第275話 大雪災害と新たな発見

 雪は三日間で、青通りに百二十センチほどの高さの壁を築いた。

 今日は一時的に止んではいるが、晴れてはいないのでまたすぐに降り出すだろう。


 とんでもない速度でなくなる自動販売機の保存食だが、料理の方は特に在庫切れなどの心配はなく補充もさほど神経質にならずとも追いついている。


 しかし、スイーツの方はとにかくなくなるのが早い!

 半日ですっからかん、という日もあったくらいだ。


 確かに冬場はどの店もほぼ開いていないし食材が少ないので、メインの食べ物を買える店はあるのだが嗜好品は激減する。

 俺と母さんの大好きな果実のゼリーを売っている店も、冬にはまったくと言っていいほど甘味がなくなって木の実を使った蜂蜜クッキーがたまに出ているくらいだ。

 冬場こそ、甘味が食べたくなるシーズンだというのに!


 なので、冬季限定で『温かいスイーツ』の自販機を作ることにした。

 冷めても美味しいが温かいからこそ旨い、フォンダンショコラ風ひとくちケーキである。


 一パックに、ひとくちケーキが六個。

 作り方は簡単、たこ焼きの応用である。

 甘めのホットケーキ生地のようなものを使い、蛸ではなくてチョコレートを中に入れて焼くのだ。


 温かいものが出てくるので、自販機も新たに作成。

 自販機の一部となっている充塡品を置いている場所を三段に区切り、一番上部に湯気の出るほどの温かい商品、二段目はレトルトパッケージに入った料理、一番下は冷たいまま食べるサラダや溶けない方がいいスイーツ類。

 まぁ、各段ごとに温度管理しているから平気なのだが、俺のイメージ的なもので温かいものは上かなーと。


 スイーツ自販機は四台に増え、今までの倍になった。

 これならば暫くは大丈夫だろう、と思ったのだがウチのお客様方のスイーツへの情熱は俺の予想を上回った。


 雪の降っていない日は、必ず毎日補充する羽目になったのである。

 春になったらお客さん達はみんな、まん丸になっているかもしれない……と心配になるほど、お菓子ばっかりなくなっていくのだ。


 春祭り用にとっておいたあんこも、全部『餡入り焼き』にして自販機に入れることにした。

 ……これは、俺が食べたくなって作ったからだ。

 あんこものはメイリーンさんにも凄く気に入ってもらえたので、いい気になって作ったせいもある。


 今年の冬は、なんだかもの凄く忙しい……

 なんで楽ができると思った自販機で、自分の首を絞めているのか。


 そして更月さらつきに入って三日目、どかんととんでもない量の雪が降り積もった。

 誰も彼も自宅から一歩すら出ることができなくなるほどの大雪に見舞われて、やっと補充地獄から抜け出せたのである。


 来年、衛兵隊員達の服のサイズが変わっていないといいな、と心の中で思いつつ、雪が止んでまた南官舎から歩いてこられるようになった時のために、補充だけはガッツリしておくことにした。



 更月さらつき・十日、雪はなんと、七日目になってもまだ止む気配がない。

 かつてない、大災害級の大雪である。

 そろそろ保存食の尽きる人が出始めるのではないだろうかと心配していた矢先、南官舎から決死の覚悟で青通りの高い高い雪壁をくぐり抜けてきた者達がいた。

 雪壁を溶かすのではなく、トンネルを作って雪が崩落しないように固めたようだ……

 南官舎の玄関から斜めに開けられたトンネルは多くの人々の命綱になったようで、レトルト食品は補充が間に合わないほどの勢いでなくなっていった。


「北側の住民達が、寒すぎて自宅の【付与魔法】が効かなくなって困っているって衛兵隊官舎に来てね……避難してきた人達の食糧が備蓄分だけでは足りなくなって、南官舎の人達に隧道を作ってもらったんだ」


 北側官舎に住んでいるドーリエスさんにそう言われ、初めて気がついた。

 そうだよ、衛兵隊はこの雪だからこそ、救助・救援活動で忙しいんだ。


 きっとビィクティアムさんは、東門詰め所の通信室でずっと指示をしているのだろう。

 自分達の分ではなく、北側で避難してきた人達のための保存食を調達に来たということか。


 ほんと、マジもんの人命救助になったわけだ。

 衛兵隊のみんなは……食事、ちゃんとしているのだろうか……?


「通信機で隊員同志のやりとりができるから、的確に困っている人達に食事が届けられるし、避難も促せる。あの改札口のおかげで、凍死者も出さずに済んでるよ。本当に、ありがとうな」


 各官舎の会議室に避難している人達もいるらしい。

 ひとり暮らしで動けない人達にも衛兵隊が南側や東側から、北側、西側に駆けつけてサポートできているようだ。


 なんか……凄く、感動してしまった。

 俺が作ったもので、人助けができている。

 よし、こうなったらとことん協力しよう!


