第150話 錆山探掘

 さてさて、本日は待ちに待った錆山入山記念日です。

 すっかり暖かくなって、雪なんて欠片もなくなったのでやっと!

 やっと、念願の錆山デビューですよ!

 俺は朝早くからウキウキで、父さんと錆山に向かった。


 錆山の鉱石はどこから何が取れるか解らないので、鑑定技能フル回転で『見落とされてきたレア素材』を探す所存。

 今回は、ドネスタさんと一緒である。

 錆山坑道をよく知るドネスタさんなら、掘り出し物がありそうな所も知っていそうだ。



「今回、タクトは初めてだからな。安全重視で行くぞ」

 錆山に着いてすぐ、父さんのこの一言でメイン坑道ではなくその付近だけの探索となってしまった……ドネスタさんに頼む意味、なくない?

「いやいや、坑道の周りってのも、なかなか見逃せないものが多いんだぞ? 石だけじゃなくて、金属とか花とかもこの山にしかないものが沢山あるからなぁ」

 ドネスタさんはそんなこと言うけどさ、お子様のお砂場遊び的なものなんでしょー?

 どーせ。


 案の定、若い連中が多く集まっていて、熟練者達にいろいろと教わりながら採取をしているようだ。

 うーん……あの辺りでは、掘り出し物があるとは思えないなぁ。


 俺が辺りをキョロキョロ見回していると、父さんが好きな所を掘ってみろ、とノーヒントで俺に採掘ポイントを探せという。

 ならばと『貴石鑑定』で半径を広げつつ、サーチしていく。

 ん?

 あっちの、あんまり人がいない方で反応があるぞ。


「父さん、ちょっとこの下に降りてもいい?」

「あ? ああ、いいぞ。その辺は堅いから気をつけろよ」


 ほんの少し、南に下った崖。

 俺の『貴石鑑定』に引っかかるのは、この辺りだ。

 ロープで身体を固定して滑り落ちないように確保してから、俺は斜面の足下を掘っていく。

 うん、結構大きい固まりだぞ。


「おお、凄いな。こんな所にも水晶か?」

「これは水晶じゃないよ。透明だけど『黄玉』だよ」


 黄色や濃い橙色のイメージだが、これもれっきとした『トパーズ』である。

 こんなものが、ちょっと掘っただけで出て来るのか!

 本当にとんでもない山だな。


「黄玉……だと? そりゃあ、大したもん見つけたなぁ!」

「この辺り、他にも色々ありそうだね」

「よーし、一緒に掘り出すか!」



 三人で付近の採掘を進めていくと、次第にパラパラと近くで掘り出すやつらが現れる。

 いいものが出てきた所に集まるのは、当然だよな。

 だが、俺達はそろそろここから撤退で、別の場所に行こう。

 ここにあったトパーズは大した量ではなく、俺が最初に取ったものが多分最大だと思うし。



 そんな風にお目当てのものを掘り出して、人が集まりだしたら別の場所へ……と繰り返しながら探索をしていくこと三時間。

 今日の探索は、ここまでとなった。

 軽装の者が錆山にいられるのは、一日四時間までと決められている。

 多分、有害な粉塵を吸い込みすぎないようにするための措置だ。

 しかし、魔法や技能を使うから短時間の割には充分過ぎる成果である!


