第505話 神務士料理試食会
ケーキのプランが決まり、準備も万端の
今日は午前中から教会の司書室で、翻訳作業の続きという名目の読書タイムである。
なぜならば、母さんと父さんは誕生日の前倒しお祝いで、午前中はデートなのでランチとスイーツタイムは本日はお休みなのだ。
ふたり共ウキウキで、西地区の音楽堂へと行ってしまった。
……俺も今度、メイリーンさんを誘って行こうと思っている。
神務士さん達には『一等位魔法師としての仕事で司書室の本を使うので』という理由で、俺が来ている間だけ司書室は立ち入り禁止をお願いしている。
もうひとりの神務士は、レトリノさんと言うらしく元従者家系の三男坊のようだ。
今まで来た研修騎士達とは、全然違う雰囲気だな。
どちらかというと、去年の試験研修生に似ているかもしれない。
シュレミスさんは……ものすっごいワクワク顔なのだが……どうやら俺が、何か新しい魔法や魔具を研究していると思っているようだ。
魔法師に対する期待度が半端ない。
アトネストさんが一番落ち着いているよね。
ほっとするよ。
そして俺が司書室に向かおうとした時に、テルウェスト司祭からあるお誘いがあった。
「本日は教会で昼食を召し上がりませんか? 神務士達の作る食事が、随分と美味しくなったのですよ」
おや、簡易調理魔具の成果を見せていただける、ということですな!
「それは嬉しいですね! お邪魔でなければ、是非」
俺がそう言うとシュレミスさんとレトリノさんが『お任せください!』と声を揃える。
ふたりは仲良しさんなのかな。
うん、本当に楽しみだ!
さて、司書室で神話の五巻を広げつつ他の本を読ませてもらおう。
まずは魔法関連。
属性別で何冊かに分かれているが、どういう魔法があるかということやその魔法がどういうものであるかなどが書かれている。
うーん、やっぱり現代語のものは情報量が少ないよなぁ。
ただ、面白そうな本も数冊、あった。
その中には他国出身者が、どうして皇国で魔法を上手く発動できないかを研究したものもあったのだ。
これはどうも古代語の本が元々あって、訳されたもののようだ。
大元らしいものはこの部屋にも、下の秘密部屋にもなかったから他領の方の書いたものかもしれない。
ちょっとこいつはコピーをもらっておこう。
それからもう一冊。
有名な加護法具がまとめられているものがある。
おそらく、百年くらい前のものまでだろう。
各家門で公開されているものの、カタログみたいなものだ。
……ガイエスが着けていたものがあったよ。
『
随分と古いものだったみたいだなぁ。
怪我をした領主の妻のために作られた『魔力流脈を整える加護法具』だったようだ。
なるほど。
あいつがあれだけ流れが狂っていた左足でもなんとか歩けていたのは、この法具のおかげだったのかもな。
セラフィラントにかなり貢献しているのだろうから、セラフィラント公から下賜されたんだな、きっと。
うん、よかった、よかった。
他にもいろいろと載っているので、今後の参考にさせていただこう。
……ここに載っているものと同じようなものだと、加護法具認定されちゃうってことだからね。
効果が被ったりしないように、似たような物を作らないようにするためにも。
今更、なのは解っている。
一段落ついて席を立ち、背伸びをしていた時にテルウェスト司祭が扉の向こうから声をかけてきた。
どうやら昼食の準備ができたみたいだ。
急に空腹感を感じるのが不思議だが、ナイスタイミングである。
おっと、神話の第五巻は秘密部屋に戻しておかなくちゃね。
用意されていたお食事は、シュレミスさんが作ったという鶏肉の香草焼きとレトリノさんが作った玉葱とジャガイモのフライ、そしてアトネストさんが作ったパンが並んだ。
うーんっ!
どれも美味しいですっ!
鶏肉はジューシーにできているし、フライはどちらもぱりっとホクホク。
パンも皮がしっかりしてて、さっくり焼き上がっていますよ!
素晴らしいできです、皆さん!
