第362話 魔法の考察について
「で? おまえが【収納魔法】のことに詳しい……ってのは、獲得したからか?」
本当にビィクティアムさんは、細かい所までお気付きになる……そこは、スルーして欲しかったなー。
「……粗方の検証も済んでおります」
「『運ぶ』ってことに関して、随分いろいろとやっていたから出てもおかしくはないが……検証って言うのを聞かせろ」
俺が話したのは、ガイエスの【収納魔法】の検証。
迷宮品のこととかは、なんとなーくぼかして金属に関しての事象を中心に。
……ビィクティアムさんもルーエンスさんも、すっかり黙りこくってしまった。
「まさか、魔石や方陣鋼以外の物でも、魔力として使えるとは……」
「私も全然知りませんでしたが、その冒険者の魔法をお調べのうちに発見して……ご自身にもその魔法があると気付かれた……と?」
「あんまり頻繁に身分証を見ていないもんで……ティエルロードさんも、ちょっとやってみてくださいよ。あ、これ、方陣鋼です」
実は【収納魔法】でも、直入れの場合は身分証の魔力量表示が増えるのかどうかってのは気になるところだ。
まだそのことを話してはいないので、是非確認したいのだ。
ティエルロードさんに収納してもらった方陣鋼には、フルで魔力を入れてある。
「……身分証の表示魔力量には変化ないですが……本当に使えるんでしょうか?」
なるほど、【収納魔法】では身分証の表示が変化しないのか。
それで解らなかったってのも、あるのかもしれないな。
「ティエルロード、なんか補助系の魔法を使ってみて」
「はい、では」
ティエルロードさんが展開したのは【強化魔法】。
……デザート用のガラス皿の硬度が、ダイヤモンド並みに強化されてしまった。
赤いキラキラのティエルロードさんの【強化魔法】は『硬化』に働くんだな。
【強化魔法】は白属性だから、どう見えるのかと思ったけど加護色が強く出るみたいだ。
人によって『強化』のイメージが違うから、硬いとか、靱性が上がるとか、違いが出るのかもしれない。
ふぅん……面白い発見だ。
人の魔法って、あんまり見る機会がないもんなぁ。
「凄いです! 魔力量は『三』しか減っていないです!」
そして、取り出した方陣鋼からは、百近い魔力が抜けていた。
「なるほどね……冒険者達がやたら魔石を買い漁るのはこのためか」
「他国の者は保有魔力が少ないから、このように発動だけ自分の魔力を使っていたってことなんですね……」
「【収納魔法】自体の維持も、魔石からの魔力で支えていたのだろうな。旅をする上では、確かに便利な魔法だ」
魔力を回復する手立ては、眠ることと食べること。
だが、旅の途中でいつもいつも可能という訳ではない。
だから如何に魔力を温存するかってことが問題になるから、魔石は重要なのだ。
そして普通の魔石であれば、迷宮品のように不足魔力の強制搾取もないから、【収納魔法】直入れで持っていても差し支えないのだろう。
【収納魔法】がない者は、魔石を多く身に着けているはず。
装飾品として、武器や防具として、魔石が取り付けられた物を装備している。
それらはおそらく迷宮品であっても、強制搾取は【収納魔法】内の物より少ないか、吸収速度が遅い。
迷宮品の直入れ魔力搾取、ガイエスに手紙で教えたらめっちゃびびってたなー、そういえば。
「保有魔力量に関しては、確かに石より金属の方が大きいですが、魔力を取り出しやすいのはやっぱり石の方です。微量魔力を継続的に出し続けて長時間魔法を支えるには金属、大きな魔法を使うための予備魔力として備えておくならばすぐに魔法として使える魔石……というのが、俺の検証においての結論です」
「それでおまえは『続ける』ための魔法を支えるのに『方陣鋼』を作ったのか」
「でも、今使った【強化魔法】では、問題なく魔力としてこの金属から引き出せていましたよ?」
ティエルロードさんの疑問は、どうやら皆さん感じていたようで。
「それは、方陣が描かれているからです。方陣には『魔法を使用したときに魔力を取り出す出口』としての役割が含まれていますから」
方陣はその図形や文字、そして描かれている素材の魔力で魔法を支えている。
方陣が描かれているから、素材からの魔力を必要量引き出せるのだ。
羊皮紙に描かれた方陣であれば、紙自体が保有できる魔力が少ないから方陣の文字を多くした方が魔法として強くなる。
だが、方陣魔法師が使う場合だけは、文字が少ない方が同等以上の効果で魔力の節約になる。
俺の作った方陣の文字は、最小限。
魔力は素材の金属から引っ張り出すので、魔力の出口としての役割は今までの方陣より大きい。
だから、魔石と同じ感覚で魔力を引き出せるのである。
「金属から抵抗なく魔力を必要量引き出すために組まれている方陣なので、他の魔法への出力も簡単なんだと思います」
「……そういうこと全てを……君自身が、検証したのか……」
「魔法は勿論ですが、鉱石や金属も好きなので色々と知りたいのですよ」
『好き』って言うのは、原動力ですからね。
「『叡智へと到るには身の内より識るべし』……か」
