第266.5話 通信管制司令室の人々
「……! 長官、橙色の光が現れました!」
「只今、レグレストより殿下達がタクトくんの身分証を着けたとの連絡が入りました」
「凄いですね。本当に時間差なく声が届く……こんなに距離があるというのに」
「ああ……しかも同時に、こんなに大勢の位置が示されるなど……どういう発想なんだ」
「橙色がエルディエステ殿下、紫がゼオレステ神司祭と……タクトくんからディレイルに伝言がありました」
「やっぱりひとりは神司祭か……道理で各外門からの入場が確認できない訳だな」
「ええ、教会の越領方陣門から来たということですね」
「方陣門での行き来も、制限と管理が必要だな。神司祭だけの行き来ならともかく、その他の者までこうも簡単に検閲なしで通れる事態は放置しておけん」
「まったくです。が、制限をかけるのは、あの方々を王都に帰してから……ですか?」
「そうだ。二度と隠蔽などして入れないようにしなくては。シュリィイーレの治安維持に関わる」
〈おおー、くっつくぞ!〉
〈なんと……! これは鎖が切れても、身分証を落とすことはありませんね〉
「殿下達の声か……かなり鮮明に聞き取れるものだな」
「タクトくんの新作は意匠ではなく、機能ですか。落とさずに済む……魔法?」
「相変わらず……その魔法は制御系だろう。また新しい聖魔法が出そうだな、あいつ」
「ひとつ聖魔法が顕現していますから、出やすくなっているのかもしれませんねぇ」
「おそらく、この『通信』とやらの仕組みも【制御魔法】が使えるようになってきたから、あいつのいう『実用化』ってのができるようになったんだろうな」
〈ではまた、明日も来るとしよう。タクト……くん、またな〉
……〈ええ、おやすみなさい〉
「周りの声も小さいですが聞こえますね。これは状況が解りやすくていい」
「我々の物のように通信内容の言葉のみでなく、身分証から一定の距離の音を聞こえるようにしているのか」
「殿下達の光の点が動き始めました。緑通り方面に向かっています」
「緑通り付近にいる者に、緑通りの青通りから茶通りの間に馬車が進入しないように通行規制を指示しろ」
「はい。十八番、二十二番!」
〈はい〉
〈はい!〉
「青通りから茶通り間、緑通りを通行規制。馬車を茶通りに進入させないように!」
〈了解です〉
〈只今、一台、緑通りを西から南東に走る馬車がありますので、止めます〉
「お願いします」
「これは……かなり効率が良いですね」
「無駄に隊員達を走り回らせることもないし、対応に余裕ができるな」
『長官!』
「……! 『優先通信』ですか」
「どうした?」
「茶通り硝子小屋のダリューからです」
『只今茶通りで酔った者達の喧嘩が始まりました! 制圧するまで殿下達の侵入を防いでください!』
「解った! ダリュー、ひとりだけ硝子部屋に残し、ふたりで対応しろ」
『はっ!』
「近くにいるのは……七番! 十一番!」
〈はっ〉
〈はいっ〉
「ゼオルとシュレイスか。茶通りで喧嘩をしている奴らがいる。茶通りへの通行を規制しろ。十八番、ノエレッテ! 緑通りから茶通りへの進入を規制」
〈はっ!〉
「尾行中のディレイルからです。殿下達は青通りで、別の店舗に寄っているようです」
「よし、ならば緑通りの馬車を先に通せ。喧嘩はどうなった?」
「……あ、制圧できたようです!」
「殿下達、店を出て緑通りから茶通りへ向かっています」
「これ、結構大変ですね……」
「早いところ王都にお戻りいただかなくては……だが、この町の治安にはこの仕組み、かなり有効活用できるな」
〈それより、殿下! あの食堂はとても美味しゅうございましたな!〉
〈こら、殿下……は駄目だ『ルディ』と呼べと言っただろう〉
〈あ、申し訳ございません……ルディ……様〉
〈『様』も駄目だ〉
〈では……ルディさん……?〉
〈うん、それでいいぞ、ハウエサス〉
「あの男、サラレア・ハウエサスか!」
「ご存知なのですか?」
「サラレア神司祭の次男だ。サラレア神司祭がご婚姻なさったのが傍流の女系家門だから公式の場で会ったことはないが、名前だけは聞いている。殿下の近衛だったのか」
〈それにしても、あの店員は……タクト、でしたか? 生意気でしたね〉
〈なんということを言うのだ、ハウエサス! タクトは聖魔法と神聖魔法を持つ、第一位階級輔祭だぞ〉
〈え……? な、なんでそんなお方が……店員の真似事など……〉
〈あの店は特別なのだ。タクトの実家なのだから、決して侮るようなことを言ってはならん!〉
〈は、申し訳ございません……〉
「……町中でこうもぺらぺらと、あちこちに聖魔法師の情報を……」
「タクトくんが聞いてたら怒る……というより、なんらかの『
「町中で口に出して良いことと悪いことの区別もつかぬほど、はしゃいでいらっしゃるということだな……くそっ、陛下に訴えてやろうか」
「長官、何事もなかったかのように追い出し、二度とこの地を踏ませないことこそ『完全勝利』……ではないかと」
「……怖いことを言いますね、アンシェイラ」
「この町とタクトくんの重要性も理解していらっしゃらないのですから、諭したところで意味もありませんし」
「私もアンシェイラに賛成です。陛下への奏上は効果覿面と思われますが、長官が悪役になる必要はありません!」
「わたくしも同意致します」
「シュリィイーレ隊の女性陣は、頼もしいですね。僕も賛成です」
「そうか……ならば必要なのは『何をしたくてシュリィイーレに来たか』だな。それを突き止めることが最優先だ」
「それが遂げられれば、早々に引き上げる、と?」
「遂げられなくても、挫折させてもいい。自ら方陣門で、王都に帰っていただければいいのだからな」
「では、殿下達の会話、一言一句漏らさず」
「きっと、油断するのは家に戻られてからですね」
「絶対に一日も早く突き止めて、冬をのんびりと過ごすのよ!」
「ええ!」
「情報を制する者が趨勢を決める……か。まさにこの『通信管制』はうってつけだな」
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