きっと、みんないい技能を持っているんだろうなぁ。
……このパン、何個でも入る。
「みんな、簡易調理魔具を随分使えるようになったのですよ」
テルウェスト司祭が、ちょっと得意気だ。
三人ともニヨニヨしちゃって、そりゃあ、司祭様に褒められたら嬉しいよねぇ。
神官さん達だけでなく、神務士の方々も積極的に料理に取り組んでくださっているみたいでいろいろと質問された。
簡易調理魔具のことも随分と考えて使ってくれているみたいで、嬉しいよね。
そしてそろそろ食べ終わるかという頃、教会を誰かが訪ねてきたようだ。
察知しているのは、テルウェスト司祭とアルフアス神官とラトリエンス神官だけのようだが。
【空間魔法】と鑑定系技能の応用だろうなぁ。
カルティオラ傍流家系のアルフアス神官の魔法だな、きっと。
先に食べ終わっていたヨシュルス神官と、ガルーレン神官が対応に部屋の外へ。
俺達は食べ終わってから、ゆっくりと聖堂へと入り……ふたりが来客三人と、なにやら揉めているのが見えた。
「ですから、今日は司書室には、どなたも入れないのですよ」
「何言ってるんだよ、ここの司書室で待っているからって、頼まれてきているんだぜ。ちょっとだけ入れてくれりゃいいんだよ!」
「この教会の司書室は、この町の在籍者のみしか入れません。お約束の方の名前を教えてくださいと、何度も……」
直轄地であるシュリィイーレ教会の司書室は、この町在籍の成人、この町の銀証以上の人と一緒に来た人だけしか入れない。
あとは、神官同行で司書室にいる間付き添ってもらうか、だ。
そんなことは町の人ならば誰でも知っていることなので、司書室で他領の人と待ち合わせなんてことは絶対にしない。
他領では、他の町の在籍者でも気軽に司書室に入れるからうっかりしたのかもなぁ。
だけど……あの人たち、どう見ても皇国人っぽくないんだがな?
他国人だと、ほぼ絶対に
俺と神務士さん達が遠巻きに見ていると、近寄っていったテルウェスト司祭や神官さん達を押し退けるようにこちらに寄ってきたひとりがアトネストさんに声をかけた。
「なんだよ! いるなら早く出てこいよ!」
アトネストさんは目を白黒させている。
「あの……なんのことでしょうか?」
「受け渡しに来ただけだ。あんたにはこれだろう?」
「……なんですか? これ」
アトネストさんはまったく心当たりがなさそうだが、彼らは何をしたいのだろう。
「連れていくのはこのガキだな!」
え?
突然、そいつが俺の腕を掴み、引き寄せた。
ぼあっ!
そいつの後頭部に炎の塊があたり、悲鳴が響く。
俺は近くにいたアトネストさんの手を掴み、怯んでいるふたりと燃え上がった髪の毛から必死に炎を消そうともがく男から距離を取った。
この聖堂で魔法を使うとは……あ、扉が開いたままだから、結界が働いていないのか?
いや、結界を超える段位の魔法かも、と顔を上げたら倒れた男の真後ろにはテルウェスト司祭……
この火炎は、テルウェスト司祭の血統魔法か!
そりゃ、結界あっても関係なさそうですなー。
絶対遵守魔法は熱系だったけど、血統魔法には火炎系があったもんな、テルウェスト家門。
「この痴れ者がッ!」
ガルーレン神官、ラトリエンス神官が、呆然としていた侵入者ふたりをあっという間に押さえ込む。
おお……素早い……
「タクト様に手を出すとは……万死に値するっ!」
倒れている男に向かって、またしても魔法を打ち込むつもりなのか司祭様の右手に魔力が集中する。
テルウェスト司祭っ!
お、抑えてっ!
うわぁ、目がイっちゃってるーーっ!
「そこ迄です、司祭様」
す、とその男達とテルウェスト司祭の間に入ったのは、ファイラスさんだ。
はーー……よかったぁ。
次にあの炎熱が放たれたら、絶対にこの人達丸焦げだったよ。
……神務士さん達は、呆然としているねぇ。
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『アカツキは天光を待つ』の第64話とリンクしております。
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