第483話 依頼と土産

 さて、本日のランチなのだが、俺はガイエスに今までカレーを食べさせたことはなかった気がする。

 普通のチキンライスのオムライスはあったけど。

 辛いものが平気かって聞いたら、顔がちょっと曇ったので苦手なのだろう。

 甘口のカレーオムライスにしてあげよう。


 野菜が完全に溶けきった、シシ肉ごろごろのカレーオム。

 ちょっとルーが少なめで具材が多めなのは、いつもの仕様だ。

 俺のは、中辛。

 どうかなぁ?


 ……うん、大丈夫みたいだな。

 よかった、よかった。

 俺のも旨ーい。


「それにしても、香辛料を買いに来ただけとは思えないんだが?」

 俺がそう聞いた時には、半分以上を食べ終わっていた。

 早食いだな、こいつ……

 以前より、早くなっている気がする。

 ちゃんと噛んで食わないと、消化に悪いぞ。


「魔法付与された魔具が欲しくてさ」

「迷宮品じゃまかなえないもの?」

「カバロ用だから」


 どうやら他国の森の中や草原などを走っていると、魔虫や魔獣以外の毒虫や蛭のようなものがカバロにくっつくらしい。

 だから、解毒とできれば虫除けになるような魔法が付与された、オーダーメイド品が欲しいのだとか。

 愛馬ファースト、素晴らしい心意気である。


「皇国ってどこもかしこも、そんなたちの悪い虫が少ないんだよ。街道がないところでも、森とか林でも。だからそういう魔具が全然ない」

「……なるほどなぁ。どんな馬具で作ろうとしているんだ?」

「それが……思いつかなくて」


 確かにこの世界では、基本的な馬具しか見たことはないんだよなぁ。

 そして手綱やら鞍、頭絡にも移動用の方陣門に使うための魔石が取り付けられているので、加護法具をどこに着けていいかも解らないのだそうだ。

 んー……確か、競技用の馬とかって四肢にプロテクター、着けていたよなぁ?

 蹄鉄に付与しても良いんだけど、プロテクターを作ってあげた方がいいのではないだろうか。


「『肢巻』?」

「足の下部に巻き付けるもので、動いてる時用と休む時用の兼用。勿論それぞれ別にもできる。足の筋肉や腱を守る効果もあるし蹄鉄がぶつかって傷つくのを防ぐもの」

「それ、どこで作っているか、知ってるか?」

「多分……どこでも作ってない。俺が作れるよ?」

「魔法は確かにおまえに頼みたいとは思うが、宝具師に馬具を作らせるってのは……」


 いやいや、俺はそんなご大層なものではないぞ?

 この間身分証見た時だって、そんな職業出ていなかったもん。

 なんだ、その『嘘つくなよ』みたいな顔は。


「宝具師じゃなければ、どうしてこの加護法具が直せたんだよ?」

「もの凄く段位の高い【加工魔法】と【造形魔法】があるから」


 ……だと、思うんだよね。

 金属類は【冶金遷移】の可能性もあるけれど。

 ガイエスはちょっと考えていたようではあるが、どれくらいの金額がかかるかを聞いてきたので……多分これくらい、と概算の見積もり提出。


「いいのか? 本当に、安すぎじゃないのか?」

「こういう馬装の相場、知ってるの?」

「知らないが」

「なら、これで大丈夫だから」


 俺も知らないから、俺の手間賃と材料費で換算している。

 ……もし、相場より安いって解ったとしたら……お友達割引きとか、社販とかだと思ってもらおう。

 取り敢えず試作するから、とお時間をいただく。


 どうやら次に行きたいのはオルフェルエル諸島らしく、今はまだ嵐のシーズンなのだとか。

 オルフェルエル諸島では、秋口に台風みたいなものが上陸するってことなのか。

 うん、島に行くならその時期は外した方が賢明だよな。


「そうだ、色々渡す物があった」

 そういって差し出されたのは……うちのジップ付き菓子袋。

 またなんか、便利な使い方しているみたいだな……


 あ、『寒風の方陣』が描かれてるぞ。

 しかも、微弱常時発動じゃないか!

 なるほど、魔石を一緒に入れることで魔力を供給し続けていると。

 簡易冷蔵庫という訳か!


 中身は……おおおおおおーーーーっ?

 これ、輸入チーズ売り場で買ったことがある!

 夏場に食べたフレッシュの山羊シェーブルチーズの中で、俺が一番好きだったやつだ!


 あちらでは型崩れ防止で真ん中に生産者の刻印が入った藁が通っているんだが、こちらでは別の植物だな。

 でもストロー状で、藁そっくりだ。

 円筒状の表面に、木炭がまぶされているのも一緒だぞ!

 これって、昔フランス人とかが転移して来たりして広めたのでは?

 まるっきり『サント・モール・ド・トゥレーヌ』じゃないか!


「……知ってるのか?」

「俺、これ大好きー! ありがとうなーっ! いくら?」

 買うよ!

 だって、三本も入っているんだもん。

 二本は熟成させてから食べようーーっ!


「いや、土産替わりだからいい……それと、ロンデェエストとエルディエラの石、な」

 土産……なんて素敵な響きだ。

 では、ありがたくいただくことにしよう。

 そして鉱石もあるとは。

 ……こっちは、平凡ですな。


「あと、この方陣、読めるか?」

 おっ、これってこの間祠で見つけた『清浄の方陣』だな。

「レーテ湖って言う、湖の近くにあった祠に描かれていたんだ」

「へぇ……やっぱり水場の近くだったのか」

「見たこと、あるのか?」

「南の森の中にある泉の近くでね。そっちも祠に描かれていたから、溜められた水を浄化するためだろうな」


 ガイエスに【清浄魔法】の方陣だというと、そうか、と頬が紅潮する。

 この魔法があれば、物品だけでなく大地も大気も広範囲で浄化が可能だ。

 おそらく、地下深くであっても。

 この『清浄の方陣』の特性は『地系』。

 大地から湧き出す水には『地系』の系統魔法が有効だ。


「それは、前・古代文字で書かれていたっていう本に載っていたのか?」

「まだ調べていないけど、ほぼ確実だ。呪文じゅぶんの中に『大地の恵みに神々の恩寵を給う』となっているし、呪文じゅぶんの並びが逆三角形だからな」


 線でなく文字がその形を表す時は、魔法として発動する時にどのフィールドに特化しているか示していることが多いというのが、今のところの集計結果だ。

 しかも、大地と態々書かれているのだから『空系』ではない。


「本当に、おまえには『方陣の仕組み』が……解っているんだな……」

「ほんのちょっとだけ、だよ。まだまだ、資料が足りない」

「集めてきてやるよ」

 え?

「俺が全ての国々から、あらゆる方陣を集めてくる。だから、全部描き直してくれ」


 こちらも……なかなか壮大な夢をぶち上げていますなぁ。

 頼もしい限りだぜ、特派員殿。




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『緑炎の方陣魔剣士・弐』の第119話とリンクしております。

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