第479.5話 十八家門会議

「……では、神典の最終巻、と正式に発表ということですね?」

「聖神司祭全員から、間違いないであろうと確認も取れているようですが……最終的には、シュリィイーレの輔祭殿に訳文を依頼し、改めて内容確認をしてからですな」

「使命の達成おめでとうございます、マントリエル公。悲願が叶いましたなぁ」

「ああ、ありがとう、ルシェルス次官」


「ならばこれでご領地の外への訪問もなくなる、ということですわね」

「……!」

「そうであろうなぁ、これでマントリエル公もコーエルト大河の護岸に専念できるのですな。いや、よかった」

「我がゼオレステとしても、これで安心です。実におめでたいことですわ!」

「う、うむ……今まで、いろいろと苦労を掛けた……からな……」


「確かに、あの大河の可動と言いつつ、全く動いておらぬ可動堰を撤廃せねばならぬでしょうからこれからも大変ですなぁ!」

「あまりに古過ぎますものね……それについては、セラフィラントから小型高速魔導船での作業協力をなさるとか?」


「既に大河ほどの浅さでも、資材運搬できる船はできておる。可動堰を解体したものを、そのまま運び出せる」

「でも、あの可動堰はかなり古い時代ではあるが、強固な魔法での建築だ。壊せるのか?」

「ハウルエクセムとセラフィエムス、カルティオラの魔法で、可能と判断しました」


「カルティオラの魔法での空間制御があるのですから、魔法を集中できますもの。可能ですわね」

「ウァラク公……ハウルエクセムは解るが……セラフィエムス? 迅雷か?」

「迅雷もですが、セラフィエムスの魔法には土系もございますからな。それに、ゼオレステの移動系魔法があれば、大河を汚すことなく作業もできましょう」

「運び出した資材はどうなさいますの?」

「一部は廃棄となろうが、殆どはセラフィラントにて再加工し、マントリエル沿岸の工事に使いますよ」


「……あ、まさか、以前ご計画を伺った……『港』ですか?」

「コーエルト大河に沿うマントリエル側の大地は、かなり水を含んでいるかと思うのですが……?」

「解消できそうな魔法がございます。それと、以前リバレーラの護岸工事に使われた技術も」

「それは素晴らしい。コーエルト大河に『港』ができれば、オルフェルエル諸島への海路も開けますわね」


「他国との交易というより、北海の魔魚調査が目的です」

「そうですな。オルフェルエル諸島にも例の毒物が出回っている以上、あまり交易をするのも考えものです」

「ウァラク公、それはタルフ毒ですか? あんな北の方まで?」


「原材料はタルフで間違いなさそうですが、作っているのはドムエスタのようですな……相変わらず、あの国は毒や火薬などが好きなようだ」

「他国に魔獣を溢れさせて、どうするつもりでしょうか」

「あの国の思惑は、想像できん。そもそも理解できぬ考え方が多過ぎる。セラフィラントでも今は水際で止めることができておるが、警戒は必要だ」


「東の小大陸は今後どのように?」

「……タルフは……止めるべきでしょうな」

「ほう? セラフィラント公がそう仰有るのは珍しい」

「カシェナに何かございましたの?」

「いいえ、南の島で偶然発見された本を、冒険者から輔祭殿が手に入れられましてな。あまりに衝撃的なものでしたので、訳文をわたくしに預けてくださったのですよ」



「……」

「……これ……タルフの?」

「前・古代文字とタルフ文字、そして古代マウヤーエート文字と思われるものが混ざった筆記だったようですが、ほぼ間違いのない訳文と思われます」


ばんっ!


「ロンデェエスト公、お気持ちは解りますが」

「……すまない、つい……」

「無理もございませんわ……なんです? このおぞましい所業は!」

「実際に、つい最近のミューラやディルムトリエンでも行われていた形跡がございました」

「えっ?」


「セラフィラントで帰化したミューラ人とディルムトリエンからの渡航者達を【身循しんじゅん魔法】と『身体鑑定』にて調べましたところ、何人かの肩や足の骨の中に『貴石』が埋め込まれており、著しく魔力の流れが狂わされておりました」

