第467話 ゆっくり考えよう
時計を見ると、まだ深夜だ。
このままもう少し奥まで行ってみようか。
少しずつ緩やかな上り坂になっていて、壁が不揃いの石積に変わっていく。
この辺も、三角錐への螺旋階段と同じ時期のものなのだろう。
だが、あの辺りよりは古いものみたいで、積み上げている石の大きさがどんどん大きめになってきた。
元々あった古い回廊と繋げる道を作った……って感じなのかな?
不自然な段差がいくつか続き、行き止まりかと思ったが飛べなければ入れないような位置に回廊が伸びている。
壁にはかつて作ったのであろう階段らしき跡が残っているが、今は崩れて使えなくなっていた。
少し広い空間だったので、何かないかと探ったが方陣どころか『人工物』の痕跡はその階段の跡だけだった。
天井に近いその道を入ると、今までとは違う『腐臭』のようなものを感じる。
気持ち悪い。
なんか胸がむかついてきたので、思いっきり【極光彩虹】と【雷光砕星】のコンボで広範囲完全浄化。
……うん、スッキリした。
どっかで魔虫でも繁殖していたのかもしれない。
見えなくてよかった……
そのまま進んでいくと、壁が鍾乳洞みたいになってきた。
床はでこぼこになり、人が作ったものではなくなったみたいだ。
もしかして、天然の洞窟と繋げて回廊を作ったのかな。
この辺までは、整備をしていないってことなのか?
キョロキョロと見回しながら歩いていたら、壁に方陣を見つけた。
大きくはない。
そして……見たことがある。
これ、俺が直す前の『錯視の方陣』だ。
そしてちょっと進んだ所で、行き止まりになってしまった。
壁には特に方陣もないし、横道もない。
錯視が書かれている部分が……じんわりと赤黒くなっている。
臭いの元、これっぽいな。
中に魔虫でも巣くっているのかもしれないなー。
この周りの岩がもっと赤黒くなったら、崩れてマントリエル側へ飛んでくるかもしれない。
……始末しておこうか。
今度は集中して【極光彩虹】【雷光砕星】コンボを、壁から浸透するように奥の奥までしっかり浄化。
岩からは嫌な臭いも赤黒い痕跡も消えて、ほんのりと淡い光が漏れて消えた。
念のため、錯視の書かれていたあたりを掘り返してみたが、小部屋のようになっていた空間には何もなかった。
部屋の真ん中あたりに、魔力溜まりがある。
『遠視の方陣』と『土類鑑定』を同時に使ったら、地中の物が視えたりしないかな?
俺の暗視も発動して……おお、なんとなくの形は解るぞ。
断面が六角形の筒……?
これって……ナパーム弾ってやつじゃね?
うーわーーーー、また、厄介なもの転移してきてるよーっ!
怖いわーっ!
ガッツリ無効化&分解っ!
魔法があってよかったなっ!
このあたり、もう一度浄化し尽くして部屋も回廊全体も埋めちゃおう。
どうせ行き止まりだしね。
ん?
あの『錯視の方陣』描いたのは、元々ヤバイって解っていたってことだよね?
てことは、この先はどっか迷宮に繋がっていたり……まぁいいや。
埋めちゃえ。
あの錯視が使われていたってことは、この辺ってヘストレスティアの地下なのかもしれないし。
あんな迷宮だらけの国と、マントリエルが繋がっているなんて危険過ぎる。
魔獣が入ってきたら大変だよ。
という訳で、あのすり抜けの方陣の側にあった横道は全部きれーーいに埋めちゃいました。
いやぁ、【星青魔法】マジ便利っすわ。
魔瘴素漏れを起こした三角錐が、魔獣を呼んだりしたら大変だからね。
道は塞いでおかないと。
それでは山の中の扇形の空き地まで戻って、扉の大岩も修復しておこう。
んー……あ、足跡がちゃんと表に向いているから、あの人は回廊から出ているみたいだね。
では、この扉もちゃちゃっと来た時と同じように原状回復……と。
この辺の俺の足跡とかも消しておこうかなー。
あちこちに転移目標書いてあるから、もう入口開ける必要ないしね。
もう一度ぐーんと高く飛び上がり、マントリエルの大地を見渡す。
上空から神眼さんの鑑定を使って眺めても、大穴どころかカルデラとか、断層とか、そういうものすら見当たらない。
亀裂も裂け目もないし、山や谷はあるけど、標高も低めだし谷も浅い。
やっぱり、大崩落なんて見当たらないなぁ……
さ、お部屋まで転移しちゃおう。
部屋に戻ると、まだまだお外は真っ暗。
ふー、イレギュラー作業も終了したので、ちょっと眠ろうかな。
それにしても、マントリエルの石板の貴石……何が入っていたんだろうなぁ。
そして、なんで外れてしまったんだろう。
……おはようございます。
まず起きてすぐに『迷宮品無効化付与』の【集約魔法】の金属板に、ナパームの材料も無効化する指示の書き込み。
爆発物は殆ど書いたと思っていたけど、いくらでもあるものだな、兵器って。
そろそろ『土地の奪い合いと人を殺すための武器による戦争は不利益で非効率』って解ってきていると思うんで、これからはああいう兵器が転移して来なくなるといいなぁ。
いや、あっちの世界の時系列は、関係ないのかな?