 俺はちまちま自販機で買ってもらうのではなく、軽量化番重にガッツリとレトルトを載せて運んでもらうことにした。

 今年は北側だけでなく、西側も相当雪が積もっているという話だったので、あの時こっそり転移していって西門に改札を設置してよかった……と心から思った。


「この箱、スゲーな! めちゃくちゃ楽に運べる!」

「おおーっ! これ、衛兵隊でも常備しておきたいなぁ。怪我人とか運ぶ時楽そうだぜ」


 あ、なるほど、そういう需要もあるか。

 よし、軽量化担架も作っておこう。


 そこへライリクスさんが現れ、正式に軽量化番重の貸し出しと、レトルト食品の大量支援に協力することになった。

「食品については、後日まとめて代金を支払います。本当にありがとう。君があの改札口と通信機を開発してくれていなかったら、今年の冬はどれほどの犠牲が出たか解らない」


「いえ、お力になれてよかったですよ。えーと、代金……というよりは、春になったら現物支給がいいかなーなんて思っているので、その時にいろいろな食材をいっぱい買い込んで、あの軽量化番重で運んできてくださいよ」

 俺が買い回るより絶対に沢山、俺が見落としているようなものも買って貰えそうだし!


「了解したよ。衛兵隊総出で、買い物をしてこよう」

「では、俺は追加の保存食、作っておきます。あ、保存食の空き袋は必ず持って来てくださいね」

「解った、回収しよう。だが……食材の備蓄は大丈夫かい? かなり……こちらに使っているようだが」


 ライリクスさんは、俺が自分達の分を削ってまで用立てていると思っているのか、もの凄く心配そうだ。

 でも、大丈夫ですよ!

 今年はたーーくさん在庫があるのです。


 なんと言っても、大量に入ってきた魚を使った料理のレトルトが増えましたからね。

 肉と野菜もまだまだあるし、茸とチーズは順調に育っているし、いざとなったら……【文字魔法】で、食材をカンコピしてしまえるのですよ。

 毎回文字を書き直すのが、結構大変だけど。


 母さんも、本当は炊き出しに行ってあげたいけど、ちょっと無理だからねぇ……と、レトルト用の料理を沢山作ってくれている。

 魚料理は、俺が担当だ。

 父さんはレトルトパッケージの素材の抽出をしてくれたり、足りなくなりそうな匙や突き匙、皿などを作っている。


 魔法がなかったら一家族で作れる量ではない……

 でかい食品加工工場が、メニューの数分必要になるだろう。

 そうしてやっと雪が止んだのは更月さらつき十五日の朝だった。


 その日も多くの保存食を衛兵さんに渡し、改めて俺は地下の保管倉庫で在庫確認だ。

 まだ雪の多い季節は、二ヶ月半くらい続く。

 今ここにある在庫だけでは……正直、足りないだろう。


 よし、食材を複製しよう!

 既にレトルトとしてできあがったものを複製してもいいのだが、違うメニューも食べたくなるだろうから、食材で補充しておいた方が対応できるだろう。


 まずは、葉物野菜と根菜類。

 神眼で診ても複製品はオリジナルと遜色はないが、毎回文字を書き直して出さなければ質が落ちてしまうのだ。

 これが地味に面倒くさい。


 それでも俺は黙々と書き続け、食材を補充していった。

 ……でも、いっぱい出し過ぎてはいけない。

 怪しまれない程度にしておこう……


 シシ肉・鶏肉・イノブタ肉、羊肉と牛肉。

 そして調味料類と、豆類、小麦粉、卵、バターや油。

 できあがったチーズも複製した。

 ……卵は、なぜか複製ができるものがあまりなくて、加工してから増やすことになったのだが。


 米だけは、年貢米がまだまだたんまりあるので問題なし。

 小豆とフルーツも、少し出しておこう。

 そうだ、魚も……こっちも加工してから増やしておこうかなぁ。


 補充作業を終え、念のため全てのものを神眼で確認していく。

 うん、ちゃんとキラキラしているね。

 あれ?

 なんか、いつもとキラキラ具合が違うぞ?


 俺は、オリジナルとコピーを比べて視る。

 コピーの方が……なんとなく光りが青っぽい?

 分析してみると、コピーの方が魔効素を多く含んでいた。


 食材にも勿論、魔効素は含まれている。

 これを食べて取り込むことで、人は体力と魔力を回復させるのだ。

 コピーに魔効素が多いというのは、俺が使った魔力が食材の中で魔効素に変換されたということなのだろうか?

 魔効素が多いと、食材にはどういう変化があるのだろう?


 なんだかまた、研究材料が増えてしまったかな?

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