第317話 相変わらず

 ファイラスさんの話では全臣民に身分証の再登録を義務づけ、今年いっぱいをかけて行うのだそうだ。

 基本的に金証の貴族は、在籍地か王都の教会で行う。


 銀証の人達は国内の教会であればどこでも可能、銅証以下だと教会だけでなく役所でも対応してもらえるらしい。

 シュリィイーレは、銀証の人もかなり多いので教会で順番待ちか……と思ったのだが、俺や他の金証の方々は、別途目立たずやってもらえるとのことだ。

 まぁ、その辺は良かった。


「それとぉー、これはもの凄く言いづらいというか……」

 なんだろう、ちょっと嫌な予感がするぞ。

「ほら、殿下達が買っていった身分証入れ……あったでしょ?」

 まさか……


「あれをね……殿下とかゼオレステ神司祭とかが着けているのを、陛下達と他の神司祭様方がめちゃくちゃ羨ましがっててね……」

 あー……やっぱり、そちら系の方々でしたか。


「なんで、そんなことまで、ファイラスさんに頼んできたんです?」

「兄上経由でさ……流石に長官にはこの半年いろいろとあったし、頼みづらくなっちゃったんだと思うんだよ。シュリィイーレ教会にお願いするつもりだったらしいんだけど、個人的なことで、しかも魔法師に物品の作成は頼めませんって断られたみたいで」


 流石、シュリィイーレ教会。

 テルウェスト司祭様、頼もしい。

 そういう上に諂わない、毅然とした姿勢に感動を覚えます。


「で、法制が清書を依頼するって話だったもんで、ついでに……頼んで貰えないか、みたいな話が来てしまって……」

 はぁぁぁー……と、ファイラスさんの溜息が漏れる。


 俺は錬成師でも彫金師でも石工師でもないから、『正規のルート』なんて依頼方法はない。

 魔法師に物品を作れなんていうのは、お門違いもいいところだ。


「殿下達と同じものでよいのでしたら、まだ販売店にお願いしていないのでお譲りしますよ。新しく作る気はないですが」

 あの時の紛失防止魔法付きは、俺の負担が増えるだけだという理由でちょっと保留にしていた。

 売るにしてもうちの物販でだけにしようと思っていたので、捌けるなら丁度いい。


「陛下と皇后殿下、それと殿下のご婚約者三人と聖神司祭様方……ドミナティア神司祭とゼオレステ神司祭以外の六人で、十一個なんだけど、ある?」

 あの時は七色で三個ずつ作ったし、殿下達三人がひとつずつとサクラで衛兵さん達が買ってくれた六個を売っただけだから十二個残っている。


「ええ、大丈夫ですよ。新たに作るんじゃなければ構いません」

「よかったぁーーありがとねーー! あー、もーこういうお使いはホント、困るんだよー」


 間に立つ人は大変だよね。

 一応、今後一切魔法師・書師としてのご依頼以外は受けません、とだけは伝えてもらうことにした。


「代金は殿下達と同価格でいいので、回収してきてくださいね」

「え?」

「当たり前でしょう? 無料で献上なんてしませんよ?」

「……だよね。うん。兄上に回収させよう……」


 俺は十一個の身分証入れを渡し、一緒に請求書も十一通、用意した。

「では、代金を回収してきてください。なのですから、当然ですよね?」

「そう……だね」

 ファイラスさんがちょっと倒れそうな顔色なので、この辺で許してあげよう。


 本当に、ひとりひとりから回収してきたら凄いよな。

 まぁ、皇后殿下とご婚約者の姫様達の分は陛下が払うんだろうけど、財管で予算……は出ないか。

 皇家の私財があるだろうから、問題ないだろう。


 その日のスイーツタイム、憂さ晴らしをするかのように三回もおかわりをしたファイラスさんを見てた文官のチェルエッラさんが、また上着を作り替えないと駄目かしら……と、ぼそっと呟いていたのが印象的だった。


