第451話 お土産と日常

 その後、自販機には非常用としてとっておいてあった保存食を慌てて補充。

 ローリングストック分なので、うちの保管分は明日以降に作ればいい。

 スイーツもケーキ系はストックしていなかったが、クッキーやサブレ、菓子パン系はすぐに補充できた。


 セラフィラントで買ったドライフルーツを使ってパウンドケーキを大量に作り、個包装で五個パックにしてから自販機へ。

 スイーツは入れるそばからなくなっていくので、躍起になって補充した。

 どんだけ皆さん、買って行くんですか?

 おうちの買い置きは、食べちゃいましたか?

 嬉しいけどね!


 チョコレート系やクリーム系だけでなく、しょっぱいお菓子も投入。

 お煎餅とか豆菓子とかも定番化しているからか、待っててくれてた人がいたみたいだ。

 そして、離乳食もお子様食も補充して、一段落。


 夕食支度を手伝いつつ、セラフィラントで仕入れ(?)た、エシャレットと海塩、燻製肉、豆の甘煮とか塩豆とかドライフルーツの残りなどを食糧倉庫へ。

 本日の俺達の夕食は、俺の大好きなイノブタの生姜焼き。

 エシャレットの醤油マヨネーズ和えを、付け合わせ用に作った。


 ふふーぅ!

 こういう味が、食べたかったんだよー!

 高級な感じのお魚料理もいいけれど、庶民の味も最高です!

 黙っていても美味しいものが出て来るってのは確かに嬉しいけれど、一緒に作りながらみんなで食べるってのも捨てがたい。



 そして食堂を閉めたら、土産話タイムである。

 勿論、メイリーンさんもご同席だ。

 リエルトン港のこと、セラフィエムスの別邸のこと、本邸とかロートレアの町のこと、色々話してお菓子をつまむ。

 お茶を飲みつつ、父さんが相変わらずだなぁ、なんて笑う。


「じゃあ、燻製肉とか海塩とか……さっきの、若薤白わかかいはく? も仕入れてきたってことか?」

「本当に、何しに行ったんだかねぇ」


 母さんにも、本を見せてもらいに行ったんじゃなかったの? と呆れられた。

 ……食材見たら、買いたくなるでしょ?

 キラキラだったんだもん。


「凄く、タクトくんらしい」

 そう言ってメイリーンさんは微笑んでくれたので、それだけでもーいーかなーって感じだね。

 そしてみんなにお土産を渡す。


 まずはロカエ名物『魚焼き』と、ロートレアの乾燥果実ドライフルーツ

 魚焼きは蛸が入っているものを、再加熱して熱々で。

 手亡豆の白餡入りもありますよ。

 ドライフルーツは、あとで食べてね。


「おおっ、魚の形のたこ焼きだな!」

 父さん、鋭い。

 かぶりついてすぐに、蛸に気付くとは。

「美味しいーー……あつっ!」

 あ、気をつけてね、メイリーンさんっ!

 母さんは、めっちゃ笑顔で頬張っているので言葉はいらないね。


 それから、豆の砂糖煮は母さんとメイリーンさんに大好評。

 塩豆は、父さんが大絶賛。

 うん、やはり俺のお土産チョイスは間違ってなかったね!

 ……まぁ、仕入れレベルで購入しているんだけど。



 メイリーンさんと別れを惜しみつつ、おやすみなさいと斜め向かいまで送った後はまず秘密書庫で本を片付け。

 分類番号なんかは入っているが、床に積み上げるようにしか置いてなかったからな。

 うーむ……分類した棚に本が自動的に戻るような魔法とかを、付与しておく方が便利かもなぁ。


 遊文館ができた時も、戻し間違いとか戻し忘れを毎日リセットできる魔法付与ができたら管理もやりやすそうだ。

 地味だけど重労働なんだよな、これ。

 というわけで、書庫整理は組んだ魔法の付与でサクッと終了。


 部屋に戻ってアコヤ君達の様子を見た後に、小さめの水槽を作り浄化水に海塩を溶いて海水と同じ濃度にする。

 これで上手くいったら、陸上で『海』ができる。

 方陣の実験が、できるんじゃないかと思うんだよね。


 藻石と水生生物は、念のためセラフィラントからの活魚水槽に入ってた海水を使う。

 水生生物は増えるかな?

