第229話 朝食
翌朝、俺は以前からの約束通りできあがった
裏木戸と裏口は俺も登録されているので、出入りできるのである。
頼まれてはいないが、朝食に食べてもらおうとサンドイッチを持参したのだ。
俺は度々作っているけど、サンドイッチとかハンバーガーみたいにパンに挟んで食べるってこっちではやらないんだよね。
乗せて食べるのはあるんだけど。
なのでサンドイッチも手で持って食べるわけではなく、フォークで刺して食べるからひと口サイズである。
お披露目の時に手で持つサイズにして、もの凄くみんな食べにくそうだったのだ……だって、フォーク使うと思わなかったんだもん。
手で持って食べるってのを、浸透させた方がいい気がする。
今度、食べ方を書いて自販機に入れよう。
「おはようございます……相変わらず、早いですねぇビィクティアムさん」
「……おはよう。なんだ、突然……」
こんな早朝から、もうキッチリ制服を着込んで準備万端とは……ん?
もしや、早起きではなく、午前様?
「まさか……徹夜で仕事ですか? 今、帰って来たんじゃ?」
「ああ、仮眠だけ取ろうと思ってな。詰め所で寝ようかと思ったんだが、追い出された」
「そんなに仕事が詰まっているんですか?」
「……冬の前に一度領地に帰らないといけないから、片付けておかんとならない仕事を早めにしているせいだ。もうすぐ終わる」
どうせ、昨日は殆ど食べていないんだろう。
うちに来なかったら、まともに食事を摂っているはずがないんだよな、この人。
ちょっと眠そうにしているビィクティアムさんを取り敢えず食堂に座らせて、朝食に持って来たひと口サンドイッチを目の前においた。
「仮眠前に、ちょっとお腹に入れた方がいいですよ。何時間も食べていないんでしょう?」
「そういえば、昨日は……食べ忘れたな」
なにそれっ?
食べることを忘れるなんて、生命体としての生存能力が低すぎるよ!
「食べない方が、仕事の効率は下がるんですよ! はい! 朝食作ってきたんで、食べてから休んでください」
「……そうか、じゃあ……少し食べるか」
「前に約束した乾酪ができあがったんです。味見、してください」
そう言うと、億劫そうだった表情が、ぱっと明るくなった。
そんなに楽しみにしていてくれたのか。
「あの時のか! 四ヶ月もかかるんだな……どれ」
「こっちは、鮪を蒸して解したものを卵黄と酢の調味料で味付けしたものが挟まってて、こっちが乾酪と腸詰め肉で、もうひとつが乾酪と芋と干し肉を和えて焼いたものです」
ツナサンドとチーズドッグとベーコンポテトのチーズ掛けサンドだ。
勿論、しゃきしゃきのレタスや胡瓜も挟んである。
「美味いな……! この乾酪はセラフィラントのものとは違うが、かなり、美味い」
「ふっふっふっ、自信作ですよ。なんたって、キラキラ光っていましたからねぇ」
「きらきら?」
俺は魔眼で食材の熟成状態や、鮮度などが判るのだと自慢した。
「食材が『最もよい状態であるかどうか』が判るのですよ! 最高の魔眼です!」
胸を張って、めっちゃドヤ顔で言い切ったら……大笑いされた。
「お、おまえっ……くくっ……魔眼で一番初めに視たものが、乾酪と胡瓜って……!」
「美味しい方がキラキラ輝いて見えるんですよ! 凄くないですか?」
「ああ、うっく……すっ、凄いな。くっくっ……」
ナゼ、笑うのだ!
「いや、すまん。あんまり、おまえらしくて。これからはタクトに、一番旨いものを見繕ってもらえるってことだもんな。楽しみだよ」
「そうですよ。だから、ちゃんと食事しに来てくださいね」
「ああ、忘れずに行くよ。そうだ、おまえの誕生日が過ぎた頃に、もう一度不銹鋼を頼む。それを運びがてら、俺は一度セラフィラントに戻るから」
「了解です。今回も平板が多くて良いんですよね?」
「そうだな。それと、魚を運んでくるから、入れ物を用意しておけ」
「はーい!」
やったぁ!
秋から冬にかけてのお魚さんがやってくるぞ!
何が来るかなぁ。
「それじゃあ、食べ終わったらそのまま食器はおいといてください。あとで取りに来ます」
「ああ、ありがとうな」
俺はビィクティアムさんの家をあとにし、裏庭を歩きながらなんで越領の方陣門使わずに、馬車に同乗して帰るんだろう? と思っていた。
馬車方陣を使っても丸三日以上かかるのに……途中に何かあるんだろうか?
あ!
忘れてた。
今年の誕生日は、ライリクスさん達とメイリーンさんだけじゃなくて、ビィクティアムさんもって思っていたんだよな。
マリティエラさんの兄上様なわけだし、ご近所さんになったんだし。
もう一度、裏口から失礼しますよ……と。
ありゃ。
ビィクティアムさん、食堂の椅子で眠っちゃってるよ……
相当、疲れてるんだなぁ。
真面目だからなぁ、この人。
ぶっ倒れるまでやっちゃうんだろう……ん?
超過保護加護、付けたまんまだったよね?
もしかしてそのせいで疲れを感じにくくて、やり過ぎちゃったりしてんのか?
疲れを感じた時には、ぶっ倒れる寸前……?
それって以前の、魔力不足が判んなかった時の俺みたいじゃん!
危険だ。この状態は、かなりよろしくない。
俺は魔法でちょいと軽くしてからビィクティアムさんをソファに運び、上着を掛けておいた。
今度、予備のタオルケットを一階のどこかにおいておこう。
流石に、プライベートルームに入るのは気が引ける。
上着から、何か落ちた。
街道の……地図? 何カ所かに印が付いている。
これは、経由するロンデェエスト領内みたいだ。
もしかして、ビィクティアムさんが馬車で行く理由ってこれなのかな?
でもこれは、俺が詮索することではないんだろう。
上着のポケットに地図を戻しておかなくちゃ。
そして俺は、十七日の夕方にうちに来て欲しいとだけメモを残して、空いた食器を持って家に戻った。
ビィクティアムさんに付与した魔法を、疲れだけはちゃんと自覚するように加護の内容を書き替えなくては。
強化や耐性も、ただ強くすりゃいいってものじゃないってことだ。
ライリクスさん達のも、書き替えておこうっと。
それにしても、街道沿いで何かあったんだろうか?
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