ビィクティアムさんが呟いたのは、神典で主神が生み出された人々に言った言葉のひとつだ。
『遠きに行くは必ず
まぁ、ちょっと意味は違うけど。
まずは己を、自分の持っている魔法を知らなくちゃ、話になんないよな。
特に、俺の魔法は特殊なものばっかだもんなー。
自分で調べなくちゃ、なんにも解んないし。
『生命の書』以外、殆ど資料がないのって致命的すぎる……
「方陣のおかげで色々と疑問が解消しましたが、その分、解らないことも増えたというか……」
「方陣で、なんの疑問が解消したって?」
す、凄い食いつき方ですね、ルーエンス省院長殿。
「まぁ……主に色相魔法について……ですが……魔法そのものって目に見えないものでしょ? 感じ方も人それぞれだし、強さも違う。でも方陣は『必ず誰もが魔力の量や加護に関係なくその魔法が発動できる』ものですよね」
「ああ、そうだが……それで何が解決するんだ?」
「『魔法の構成』です」
たとえば『炎』を出す方陣。
形は三角形。
正三角形を正しく描き、その中に三角形になるように『炎を出す条件』を
方陣というのは、魔法を図と文章で可視化しているのだ。
「ね? これで炎が出ます。あとは強さとか、使う魔力量とか、何をどう燃やすか……なんてことを呪文に書き加えれば、攻撃用にも家庭で灯火を点けるためでも使い方を指定できます」
「方陣の成り立ちが、全部解っているのかい? タクトくん……」
「全部は無理ですねー。方陣魔法師の冒険者に見せてもらったものだけしか、今のところ資料がないですから。より多くの方陣が集まれば、もう少し分析できるとは思いますが」
でもねー、ちゃんと描ける人がいないと、方陣の魔法って多分意味がないから、研究が進んでいないんだよね。
正三角形や正方形の描き方すら、全然解っていないみたいだから。
三角形の内角の和とか、角度を揃える……なんて言ったところで、解ってもらえないっぽいし。
「きちんと描けて正しい効果の発動できる人が少ないので、方陣での魔法は弱い……って思われていますけど、ちゃんと描けたらその方陣の魔力量に見合った魔法が発動するはずですよ」
「方陣魔法師は、それを克服しているということか?」
「克服というか、そもそも【方陣魔法】を持っていると、全ての方陣を覚えた通りに完璧に一瞬で描けるんですよ。見せてもらった時、なんて羨ましいって思いましたね」
「なら……どうして先代皇王の頃に【方陣魔法】が、もっと盛んにならなかったんだろう?」
「そうだな。先代はかなり熱心に、魔法師育成に取り組まれていらっしゃったからな」
ルーエンスさんとビィクティアムさんの疑問の答えは……多分、先代が方陣魔法師だったが故に、だと思う。
「方陣魔法師は、全ての方陣を『触れただけで』覚えられ、描いたものを身につけてさえいれば簡単に発動できるんです。理解していなくても、読めなくても。だから誰かに教えるなんてできないし、そもそも読もうなんて思わないんじゃないですかね」
ガイエスは、全く疑問すら持たずに使っていた。
触れて、見て、その方陣を完璧に記憶さえしてしまえば、問題なく発動できる。
なぜ他の人間ができないのか、なんて解りっこないのである。
「なるほどな。知らなくても使えてしまえば……それ以上、知ろうと思わない、か。それでは叡智には至れぬな」
「俺もそう思います。なので、自分の魔法をより理解したい、と思うのかもしれないです。方陣はとても身近で、解りやすい『魔法の教科書』だと思いますよ」
ビィクティアムさんもかつて、魔力量が少なくて自分の持っている魔法が使えなかった頃に、様々なことを研究したに違いない。
身体を鍛えたり、魔法のことを学んだりして、聖魔法が使用できるようになるまでには多くのことを克服してきたはずだ。
そういうことに慣れてなきゃ、神斎術の【成長羽翼】で隊員達を観察してデータを集めるなんてこと、しないだろうしね。
「ただ、こうなるとおまえには……任せない方がいいかな」
は?
何をデスカ?
「秋に来る新人騎士達の食育学と魔法についての講義を、おまえに頼む気でいたのだが……おまえだと彼らに理解できないことまで、説明し出しそうだから」
「頼まれても、絶対に引き受けませんよ?」
ジョーダンじゃねぇっすよ、ダンナっ!
あの手合いと関わりたくないって、あれほど言ったじゃないですか!
「だから、衛兵隊の教育係達向けに講義をしてくれ。そしたら、そいつらに教官を任せられる」
教本と資料だけ渡して宜しくってんじゃ……ダメなんだろうなぁ。
あああ、また『断れない笑顔』してるよ、ビィクティアムさん……
セラフィエムスの方々は、圧が強いんですよぅ!
「それと、撮影機を使いながら、別の部屋でも見られる映写機があったよな? あれを試験中に使いたい。セラフィラントでも、海衛隊で使いたいと思っている。頼んでも構わないか?」
それは全然構いませんが……なら、俺の講義とかも録画をお渡しするだけじゃ駄目っすかね?
ダメなんだろうな。
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