「頭部や心臓付近に埋め込まれた方は? セラフィラント次官」

「いいえ、それはいませんでしたな。あの国々の上位の者達は……悉く国と共に滅んだか、オルフェルエル諸島などに亡命しているのでしょう」

「……吐き気がするわ……」

「本当……タルフともオルフェルエル諸島とも、当分関わりたくありませんわ」

「リバレーラでも、その調べを進めておきます」

「ええ、ルシェルスでもそれらの国々から逃れてきて、働いてくれている者達は多いですからね。彼らの魔力量が増えないうちに、早めに対応しなくては身体を壊してしまう」



「ウァラク次官、アーメルサスはいかがでしたの? あの国にいた皇国人は全て救い出せたとは聞きましたけれど」

「ああ、それは問題ない。毒関連についても、対応はできておる。資料は先ほど配ったものだ。だが、あの国では『赤月の旅団』なる反乱組織があり、国の神職達と対立している……という話になっておる」

「つまり、本当に『対立』したり『反乱』が起こっているとは思えないということですか?」

「やっていることがあまりにちぐはぐでしてなぁ。その辺りはまだ調査中ですので、わかり次第ご報告いたしますぞ」


「あとは……?」

「ああ、個人的なことなのだが、よいかな?」

「ええ、なんでしょうか、セラフィラント公」

「実は先日、我が家門全ての蔵書の見直しをしておりまして」

「まぁっ! セラフィエムスのあの膨大な?」

「その中に……大変貴重なものが何点か見つかったのだ。前・古代文字で書かれておりましたため、全く解らなかったのだが……マントリエル公が発見なされた、神話の五巻と比べていただきたいのですよ」


「ちょ、ちょっと待て、ダルトエクセム! まさか、セラフィエムスの蔵書に……?」

「全文ではなく、一部だがね。神典一巻の外典のように、分冊されていたものと思われるのだ」

「……こ、これは……間違いない! 神話五巻にあった物語……!」


「我が家門にあったのはこれだけだが、皆様の蔵書の中にももしかしたら前・古代文字の本の中に紛れ込んでいるかもしれませんぞ?」

「しまった……この間、整理しろとガシェイスに……!」

「うちもですわ! リザリエ……ああっ! 大変っ! あの子、絶対に捨ててしまうわっ!」


「他にも何冊も、魔法や極大方陣に関する本が発見されました。その内容は、今、訳文を製作していただいている。皆様方も今すぐに、蔵書の『前・古代文字』のものをご確認くださる方がよろしいと思う」


「なんということだ! 交易もない他国のことなど構ってはおれん!」

「すぐに戻りましょう。うちは捨ててはいなくても……保存状態が気になるわ」



「蜘蛛の子を散らしたように、いなくなりましたな」

「帰化民達の検査、大丈夫でしょうかねぇ」

「それは平気だ。儂の方から既に、各領地の医師組合と魔法師組合に連絡するように伝えてある。それに、上がガタガタ言わん方が、現場はやりやすかろうて」


「見つかった場合の処置は、すぐにできるのか?」

「ああ、それは司祭達にも頼むことになるだろうが、なんとかなる」

「それで、ご当主達には別のことに夢中になっていただこう……と?」

「この件は当主達より、次代達に動いてもらった方が確実で早いからのぅ。彼らは実に行動的だ」

「確かにそうですね。何かあっても、我々が容易に他領に赴くことはできませんからねぇ」


「それはそうと、アデレイラ、書庫の確認はしたか?」

「ああ……だが、セラフィエムスほど古いものはないかもしれない……」

「初めて、うちが整理整頓を面倒くさがる家系でよかったと思いましたね」

「カルティオラは整理しなさ過ぎだ。もう少し、まともに管理せんか」


「ミカレーエルでは、どうだった?」

「うちも、前・古代文字のものは数十冊程度でしたよ……今、別邸も捜索中です」

「セラフィエムスみたいに万単位で取っておく家門なんて、殆どないだろうさ」


「前・古代文字の本は、タクトが読みたがるからな。複製を作ってもいいと言えば、直してもらえるかもしれないぞ?」

「是非ともお願いせねばならんな……」

「スズヤ卿は、古い本もお好きなのか?」

「知識を得ることが楽しいのであろうなぁ。本を読んでおる時は、とても楽しそうであったからな」


「おい、タクトはセラフィラントに行ったのか?」

「この間、うちに遊びに来たのだよ」

「なっ、なんで呼んでくださらなかったんですか、ダルトエクセム殿っ!」

「あ、すまん、レナリウス……忘れとった」

「デートリルスにもいらして欲しかったのにーー!」


「ロンデェエストに招待して……来てくれると思うか?」

「タクトは、シュリィイーレの外に出るのを好まぬからのぅ。シュリィイーレとの越領門があるから、セラフィラントに来てくれただけだから、なければ……嫌がるかもしれんな」


「そんなの、絶対に無理ではないかーーーー!」

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