第318話 今年の採掘準備

 夕食後、身分証の見直しと再編成の続きに取りかかる。

 植物系の魔法や技能など、これからも色々やるだろうし魔法がない方が変だと思われそうなものは、表示してしまった方が俺的に楽な気がしてきたのだ。


 予兆も試行もあるのに出ていないっていう点で、不審に思われるよりはマシな気もするのである。

 ビィクティアムさんのように『全属性持ちオールラウンダー』というのが『あり』なのだから、出にくいものが出ていたって不思議じゃないはずなのだ。


 一部表現を変えたり段位も変えたりしているけど、明らかに攻撃系でないものは表示してしまうことにした。

 第一、もう神聖魔法も聖魔法も持っていると一部の方々には知られている訳だし、説明ができないもの・面倒なもの・『生命の書』にさえ載っていないものだけを隠そうかな……と。


 しかし、空を飛べるとか次元魔法系ってのは、絶対にまずい気がするので【天翔空軸】に関わるものは、全部内緒だが。

 勿論、神斎術は完全秘匿である。


 魔眼と【冶金魔法】としてだけ、出しておくくらいだな。

 そして魔力表記は、五パーセントで表示である。


 家名の表記だけは出したり消したりすることで、身分証の色を変えられるようにプレートを分けた。

『隠蔽操作しているのは家名のみ』という形にするためだ。

 この家名操作のプレートはコレクション内ではなく、身分証ケースに取り付けておく。

 再登録の時に『こういう隠蔽をして銀証にしていますよ』と見せるためである。


 そしてこのプレートは、敢えて『銀』で作ってある。

 それはライリクスさんやビィクティアムさんの、緋色金のケースペンダントに疑いを持たせないため。

 緋色金という特別な金属で隠蔽していると知られたら、緋色金=隠蔽と短絡的に結びつけるやつは絶対にいる。


 隠蔽に最も適しているのは『銀』だと思われる方が、まだマシなのだ。

 銀なら貴族や金持ちなら誰でもどこにでも使っているもので、もともと加護や魔力を保持する力が強いと知られている。


 そして『隠蔽するための金属』ではないと判っているはずだから、変な紐付けをされる心配もないのである。

 まぁ……多分考えすぎな気もするが、思いついてしまったことは用心しておく方がいいのだ。


 そしてできる限りのセキュリティと魔効素の変換吸収を指示して、なんとか終えたのは、その日の深夜だった。



 翌朝、寝不足気味でぼんやりしていた俺だったが、そろそろ錆山で採掘ができるようになるシーズンである。

 雪が多かったせいもあり、今年は俺だけまだ山に行っていないのだ。

 不銹鋼用の鉄と、この間手に入れたコバルトと合わせる素材も補充しておかねばならん。


 冶金やきんで合金加工が以前よりはるかにレベルアップしているだろうし、コバルトを使う青や緑の顔料が手に入るので、陶器に色づけできるようになるのだ。


 そして、俺があちらの世界で大好きだった『青硝子』が作れるのである。

 美しく深いマリンブルーの硝子は、食器にしても観賞用にしても絶対に綺麗なのだ。

 夏のデザート皿をこの青硝子で作りたい!


「父さん、次に錆山に行く時は俺も連れてってね!」

「ああ、そうだな。もう大丈夫か。じゃあ、明後日の予定だ。そうだ、あの『軽くなる魔法』ってのは、袋にも魔法が付けられるのか?」

「うん、作っておくよ。どれくらい要る?」

「鉄が全然足りねぇからよ、持ってる袋全部……かな」


 そういえば、春先の改造&修理特需と俺の不銹鋼作りで、鉄を随分使ったもんな。

 まだ外門食堂にも使うし、次のセラフィラント行きの不銹鋼を準備しておかないとならないし。

 確かにいつも通りの採掘量じゃ、全く足りないだろう。


 沢山運ぶには……キャリーケース?

 いや、車輪ではでこぼこの山道には適さない。

 あれは『舗装道路向き』のもの。

 やっぱり、背負子が一番だ。


 ならば軽量化の魔法を使って、負担が少ない物を作るのが一番か。

 同行メンバーはいつもの、ルドラムさんとデルフィーさんだ。

 このふたりの分の背負子も作って、ガッツリ運んでいただこう。


 錆山に持っていっていい背負子のサイズや、袋の上限サイズはだいたい決まっている。

 背負う人の身体の横幅と、ほぼ同じくらいまでのサイズでなくてはいけない。

 これは狭い山道ですれ違う時のためと、広すぎる横幅の荷物に何かが引っかかって起こる滑落事故などを防ぐためだ。


 荷物を積み上げる高さも、背丈より頭一個分程度までである。

 やたら沢山採って重さに耐えきれなくなり、後ろ向きに転落する人が割と多いのだ。

 良いもの、いっぱい転がっているからね……あの山は。


 まぁ、重いので、そんなに詰め込んだものを運べる人は少ないのだが。

 だから軽くできれば、ギリギリまで詰め込むことが可能という訳だ。


 どうせなら、背負子から改造しよう。

 通常、背中部分は当たっても痛くないように、布や綿が使われている。

 枠組みは木工だが、これを全部竹にする。


 身体のカーブに合わせて、背中に当たる部分が変化する食堂の椅子に採用した魔法を使うので、汗を吸ってしまう布や綿は要らない。

 クッションとしては悪くはないんだけど、臭いとか綿が硬くなったりとかで地味に不快なんだよね。


 取り替えて使うものではあるけど、夏場で汗を吸う時は洗浄や浄化の魔法をかけまくらないと、あっという間に不快感倍増なのである。

 しかし、山に入っている時にそんなにバカスカ魔法を連発はできないし、方陣札だって限界がある。

 これを改良するだけでも、格段に背負っている時の負担は減る。


 サイドは膨らみすぎないように格子になっているのだが、ここは四ツ目籠みたいな編み方に変更する。

 綺麗だし、通気性も良いし、強度もある。

【強化魔法】を掛けてしまうのでその辺は大丈夫なのだが、元々の強度が高いものは強度が更に上がるので強くするに越したことはない。


 肩だけでなく腰でも支えられるようにベルトを着けたり、肩掛け部分も負担が減るような作りになるように。

 そしていくら入れても、軽いままであるように。

【収納魔法】みたいに、見た目以上に入れ込むことができる魔法があったら便利なんだが……


 ん?

 待てよ?

 そもそも……『入れて運ぶ』に、拘らなくてもよくないか?

 背負子の袋に入ったものを、そのままうちの地下室に転送できるのでは?


 袋の中に『改札口』を作ってしまうのだ。

 出口は地下四階の資材部屋。

 しかし、改札口は常に開けている訳にはいかない。

 移動が終わったらすぐに閉じる必要があり、その都度に開くようにしておく方が安全だ。

 となると、他の三人の背負子には使えない。


 転送移動させたい時に、僅かではあるが魔力を通す必要があるからだ。

 魔力量が馬鹿みたいに多い俺であれば全く問題はないけど、他の人達に転送の都度、魔力を使わせるのは憚られる。


 それにそんな魔法を俺が使えることは、今の時点では衛兵隊だけの秘密にしておいてもらいたいし。

『方陣門』と勘違いされても、厄介である。


 うん、俺のものだけで、そのやり方を試してみよう。

 他の人達にはやっぱり当初の通り『軽量楽々背負子』をご利用いただくことにしよう。

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