第175話 リベンジ?スイーツ
すっかりしょんぼりしてしまった鍛冶師組合長と副組合長が言うには、王都から来月、
ランク査定なんてあったのか……
どうやら数年に一度で、今回の審査は六年振りなのだそうだ。
勿論、シュリイィーレ製品のランクは、毎回最高位なのだ。
しかし、前回王都から来た審査官達におもてなしで出した菓子を、田舎菓子は素朴なだけが取り柄だ、と言われたようだ。
鍛冶製品が最高峰ならいいじゃないか、と思うのだが鍛冶師組合の全員がなんだかもの凄く悔しかったらしい。
そして調理師組合や食品組合にそのことを話したら、なにやらそちらでもプライドが刺激されたようで、シュリイィーレのあちこちで菓子の開発が行われるようになったのだとか。
なるほど、シュリイィーレに菓子店や菓子を提供する食堂が多いのはその反骨精神のお陰なのか。
……負けず嫌いさんが、多いんだなぁ。
「苺は、王都でも大貴族だけの果実。しかも美しいが酸味が強いから、自慢のためだけに出されるようなモノ。それをあそこまで甘く、見目麗しい菓子に仕上げてるのだと見せつけてやることができたんじゃが……」
鍛冶師組合の組合長が、眉をハの字にしてしょぼーんと呟く。
町をあげての、リベンジだった訳だ。
ここまで肩を落として項垂れたおっさん達を見てると、なんか可哀想になってくるよなぁ……
うーん……しかし、もう苺はない。
ない袖は振れない。
「カカオじゃダメなのかな?」
皇王陛下と皇后殿下の召し上がった菓子……ってのは?
「カカオ……そうか、カカオか……しかし、少しくどいのぅ……」
あ、そういえば父さんもそう言ってたな。
おっさん世代には、チョコ尽くしは重いのだろう。
じゃあ……ちょっと工夫してみようか。
俺は明日幾つかの見本を作っていくと約束して、今日のところはお帰りいただいた。
……なーんかこういうことにお菓子を利用されるのはあまり好きではないんだけど、今回はおじさん達に協力してあげよう。
翌日、俺は何種類かのチョコケーキを作り、鍛冶師組合に試食用に持っていこうと準備していた。
そこへセインさんがやって来た。
そうか、今日は十六日だ。
「すまないね、少し早すぎたかな?」
「いいえ、大丈夫ですけど……珍しいですね、法衣のままなんて……」
白い……法衣だ。
でも縁取りが金色だ。
「セインさん、その白い法衣って、王都の司祭や神官はみんなその色なんですか?」
「ああ、縁取りが違うだけで、聖神司祭は皆この色だのぅ。神官はもっと違う色が付いておるが」
「白に赤い縁取りの法衣もあるんですか?」
「法衣が白なのに赤……? いや、赤は……ああ、その組み合わせは神官ではないな。
「いいえ、会ったことはないんてすけど……見たような気がしたんで。多分、見間違いですね。王都の教会から出ない人達というのなら」
ますます、あの映像の不思議さが増してしまった。
これは近いうちに、ちゃんと調べてもらった方がいいかもしれない。
「ところで……何かご用でもあって、早めにいらしたのでは?」
俺は取り敢えず、何事もなかったように取り繕った。
「おお、そうだ、忘れるところだった。実はな、今月はあまり時間が取れなくて、すぐ戻らなくてはならないのだが……君の菓子を幾つか買っていきたいのだよ。今月の持ち帰り用がショコラ・タクトだと言っていただろう?」
それで法衣も着替えずに……?
どんだけ強行軍なんだよ。
まぁ、嬉しいですけどね。
そーだ、セインさんにも、試作チョコケーキ詰め合わせを食べてもらおうかな。
何種類かを箱に詰めてお持ち帰り用として渡したら、殊の外喜んでもらえた。
「どれが美味しかったか、教えてくださいね。試作品なので」
「うむ! 食べたらすぐにでも連絡するとも! ああ、もう時間だ! すまんな、タクトくん!」
やれやれ……王都の司祭様は忙しいんだなぁ。
俺も、鍛冶師組合に持って行かなくちゃ。
「……決められん」
試食を食べた鍛冶組合の面々が、腕を組んで考え込んでしまった……
「私はこの中に木の実が入ったものが、一番旨いと思うのだが」
「いや、煮たコケモモを挟んであったものが爽やかで最高じゃ!」
「俺は全部がカカオのやつが、濃厚で贅沢だと思う」
「何を言う! 乾燥させた果実が入ったものが、至高であろうが!」
好みが分かれてしまったのである。
さっきから、ずうっとこの繰り返しなのだ。
じゃあ、あとは宜しく……と俺はその場からお
あの会議は、ちゃんと結果を出してくれるのだろうか……
しかし、裏を返せばどれも決定打に欠く、ということなのだ。
なんか……悔しい。
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