第506話 陰謀論?
三人の神務士さん達は、オルフェリードさんと一緒に別室へ。
多分、アトネストさんが目的……だろうなぁ。
だけど、アトネストさんはおそらく何も知らないし、解っていないだろう。
まぁ……オルフェリードさんの看破なら、その辺はちゃんと判断してもらえるだろうけど。
不審者共は、そのままダリューさん達の手によって連行されていった。
あいつらは一体、何がしたかったというのだろうか。
……衛兵隊で……教えてはもらえそうもないかな。
「遅くなってゴメンよ。まさか君がいるとは、思っていなくってね」
ファイラスさんが謝るようなことではないですよ。
「申し訳ございません、タクト様……つい、頭に血が上ってしまいました……」
「いいえ、おかげで助かりましたテルウェスト司祭。ありがとうございます」
「私などが手出しせずともタクト様がお強いことは重々承知しておりましたが……どうしても、我慢ならず……っ!」
どこからどう、俺がお強いことになっているのやら。
「何を仰有いますか。イスグロリエスト大綬章授章式の際に、暴漢を一撃、いえ、お手も触れずに伸したことは既に伝説でございますよ」
テルウェスト司祭の言葉に、衛兵隊員のみならず神官さん達全員が頷く。
忘れろ。
そんな昔のことは、即刻忘れろぉぉぉぉっ!
やつらはどうやらただの末端、本当にお使い程度のバイトみたいなものだったようで、既にロンデェエストでひとりウァラクでひとり仲間らしきやつもとっ捕まっているらしい。
「末端過ぎて、絞り込めなかったんだよねぇ……」
「目的はなんだったんでしょうかね?」
「解っているのは、魔法師と皇国にいる他国人の拉致だけ」
それだけで充分問題だろうが。
だが、拉致してどうしたいのか、何かをさせたいのか、どこに連れて行くつもりだったのかは皇国内にいたやつらには知らされていなかったようだ。
おそらく、今日捕らえた三人もそうだろうとは言っていたが、あの三人が接触した人達もほぼ全員各地の衛兵隊でチェックしているらしい。
……皇国の衛兵隊、半端ねぇ。
「それでね、今回の件と併せて、過去からの色々な拉致事件やら拉致未遂事件が繋がってきそうでね」
過去の拉致未遂事件というと、俺が被害に遭いかけた魔法師一等位試験会場でのことも再調査対象なのだろうか?
俺以外にも合格者が狙われていたってことは、当時から一等位の魔法師を集めたかったんだろうけど……今回のはちょっと違う気もするなぁ。
俺が魔法師かどうかも確かめられていないし。
「うん、多分。だけど今はあの頃と違って君個人とか魔法師ってだけでなく、皇国の成人前後から適性年齢前くらいも狙っていそうなんだよ」
どういうことだろう……?
攫う目的が解らないって言ってたけど、犯人グループが冒険者を使っているってことか?
「あいつらは冒険者としても登録があったから、皇国に入国できちゃったけど……探検援助機構団って、知ってる?」
俺は首を横に振る。
聞いたこともないぞ、そんな活動内容がわかりにくい怪しい組織名。
どうやら、冒険者組合ととてもよく似ている別組織らしい。
冒険者達と違い、殆どが単独行動で実態が掴みにくく冒険者組合と並行して登録していることも多い組織であるから余計に解りづらいという。
しかも、その設立にドムエスタが関わっているという噂だそうだ。
「……なんだか、怪しいものとか変なものを取り敢えず全部ドムエスタ関連だって言ってて、本当の黒幕は別にいる……みたいに感じますね」
ワケわかんないものをまとめてよく知らない鎖国国家とか秘密結社のせいにしておけば、それ以上調べられないし目を逸らさせることもできると思って、態とドムエスタの名前を流しているみたいにも聞こえちゃうんだよ。
あの国は皇国のような『実質鎖国っぽい』じゃなくて『うちは他国とは付き合わんし!』って公言している国だからね。
同盟国とか言われていたディルムトリエンとも、魔獣が溢れてからは『もうお付き合いしません宣言』がされているみたいだから本格的に閉じちゃったと思われる。
こうなるとなんかあっても、正しい情報なんて上がって来にくいと思うんだよ。
そして現在、皇国が陸続きで移動できるのはヘストレスティアだけで、その他は全部船オンリー。
ドムエスタ以外は島国ばかりで、東の小大陸にだってそんなに大きな国はない。
となれば、その小国が何かしようとして暗躍していることがばれたら、皇国が攻め込んでくるかも……って考えて、ドムエスタのせいにしておこうって思っている可能性だってある。
ドムエスタなら、皇国は手を出さないと思われていそうだな。
実際は多分、どこだろうと皇国は手出ししないだろう。
他国は自分達が他の国の国土を欲しがっているから、皇国もそうだろうと考えていそうだ。
残念ながら……おそらく、皇国は他国の土地にはまっっったく関心がない。
