第227話 魔眼、開眼?

「うーむ……蒼いな」

「ね? 蒼いでしょう?」


 翌朝になっても、俺の瞳の色は蒼いままだった。

 薄いアクアマリンみたいな色ではなく、ラピスラズリかロイヤルブルーサファイアみたいな濃いめの『蒼』だ。

 朝食を食べながら、父さんと母さんは俺の瞳から視線を外さない。

 ……なんか、照れる。


「なんだって突然、色が変わっちゃったんだろうねぇ?」

「でもよ、俺達と同じ色だ。悪くねぇ」


 あ、そういえばそうだ。

 父さんと母さんはふたり共、濃い蒼の瞳だ。

 なんかそう考えると、いいんじゃないかなって気になってくる。


 でも……多分、駄目なやつなんだろーなー……

 絶対に、あの翡翠のせいだよねー。


「もしかしておまえ、魔眼になったんじゃねぇのか?」

「魔眼になると、瞳の色が変わるの?」

「神々の色じゃないと、魔眼にはならないからねぇ。顕現すると色が変わる人もいるんだよ」


 瞳の色が変わるっていうのは、あり得ない話じゃないってことか。


「でも俺、特に変わったものは見えていないよ?」

「顕現したばかりだと解らねぇこともあるが、その内なんか視えるかもしれねぇぞ?」

「どのお肉が美味しいとか、どの野菜が美味しいとか解る魔眼だったらいいのになぁ」

「何、言ってるのよ、タクトったら!」

「おまえ、そんなこと神々が教えてくれっかよ」


 ふたりは少し、呆れたように笑う。

 えー?

 割と真剣にそう思ってるんだけどなぁ。

 ……『美味しいものを見分ける魔眼』

 最高じゃないか!

 神様、俺の魔眼が『美味看破』でありますように!



 朝のランニングとランチタイム。

 俺は特に隠し立てもせず、蒼い瞳のまますごしていた。

 父さんと母さんにばれてしまっているので、この瞳の色を隠蔽する意味はない。

 しかし、会う人、会う人にいちいち吃驚されて、その都度説明するのに疲れてしまった。

 たった半日なのに、もう口の筋肉がヘロヘロな気がする。


「タクトくん、眼の色が変わってる……!」

 いや、ファイラスさん、その言い回しは『目がギラついている』みたいでなんか、嫌。

「今朝、突然こーなっていたんですよ」

「ふぇえー……君も、魔眼になっちゃったのかな?」


「それは解りませんよ。ファイラスさんだって紫色でも、魔眼じゃないでしょう?」

「生まれつきの色だからねー、これは。でも途中で変わる人は、魔眼になってる確率が高いんだよ。なんか視えたら教えてね!」

「嫌です。興味本位の人に、個人情報の開示はしません」

 ファイラスさんって、何処まで本気か冗談か解らないんだよね。


「ほぅ、良い色になったじゃないか。綺麗な蒼だ。賢神一位の加護魔眼かもな」

「『加護』の魔眼なんてあるんですか?」

「ああ。神の瞳の色に近ければ近いほど、強い加護だと言われているな。何が視えるようになるか楽しみだ」

「俺の視界は娯楽の対象ではありませんよ、ビィクティアムさん」

「期待しているっていう意味だよ」


 笑っちゃってるじゃないか。

 ビィクティアムさんは、俺が賢神一位っていうことで仲間意識が強いからなぁ。

 嬉しいけどね、ビィクティアムさんと『仲間』ってのは。


 ランチタイムとスイーツタイムが終わったら、身分証を確認しておかなくては……

 昨夜は疲れて、すぐ眠っちゃったからなぁ。



 部屋に戻った俺は、またしてもひとり反省会である。

 頻度が高過ぎる……


 心の平静を保つために、本日のスイーツ『ココアプティング』を傍らに置いて深呼吸をする。

 盗み見防止、よし!

 扉の施錠、よし!


 絶対に、怖いものが出ている。

 確実に誰にも言っちゃいけないものが、顕現してしまっている。

 身体に異変を起こすくらいなのだから、今まで以上のビックリドッキリ案件が!


 どうかいきなり、俺の心臓が止まりませんように……!

