第463話 絵本製作方法
「さっきもお話しした通り、俺は折角沢山の伝承話があるので、本にして子供達に読んで欲しいと思っているんです」
「そぉね、小さい子向けには、絵があったら素敵よねぇぇ!」
「実は、この間買ったフーシャルさんの絵のものを、手習いを始めた子供達に見てもらったんです」
俺の言葉に、フーシャルさんがびくっと反応する。
子供達がどう思ったかが、気になるのだろう。
俺は、アルテナちゃんやエゼル達がどう言ったかをそのまま話した。
「まぁぁ、それって、絵は好きだけれど、字と合っていないと好きになれない……と言っているのかしら?」
「子供達は本を開いて目に入ったもの全ての雰囲気や均衡を見て、判断しているんだと思います。だから、文字にも絵との調和を求めるんですよ」
「……調和……」
フーシャルさんがぽそっと呟いて、自分の描いた絵本を眺める。
そして、ぽつぽつと話し出す。
「僕は一枚の絵だけを見て、いろいろなことが解ったり想像できたりするのも勿論素晴らしいと、思うんだけど……何枚もの絵を、物語のいろいろな場面を描きたいから、絵本を作ったんだ……」
でも画家仲間から、絵を文字で説明するものなど画家が描くべきでないとか、本の中の絵は文章の添え物にしか過ぎないとか、全否定だったそうだ。
しかも自分の画風は今の流行に全く合わず、絵画を求められることがなかった上に何冊か出した絵本もさほど売れていないことから、自信喪失していたのだという。
「まさか……文字の形まで、子供達が絵と同じに見ているなんて、思わなかった……」
絵本ってきっと、文字と絵のバランスが大切な総合芸術のひとつなんだろうね。
そしてそれが、如何にそのお話に相応しいかまで含めて、購入判断になるんだろうと思うと結構シビアな評価の本も多そうだ。
「俺は絵やお話に合わせて文字の形……『書体』を考えて書いていこうと思っています。なので、いろいろなことをご存知の方々に、いろいろな画風の絵を描いて欲しいと思っているのです。もし、フーシャルさんにお描きいただけないのでしたら……失礼でなければ、他に絵のお好きな方をご存知ありませんか?」
「あらあら? 『画家』でなくてもよろしいの?」
「はい。職業や技能に拘るつもりはないのですよ。絵が好きで、空想や想像ではなく『きちんとした知識を元にした誇張表現』のできる方であれば、どなたにでも描いていただきたいと思っています」
知識は絶対、だ。
知らないものを、雰囲気とか空想でふわっと書かれるのが一番困る。
まぁ、神々の姿とかそういうものは……仕方ないけど、実在しているモチーフやモデルになっている動物を知らない人は、子供に誤解を与えてしまうからご遠慮いただきたいのだ。
子供向けだからこそ、根底で誤魔化すような描き方をしてはいけないと思う。
そしてちゃんと知識があるからこそ、デフォルメや簡略化が可能なのだ。
「まぁぁっ! それだと、あたくしでも、よろしいのかしらっ?」
マダム・ベルローデアは絵も描けるのかっ?
なんて多才なのだ!
「必ず採用をお約束することはできないですが、挑戦して戴けるのなら……あ、そうだ! 絵本の絵を描く方を『公募』いたしましょう!」
「公募?」
こちらにはないのかな?
絵本作家の公募コンクールを開催するのだ!
モチーフのお話をいくつか設定し、絵本として一冊の本になるように絵を描いてもらう。
その中で審査をして入選した方の絵で、実際の絵本を作成しご本人に一冊、そして遊文館蔵書としての本を作る。
販売してくれる場所があるというなら、本を『出版』してもいいだろう。
これはなかなか、いい方法を思いついたぞ。
なんせ、絵が描ける知識人をどうやって捜すか、俺が描けるようにならねばならないかなんて、どっちもノーアイデアお手上げ状態だったからね!
フーシャルさんが今働いているという染付絵の工房も、絵が好きな方々が多そうだから応募してもらえるかもしれない。
やはり、ひとりで考えていては駄目だな。
人との対話が、新しい気づきを生むものなのだ。
「入選作が出ない場合もあるので、必ずしも一番になればいいということではないし、ひとりだけではなくて何人も入選が出ることもある……というものです」
「んんっまっ! それは大変、素敵な催し物ですことよっ、タクトさんっ! 絵が大好きな方々も、子供達が大好きな方々もいらっしゃいますもの!」
「あ、あの、選定は……その、どなたが……?」
んー……審査員かぁ。
俺はさせてもらうけど、司祭様……に頼めるかなぁ……ビィクティアムさんはこういうのは門外漢っぽいし。
あと、絶対に子供達にも選んで欲しいよな。
それと、子供を持つお父さんお母さん……かなぁ。
そのへんはちょっと考えます。
でも、そんなこと聞いてくるってことは、フーシャルさんはやる気になってくれたのかな?
「……はい……やって、みたいです」
「それは嬉しいですね! 近日中に司祭様とも相談してお知らせを作りますから、ベルローデアさんにもご協力戴いてよろしいですか?」
「ほほほほほーっ! もっちろんですわよ、タクトさんっ! まーーーっ! とぉっても楽しみですことっ!」
こんな公募ができるのは、シュリィイーレと王都くらいのものだろう。
あらゆる領地の方々がいらっしゃって、しかも仕事をせずとも暮らせる貴系リタイア組が多いのだ。
文字の練習帳付き千年筆が南東地区で最も売れているのは、実用ではなく楽しみながらできることとして買われているのだろう。
そして、この公募ならば神官さん達も、子育て一段落の親達も、参加できる。
当然『絵画』ではないので、魔法で描こうが技能で描こうが、どちらも持っていなかろうが構わないしね。
空想ではないか、脚色し過ぎてないかをちゃんと審査基準にすれば、幅広く素晴らしい絵師さんを発掘できるのだ!
……よかった……俺が描けるようになる未来なんて、想像できなかったもん。
本にする時は俺の魔法で複製を作るので……原画は遊文館に額装して飾ったら素敵かもしれない。
おっと、遊文館のことはまだ秘密秘密。
「ではっ、本になる時はタクトさんの文字が入りますのね?」
「はい、その絵柄を考慮した文字を書かせて戴きます」
「ど、どのおはなしを……?」
「それはこれから決めますけど、ひとつじゃなくていくつかの伝承を募集するつもりです。あらゆる領地のものがありますから、その中から描けそうなものをいくつでも描いてもらって構わない……っていうやり方にしようと思います」
そして一回だけでなく、俺の手持ち伝承全部が本になるまで、何度か開催しよう!
……上手くいくといいなぁ。
どうしても入選作が出ないものだけは……俺がなんとかするしかないのだろうか……
いや、この町の皆様の知識と画才を信じよう!
よろしくお願いいたしますっ!
一応、お絵かき練習だけは続けといた方がいいかな……
おふたりを見送って、俺はそのまま教会へ。
テルウェスト司祭をお呼び出しして、絵本画家公募についての提案をご相談。
「おお、それはいいですね!」
「ご協力をお願いしてもいいですか?」
「勿論ですとも! 教会でも絵の得意な者はおりますから、応募するかもしれませんねぇ」
それでは、細かい諸々は近日中に話し合いましょうということで計画を進めることとなった。
もうひとつ、テルウェスト司祭にこっそり、お願いをする。
「近々、レイエルス神司祭にいらしていただけるか、ご確認をお願いしてよろしいでしょうか?」
「……畏まりました。ではいらしたら……」
「できれば、うちの食堂にお越しいただきたいのです。大丈夫でしょうか?」
移動には衛兵隊の付き添いが付くが、
秘密のお話がしたいし。
だが、テルウェスト司祭には、遊文館の模型もご覧いただきたいから、という理由でお願いをした。
ヴェルテムス師匠にも『これなら設計図として完璧』とお墨付きをいただいたものを現時点での建設案として提出する。
コレックさんに、建設予定地として確保できそうな北西地区の区画もいくつか選定してもらっている。
資材と人材の調達もビィクティアムさん、師匠、セルゲイスさんにお願い済みである。
……段々、遊文館構想が具体的になりつつある。
最後の関門は、設計図をもとにした安全対策のプレゼンだ!
頑張れ、俺っ!
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