第290.5話 地下の四人
「ガイハック……おめぇの息子は……なんだ、ありゃ? こんなことができる魔法師なんざ、見たことも聞いたこともねぇぞ?」
「ああ、俺もねぇな。どうやったって【加工魔法】や【建築魔法】の域を超えている。この地下室の石積なんか、まるでどっかの城か砦みてぇだ」
「『造営技能』『普請技能』がある上に、そういう石垣の知識があるのだろうな」
「……そっちの技術も持ってんのか。段位が気になるが、結構上だろう。そうじゃなきゃ、地下室をこんなに深く作れるはずがねぇ」
「換気も照明も湿度、温度も完璧だ。まさか、ここまできちんとできてるとは予想外だった。儂は……あいつに任せても問題ねぇと思うぜ?」
「早計だ。模型ってやつを見てからだな」
「設計図が書けてりゃあなぁ。あんたの息子だってぇのに絵が描けねぇとは、そっちも意外だったぜ、ガイハック」
「苦手なもんのひとつふたつは、あらぁな」
「おふたりは、お受けくださるということでいいのだろうか?」
「……模型、次第だ」
「儂は受ける。あいつと仕事するのは面白そうだ」
「セルゲイスは、食いものに釣られたんだろうが」
「地下室も乾酪も茸も作れる魔法師なんて、面白いに決まってる。あいつの作る厨房ってのが、どうなるか見ものだぜ」
「便利だぞ、タクトの作る厨房は。なんたってちょっと魔力を通すだけで水も湯も出るし、汚れねぇ」
「へぇ! 湯が出るのかよ! そりゃ、シュリィイーレじゃ絶対に便利だなぁ」
「平時と非常時の利用数予測まで立てていたとは、俺も驚いた……しかも衛兵隊で立てた予測とほぼ変わらん」
「ますます模型が楽しみだぜ」
「だが、ビィクティアム、このふたりのことをよく知っとったな?」
「リバレーラの港湾施設と護岸の設計、施工した方々が評判になっていましたので、調べてもらったらシュリィイーレに戻られたと聞いたのです」
「それで、組合に指名で依頼が来たのか」
「地盤が柔いリバレーラでの護岸工事は時間が掛かったが、かなりいいもんができたと思っとる」
「それにしても……おまえら、もう少し早く戻ってくると思っとったがなぁ」
「どこもデカイ工事が多くてよ。カタエレリエラの農園整備も面白かったぜ」
「ああ、加工工房も何カ所か作ってたんだがよ、カカオってやつの」
「カカオは、あの土地の名産になりつつあるからな。うちでもよく使うから加工工房が整備されたってのはいい話だ」
「そういえば上の階にあったな、カカオ……」
「他にも珍しい食材が山ほどあったぜ? 何処の貴族の食料庫にだって、あれほどの食材は揃ってねぇだろうよ」
「おまえの所の食堂は、なんだってあんなに沢山料理の種類があるんだ? 儂ゃあ避難所で、あんな旨ぇもんが食えるとは思ってもなかったぜ」
「タクトがいろいろ作り出すと、ミアレッラも一緒になってなぁ。そのせいで、うちの食料庫がこんな有様なんだよ」
「おまえの嫁さんは昔から料理好きだったが、息子もかよ」
「魚料理があって吃驚した。シュリィイーレで魚を扱う店なんて、高級店ばかりだからな」
「うちの魚はロカエから入ってるが、こいつのおかげで安く済んでんだよ」
「俺は正当な対価として、タクトから頼まれた魚を送るように指示しているだけですよ」
「対価? あいつ、何を売ってるんだ?」
「『不銹鋼』という金属です。港湾関連では随分と助かっています」
「おい……それ、セラフィラントの、あの艤装の金属かっ?」
「ええ」
「あれはシュリィイーレの金属だったのか。カタエレリエラで調べ始めていたみてぇだが、まったく入手経路が判らねぇって……」
「あの金属はセラフィラントの船舶用のものですから、他には出回りませんよ」
「なるほどな、その対価がロカエの魚介か」
「確かに、皇室献上品と釣り合う金属だな。加工が難しそうだが使いてぇな、それ」
「しかし……高く付くだろうなぁ」
「いや、厨房の水回りには使用予定ですよ。加工はタクトができますから」
「ええっ? 使えるのかよ?」
「そういえばやたら沢山作っていたな……ああ、ほら、あの辺に積んどるやつだろ? その『不銹鋼』ってのは」
「……! こ、これ、全部『不銹鋼』……か」
「来年運ぶセラフィラント分もありそうだな」
「お……おい、なんでここに紫檀があるんだ……?」
「ああ、おそらく、うちの内装品を作ってくれた時の余りだろう」
「セラフィエムス卿の、家の内装品? あいつが……タクトが作ったって? 木工もできるのか」
「大貴族の内装品ならこの木があるのも頷けるが、こんな高級な紫檀は珍しいぜ」
「うちの食堂にも使っとるなぁ。そうか、余り物だから部分的にしか使わなかったのか」
「水晶が……山になっとるが……」
「そりゃあ、タクトの魔法用だな。あいつの【文字魔法】は水晶板に魔力を蓄積して発動しとるからな」
「銀や銅……金属も多いが、貴石がこんなに無造作に転がっとるのは、どういうこった!」
「おいおい、紅玉や翠玉……蛋白石に瑪瑙までありやがる。王都の連中が見たら腰抜かすだろうぜ」
「タクトが錆山で拾ってきたやつだなぁ。あいつは目が良いから、結構宝石類も増えてきたみてぇだな」
「青金石も普通に持っていたな、そういえば」
「ほれ、くじゃく石で儂とミアレッラに腕輪を作ってくれたんだぜ。格好いいだろう?」
「相変わらず美しい造型ですね」
「……この家の地下室ぁ、とんでもねぇお宝ばっかりで怖ぇな」
「外から戻ってくると、この町の異常さってのが身にしみて解るぜ……」
「まったくだ。貴石が拾えるのが当たり前の町だったんだよな、ここは」
「それにしたって、この家にはあり過ぎだ。普通なら厳重に金庫にでも入れとくもんが、足元にゴロゴロしてやがる」
「そうなんだろうなぁ……儂らには日常的なもんなんだが。錆山でちょっと歩きゃ拾えるしなぁ」
「タクトなら、何を持っていたとしてもさほど驚きませんね。俺達も随分慣れてきたということですかね?」
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