第475話 ご新規いろいろ
「どうですか?」
「めちゃくちゃ乗りやすいですっ! 全然、お尻が痛くないですっ!」
やって来たセラフィラント便馬車の二台を、サスペンションシステム変更と
タイヤ用ゴム強化のためにカーボンが使いたかったのだが、今回は【強化魔法】と【耐性魔法】だけ。
以前法制からもらった石の中に、
その内、炭素繊維でも作れるようになったら強度の底上げのために入れたいが……まぁ、【強化魔法】と【耐性魔法】のコンボ付与でほぼ充分みたいだ。
何人もの御者さん達が代わる代わる試運転をして、町の中を走った後にご機嫌で戻ってくる。
お馬さん達も荷台の揺れに左右されにくいから、走りやすそうである。
成功のようだ……と、にまにましているところに、ビィクティアムさんがやってきた。
「交換作業は終わってしまったか」
「いえ、まだ荷台を移し替えていないものがあと四台残ってます。ご覧になりますか?」
今の荷馬車の車輪はフレームや車体に固定された仕様が多く、人が乗るものだけは車軸懸架方式になっている。
だが車軸懸架もバネが使われているものは殆どなくて、魔法で人が乗る部分を揺れないようにしているのである。
……ある意味、こっちの方が凄いのかもしれないが。
しかし、そういう措置が荷馬車にはなかったので、今回は独立懸架構造で作ってみた。
コレクションから買った構造の本を見てて、トーションビーム式ってやつもいいかと思ったのだが、フロントとリアをどうバランス取っていいのか解んなくなっちゃったのだ。
今後……考える機会があったら、研究しよう。
「この
「はい、車軸式ではなくて車輪がひとつずつ独立している取り付け方です。こうすることで、段差のある部分に片輪が乗り上げたり落ち込んだりしても荷台部分に影響が少ないかと」
金属でできたコイル式のバネは、まだ馬車には採用されていない。
木板や金属板などをアーチ状にした『
そしてコイル式バネはあってもショックアブソーバーは作られていないのである……魔法でカバーするから。
俺が作ったのはダンパーのあるものだが、オイル式ではなくてゴム式にしてる。
適したオイルが見つからなかったからなので、この辺も今後の改良ポイントになるだろう。
だが、魔法でゴムが空気を含まずに液状化できているので、このままでも問題はなさそうである。
本当にね、こういう色々な構造を作ったりしてみて初めて、人類スゲーなって思うよね。
しかも魔法なしで、あんなに快適な乗り物作っちゃっていたからね。
今回もこの構造だけでなく、魔法でもサポート的に揺れ防止なんかも付いてはいるが、元々の性能がよければ付与する魔法は小さくて済む。
そして雨風がしのぎにくい、暑くて寒くて大変な御者さん達に『蛍石布晴雨兼用外套・簡易冷風方陣鋼付』をお試しいただけないかと提案してみた。
「水を弾くと言っていた布で作ったのか」
「まだ外套として使いやすい形が決まっていないので、色々な方に試してもらいたくて。いいですか?」
「ああ、この時期、ロンデェエスト界隈は雨が多い。こういう外套は便利かもしれない」
魔力の節約にもなるし、適した魔法を持っていない人でも便利になるしね。
ルドラムさん達向けに作った時に、一緒に作ったフリーサイズのものがある。
御者の皆さんもお試しをしていただけるということで人数分をお渡しして、全ての交換が済んだ荷馬車に不銹鋼を載せてセラフィラントへ。
次にいらしてくださった時に、感想を伺おう。
昔、宅配便のお兄さんが、雨の中でも合羽も着ないで運んでいるのを見て聞いたことがあるんだよねぇ。
雨合羽って、会社から制服として支給にならないんですか、って。
だって絶対に雨風関係なく外で働く仕事なんだから、当然そういうものがあるかと思っていたんだけど……ないんだって聞いて吃驚したんだよね。
しかも仕事中に必要に迫られて着用するっていうのに、自腹で買わないといけなくてしかも透明じゃなきゃいけないとか客に文句言われたら着ちゃいけないとか。
スゲー理不尽で、可哀相だなーって思った記憶がある。
荷物を守る防護シートはあるんですが、従業員を雨から守るものはないんですよ……って遠い目で語られた時は、涙が出そうだったよ……
うちにお届けをしてくださる皆さんには、制服なんてものがないから関係ないとは思いますが、せめて魔法がなくても少しくらいなら雨がしのげる外套があったらいいなと!
急遽、お作りしてみた次第でございます。
物流を支えてくださる皆さん、ありがとう!
おかげで俺が、地元から出ないで済んでおります!
今度、馬用も作ってあげようかなぁ……
「ふぅむ、ああいう使い方もある布なのか……」
「元々は『濡れてもすぐに乾く服があればいいのに』って、お子さんが雨の中で遊んじゃうお母様からのご要望でして。で、それなら濡れない布で外套作ったら、他はそのままでいいかなーって」
「魔法で雨を弾ける者はいいが、確かに子供ではそれはできんな……なるほど、そういう経緯か」
「セラフィラントで作ります?」
「……いや、布製品であれば、セラフィラントよりはコレイルだろう。先ほどの馬車の駆動部分などは、エルディエラが欲しがるだろうな」
ほほぅ、繊維関連はコレイル……そういえば染料とか結構作っているって言ってたよな。
馬車関連がエルディエラということは、機械工業的なものが専門のご領地なのかな?
海がセラフィラントで、陸がエルディエラなのかもしれないね。
だけど、コレイルとエルディエラの二領地は、あんまり接点ないんだよなぁ。
さて、遊文館関連とレインコートについては少し待機……ということで、ガイエスから依頼が来ている『指輪印章』を作りましょう!
作らせろアピールで送った見本のうち、半分はおふざけで入れてしまったものが一番いいと思ったらしい。
あいつも大概、中二病だ。いや、人のことは言えないんだけど、俺も。
お気に召したのは『漢字一文字印』であった。
こっちにはないものだし意味も何も判らないだろうし、漢字を見た外国の人達と同じような『なんか不思議でクールな記号』という解釈なのだろう。
もしもガイエスの名前を漢字で書いた時に、ひと文字目が『凱』だったら格好いいかなって思ったのだ。
『凱』には勝利という意味もあるし、和らぐ、楽しむ、にこやかというようなほのぼのとした意味もある。
漢字の成り立ちとしては『
他にも太鼓と祭りに用いる机の形で楽しげな意味とか、八元八凱なんていう素晴らしい四字熟語にも使われる。
『
そいつを一文字、龍門石碑書体という力強い感じの字体で書いてみた。
『エ』とか『ス』で格好いい字が思いつかなかったので一文字だけにしたのだが、指輪印章ならネーム印じゃない方がいいだろう。
縁取りに正三角形と縦長の二等辺三角形を重ねて、面で表現。
線にしちゃうと、うっかり方陣扱いになったら大変なので。
凹印・凸印、どちらも使えて凸面だと魔力印になるのはいつもの仕様だ。
あいつの加護法具の腕輪、銀だったから指輪も銀がいいよな。
多分、迷宮とか結構環境的によくなさそうなところにも行くだろうから、腕輪と同じでプラチナ加工しておいてやろう。
身分証入れと同じように、紛失防止も付けておくか。
冒険者さん、どこに行くか解んないもんな。
それでは、できあがりを注意書きの取説と一緒に『転送の方陣』で……っと。
そして、ガイエスからの依頼と一緒に送られてきた鉱石が、これまたかなり面白いものばかりだったのだ。
どうやら、全部アーメルサスで見つけたもののようだ。
まずはアーメルサス特産の電気石、トルマリンである。
うん、色々なタイプがあるみたいだな。
圧電性があるから、圧力に応じて電極が分かれる性質をもつ天然の電池という感じだ。
内包物によって青とか緑にもなる綺麗な石である。
更に、更に!
かーなり面白い石が送られてきたのである。
火山性の小型晶洞の中に密集して見つかることがある『ふわふわの兎のしっぽ』みたいな石……
オーケン石、またはオケナイトと呼ばれる白っぽい石である。
針状の結晶が綿のボールのようなクラスターを作っているが、あくまで鉱石なので柔らかくはない。
こちらでも『兎石』らしい。
鉱物図鑑も、こちらの言葉に訳しておくべきだよな。
そしてこのオケナイトとよく一緒に発見されるという、
こいつは水の硬度を下げられる『水質改良材』として使われることもある石である。
色々な鉱石に含まれている物だが、こんなに沢山はなかなか出てこない。
その他にも
アーメルサス、かなり面白い地層のようだ。
火山性の上にマグマの貫入部分で採れる石も多いということは、大規模噴火の痕跡があるということだ。
そういえば、あの国は盆地の中に町があるって言ってた気がする。
噴火で、かなり大きなカルデラができてるのかな。
カルデラの中に町を作っているってのも、なかなか凄いよな。
……大丈夫なのかな、噴火……
久しぶりに、コレクションにレアな新しい鉱石が追加されたぜ。
指輪印章の代金として申し分ないよな!
流石、特別派遣採掘員!
この勢いを、保って欲しいところですな!
ま、危険がない程度に、ね。
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