第228話 神眼、発動!

「はわわぁ……! タクトくんの眼が……蒼い!」


 夕食時にやってきたメイリーンさんの第一声である。

 今日の昼は忙しかったみたいで、ライリクスさんもマリティエラさんと一緒に来られなくて寂しげだった。

 そして俺は、メイリーンさんにすっかり言い慣れた説明を機械的に喋る。


「ふぇぇ……魔眼になっちゃったのかもしれないんだぁ……」

「……やっぱ、変な感じかな?」

 ずっと俺の両目から視線を外さず、じっと見つめてくる。

 嬉しいけど……恥ずかしくなってくる。


「タクトくんに、似合う! 蒼い瞳、もの凄く素敵!」

 そ、そうかな?

 メイリーンさんがいいって言ってくれるなら、なんでもいーやぁ。

「髪を伸ばしたらきっと、アールサイトス神みたいになるね! ね、ね、伸ばす?」

「……伸ばしません」


 賢神一位アールサイトス神は、蒼い眼なのに黒髪の神様なのだ。

 肩胛骨くらいまでの、ちょっと巻いた長目の黒髪を後ろで束ねている。

 いや、絶対にやらないよ?

 いくらなんでも『神様コスプレ』なんてのは痛すぎる。

 なんでそんなに残念そうなのかな、メイリーンさん?



 その日の夜、俺は転移で旧教会の池の中だった隠し部屋へと直接飛んできた。

 もう小賢しいギミックなど、仕掛けるのが面倒になったのである。

 凝りすぎて何千年も誰にも見つけられないなんて、本末転倒だしね。

 あの三角錐の部屋だって、絶対に俺が訪問者第一号だったと思う。


 床下の穴に、からくり箱に入れた聖典第一巻の複製を隠す。

 で、石の板で蓋をして、方陣で鍵をかける。

 ある程度の魔力を注げば、開くようになっている。


 室内も小綺麗にして、聖典がボロボロでなくてもおかしくない状況を作っておく。

 聖典が置いてあったから、魔力がずっと抜けなかったんですよー的な理由を思いついてくれたらこれ幸い。

 この部屋への扉は元々魔力を流して開ける仕組みだから、そのままでいいだろう。

 もー、ここまで難易度下げたんだから、早いところ発見してくださいね!


 暗号文も、パズルも、なんにもなし!

 魔力だけで見つけられるんだから、すぐに見つかるよね。

 俺は訳文を書いて待っていますからね!


 さ、お家まで一気に転移で帰ろっと。

 そうだ、身分証の隠蔽工作を、見直しておかなくちゃ。



 部屋に戻ってすぐ、身分証を広げて今までの表示制限指示を全部取りだし、書き替えることにした。

 新カテゴリー出ちゃったからねー。

 あれ?


 なんか……全然雰囲気が違うというか……煌めきすぎてない?

 金色じゃないよね、どう見ても。

 トレーディングカードの一番レアなやつみたいな感じで、煌めき捲っちゃってますよ?

『ホロ』ってやつですよね、これは!

 キラッキラで、どうしていいか判らないよ!

 てか、このままだとめっちゃ読みづらい!


 おそらく『聖称』のせいだよねぇ……

 非表示にするだけじゃなくて、姓を表示してる時には金色になる指示も出しておかなくちゃだね。

 その他にも神斎術師系の名称や加護、魔法、技能は全部非表示……

 いや、神眼は『魔眼』として表示しておこうかな。

 こんなにはっきりと瞳に変化が出てしまっているんだから、顕現していないとかえって怪しいだろうし。


 指示を全部見直して書き替えたあと、今日はチーズのお世話をしていなかったことを思い出し慌ててチーズ工房に向かった。

 もう少しで食べられるのだから、最後まで気を抜いてはいけない。

 この後は、鰹節と醤油も様子を確認しておかねば。


 チーズをひっくり返しながら表面を磨き、水分量や成分を鑑定する。

 うん、うん、順調に育っているぞ。

 あれ?

 なんか、一個だけ違って見える。


 最後の方で材料が型枠一杯分に足りなくて、小さめになっちゃったやつだ。

 ……こいつだけやたら金色で、キラキラしているぞ?

 他のチーズもじっと見つめると……中にはすこーしだけキラキラしているものとか、中心部にキラキラが出て来つつあるものなど区々まちまちだった。

 これは、俺、今『神眼』でチーズを見ているのかな?


 全体が金色の、小さめチーズを切ってみる。

 もしかして、できあがっているのではないかと思ったのだ。

 お。

 おおおっ!

 美味い!


 流石にレッジャーノやアッペンツェラーには及ばないが、初めて作ったものとしてはかなりイイ感じだぞ!

 切った中の方にも、金色の燦めきが沢山詰まっている。

 もしかして、この金色は『旨味』?

 それとも『成熟』を知らせてくれてるとか?


 俺は他の野菜なども見てみようと、食材庫へと向かった。

 春から買い溜めている食材は、冬のための大切な備蓄である。

 試しにこの胡瓜では……と、春先のものと夏場のものを比べてみた。

 シュリィイーレの胡瓜は『白イボ系』だ。

 なので、旬は夏場。


 春物と夏物を見比べると、明らかに夏の胡瓜の方が金色ぴかぴかである。

 この魔眼、いや、神眼はものの真の状態、即ち一番よい状態というのが見分けられるのでは?

 素晴らしいっ!

 これは、最高の鑑定眼ではないか!


 実際に二本の胡瓜を食べ比べると、金色の輝きが濃い方が断然美味かった。

 神様、ありがとうございます!

 この神眼こそ、俺が求めていた最高の贈りものです!

 まさに『神の祝福』!



 このことを父さんと母さんに喜び勇んで報告したのだが、微妙な顔をされてしまった。

 こんな素晴らしい神眼の価値が解らないとでも?


「タクト……普通、魔眼で野菜を視ようなんて思わねぇぞ?」

「そうねぇ……タクトは……なんていうか……目のつけどころがちょっと違うのよ、ね?」



 解せぬ。

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