第486話 身分証入れ改造
「東市場近くの店で、おまえが身分証入れの金属を作っているって聞いて……作れるか聞きたくて、だな」
「身分証入れ?」
なんだか、意外なお願いが来たぞ。
特別派遣探掘員証、壊れちゃったのかな?
だが、そうではなくて『二枚入れ込める』ようにグレードアップして欲しいらしい。
王都の中央役所に口座を作ったらしく、その証明証が身分証と同じ大きさの金属板なのだとか。
……稼いでいるんだな、冒険者くん。
「これを王都に入る越領門でみせると入領費が免除になるから、取り出しやすくしておきたいんだ」
そして身分証と一緒に鑑定板に載せるらしいので、二枚一緒に入れられる身分証入れがあれば取り出さずにケースごと鑑定してもらえるのだそうだ。
身分証は必ず、首から提げておかないといけないからな、皇国内の移動でも。
それならば、以前エイリーコさん達に作ってあげたみたいな『スライド式複数枚入れ込み型』にしてやろう。
あの通行許可証と同じだもんな。
今回は回転式ではなく親指一本で、横スライドするタイプで作ってみた。
流石に、三枚入れることはないだろうし。
口座証明は裏を見せる必要がないが、身分証は裏書きも見せる場合がある。
表面は常に見えていなくてはいけないので、フレームだけ金属で裏は強化硝子だ。
鑑定板に載せたり、魔力照合などで使うから硝子で覆っちゃう訳にいかないもんな。
でも、このスライド部分が外れちゃっても、身分証や口座証明を入れたケースが胸元にくっつく紛失防止仕様なのは変わりない。
パーツが多くなると、破損などのリスクも高くなるからね。
こんな大切なもの、絶対になくせないからな。
再発行はできるけど、その手続き完了までに何があるか解んないし。
ちょっと厚みが変わったので、バチカンも交換。
リールも付けておいてやろう。
取り出すのが多いなら、いちいち鎖を外すよりこの方が安全だろう。
最近作ってもらっているやつは、引っ張り出して任意の位置で止めることができるタイプが主流だ。
で、しまう時はもう一度軽く引っ張ると、しゅるるって巻き取るタイプ。
大小のサイズ展開もしているようで、身分証ケースだけでなく色々なものに使われている。
俺が糸に【強化魔法】とかをかけているのは身分証ケース用だけなので、その他は製造許可を出しているデーニヒスさんの金属加工工房にお任せである。
ガイエスが上体を乗りだし気味に、俺の手元を見ている。
実演販売を見ているお子様達みたいだな。
魔法での加工なんて、普通あまり見ないものなんだろうなぁ。
ここにはこの間、ガイエスから取り出した
折角なので、五角形で星形カットに加工した物を……魔石の予備としても、悪くはないだろうからな。
貴石ってカットと研磨が綺麗にできあがっていると、魔効素循環が起きやすいって気付いたんだよね。
迷宮品で魔瘴素や魔効素が溜まっていたのも、石の大きさよりは仕上げの良さがポイントになっているみたいだったし。
普通の鉱石の状態だと保持力がイマイチなのも気になっていたから、持っていたものを全部比べてみたのだ。
「……加工の仕方で、魔力の保持力も変わるのか……?」
「俺はあまり魔石を使わなかったから、気にしていなかったんだけど。この間、おまえの迷宮品見せてもらっただろう? 俺が持っているものでも、自然石の状態だと石の特性次第なんだけど、加工したものだと加工方法や研磨の状態でかなり変わるんだよ。それにおまえは聖神三位だから、紅い石の方が魔力が効率よく取り出せるし」
「加護神でも、違うのか……」
「そうみたいだよ。俺だったら青い石の方が効率いいし、紅い石だと同じ魔法でも魔石からの魔力がなくなる量が多くなる」
本当に、セラフィエムスの蔵書は素晴らしい情報の宝庫だよ。
ガイエスはセラフィラントの在籍だから、領主様の持っていた蔵書の知識を伝えても問題あるまい。
遊文館ができたら、ガイエスにもセラフィエムスの蔵書は読めるわけだしね。
まだまだ色々な、忘れられていることや隠されていたこと、広まっていないことがこれから集まる本でも解るだろうな。
一部の人しか知られていないことも、この町の子供達には全部きっちり残すからね。
はい、できあがり。
まずは下のケースに口座証明を入れて、スライドする上のケースには身分証。
どうかな?
重くはないはずだけど、厚みが変わったしパーツも増えたから服の中に入れると気になるかな?
「軽いな。糸が伸びるのか! 便利でいいな!」
「鑑定板にも届く長さまで伸ばせる。この町の外門食堂だと、入る時に身分証を翳すだろう?」
「ああ、助かる」
いやいや、移動がスムースにできるように計らうってのは、依頼達成補助として必要ですよ。
代金を聞いてきたからトリセアさんの所で売ってもらっている金額くらいを言ったら、安すぎると言って小金貨一枚を押しつけてきた。
いや、身分証ケースでこれは、ぼったくりだろうが。
なのに『小銭がないから』とか、お金持ち発言ですよ。
……まぁ、ありがたくいただいておくよ。
では、スイーツタイムを食堂でごゆっくりどうぞ。
今日はこの後、母さんたちのお茶会なので小会議室は『お洒落カフェ』に変身なのだ。
食堂に戻り席に着こうとしたガイエスの動きが、丁度その時に入ってきた人を見て……止まった。
初めて見る人だなぁ。
お買い物にでもいらした神官さんかな。
ん?
珍しい色の法衣だな?
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『緑炎の方陣魔剣士・弐』の第122話とリンクしております。
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