第478話 心配性さん

 ……夜が、明けた。めっちゃいい天気である。

 徹夜、しちゃったね。

 だってさ、なかなか衝撃の内容で吃驚しちゃって眠れなかったんだよ。


 ちょっとヘロリンモードで部屋を出たら、母さんに睨まれてしまった。

「また本でも読んでいたんでしょ?」

「……うん、つい……」

「いつも言っているでしょう? ちゃんと眠って、沢山食べる! タクトは夜更かしばっかりするんだから!」

「はぁぃ……ふぁ……」


 あ、いっけね。

 欠伸、出ちゃ……


「今日は、外出禁止」

「えええーっ!」

「そんな顔色で、外を歩き回るなんて絶対にだめっ! 食べたら、少し眠りなさい!」

「別に具合が悪い訳じゃないんだから……」

「悪くなってからじゃ、遅いのよ」


 はい……仰有る通りですね。

 食事と同様、睡眠もこちらの世界ではあちらよりも切実に必要なものだ。

 魔力流脈が落ち着き、魔力の流れが穏やかになる睡眠時に身体と脳の回復が行われるから。


 ガンガンに魔力が巡っている状態というのが身体には負担なのだから、当然である。

 食べること、そして眠ること。

 全部生きてく上で大切なのだから、さぼってはいけないのだ。


 俺はどうしてもあちらでの感覚で夜更かししがちだが、マジで改めた方がいいんだと思う……

 メイリルクト飲んでから……午前中は寝ていよう。



 おそようございます!

 ランチタイム直前で、完全回復睡眠摂取完了です!

 元気いっぱいで食堂に降りていったら、今度は父さんにダメ出しをくらった。


「一刻半しか眠っていないじゃねぇか!」

「もうすっかり元気だし!」

「徹夜して、一刻半で身体が回復する訳ねぇだろうが!」


 そんな、食堂中に聞こえるように言わないでよ。

 うわー……マリティエラさんとメイリーンさんにも睨まれたー。


「大丈夫だよ? ちゃんとメイリルクト飲んでから眠ったし……」


 俺はむしろ褒められるのではと思って言ったこの言葉に、メイリーンさんが珍しく本気モードでお怒りに!


「タクトくんっ! 体力の回復薬はねっ、そーいう無茶をするためのものじゃないのっ! お薬があるからって、無理したりしちゃ駄目っ!」

「……はい……ごめんなさい……」

「お薬の力を信じてくれるのは、嬉しいけど、頼り方が間違ってるの。お薬は不摂生をなかったことにするためのものじゃ、ないの。そんな使い方してたら、タクトくんの身体の回復する力、弱くなっちゃうよ?」


 ……仰有る通りでございます。

 マリティエラさんだけでなく、父さんと母さんだけでもなく、食堂にいる人達までもに大きく頷かれてしまった。


「そぅねぇ、タクトくんはちょっと休んだ方がいいわー」

「いつも自分で言っているじゃない? ちゃんと食べてちゃんと寝る、って」

「そうそう」


 ううう、ご近所の奥様方にまで……

 その日はメイリーンさんのご指導の下、俺は自室で謹慎……じゃなかった、休養となった。


 ベッドにころんと横になったら……ソッコー寝落ちて二時間ほど経ったので、やっぱり睡眠が足りていなかったみたいだ。

 しまった、うっかり掛布かけないで寝ちゃったら、ちょっと寒い。

 ……夏、終わったんだなぁ……


 あ、思い出した。身分証、確認しなくちゃって思っていたんだったよ。

 セラフィエムスの書庫で見た時は【星青魔法】の衝撃で、他は碌に見ていなかったもんなぁ。


 えいやっ、と。

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 名前 タクト/聖文字魔法師カリグラファー

 家名 スズヤ 

 聖称 エステレェリィアズール

 年齢 28 男

 階位 貴系純統 特等位

 殊勲 イスグロリエスト大綬章

    教会偉勲章

 在籍 シュリィイーレ 移動制限無

 養父 ガイハック/鍛冶師  

 養母 ミアレッラ/店主

 仮婚約 メイリーン/調薬師

 保証人 イスグロリエスト・シュヴェルデルク

     イスグロリエスト・アイネリリア

 証明司祭 ドミナティア・セインドルクス

 魔力 530327


 【神斎術師 正階】

 硬翡翠掩護・初代 

 貴剛鉱掩護・初代

 神眼 : 蒼・真   

 祭陣・真 

 位相変調・正 

 冶金遷移・真


 【輔祭 第一位階級】

 書師・特位


 【神聖魔法師 一等位】

 神聖魔法:極光彩虹・完成

 神聖魔法:天翔空軸・完成

 神聖魔法:麗育天元・完成

 星青魔法:地/柔・特位


 蒐集魔法・極冠 文字魔法・極冠

 付与魔法・極冠 集約魔法・極冠

 加工魔法・極冠 複合魔法・極冠

 耐性魔法・極冠 治癒魔法・極冠

 音響魔法・極冠 顕微魔法・極冠

 金融魔法・極冠 彩色魔法・極冠

 発酵魔法・極冠 言語魔法・極冠

 臨界魔法・極位 清浄魔法・極位

 迷彩魔法・極位 探知魔法・極位

 精神魔法・最特 予知魔法・最特

 造型魔法・最特

 建築魔法・特位 複写魔法・特位

 迅速魔法・第一位

 風制魔法・第三位 


 【適性技能】 

 〈極冠〉

 鍛冶技能 金属看破 神詞操作

 貴石看破 鉱物操作 動体操作

 魔眼看破 成長操作 液体鑑定

 大気調整 大気看破 液体調整

 予見技能 身体鑑定 感覚操作  

 〈極位〉

 海洋鑑定 魚介鑑定 木工技能 

 魚介育成 表象技能 

 〈最特〉

 造営技能 普請技能 映写技能

 〈特位〉 

 粒子操作

 〈第二位〉

 獣類鑑定 創図技能 均平技能

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 ……魔力増量と【星青魔法】は、もうしょうがないとしか言いようがない。