 増えたら、海塩水の方にも移してみよう。

 鑑定しても、海塩水と海水で大きな違いがないから、大丈夫そうではあるけれど。


 さて、本日のところはここまでで、久しぶりの我が家のベッドへ。

 ……あ、うん、このくらいの硬さが、寝やすいよなやっぱ。

 くすぅーーー……




 おはようございます。

 いやー、昨夜は『墜落睡眠』だったよなー。

 やっぱお貴族様のお家は、緊張していたのかなー。

 ベッドに入った途端に寝落ちしたもんなー。


 いい天気だったので、裏庭でラジオ体操を始めたら、わらわらとお子様達も集合。

 子供達が結構楽しみに待っていたのよ、とご近所のママさん達に言われてなんだかちょっと嬉しい。


 終わったらみんなが、ささっとスタンプカードを差し出したので、これ目当てかなと思ったが。

 こういうのって、小さいけど達成感があっていいよね。

 スタンプいっぱいのご褒美は、何にしようかなぁ?


 それなら、とお母様方に『方陣の書き方を教えてもらえたら嬉しいわ』なんて言ってもらえたので、大喜びで賛成した。

 予め『習う』ってことを体験していたら、遊文館ができた時にも来てもらえるかもしれない。


 流石にランニングにまではついて来ないけど、最近たまに南東地区方向に行くと走っている人も見かけていた。

 今日も南側から東にまわって走っていたら、シルバー世代の方々も。

 健康ブームが来ているのだろうか?


 朝食はベーコンエッグと味噌汁という不思議な感じの取り合わせだったが、旨かったのでヨシ。

 昼の準備にはまだ時間があるので、いろいろと片付けてしまおう。


 まずは、カタエレリエラに渡す分の閃光仗と移動方陣鋼セットを確認。

 俺の留守中に目標場所と移動する人達の名前が、教会から書簡で届いていた。

 名前を登録して、あとはそれぞれ使う人達に魔力登録をしてもらうだけで使えるように下準備完了。

 明日にでも、教会に届けに行こう。


 お次は、ビィクティアムさんに提案したレシピ本のプレゼン用見本作り。

 手順書と材料表を小冊子で作り【調理魔法】の方陣を付けるのだが……

 札にするか?

 でも、札の上に食材を置いて更に手で触れてないと、作り方が浮かばないとなると片手をずっと方陣に触れていないといけなくなる。

 それでは料理などできない。


 かといって、シール状にして手の甲に貼るなんてのは論外だ。

 それでは一回しか使えないので、不経済である。

 ずっと、貼り付けている訳にもいかないし……

 着脱可能となると、思いつくのは『手袋』か。


 生ゴム……あったよなー。

 ラテックス手袋、作れるかな……

 でもなー、馴染みのないものだからアレルギーも心配だし、着脱もしづらいんだよなぁ。

 それに指先や手のひらの感覚が変わっちゃうのも、料理を作る時には割とストレスだしなぁ。


 方陣の大きさって、魔法の発動に影響するのかな?

 方陣札に書かれているものは、割と大きさとしては一定だけど大切なのは図形の精度と呪文じゅぶんだよね?