魔獣と魔毒まみれの、砂で何も育たない大地なんてなんの魅力もないし『神々の見放した遺棄地』だと思っているから、そんなところ占領どころか行きたくもないと思っているだろう。
そして残念なことに、皇国はそこで生きる人々にも何ひとつ感情を持っていないと思われる。
同情も憐れみも何も感じないし、憎しみも嫌悪さえない。
……必要ないと思っているからだ。
この辺は、まぁ冷たいと思わなくもないが、皇国の人達は『世界を我が手に』とか『全人類を皇国の元に』なんてくだらない野望を持っていないだけだ。
世界支配とか全人類の管理なんていうバカバカしい、絶対に不可能な妄想を抱かない実に賢明な人達だ。
そして世界中の人々を救うなどとできもしないことを言い出して、自国の臣民達に我慢や危険を強いることもない。
だからこその『絶対防衛』。
攻め込まないし態々助けにも行かないが、辿り着いた善良な人々には手を差しのべて保護し、敵には一切の容赦がない。
明確に敵認定しなければ受け入れてしまうから、他国は『皇国って実はチョロいのでは?』と勘違いするのではないだろうか。
だから、いろいろ仕掛けられちゃうのかなー。
皇国の中にもそういうやつらに乗っかる浅知恵の馬鹿や、それらを利用して何かしようと企む愚者もある程度いるのかもしれないけれどね。
だが、探検援助機構団とか冒険者などの、そもそも皇国があまり信用していないコマしか使えなくなってきているってことなのかな?
そうだとすると、いい傾向……なのだろうか。
まあ、どんないい国だっておバカさんは居るものだからねぇ……
豊かであってもそうでなくても、不満がゼロにはならないのだから。
今回のおバカさん達は……ファイラスさんのこの表情をみていると、結構大変だろうなぁって思いますよ。
死んだ方が楽かもねー。
「ファイラスさん、あの三人の神務士さん達は……多分、関係ないですよ」
「君の魔眼に『嫌なもの』は見えなかったってことかい?」
「はい。それに、人をもてなすために美味しい料理を作れたり、作ろうと努力する人に悪い人はいないと思いますし」
……というか、そう信じたいよね。
誰かを喜ばせることを考えられる人に、人を犠牲にして平然としている奴はいないって。
「……そうだといいねぇ」
「そう、ですよ」
ファイラスさんがテルウェスト司祭に挨拶をして、神務士三人が待っている部屋へと入っていった。
俺は、取り敢えず、今日の所は帰ることにした。
「明後日、二十一日にまた来ますね」
「はい、くれぐれも……その、お気を付けて」
「大丈夫ですよ、シュリィイーレの中では」
これからますます、この町に入ってくる人達への警戒が厳しくなるんだろうなぁ。
雪の季節までは、警戒態勢が続きそうだな。
……ガイエス、他国になんか行って平気なんだろうか?
転移ではなく、歩いて教会から真っ直ぐに青通りを南下する。
町はのほほんとしていて、子供達が走り回り、行き交う人々は笑顔だ。
少しだけ、気分が重い。
まいったなぁ。
刃物を向けられるとか殴られるっていうより、あの男に腕を掴まれた時に信じられないほどの恐怖を覚えた。
どこに連れて行かれたとしても、逃げ出せる自信はある。
昔と違って、怯える必要なんてないはずだ。
だけど、掴まれて即座に反応はできなかった。
もし、テルウェスト司祭が攻撃していなかったら、次の瞬間に俺はあの男が絶命してしまうほどの魔法を放ってしまったかもしれない。
……まさかのトラウマってやつかなぁ……うーむ……
少し、ビィクティアムさんにでも鍛えてもらった方がいいのだろうか。
だが恐怖を感じなくなるっていうのは、痛みに鈍感になるよりも危ないことではある。
適度に恐がれるくらいに……【耐性魔法】じゃカバーできないんだよなぁ、自分の中にある恐怖の克服って。
体術とかできるようになったら、恐怖感が薄れたりしないかなぁ。
ついでに、筋肉、つかないかな……
紫通りを越えて食堂が見えてくる頃、店の入口横の壁に寄りかかっているガイエスを見つけた。
あれ、今日の昼は休みってこと、言ってなかったっけ?
確か転送方陣で、メモを送ったと思っていたんだが……
走り寄ると、すぐに俺を見つけて壁から離れる。
「悪い、昼は休みだって伝えてなかったか?」
「ちゃんと書き付けはもらってたけど、ちょっと腹が減っちゃって。早めに夕食にならないかと思ってさ」
ん?
なんか元気ないな。
どーかしたのかな?
「もうすぐ支度始めるから、奥の部屋で待っててくれよ」
「……ああ」
本当に……どうしたんだろう?
カバロになんか……だったら、もっと大騒ぎか。
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『緑炎の方陣魔剣士・続』弐第142話とリンクしております。
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