部屋を出たら、ふわり、といい香りが漂う。
パンの焼き上がる匂いだ。
「あらタクト、早いねぇ」
「お腹、すいちゃって」
「翻訳もいいけど、ちゃんと寝なさいよ?」
「はーい。あ、燻製肉、俺が焼くよ」
「そう? じゃあ、お願いね」
「おおっ、良い匂いだなぁ」
「おはよう、父さん。お皿とって」
「これか? あ、卵はよーく焼いてくれよ? 流れ出しちまうと勿体なくてよ」
「あら、あのとろっとした感じも美味しいのにねぇ」
「俺も固めがいい」
「はいはい」
なんてことのない、朝食。
こういうのが一番だ。
はー、和むなぁ。
そしてランチ前に保存食など自販機の補充。
ずっと作りたかったが、自販機形状を考えて止めていた『丼物』シリーズを作ってみました。
カツ丼、牛丼、親子丼は、男性人気が出るはずである。
最近女性に便利なものとか、お子様向けが多かったので、ここらで男性向けのガッツリメニューを!
開くと温かいって容器がなかなか好評だったし、ガイエスからも味噌汁温かくて旨いって感想来たからね。
『そのまま食べられるシリーズ』は、ひとり暮らし男性の味方になるはずである。
……これが上手くいったら、衛兵隊の北側や北西側の詰め所に自販機を置くのも検討していいかもしれないね。
おっと、どんぶり各種は、ガイエスにも送っておこう。
今度は青菜の味噌汁と一緒に。
旅の途中で野宿もするだろうから、そのままの容器で食べられる温かいものはやっぱりいいと思うし。
あ、容器は全部返せって書いておかなくちゃ。
日常の満喫もいいのだが、やっぱり歴史書とされているものとレイエルスの伝承の食い違いはもの凄く気になる。
マントリエルの三角錐に入る石が解れば、少しはヒントになるのかな?
レイエルスは賢神二位で、血統魔法は青属性。
それに相応しい貴石はなんだろう?
緑で青……トルマリンでもベリル系でもそういう石はある。
今度行く時に、それっぽい石をいくつか用意して持っていこうか。
セットしてみてあの真珠の時みたいになったら、その石ってことだもんな。
でもまずは、カタエレリエラのドゥライニア岬にありそうな三角錐の確認が先だ。
そっちが解っている瑪瑙じゃなかったら、マントリエルが瑪瑙ってことだろう。
……あっちも石がなくなっていたら……
まずは、瑪瑙を嵌めてみて考えるって感じだなぁ。
瑪瑙も色々な種類があるから、なくなっていたら検証に時間がかかりそうだ。
あれだけあったセラフィエムスの蔵書にも、神斎術の説明は現時点で解っているものだけだった。
ドゥライニア岬の方に『生命の書』があったら書かれているかもしれないな。
うん、それを確かめてからでも遅くはないだろう。
朝食を終了し昼の準備まではちょっと時間があるので、写してきた神話の最後の部分を羊皮紙に書いて製本してしまおう。
これで『聖典』は完成だからね。
先に訳文も作っておこうかな。
写し取りをしながら、これで全部が揃うのだと思うと俺自身もちょっと高まる。
んー……神話の五巻は今度こそちゃんと、セインさんに見つけて欲しいんだよねぇ。
でないと本当にお気の毒というか、可哀相な感じに……
このチャンスを逃したら、絶対に使命が果たせないってことが確定してしまうからなぁ。
製本した聖典は、マントリエルに仕込むべきだよな。
あの回廊の先が一番妥当だが、通り抜けの方陣に魔力を溜めていくだけで何年もかかっちゃいそうなんだよね……
三角錐まで行ってもらう意味もあまりないから、途中にレクサナ湖聖廟みたいな部屋を作っておいておこうかな。
あそこも台の上に本があったって状況だったんだし、同じ演出でも問題あるまい。
部屋の前に作る扉に魔力を溜めてもらえれば開くタイプの方陣を描いて、ちょっと開けづらくしておけばそれっぽくなるだろう。
できれば、神話の最終巻発見と同時くらいに『生命の書完全版』も見つけていただきたいけど難しいだろうな。
支配系と思われている精神系魔法の本当の作用と副作用、そして多くの魔法や魔力についての知識も全臣民……は、難しいかもしれないが、少なくとも皇家と貴族達には知っておいてもらいたい。
こっちの発見は、セインさんである必要はないから……どうしようかなぁ。
神話の一番最後に謎の暗号みたいなもの、書いておこうか?
いや、それだとまた百年単位で見つからない可能性が出てきてしまうな。
……そーか。
これをシュリィイーレに隠しておく……というのも、ありか。
ビィクティアムさんには既に『不完全なものがシュリィイーレにあった』と言ってあるのだし、ちょっとだけ見つけるのが大変な所に完全版がありましたよーってのもいいかもしれない。
それなら、しれっと俺が見つけちゃってもなんとかなりそうだし。
でも、それ、どこ?
まぁ……これももうひとつの三角錐の後で考えるか。
いかん、なんか脳がキューってしてきた。
考え過ぎなんだな、きっと。
もっと気楽にいきたいものですなぁ。
なんか美味しいもの食べて和もう。
今日のランチは、何にするのかなー?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます