第481話 ちょっとだけ誤算?
誕生日にいただいた書斎は、あっという間にずらっと本が並びました。
俺が隣の自室からいそいそと移した本が、父さんとライリクスさんの想像より多かった上に前・古代文字の本まであったせいで、俺よりふたりが本に夢中になるというハプニングも。
マリティエラさんも読みたそうにそわそわしていたから、基本的に本好きなのだろう。
いや、ドミナティアもセラフィエムスも、本が好きな家系かもしれない。
本が書斎にまとまり、スッキリした俺の部屋に増えたのは『鉱石コレクション棚』である。
勿論【蒐集魔法】にも入っているけど、お部屋にも並んでいると楽しいじゃん?
ほっほっほっ!
最高の眺めですぞーーーー!
ガイエスから送られてきている鉱石も、綺麗に飾っておきたかったからねー。
……石板やらの表に出せないモノは、いくら俺の部屋とはいえ流石に展示できないが。
翌日食堂に来たビィクティアムさんは、間に合わなかった……と項垂れていた。
どうやらセラフィラントでやることが重なってしまってて、昨日の誕生日のこともすっかり自分で忘れていたらしい。
……で、当然ビィクティアムさんの誕生日でもあるのだから、お家でサプライズお祝いをされてしまってシュリィイーレに戻れなくなったのだという。
いいじゃないですか、お祝い事なんだから。
で、プレゼント交換ですよ。
男同士で笑っちゃうよね。
しかもお互いに『名前入り千年筆』だった。
ビィクティアムさんが用意してくれたのは、名前の他に俺の年齢も入っている。
……嬉しい。
デザインはもの凄く繊細な、金の竜胆のレリーフが埋め込まれている水晶の細工だ。
俺の方は、黄槿花菱の蒔絵付き漆塗り。
ふたりして千年筆見つめてニヨニヨしてて、傍から見たらちょっと気持ち悪かったかも。
誰も見てないから、いいんですー。
今日は神官さん達に頼まれて、東市場でのお買い物の付き添いである。
何をどれくらい買えばいいのか解らないというので、簡易調理魔具で作り方を覚えるものの材料を中心に保管庫に入るだけ買ってもらうのだ。
三人の神官さん達は勿論【収納魔法】など持ってはいないので、流石に手持ちでは可哀相だから『お買い物リュック』を作った。
カートも考えたのだが、ガタガタ防止のゴムタイヤ製にしても人の多い市場内では迷惑なのだ。
野菜や肉、調味料になるものや香辛料など、説明をしながら目利きなども伝授。
千年筆と樅樹紙の綴り帳でしっかりメモをとりながら、今後は自分達だけでも買い物ができるようにしていただく。
店に寄る度に店主さんに『なんだって神官さん達が?』と不思議な顔をされたが、久々に神務士を受け入れて料理を作ってもらうのだと伝えると納得顔。
中には『大変だねぇ、頑張ってな』とオマケしてくれる店主さんもいたくらいだ。
……やっぱり、大変なのか神務士の受け入れって。
「市場の皆さん、とても優しいですね……」
「ええ、私達は殆ど料理を買うだけでしたが、これからは市場で食材を求めて作ることも増やさねば」
神官さん達は、感激しきりである。
しまった、食材ゲットのライバルを増やしてしまったか。
いやいや何を心の狭いことを。
みんなが美味しいものを作れるようになるのは、素晴らしいことだ。
そのための食材選びが上手くなるのはいいことである。
……だが、俺とて譲る気はないけどな。
秋の食材確保は、冬の幸福度を大きく左右するのだ。
手を抜くわけにはいかん。
一緒に市場を巡りつつ、神務士達のことを聞かせてもらった。
今年の三人は全員が『神従士四位』で魔力が少なめの人達ばかりだそうだ。
第三位になるには、少なくとも千五百以上の魔力が必要らしい。
「第四位は神務士としての基本ができているけれど、魔力が少ないという者が多いのです」
「だから、余計にシュリィイーレで……と言われてしまったのですよ」
「この町にいるうちに魔力量が増えた試験研修生が去年、大変多かったそうですから」
それって、千年筆の使用とかも要因になっているかもしれないな……
去年の試験研修生達は初めてってことでもの凄く色々試していたから、余計に魔法関連の訓練も多かっただろうし。
「でも、今回は魔力量が少ないというだけではなくて、ちょっと問題のある神務士みたいなのです……」
はー……と、三人が一斉に溜息を漏らす。
「ひとりはガウリエスタからの帰化民なのですが、とても消極的で自分から同僚の神務士達に話しかけることが殆どないということですし」
「もうひとりはアーメルサス人で、皇国に来て日が浅くまだ帰化できないのですが、とにかく魔力量が低い上にあまり協調性がなく」
「皇国人で元従者家系の息子というもうひとりは、未だに従者気分が抜けないらしく態度が大きい……というのですよ」
リレー方式で三人が三人を説明するという、なかなかいいチームワークだ。
そして来る予定の神務士達は、悉くコミュ力が低そうである。
シュリィイーレ教会の方々は皆さんどちらかというと話し好きで、町の方々ともよく関わるし子供達にも好かれている。
コミュ障さんだと、この町の教会はつらいだろうなぁ。
しかも冬……氷結隧道が作られるとはいえ、天光の差さない移動経路はストレスが溜まるだろう。
時折お菓子でも持って、様子見に行ってあげようかな。
そういう人達の相手をしなくちゃいけない、テルウェスト司祭や神官さん達が心配だから。
実をいうと神務士さん達が来るのは俺としても想定外で、遊文館ができたら当面は子供達とも仲の良い神官さん達に、交代で遊文館にいてもらえないだろうかと思っていたのだ。
冬場は教会を訪れる人がぐっと減るし、手習い所もなかなか開くことができない。
その間は遊文館を使ってもらって手習いを続けて欲しかったし、子供達も神官さん達がいれば新しい施設でも来やすい。
そして、何より、大人達に信頼してもらえる。
衛兵隊も神官さん達も頼れないとなると……どうしたものか。
……自警団のおっさん達だとなぁ……女の子達は怖がるだろうし。
かといって、子供の扱いが上手いお母様方だって、自分達の家や子供達で冬場は大変なのだ。
あと、候補としては子育て終了の南東地区リタイア組の方々に、ご協力いただけるかどうか。
問題は在籍地の確認なんだよなぁ。
南東地区は他領に在籍のまま住んでいる人も多いけど、どこが賃貸かなんて教えてもらえないだろうし。
マダム・ベルローデアに相談してみるか?