 ……どうやら、ファイラスさんは以前の上着が入らなくなって、作り替えたばかりのようだ。

 今日のベリーのムースケーキ、そこそこ高カロリーなんだよな。

 ま、魔法使ったり運動したりすれば大丈夫でしょう。



 夕食までの空き時間に、俺はちゃちゃっと身分証の隠蔽工作をすることにした。

 金属プレートに【文字魔法】で書いたものは折り曲げられないので、一時的に効果をキャンセルするということができなかった。

 だが、そのプレートに解除する方法も指示しておけば、折り曲げたり書き替えたりする必要はない。


 そういえば神斎術も『生命の書』で獲得できているはずのものを確認しただけで、きちんと身分証自体を見た訳じゃなかったな。

 では、業務用スーパーのレシートのごとき身分証を開きますか……


 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 名前 タクト/聖文字魔法師カリグラファー

 家名 スズヤ 

 聖称 エステレェリィアズール

 年齢 27 男

 殊勲 イスグロリエスト大綬章

    教会偉勲章

 在籍 シュリィイーレ 移動制限無

 養父 ガイハック/鍛冶師  

 養母 ミアレッラ/店主

 仮婚約 メイリーン/調薬師

 保証人 イスグロリエスト・シュヴェルデルク

     イスグロリエスト・アイネリリア

 証明司祭 ドミナティア・セインドルクス

 魔力 1233607


 【神斎術師 正階】

 硬翡翠掩護・初代 

 貴剛鉱掩護・初代

 神眼 : 蒼・真   

 祭陣・真 

 位相変調・正 

 冶金遷移・正


 【輔祭 第一位階級】

 書師・特位


 【神聖魔法師 一等位】

 神聖魔法:極光彩虹・完成

 神聖魔法:天翔空軸・完成

 神聖魔法:麗育天元・完成


 蒐集魔法・極冠 文字魔法・極冠

 付与魔法・極冠 集約魔法・極冠

 加工魔法・極冠 複合魔法・極冠

 耐性魔法・極冠 治癒魔法・極冠

 音響魔法・極冠 顕微魔法・極冠


 金融魔法・極位 彩色魔法・極位

 発酵魔法・極位 言語魔法・極位

 

 精神魔法・最特 予知魔法・最特

 迷彩魔法・最特 探知魔法・最特


 造型魔法・特位 建築魔法・特位 


 臨界魔法・第一位


 【適性技能】 

 〈極冠〉

 鍛冶技能 金属看破 神詞操作

 貴石看破 鉱物操作 動体操作

 魔眼看破 成長操作 液体鑑定

 大気調整 大気看破 液体調整

 予見技能 身体鑑定 感覚操作  


 〈極位〉

 石工技能 海洋鑑定 魚介鑑定

 木工技能 土類鑑定 土類操作 

 

 〈最特〉

 表象技能 造営技能


 〈特位〉 

 陶工技能 普請技能


 〈第一位〉

 魚介育成


 〈第二位〉

 獣類鑑定

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 ……

 あれ?

『神聖魔法:麗育天元・完成』?

 え?

 極大方陣、解放していないよ?


 それに『魔法師』じゃなくて、『神聖魔法師』になってる。

『文字魔法師』の前にも『聖』がついたぞ?


 茸系とか【植物魔法】と植物系と菌類系の魔法や技能が消えてる……

 ……もしかして……そのふたつの系統技能や魔法をコンプリートしてしまったから、おまとめ機能が働いたのかな?

 あ、『生命の書』に載ってる。


 俺の解釈で合ってるみたいだな……【麗育天元】は、地上と海中の植物についての鑑定・育成・操作の魔法みたいだ。

 ここには書かれてないけど、真菌、菌類の技能や魔法も含まれているってことだな。

 範囲は『動物や鳥類、昆虫類以外』なのかな?


 ということは、極大方陣って『足りない技能や魔法を強制的にインストールしてコンプリートさせる』方陣なのか?

 足りないものが多いとめっちゃ魔力食うとか?


【極光彩虹】の時は確かに、ものすごーーーく魔力持っていかれたよね。

【天翔空軸】は方陣を書き直したのもあるけど、最初の頃より必要魔法や技能があったからかも。


 この【麗育天元】が植物特化と言うことなら、『草類育成』とか『果実栽培』もカバーしているということだよね?

 うっひょーっ!

 メロン様が美味しく育つかもー!

 これが一番嬉しいー!


 新しく出ているのは……【迷彩魔法】は、この間見たやつだな。

【臨界魔法】?

 えーと、『物理的・空間的境界を確定して作用、状態を変化させる』……


 もしかしてルビー板とサファイア板で『浄化魔法的国境線』とか作っちゃったせいかな?

 結界を作る魔法みたいなやつとは違うみたいだけど……


 状態を変化させるってことは、魔瘴素の魔効素変換とか魔効素の魔力変換とかも試行になってるのか?

 魔虫の分解浄化も……『状態変化』だよな……

 心当たりが多すぎて、逆に判らない。


【制御魔法】と【強化魔法】が消えてるってことは、段位カンストしてまとまった?

 でも、今までも『極冠』だったのにまとまってなかったから……『極冠』の上になったから上位互換の魔法に変化したってことなのか?


 あ、この魔法神聖属性じゃん。

 そういえば【回復魔法】と【解毒魔法】がまとまって【治癒魔法】になった時は聖属性だったから、上位互換で合ってそうだな。

 聖魔法がカンストして他の魔法と一緒になると、神聖属性になるのかもしれんな……

 魔法派生条件って、緩いわりに複雑だよなぁ。


 この『魚介育成』技能は、真珠貝と珊瑚育て始めたせいか。

 あ、活魚水槽で育成期間が長くなったから?

 まぁ、これはあると便利かもしれん。

【麗育天元】には、魚介類や動物系の育成は含まれてなさそうだし。


『獣類鑑定』って魔獣も含まれるんだろうか?

 それとも青シシかな?

 いや、お肉の選定かもしれない。

 どっちにしても鑑定系は、あると助かる技能だよな。


 さて……どれを表示させてどれを隠すか……そして変更内容を決めていかねば。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る