第170話 魔法講座
筋肉講座のおかげで、秋の食品爆買いに出遅れてしまった。
なんということか、ナッツ類の確保に間に合わなかったのである。
くそー!
今年は胡桃と
諦めて俺はドライフルーツ作りをすべく、二階の台所にフルーツ各種を運び込んだ。
ドライフルーツとチョコというのも悪くない。
アーモンドが少しは在庫があるから、砕いてちょっとずつ入れよう。
栗もあんまり買えなかったんだよなー。
しかし、甘薯で代用を試みる。
ないものを憂うより、あるものでどうにかしていくのが現場対応力というものだ。
俺が冬場のスイーツ用食材確保と準備に躍起になっている時に、朗報がもたらされた。
なんと、教会で魔法の基礎を教えてくれる講座を開くと言うのだ!
しかも講師は、あの王都のハウルエクセム神司祭である!
これは、是が非でも出席せねばなるまい。
対象年齢は二十歳から三十歳、若者が中心だが、もう一度勉強し直したいものも歓迎ということだ。
講座は全部で三回。
……全部、出席したい。
教会で申し込みの時にそう伝えたら大歓迎ですよ、と受け付けてもらえた。
基礎の基礎ですら不足している俺としては、何度も講義を聴けることはかなり嬉しい!
基礎過ぎて、教会の司書室にも本がない『土台』が不足しているのだ。
あ……録画しちゃおうっと。
そうしたら、家でも復習できるぞ。
視察のタイミングで講座が開かれるので、明後日だ。
今日のうちに準備をしよう。
聞きたいことをまとめて、ノートとペンを用意して、なんか学生時代に戻ったみたいだ。
当時は面倒くさいと感じていたけど、いざ離れるとやはり懐かしい。
講義当日、俺はウッキウキで前の方の席を陣取り、カメラをセットしてハウルエクセム神司祭の話に集中した。
黒板等がなく、耳で聞いたものを全て書き留めていかねばならないので、なかなか忙しい。
録画してるのだから大丈夫なのだが、どうしても書きたくなるのは仕方ないことだ。
書いてるうちに日本語になってしまうのも……仕方ない。
一回の講義がだいたい九十分くらいで、その日のうちに三回。
講義内容は多分基礎と思われる各魔法の特性と派生条件、それらを踏まえた新しい魔法の獲得の可能性。
そして、魔力が身体にもたらしている影響等について。
俺が欠落している知識を、解りやすく教えてもらえた。
そうだよ、こういう当たり前のことを俺は全く知らなかったんだよ。
生まれてすぐに魔法が使える訳だから、当然各家庭で教えているものなので『知っていて当たり前』『できて当然』なのだ。
敢えて言葉にして誰かから教わることなんてほぼないことで、自分が持っていない魔法のことまで親に教えて貰わないのが普通なんだよな。
だから、どうやら参加した町の方々も漠然と解ってるつもりになっていただけで、きちんと教えてもらったことはない様子だ。
ま、生まれてすぐにでも息をするように魔法が使える訳ですからね、いちいち『息のしかた』なんて教わらないのは当然だ。
小さい頃の魔力使用量の少ない魔法なんて、親が制御しながら教えてくれるんだろうなぁ。
皆真剣に講義を聞き、自分の魔法のことだけでなく持っていない魔法を獲得するためのことなど、様々なことを質問する参加者がとても多かった。
「こういった機会を設けられたことは、大変素晴らしいことです。これからもわたくし達教会は、皆様の魔法への理解を深めてもらうようにいたします。シュリイィーレには毎月中旬頃に視察に来る司祭がおりますから、是非皆さんの疑問などをお聞かせください。神々からのご加護を学ぶことは、大変重要ですからね」
最後の司祭様からのご挨拶に拍手が起こる。
ハウルエクセム神司祭が毎回来てくれる訳じゃないんだろうが、来てくれた司祭様に魔法のことを教えてもらえるということか。
教会が急に身近になったな。
帰ろうと席を立った時に、ハウルエクセム神司祭に呼び止められた。
「熱心でしたねぇ。全部の回に出るとは」
「俺は魔法に関しての基礎が曖昧なまま使ってるのがいつもモヤモヤしてたので、今回の授業は本当にためになりました。ありがとうございました」
「そうですか。君の力になれたのなら良かった」
そうだ、用意した質問で聞いてないことがあったんだよな。
「すみません……もうひとつだけ質問してもいいですか?」
「ええ、構いませんよ。なんでしょう?」
「魔力って、どうして保有量が物質によって変わるんですか? 何が一番保有量が多くて、維持しやすいんでしょう?」
「……保有の特性については、まだ解明されていません。時間が経つほど保有が増えて行くものと、逆に時間の経過で少なくなるものがあるのですが、その理由が詳しくは解っていないのです。今のところ、一番多く魔力を保有しているのは大地である……としか言えないのです」
なるほど……俺の感覚だと、溜め込むだけの物質と自ら出力できるものがあるんだと思ってたんだけど、その辺は解ってないのか……
だとすれば、維持には岩石や鉱石が有効であるというのは変わらないかな。
まぁ、魔効素が取り込めるから問題はないんだが、保有限界を越えて供給したりしたら、水晶で作ってる指示板が壊れるかもしれないしなぁ。
そこは地道な実験と、検証だな。
こういった検証、鑑定とか看破が使えればすぐに解るのかと思ったけど、そうでもないみたいだ。
魔法と魔力の関係ってのも、なかなか奥が深いものだなぁ。
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