 指輪とか、腕輪で試してみるか。


 指輪だと小さくなり過ぎて、魔力の入る量が少な過ぎる上に保持力が弱くてダメだった。

 一回だけなら何とかなるけど、繰り返しで使えなければ意味がない。

 しかも、指にはまっているのは思っていた以上に、調理中邪魔だった。


 腕輪、いや、腕時計のようにすれば、着脱可能で割と大きめに方陣が描けるし問題なさそうだ。

 ベルト部分を革とか金属にしちゃうと、高くつきそうだなぁ

 だけど、金属が一番良さそうだなー。

 あまり太くない、バングルタイプならいいか。


 それに、セット内容を変えて売ればいいな。

 レシピとサンプルだけってのと、方陣バングル付きのセット、方陣バングルだけの三種かな。

 方陣バングルは金属で方陣鋼にして、簡易型魔道具という形にすれば魔石で方陣への魔力供給ができる。

 魔石を取り替えてセットできるようにしたら、方陣そのものは描き替えたりしなくても何度も使えるだろう。


 多くの人は、方陣そのものに『期限』や『回数制限』があると思っている。

 だが、方陣に有効期限があるのではなくて、方陣が描かれている『素材』の魔力保持力低下で使えなくなるのが最も大きな原因だ。


 傷がついたり消えたりしなければ、方陣そのものは本当は描き直す必要がない。

 使っている時や保存状況で描かれたものに傷とか掠れが入っているから、魔力が正しく保持されなくなって使えなくなるのだ。

 ガイエスが手袋に描いている方陣は『正確』な上に『魔力筆記』と同じだから、手袋そのものが傷つかない限り何度でも使える。


『付与』は『加護』の下位互換だ。

 魔法付与は方陣と違い魔法そのものを閉じ込めて、それを魔石などで支えている。

 付与の場合は使っていない時に『待機電力』を必要とするエアコンなんかと一緒で、ずっと微弱ながら魔力を供給されていないと維持できない。

 だから、魔石からの供給が切れて一定時間以上経ってしまったら、魔法そのものが消えてしまう。


 家などへの付与も呪文じゅぶんなどによって、その『素材』に魔力を溜めて魔法を維持している。

 そのため、木の家より石の家の方が【付与魔法】が保たれやすく、何度もかけることができるのだろう。


 武器や防具、日用品でも、その素材次第で【付与魔法】の強さや持続時間は変わる。

 質の良い素材や加工の精度が高ければ、付与されている魔法が満遍なく魔力を蓄えている。

 そういうものは、必要以上の魔力放出がないから長持ちする。


 しかし、正しくて無駄のない『方陣』の方が、もっと魔力の無駄がない。

 方陣は『待機魔力』の消費がないからだ。

 魔力は溜めたままにしておけるし、起動しない限り魔力は抜けにくい。

 しかも一定能力を発揮する魔法が使えて、身体に負担も少ない……なのに、どうしてこんなにも方陣が普及していないのか。


 多くの者達が『正しく無駄のない方陣』が描けないというだけでなく『傷つけたり消えたりしないように描くこと』ができないからだ。


 きっと極大方陣が作られた時代に、方陣とその魔法はピークを迎えたと思う。

 だが、それ故に複雑になってしまって誰もが描けるものでなくなっていった上に、多くの魔力が必要になったから生き残れなかったに違いない。

 複雑でいろいろな条件が必要で大きな魔法を使えるものなんて、日常生活では必要ない。

 残念なことに。



 ということで、組み替えた【調理魔法】……いや『簡易料理の方陣』を描いたバングル状の腕輪ができました。

 魔石はふたつ取り付けられる。

 セットされた魔石から魔力がなくなったら、魔石だけを交換してくれたらいい。

 魔石がなくても毎回方陣に魔力を注げばいいのだが、それだと毎回魔力充塡が必要になって面倒だろうから魔石で使えるようにしたのだ。


 あとで使ってみよう。

 俺じゃなくって、父さんに試してもらおうかなぁ。

 この方陣……使用制限付けないと、他領では許可されないかな?

 んー……期間制限にするか?

 初めて使った日から、二カ月くらい?

 いや、シュリィイーレでの使用を考えるとひと冬は使えた方がいいかも。


 料理の回数制限にしちゃうと、カウンターがないと解らないもんなぁ。

 でも魔石がなかったら働かないことにして、皇国内だけの使用場所限定なら時間は区切らなくてもいいかな?

 いや、皇国籍の人だけが利用できる……とか?

 その辺は、ビィクティアムさんやラドーレクさんと相談だな。


 さて……もうひとつ気になっているものは、スイーツタイムの後に調べよう。

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