 その他の魔法や技能も段位は結構上がっているけど、おまとめ機能は働いていない様子である。


 魔力量は、コレクションさんの後払い型パワーバンク分を足してこの数字なので、そちらを非表示にしたら『164114』だった。

 通常の表示は、五割の『82057』にしておこう。

 かなり多いけど、ビィクティアムさんに六万くらいの時に見られてて、プラス二万って言っちゃったからこのくらいで出しておかないとな。


 増えているのは【風制魔法】だな。

 えーと……あ、風系の中位魔法みたいだ。

 なんで、風系の魔法なんて出たんだろうか?

 もしかして『寒風の方陣』で、風量を調整したりする方陣を組んだからか?


 技能の方の『創図技能』は、設計図製作のたまものでしょう!

 ……描画には、ならなかったかー……

 いやいや、これからかもしれない。

 うん、【複写魔法】も特位になったことだし、これからに期待だ!

 希望を捨ててはいけない!


 謎技能がふたつ……『粒子操作』は、ここんとこ爆発物無効化とか化学式使ってのフッ素樹脂加工とかやっていたせいかもしれない。

 この技能は【加工魔法】【制御魔法】と組み合わせたら物理では無敵だな。


 しかし、『均平技能』が一番よく解らない。

 平均でも均一でも、均等でもないんだよな?

 もしかして『ならす』に、特化した技能ってことなのかな?

 表面だけか、組成までもか、物理だけなのか、精神状態も……なのか。


 使い方間違えると、ヤバイ技能だったりするのかもなー。

 気をつけなくっちゃね。

 ……使い方、全然解っていないけどねっ!


 どっちも『生命の書』には載っていないんだよな。

『生命の書』はどちらかというと魔法のことが多く書かれているから、技能特化のガイドが欲しいなぁ。


 ぼんやりと、天井を眺めながら考える。

 昨夜、徹夜しちゃってまで読んだ石板の歴史。


 セラフィラントの北東と、ヘストレスティアのテルムントに達する辺りにはどうやら陸地があった。

 現在のロカエから東……多分俺が去年直した海底に埋まっている三角錐は、昔は『大地の地下』だったのかもしれない。


 あの辺りは潜ったら遺跡とかあるんじゃないだろうか。

 ……魔魚がいるだろうから、海底での作業なんて現実的ではないだろうが。

 その内『遠視とおみ』が方陣じゃなくて魔法として手に入ったら、海系のフィールド特化のある魔法と組み合わせれば視えるかもしれない。


 ヘストレスティアとなっている西側半分と、ガストレーゼ山脈で連なるそのロカエ北東部もかつてはイスグロリエストだったのだ。

 おそらく、ロカエ東部は海底での地殻変動で崩れたのだとは思うが、その原因がこの星そのものにあるのか魔法のせいなのかは解らない。


 この石板の作成時には、その地は……マントリエル、と呼ばれていた。

 そしてヘストレスティア西部、今のコーエルト大河付近にあった皇国領はシュヴィリオンとレイエルスの土地『シュディーヤ』だった。


 ……これは、かなりの重大情報だよなぁ。

 今現在のマントリエルは、かつてはウァラクの一部だった。

 現在『大河』と呼ばれているコーエルト川は、その頃には『深く高い山が両岸にあるので橋がかけられないが細い川』だったみたいだ。

 俺が三角錐に行った時に見つけたあの横道の回廊は、ウァラクからシュディーヤに行くために作られた道だったのか?


 それにしちゃ結構、あの回廊は新しかったような気がするんだよなぁ。

 新しかったとは言っても……三角錐部屋から先の横道は古かったから……地上から移動用方陣までの道だけを、後から作ったってことなのかな?

 煉瓦積の回廊だけは大崩落以降、随分後になって作られた物だったのかもしれない。

 あ、可動堰を直そうとしていた時代か?

 だったらやっぱり、整備士さん達が使っていた通り道だったのかも。


 なんにしても、元々がウァラクだったってことはあの『大崩落』ってコーエルト大河が広くなったってことかな。

 もしくは、かつてのシュディーヤ、つまり今のヘストレスティア西部のどこか。

 そして多分その時に、一緒に元マントリエルも崩れて沈んだ。

 マントリエルは、今のコーエルト大河沿いに転封になったということだろう。


 元々コーエルト大河沿いは、ドミナティアとゼオレステの土地じゃなかったんだな。

 セインさんがあの土地に愛着が持てないのって、どこかで『違う』って魂に継がれちゃったりしているのかな。

 それとも……血統と一緒に?

 ははは、そんなことはないか。


 だけど、そうなると大崩落は【塊岩魔法】だけが原因じゃなさそうな気もする。

 その魔法が使われたのかもしれないけれど、何か突発的なことと合わさってしまっただけなのでは?

 もしくは、なんらかの天変地異が【塊岩魔法】と勘違いされてしまった?

 だとしたら……ウァラクはずっと冤罪を償ってきたってことになるよな……

 ……なんにしても、その辺のことは石板には書かれていなかったので憶測なのだが。


 あれれ?

 だとすると……星青の境域、もうちょっと東側も西側も北方まで行ってた?

 もしかして、やっぱり中心の樹海もりとか王都の『吸い込み口』をカウントしないで九箇所?


 あるとしたら、今はヘストレスティア国内だろうから……流石に石板修復工事請負工務店も、営業の範囲外ですなぁ……

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