第278.5話 衛兵達と町の人々
▶西門詰め所・衛兵待機場所
「ふぅ……だいぶ落ち着きましたね」
「お疲れ様、オルフェリード。食事、とってくれってさ」
「ありがとう、セイムス。あれ? また新しい料理だね」
「ああ、凄いよなぁ、あの食堂……俺の子供達が、あの店のもの大好きなんだよ」
「こんなに沢山作ってもらって……大丈夫なんですかね? 徹夜なんてしていないですよね? あの方々……」
「俺も心配になって聞いたんだが、ちゃんと眠ってしっかり食べてるからって笑ってたぜ、ミアレッラさん」
「……絶対、無理してくれていますよねぇ」
「三人とも魔法使いっぱなしだろう? よくもつよなぁ。全然顔色も悪くなっていないし、動けるし」
「タクトくんだけじゃなく、ご両親もきちんと体力を培っていらっしゃるということですね」
「衛兵隊の体力強化、もう少し力入れた方がいいかもしれないな」
「ええ、こういう災害がこれからもないとは言えませんし、いざという時に持久力不足なんて、シュリィイーレ衛兵隊の名折れです」
「……あれ? 誰か、改札から出て来ますよ」
「オルフェリード、食事中にすまん」
「長官! 何かありましたか? あ、すみません、通信機……」
「いや、大丈夫だ。食べ終わってからでいいから、【収納魔法】の使える者を集めて欲しい。ここには何人いる?」
「えーと……今いるのは三人……?」
「あっ、俺も使えますから、四人ですね」
「そうだったのか、知らなかったよセイムス」
「この間出てました。吃驚しましたよ、この年齢で新しい魔法が出るなんて、思ってもいませんでしたから」
「よし、セイムス、後でその三人と一緒に教会に行っててくれ。後から俺もすぐに行く。オルフェリード、交代要員を送る」
「でしたら、こちらは危険地域の方々の避難が完了していますから、ふたりでいいですよ」
「助かる。では、交代が来次第、頼むぞセイムス」
「はっ!」
「あ、ちょ……もう行っちゃいましたね……何をするんでしょう?」
「ふぅ、旨かったぁ! じゃあ、自分は全員集めてきます」
「よろしくお願いします」
▶東門詰め所・司令室
「お帰りなさい、長官。オルフェリード、いましたか?」
「ああ、食事中に邪魔してしまった」
「なるほど……それで通信機を外していたのですね。お手数おかけ致しました、長官」
「食事中くらいは構わん。あちらからは四人来るが、補充はふたりでいいそうだ」
「了解です。南門からまわします」
「南西門からカムラール、教会に着いたそうです」
「北門、補充のふたりと交代してきました。こちらから教会へ向かいます」
「全部で七人か……」
「あまりいないんですね、【収納魔法】持ちって」
「必要ないからな……貴族では持っている方が不思議だ。あとふたりくらい、あの軽量化の箱を持って付いてこられるか?」
「北東の病気が完全に収束しましたので、問題ございませんわ」
「そうか、タクトがいなかったら本当に……この町の三割以上が犠牲になったかもしれないな」
「長官、僕もご一緒させてください」
「ファイラス、おまえが来たらここの指揮はどうするんだ?」
「ライリクスを呼びました。もうすぐ来ます。軽量化の箱、いくつか借りて行きますがいいですか?」
「構わないが……」
「カルラスから、リバレーラに入ります。そちらから運びますので、カルラスからの帰りもセラフィラント経由でご一緒していただきたいのです」
「俺を門番がわりに使う気か?」
「今回は、大目にみてください。タクトくんに……僕ができることは、これくらいなので」
「解った。『貝』の件、全部任せて大丈夫なんだな?」
「勿論です。そちらは既にあたりも付けましたので、早急に対応します。来春、やつらがこの地を踏むことはありませんよ」
「……副長官、こわ……」
「この通信機って、シュリィイーレの外でも使えるのでしょうか?」
「多分使えるだろうが、距離があるとあっという間にこの石板の魔力がなくなるんじゃないのか?」
「それはまずいですね……緊急の時だけにしましょう」
「ああ、基本的にはこの町中だけにした方がいい。この技術と魔法、他に出すのは……まだ少し早い」
「西門からの四人は南門に移ってから、教会に向かったようです」
「俺達も向かう。ライリクスは?」
「えーと、あ、今、一階の改札に着いています」
「遅くなりました」
「食事は?」
「こちらでゆっくりいただきます。南門はレグレストに預けてありますので、衛兵の補充は必要ありません」
「俺達の戻りは明日になる。頼んだぞ」
「はい、お気をつけて……吃驚するでしょうねぇ」
▶南西宿舎内・避難所の人々
「しかし、雪の下に隧道を作っちまうとは、シュリィイーレの衛兵隊はすげぇや」
「俺も案内された時は吃驚しちまったぜ! 初めて方陣門、使ったなぁ」
「ありゃ、方陣門じゃないらしいぞ? なんでも『改札口』……とか言ってた」
「へぇ……じゃあ、新しい魔法かねぇ。流石セラフィエムス卿だ」
「なあ、北東の病院から来たんだろ? 聖女様、見たか?」
「見たとも。美人だったぞ」
「おおおーっ! ここには……病人はいねぇから来ないか……」
「北東の食堂でなんかあったみたいだから、そっちに行ったんじゃないか?」
「聖女様ってどんな人だよ?」
「赤毛で、巻き毛を綺麗に結っていらしたな。肌の色が美しい褐色だった」
