第148.5話 ガイハックとビィクティアム+ライリクス
▶ガイハックとビィクティアム
「……そういうことを言われてもなぁ……」
「申し訳ありません……日が経てば別のことを言いだして、忘れるかと思ったのですが……
「あの陛下が、お忍びなんかになると思うか? まったく、あの方は昔っから……!」
「確かに……」
「おまえもおまえだ! なんでもっと、強硬に反対せんのだ!」
「俺なんかが、伯父上に敵う訳ないでしょう?」
「む……ま、まぁ、あの方に勝てるのは先王陛下くらいしかおらんが……はぁ……よりによって、タクトに会いに来るなど……」
「かなり興味があるみたいです。あなたの……息子だということも含めて」
「どうせ、儂に文句が言いたいだけだろうて。タクトのことは半分は口実だろう」
「タクトに関心をお持ちなのは、事実ですよ。彼の作った蓄音器を、伯母上以上に気に入っておいででしたから」
「相変わらずだな、陛下は」
「それと、実は……タクトの魔法のことでお伺いしたいのです」
「俺が答えられることか?」
「答え、があるかどうかさえ、解らないのですが」
「タクトは黄魔法を最近獲得しています。でも、もしかして以前から使えたのではないですか?」
「……適性がないからか安定していなかったが、初めて会った時には既に使えていたな」
「そうでしたか……他に適性がなくても使えている魔法に、お心当たりがありませんか?」
「なぜ、そんなことを聞く?」
「……これです」
「身分証入れ……加護光が見えるな。タクトの作ったものか」
「はい。すべて彼が仕上げたものだということでしたが……先日まで加護など付いていなかったのです。突然、まるで俺を護るように……」
「ならば、それは神がおまえに対して与えたもので、たまたまその身分証入れが条件を満たしていたに過ぎん」
「これの加護は『聖魔法』でした」
「なんだと? セラフィエムスなら……賢神一位の加護ではないのか?」
「はい、俺も攻撃された箇所がすぐに回復するという【回復魔法】の加護かと思ったのですが、ナルセーエラ神司祭に伺うと間違いなく聖魔法だと仰有いました。俺の持つ聖魔法では、無効化や防御はできません」
「……聖魔法の加護は……余程適性の高い者にしか現れん。もしくは、かなり高い段位の聖魔法が使える者が行う、儀式で授かるものだ……あり得ん。セインドルクスはなんと言っている?」
「やはり、通常ではあり得ないと。しかし、タクトが絡むとどうも我々の常識で量ることができないことが多くて、可能性があるとすればタクトに、聖魔法が目覚めたのではないか……と」
「最近、やたらおまえ達が、タクトに何かさせているようだが……?」
「俺が頼んだのは、さっきお話しした通りですよ。ドミナティアは……他にもあるようですが」
「……」
「睨まないでくださいよ」
「来い」
「え?」
「ライリクスの所に案内しろ!」
「い、いや、あいつにはまだ、色々と伝えていなくて……」
「なら、一緒に言えば良かろう! ほれっ、早くしろっ!」
▶ガイハックとビィクティアムとライリクス
「……どうして、そういうことになったんですか……」
「こいつが、タクトの身分証入れを陛下に見せたりするからだ」
「そんなこと言ったって、俺が断れる訳ないでしょう! なんで全部、俺のせいみたいになっているんだっ!」
「で? ドミナティアは、タクトに何をやらせているんだ?」
「……」
「そんな目で見るなっ、俺は何も言っていないからな」
「こいつが言わんだろうから、ここまで来たんだ。ライリクス、話せ。どうせセインドルクスのやつだろう?」
「……神典の原典を、現代語に翻訳してもらっています」
「はぁぁっ? 原典って……見つけたのか?」
「はい。タクトくんが、教会の地下にあったのを発見してくれまして」
「ふたつの家門の使命に関わっちまってるってことか……まったく、おまえら自分のことは、自分でしやがれ!」
「先生だって、ご自分の家門を放り出して、駆け落ちしてきてるじゃないですか」
「うっ……わっ、儂は……あの時は、血統魔法などなかったのだから……! ええいっ、昔のことはどうでもいいっ! だいたい、なんでタクトに任せるんだ? セインドルクスだって、少しは読めるだろうが!」
「はい『少し』だけ。でもタクトくんは『全て完璧に』読めるんです。彼以外、正確な原典復活を成し遂げられる者はいないでしょう」
「……訳したものを、見たのか?」
「ええ。素晴らしく美しい文字と、文章でした。あれこそ『神典』と呼ぶに相応しい」
「それは俺も同意です。タクトでなければ、神典は書けないでしょう。だからこそ、新しい聖属性魔法が目覚めていてもおかしくないのです」
「そのことを、陛下はご存じなのか?」
「今回の一件で……知ってしまわれました。長官が話した『映像』で兄が……言っていたので」
「そうか……あいつを信じた儂が、馬鹿だったということか……もういい」
「先生、兄は決して、あなたを裏切るような真似はしません! それだけは……」
「何が裏切りかを決めるのは、おまえじゃあない。それと……その『先生』ってのも、もう止めてくれ」
「あなたが、我々の教師であったことは事実です」
「『そいつ』はもういない。ここにいる『
「過去の全てを、否定なさるのですか……?」
「名を変えるということは、そういうことだ。タクトに関わるなとか近づくな、なんてことは言わねぇよ。だが、あいつの望まないことをさせようってんなら、容赦はしない。たとえ……陛下であってもな」
▶ビィクティアムとライリクス
「あれは……本気で怒っていたな……」
「ええ、怒れば怒るほど冷静になって、声が低くなるのは昔から変わっていません。……はぁ……何も起きないといいのですがねぇ、お忍びとやらの時」
「期待するな。絶対に、何か起きるに決まっていると思っておけ」
「陛下は確実に、タクトくんを気に入るでしょうね」
「ああ、そうだな。だがタクトなら、大丈夫な気がするんだよな。あいつがここを離れたいなんて、言うはずないだろうし」
「そうですね。たとえ皇王陛下相手でも、嫌なことは嫌と言うでしょうね。いつもみたいに」
「おまえとマリティエラにも会うって息巻いていらしたから、覚悟しておけよ?」
「ははは……そっちは、諦めました。でも、兄は巻き込んでやります」
「では、俺は高みの見物とさせてもらおう」
「何、言ってるんです? あなただって『兄上』なんですから、陛下のお相手をしていただきますよ」
「……」
「なんて顔なさっているんですか」
「いや……おまえに兄と言われるのは……なんか、やっぱりこう……不思議だ」
「そうですか? 僕はあなたに『義弟』と言っていただけた時は、結構感動いたしましたよ?」
「……まぁ……俺だって、嫌という訳では……ないのだが」
(うーん、副長官の言った通りの反応ですねぇ……面白い……)
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