムさんは。
ライリクスさんがずーっと、娘ちゃんの映像見ながらニヤニヤしている。
……デレデレの過保護お父さん、決定だなぁ。
よかったな、こんなに娘が生まれたのが嬉しくって堪らない人が、五歳になっても引き離されたりしなくて済んで。
男の子だと母親から、女の子だと父親から、思い出なんてできないくらい小さいうちに引き離されてしまうのが十八家門の直系だ。
ビィクティアムさんの所だって、息子だったらどれほどレティ様もその子も淋しいかしれない。
娘だったら……ビィクティアムさんが泣くだろうしなぁ……
やば……食べたら、眠くなってきちゃった。
あー、でもここで寝る訳にはぁぁぁぁぁ……
……
その後の室内の人々 〉〉〉〉
「ありゃ、寝ちまったか」
「タクトくん、いっぱい、頑張っちゃっていたから」
「あらあら、重いだろ、メイちゃん」
「ちゃんとメイリーンに寄りかかっているところが、タクトくんですねぇ……」
「いいじゃないか、これくらい。おまえ達のために、随分頑張っていたんだから」
「起こしたりはしませんよ。ちょっと、頑張りすぎなんですよ……僕らは、本当の家族って訳じゃ……」
ばここっ!
「……痛いですよ。ふたりして殴らないでくださいっ」
「家族なんだよ、おまえ達は! タクトに向かってそんなこと言いやがったら、ただじゃおかねぇぞ?」
「そうとも。タクトがどれ程おまえ達の結婚や、子供ができたことを喜んでいたか知っているだろうが!」
「だから、ですよ……僕らのために、タクトくんにもうこれ以上の負担を掛けたくないんですよ……いつもいつも、僕らは助けられてばかりです」
「ホントに、そうね」
「家族なら犠牲になったり負担を掛けたりしてもいいなんて、思いたくもない。絶対に嫌です」
「勘違い、してます」
「メイリーン?」
「タクトくんは、家族だから、頑張ったんじゃないです。ライリクスさんのこともお姉様のことも大好きだから、張り切っちゃってるんです」
「……ああ、そうだな。メイリーンのいう通りかもしれない」
「好きだから、この町も、子供達のことも、全部好きだから、力一杯、張り切り過ぎちゃう。家族じゃなくても、お姉様達に同じことしたと思うし。だから、やらなくていいとかやって欲しくない、なんて、言わないであげて欲しいです。タクトくんの好きって気持ちを怒ったりしないで。行き過ぎちゃってたら、ちょっとだけ注意してあげてください。家族として。そしたら、タクトくん凄く喜ぶと思うし……家族の言うことなら、聞いてくれるから、無理しなくなると思うんです」
「そうだねぇ……タクトはちっとも、負担だなんて思っていないからねぇ。ちょっと放っておくとすぐ悪い方に考える癖、直した方がいいわ、特にライリクスは!」
「……! お姉様……ライのこと」
「初めて、です。ミアレッラさんに、名前で呼んでいただけたのは……」
「ちょっと頼りないとは思っているけどね、認めていない訳じゃないの。ただねぇ、ドミナティアって昔っから自分本位な人が多いし、すーぐ深刻ぶって落ち込むから!」
「返す言葉もありません……」
「ほれ、メイちゃん、流石に重いだろ。うちに連れていくからよ。ビィクティアム、ちょいと背負わせてくれっか?」
「俺が背負いましょうか?」
「バカヤロウ、こういうことは父親に譲るもんだぞ」
「はい、では……ん?」
「どした?」
「……こいつ、こんなに軽かったですか?」
「おや、ちょっと待っとくれ。診させてもらっていいかい、ミアレッラ」
「いいけど……何よ、ファリエル?」
「うーん、タクトくん……二十九歳になったばかりだったよねぇ? その年の子にしちゃあ、筋肉量が少なすぎるわねぇ」
「それで軽いのか……タクトのやつ、走っているとはいっても以前より魔法を使う量が増えてっからなぁ……」
「走るより食べるのが先だわねぇ。身体作りが、間に合っていない感じだからねぇ。こんなに明るくって人の声がしているのにここまで眠りが深いのも、魔力の使いすぎで身体がついていってないからだよ」
「……冬の間、食堂が休みの時だけで構いませんから、タクトを衛兵隊にお預かりできませんか?」
「そうだな……少し、魔法抜きで鍛えた方がよさそうだな。腕が随分細い……頼めるか、ビィクティアム」
「でも長官、タクトくんは武器とか嫌いでしたよね?」
「そうだが……アンシェイラ、体術の基礎訓練にタクトを参加させられるか?」
「ああ、そうですね! 体術なら……まさか、試験研修生と一緒に?」
「いや、それは止めた方がいいな。衛兵隊の訓練の方で、しっかり基礎体力を上げた方がいい。走っているから、足腰は強いはずだ。俺も参加する」
「「「えええっ?」」」
「そんな声を出すな」
「いえ、あなたが今更、基礎なんて驚いて当然ですよ……どうしてです?」
「……レティに」
「は?」
「レティに、前より腕が柔らかくなった……と言われた」
「ああぁ……それは……確かに少々、気にはなる発言ですねぇ……」
「最近、俺も魔法ばかり使うようになったからな。少し鍛え直そうと思っていたところだから丁度いい」
「長官と一緒じゃ……タクトくんには、厳しすぎませんか?」
「やる気になっちゃっている長官に、何言ってもダメなことは知っているでしょ? あたし達でなんとか調整するしかないわ……」
「タクトくんに嫌われるのはお嫌でしょうから、無理はさせないと思いますけどねぇ」
(タクトくんの腕は……ぷにぷにでも可愛いのになー……)
ぷにっ
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