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 名前 タクト/文字魔法師カリグラファー

 家名 スズヤ 

 聖称 エステレェリィアズール

 年齢 26 男

 殊勲 イスグロリエスト大綬章

    教会偉勲章

 在籍 シュリィイーレ 移動制限無

 養父 ガイハック/鍛冶師  

 養母 ミアレッラ/店主

 仮婚約 メイリーン/調薬師

 保証人 イスグロリエスト・シュヴェルデルク

     イスグロリエスト・アイネリリア

 証明司祭 ドミナティア・セインドルクス

 魔力 926733


 【神斎術師 正階】

 硬翡翠掩護・初代

 神眼 : 蒼・正 

 祭陣・準


 【輔祭 第一位階級】

 書師・第一位


 【魔法師 一等位】

 神聖魔法:極光彩虹・完成

 神聖魔法:天翔空軸・完成


 蒐集魔法・極冠 文字魔法・極冠

 付与魔法・極冠 集約魔法・極冠

 加工魔法・極冠 複合魔法・極冠

 耐性魔法・極冠 強化魔法・極冠


 制御魔法・極位 治癒魔法・極位

 音響魔法・極位


 金融魔法・最特 彩色魔法・最特 

 変成魔法・最特 混成魔法・最特 

 精神魔法・最特 予知魔法・最特

 顕微魔法・最特 言語魔法・最特


 植物魔法・特位 探知魔法・特位

 菌界魔法・特位 発酵魔法・特位

 

 【適性技能】 

 〈極冠〉

 鍛冶技能 金属看破 金属操作 

 貴石看破 鉱物操作 錬金技能

 魔眼看破 動体操作 神詞操作

 〈極位〉

 石工技能 成長操作 予見技能

 〈最特〉

 木工技能 身体鑑定 感覚操作 

 土類鑑定 土類操作

 〈特位〉

 植物鑑定 植物操作 植物育成

 真菌育成 細菌鑑定 陶工技能

 液体調整 液体鑑定 海洋鑑定

 大気調整 大気看破

 〈第一位〉

 魚介鑑定

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 ……これ、誰の身分証かな?

 知らない。

 こんな名前の人、知らないよ、俺。

 てか、めっちゃ発音しにくい名前だな。

 表記は前・古代文字だし!


 それにしてもお名前まで貰っちゃうって、どういうことなのかな?

『聖称』ってことは、洗礼名的なやつってことなんですかね?

 この世界の神々、基準が低すぎるよ!


 もっと、こう、修行とかさ!

 そういうことをした人にあげようよ!

 名前も魔法も技術も!

 俺なんてうっかり方陣を見つけちゃっただけで、なんもしていないでしょっ!


 あ……もしかして、あれか。

 魔力を思いっきり沢山お支払いしたのが『喜捨』的な意味に解釈されているのか?

 財力ならぬ魔力で、名前とか地位とか買っちゃった感じになっているのか!

 露骨で嫌なヤツだな、俺!


神斎術師しんさいじゅつし 正階】ってのは神職みたいなものですかね……

 そーいう魔法が使えちゃう人のことですか?

こう翡翠ひすい掩護えんご】……こいつは【守護魔法】とか【感応魔法】や『精神操作』系ですか?

『初代』ってことは、代々引き継がれていくのかな?

 あ、古代部屋から持ってきた『生命の書』に載ってるじゃん!


『宝玉による守護を纏う』『加護と守護を与う』『他者の心身制圧操作』

 へー、そーなんだぁー。

 ……

 ……


 なんだよそれっ!

 そんなん神様がやれよ!

 なんで俺が、できるようになっちゃってんだよっ!

 って、やってたけどね!

 いままでもっ!


 こっちの【祭陣】は【解呪魔法】『方陣操作』『創陣技能』のおまとめかなぁ。

 これは、本に載ってないみたいだなぁ。

 そんでもって『神斎術』カテゴリーってことは、今までより段違いに強かったり、方陣を創るの速くなったりしてるのかなー。

 そーいえば、ものすっごい速さで聖典、転写したよねぇ。

 もう一度あの三角錐を開けるって判ってたら、もっとのんびりしたんだけど。


 そして、この瞳の色に関係しているのは『神眼・正階』ってヤツっすよね。

 でも『魔眼』じゃなくて『神眼』ってのは、どういう差があるんだろうか。 

 えーと……『神眼』は……と。


 ……『神の祝福』

 わっかんねぇよ、これじゃ。

 あ、色によって違うみたいだ。

 蒼は『砕星雷光』『真態看取』『幸運』。


 星……砕いちゃう威力の【雷光魔法】ってこと?

 まずくない?

 それ……明らかに攻撃魔法ですよね?


 眼からビームが出ちゃったりするのかな?

 まさか視るだけで、おっかないことになったりしないよな?

 これ、【文字魔法】で封印できるかな……


『真態看取』はサラレア神司祭の、本質を視る魔眼みたいなものか。

 真の姿が視えるってことらしい。

 だとしたら、俺の魔眼もサラレア神司祭と一緒ってことにしておけるかな。


 で、『幸運』……って、何?

 この曖昧な、タウン誌の後ろの方に載ってる星占いみたいな感じ。

 視た俺が、幸運になるの?

 それとも視た人に、幸運を与えられるの?


 ホントにさ『前・古代文字』時代から、この国の人達は説明が足りないよ!

 こんなマニュアルじゃ、訴えられちゃうぞ!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る