いや、テルウェスト司祭だな。
ビィクティアムさんだと、衛兵隊に負担が増えそうだし。
それと、もしもシュリィイーレ在籍のレイエルス家門の方がいらしたら、それが一番良いような気がする。
皇家……でもいいんだけど、皇系はいないような気がするなぁ。
翌日にテルウェスト司祭にご相談したら、なんとレイエルス家門の方が三家族、皇系の方は六家族もいらっしゃるようだ。
全員がシュリィイーレに在籍地をご変更なさっているらしいので、その点でもノープロブレムだ。
ならば、まずはレイエルス神司祭にお問い合わせをしつつ、レイエルス家門の方々に遊分館で子供達が遊んでいる所を見守っててもらうような『仕事』を頼んでも平気か確認しよう。
……流石に、金証のご家門に『ちょっとパートか非常勤勤務しませんか?』といきなりお願いはできない。
「申し訳ありません、何度もお呼び立てしまして……」
「とんでもない。あなたとお話しできるのは嬉しいですよ、スズヤ卿」
レイエルス神司祭はこう仰有ってはくださるが、聖神司祭様を気軽に呼び出すとか何様だよって感じですよね……
そして『実は……』と、非常勤勤務のお願いをしても失礼にならないかを確認した。
当然『勤務』なのだから、幾許かの賃金の発生する『雇用』になる。
人に雇われるということを是とできるかどうかも、問題なのですよ。
管理運営の仕事なんてほぼないし、本の手入れとか棚戻しなんてものも必要ない。
清掃も整理整頓も全部魔法でやっちゃうから、考えなくていい。
だけど、金証、銀証の方だけでなく、この町にいる他の方と同じ仕事をしていただく可能性もある。
場合によっては階位が下の人の言うことも、聞いてもらわなくちゃいけなくなる。
「……レイエルスは問題ないとは思いますが……皇系は、ちょっと難しいでしょうね」
「やっぱり、そうですよね……」
「皇系の方々は子供が好き過ぎて入り浸りそうですから、仕事、には向かないかと」
そういう意味かっ!
それなら『お仕事』としてでなく『遊びに来てくださいね』で子供達の面倒をみてくれそうだなぁ。
まぁ、子供達だけでなくて、必ず大人もいるっていう状況ならいいんだよな。
子供達が遊び回っているのを見守ってくれるとか、ちょっとだけ子供達と遊んでくれる感じで充分だよな。
しかし、大人達が勝手に子供に、自分らの持論を押しつけられるのは困る。
あくまで子供が主体で、学校ではなく『遊び』がメインなんだから。
管理代行は欲しいのだが、教育者は要らないのだ。
遊文館は『本が沢山読める室内公園』で『希望者は美しい文字と方陣が学べる』がベスト。
「確か常駐の医師の方も計画されていましたよね?」
「はい、そちらは医師組合にお願いするつもりです。やっぱり、自警団の人にも頼むべきですかね……?」
「子供同士とはいえ、喧嘩や暴力行為がないとは言い切れませんからね……何かあった時に、抑えられる人がいることは必要でしょう」
厳ついおじさんがいるってのも、喧嘩とかの抑止力になるかもしれないなぁ。
「レイエルスで、自警団の方もおりますよ?」
「えっ?」
「ふふふ、結構いるのですよ。衛兵隊にいた者も多いですからね」
それは頼りになるな!
そうか、元衛兵隊員なら余計に信頼されそうだな。
是非とも御依頼に伺わねば!
「それと陛下からの寄贈書ですが……実は、既にお預かりしております。お持ちしても差し支えございませんか?」
「大丈夫ですが、何冊くらいあるのでしょう?」
「……ざっと、五百冊ほどでしょうか」
「思っていたより多いですが……はい、なんとかうちでお預かりできます」
「では、後日馬車にて運び込みますので」
明らかに、レイエルス神司祭がほっとした顔をしているな。
貴重な本っぽいなー。
何が、書かれているのかな?
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