「くっそーーっ、見たかったなぁ!」
「……胸は小さかった」
「ふん、デカきゃいいってもんじゃねぇ。大事なのは形だよ、形」
「聖女様ってなぁにぃ?」
「聖魔法が使えて、あたし達を助けてくださる方のことよ。とてもお綺麗な女性なのですって」
「おねーちゃんも聖女様、なるのぉ?」
「お姉ちゃんはなりませんよーお姉ちゃんはお医者さんになるのですぅー」
「おいしゃさーーん」
「あー、こぼれちゃうわ! ちゃんと温和しく食べて!」
「こりゃ、ガイハックんとこで売っとるやつだな。保存食とか言う」
「初めて食った。店で出してる味、そのまんまだな」
「……こんなに配っちまって、いいのかよ? 店で出す分だけじゃなくて、あいつらの冬の蓄え全部……使ってんじゃねぇのか?」
「そうか、ここだけじゃねぇもんな。西にも北東にも避難所はあるし……」
「おっ、魚料理じゃないか!」
「こんなものまで作っちまって……あいつら本当に、ちゃんと食べてるのか?」
「それにしたって、ミアレッラもよくこんなに沢山作れるねぇ」
「ほら、あそこの食堂は、タクトもガイハックも手伝ってくれてるじゃないか。うちのとは大違いだよ」
「まったくだね。ガイハックが野菜を運んでるのを見た時は、吃驚したさ」
「タクトの作るお菓子も美味しいし、ミアレッラもどんどん腕を上げてるし……あの食堂はいっつも混んでる」
「美味しい所は、みんな知ってるからねぇ……あたしもよく行くし」
「そりゃ、行くよねぇ……お菓子、美味しいもの」
「ねぇ」
「早く、雪が止んで欲しいねぇ……」
「こんなに沢山作れるってこたぁ、こんだけ買い占めたってことだろう? 大儲けできて喜んでんじゃねぇのか?」
「おい、そういう言い方すんな」
「そうだぜ。タクトはいい食材だから、買ってくれたってだけだ」
「秋の買い物は早い者勝ちだ。買えなかったのは、目利きが悪くて足が遅いってことだ」
「ふんっ! 買い占められちゃあ、買いたくたって残ってねぇだろうが!」
「買い占めてなんかいねぇよ。タクトは全部キッチリ選んで、買ってくれてる」
「ああ、あいつに買ってもらえると、あの食堂でもの凄く旨い飯にしてくれるからな。俺達は、タクトに買ってもらえる方が嬉しいね」
「こんな災害で儲けてるやつなんて、ろくなもんじゃねぇよ!」
「あんた、あの食堂に行ったこともないだろう? これひとつ、いくらか知ってるのか?」
「……」
「たった五百だ。殆ど儲けなんかねぇよ。それにな、避難所に渡している分は全部、金を受け取っていねぇって話だ」
「え……? いくらなんでもそりゃ……」
「間違いないよ。俺も見た。衛兵が金を払おうとしたら、それを止めて箱にいっぱいの保存食を渡していたぜ」
「『聖女様』みたいなのがもて囃されちゃいるが、今回の大雪で本当にこの町を救っているのは衛兵隊とあの食堂だ」
▶教会
「司祭殿、お待たせした」
「いいえ、セラフィエムス卿。この度のご活躍、本当に衛兵隊の皆様には頭が下がります」
「我々だけの力ではなく、輔祭殿やそのご家族にかなり助けていただいている」
「おお! あの保存食ですね! あれは素晴らしいです。この大雪で教会の者達も、あの保存食で何とか糊口を凌いでおります」
「その彼らの作るものも……恐らく彼ら自身の食料を大きく削って、我らに提供されております」
「ええ、そうでしょう……あれほどの量……」
「ですから、我々が食材を調達してこようと思っているのです」
「しかし、馬車は……」
「いいえ、この手で。ここに来ている者達は【収納魔法】を持っておりますから」
「あなた方が? 貴族であられるあなた方が、荷を運ぶと?」
「貴族なればこそ、民のためにできることをしなくてはいけない。残念ながら、我らに今できることは食材を仕入れ、あの方々に料理を続けていただくことしか」
「……このシュリィイーレを護る衛兵隊は、なんと気高き心の持主ばかりでございましょう……あなた方こそ『貴族』と呼ぶに相応しい」
「では、セラフィラントへの門を通らせていただく」
「どうか、シュリィイーレをお救いください」
「一時的に制御を弛める。門におまえ達の身分証を翳せ」
「セラフィエムス卿、こちらの魔石を皆様に」
「神官殿……! いや、しかしこの寒さでは足りなくなることも……」
「いいえ、どうかお使いください。皆様に我らが今、協力できることはこれくらいですから」
「ありがとうございます。助かります……なるべく、魔力を温存したかったので」
「【収納魔法】は収容量が多くなるほど、維持に魔力の要る常時発動型ですからね。皆様にはたっぷりと、美味しい食材をスズヤ卿に届けていただかなくては」
「はい。では、明日の昼前には戻りますので、我々が通り抜けたら明日の朝までは門を閉めてください」
「畏まりました。ご武運……というのは少々違いますかねぇ?」
「ははは、そうですね。『幸運』を祈っていてください」
「はい。行っていらっしゃいませ、皆様」
「よしっ、市場に行くぞ!」
「タクトくんの知らない食材を手に入れられますかね?」
「そうだな……もしあいつの知らない物を買ってきたやつがいたら、俺から褒美をやろう」
「よっしゃっ!」
「これは楽しい買い物になりますね!」
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