 今日は金属系はさほど種類がなかったが、貴石がかなり沢山手に入った。

 俺の『貴石鑑定』が、絶好調だったのである。

 決して大きいものではないが、トパーズ、ガーネット、ローズクオーツや琥珀も。

 こんなとば口でここまで見つけられるのは珍しい、とドネスタさんも言っていた通り他の探索者達はここまでの採取はできていない様子だった。


「俺の鑑定も結構、いい精度でしょ?」

「そうだなぁ、タクトがここまで良い目をしているとは、予想外だったよ」

 ドネスタさんに褒められると、めっちゃ嬉しい。

「ははは! こいつは昔から結構、いいもん見つけていたからなぁ。毎日よく石を視ていたもんなぁ」

 父さんもご機嫌だし、初日にしてはまずまずだ。



 それから四日連続で一日三時間の採掘を繰り返し、三日休む……のサイクルで二十日が過ぎた。

 軽装で入れる錆山の坑道内は、全部一通り歩いた。

 これ以上奥に入るには、きちんとした防塵装備や対応できる魔法が必要になる。

 だが、現時点では金属系に関してはこの辺りまでで充分だ。


 思っていた通り、みなさんの見逃し鉱物がザックザクなのである。

 やはり、未知の金属類は結構あるのだろう。

 入口付近でも、レアメタルがごろごろと放置されているのだ。

 全て持ち帰るのではなく、その場で内容物を鑑定で確認して必要なものだけを抽出してしまう。


 実を言うと、どうしても手に入れたい貴石がある。

 以前、ルドラムさんから貰った錆山の石の中に小さい橄欖石かんらんせきがいくつかあり、ひとつだけがもの凄く綺麗な緑色をしていた。


 そう、『ペリドット』である。

 俺はその石を探しているのだ。

 水晶にインクで色づけすることも考えたんだが、やっぱり天然石に拘りたくなったのだ。


 一度は手にしているから、魔法で複製もできる。

 でも、自分の手で掘り出したいのである。

 しかし、今まで俺が探していた辺りでは鉄橄欖石は微量ながらあるものの、お目当ての苦土橄欖石くどかんらんせきは見つかっていない。


「……やっぱり、鉄が多いからなぁ……」

 俺がそう呟くと、ドネスタさんが鉄が少ない方へ行ってみるか? といつもとは違う斜面の方へと案内してくれた。

「どうしても鉄の方が需要が高いからな。こっちだと石の性質が少し違うものが取れるから面白いんだが、生活用品には使いづらいんだよ」


 ドネスタさんがそう言って案内してくれたのは、錆山の東へ回り込むルートだった。

 生活用品に使いづらい……というのは小さい結晶のものが多いということなんだろうか? 金属が少ないのかもしれない。

 それとも、貴石でも硬度があまり高くないとか?


 暫く歩くと斜面がきつくなってきたが、山肌から赤味が消えた。

 鉄分が少ない地層が、表面に出ているのだろう。

 鑑定しながらゆっくり歩いて行くと、少しずつだが岩にマグネシウム含有量が増えてきた。


「ドネスタさん、この辺はどんなものがよく出るの?」

「そうだなぁ……時々、色の綺麗な水晶が取れる。だが、それ以外は……」

 多分、それは水晶ではなく橄欖石だ。

 ふたつの違いを明確に知らなければ、どちらもケイ酸塩鉱物だから鑑定の練度次第では、一緒くたになる可能性がある。

 結晶系の違いなんて、ある程度の大きさがないと解らないだろうし。


「よし、タクト、この辺はどうだ? あまり掘られた形跡がねぇ所だから、なんかあるかもしれねぇぞ?」

 父さんが示した辺りを貴石鑑定で調べてみると、いくつかの反応があるが大きいものではないみたいだった。


「うん……なんかありそうだけど、見える範囲ではあまり大きくはないかな。ちょっと掘ってみる」

「この辺はそんなに堅くはないから、力任せだと掘っている時に必要な石に傷が入っちまうことがある。魔法の強さに気をつけろよ」

 ドネスタさんにそう言われて、俺は鑑定の精度を高めながら慎重に採掘を進めていった。


「あ……あった……!」

 一グラムにも満たないものだが、緑色が鮮やかな橄欖石が出た。

 この辺で、もう少し深く掘ってみよう!


 俺の手元を覗き込んで、父さんが小さく頷きながら聞いてくる。

「タクト、おまえは今、だいたいどのくらいの深さまで視えるんだ?」

「んー……腕を伸ばしたくらいのあたり……までかなぁ。深くなると重なって視えちゃって解りづらくなるんだ」

 現在の鑑定能力で、岩や土の中だとクリアに素材が解るのは八十センチくらいが限界なのだが、その先にも『なんかありそう』程度には視える。


「そうか、結構視えてるな。その倍くらいまで解るようになったら、坑道奥だととんでもないものが発見できることもあるぞ」

「とんでもない……って、どんなものなんです? ドネスタさん」

「そういや現皇后殿下の宝冠についてる紅玉は、錆山で採れたんだったっけな」

「ああ、坑道最奥の『紅い部屋』って言われている場所で採れたものだ。発見者の鑑定範囲がだいたいそれくらいだったんだよ」

 ふえー……宝冠のルビーかぁ……でっかかったんだろうなぁ。


 俺は鑑定の精度向上と範囲拡大を心に誓い、採掘を再開した。

 掘り進めていくと、視えていなかった岩の先が鑑定できるようになってくる。

 ある。

 この奥だ。

 でも、色味が気になるな……できるだけマグネシウムが多い方がいいんだけど……


「おっ! おお! すげぇじゃねぇか!」

 父さんが思わず大声を上げてしまうほど、大きな橄欖石が採れた。

「やった……緑だ!」


「大きいな! 翠玉……とは違うみたいだが?」

「これは『橄欖石』だよ。これを探していたんだ」

「なんか、作るのか?」

「うん! この石なら充分な大きさだよ! 透明度はうちに帰って削りだしてみないとわかんないけどね」



 そう、どうしても『緑の石』で作りたかったのだ。

 ……もうすぐ、メイリーンさんの誕生日なのである。

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