第124話 雪の日のまったり

 一夜明けても雪は止まず、目の前の青通りはすっかり真っ白である。

 馬車も人も通らない道の上の雪は全く溶けることなく積もっているのだが、青通り沿いの各店や家々には雪が欠片も積もっていない。

 そう、この辺一体は既に俺の『おうち丸っと【付与魔法】』で、雪の積もらない快適住宅ばかりなのである。


 外開きの玄関が動かなくならないように家の前の幅一メートルほども、同じように雪が積もらない魔法が付与されている。

 なので、歩道も確保できているのである。


 俺が成人する前までは家全体の付与でも大した金額にならなかったのだが、成人してすぐに魔法師一等位になってしまったので、昔のように安価で受けることができなくなった。

 実は魔法師組合の規定で一等位は、二等位より金額を高く設定しなくてはいけないのだ。


 そりゃ、そうだよね。

 一等位の品質で、二等位より安いなんて価格破壊もいいところ。


 二等位の方々の仕事を奪わないためにも、一等位の権威のためにもやってはいけないことなのだ。

 正直、権威なんてものはどうでもいいのだが、一等位という名前自体に価値を持たせることが必要だと言われれば仕方がない。


 それでもお金を払ってでも快適にしたい人はするし、快適さよりお金を大事にする人だっているわけだ。

 良い仕事を適正価格で、と言われてしまえばそれに逆らうのも違う気がする。

 だから、俺はリピーターに限り割り引き価格にしているのである。


 去年までに俺の魔法を付与したお家は、現在全員リピーターになってくれているので、これ以上新規客を増やす必要もない。

 今年は一等位になってしまったからか駆け込み需要も少なく、こんな風に雪の日はおうちでまったり……なのである。


 母さんと父さんの部屋には蓄音器を置いてあるので、仕事にならない日はそれを聞いてのんびり過ごしているようだ。

 とにかく、音楽が大好きな母さんが喜んでくれているのが一番嬉しい。

 それだけで、あれを作って良かったと思っている。


 マリティエラさんから頼まれた剪刀ハサミは作り終えてしまったし、アルミパックやトートバッグのストックも充分だ。

 転移魔法で教会の秘密部屋に行ってもいいんだが、今日は自分の部屋でクッキーなどつまみながら寄せ木細工の種板作りとか、新しいケースペンダント用の台座を作ってみたりしている。


 あ、そういえば最近もの凄く『空間操作』を使っているから、身分証の表示に変化があるかも知れないな。

 見ておこうかな。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 名前 タクト/文字魔法師カリグラファー

 家名 スズヤ

 年齢 25 男

 在籍 シュリィイーレ 移動制限無

 養父 ガイハック/鍛冶師  

 養母 ミアレッラ/店主

 魔力 48331


 【魔法師 一等位】

 蒐集魔法・極位 文字魔法・極位

 付与魔法・極位 加工魔法・極位

 集約魔法・極位 複合魔法・極位

 守護魔法・極位 耐性魔法・極位


 金融魔法・最特 治癒魔法・最特 

 

 制御魔法・特位 強化魔法・特位

 変成魔法・特位 混成魔法・特位 

 彩色魔法・特位


 植物魔法・第一位 精神魔法・第一位

 雷光魔法・第二位 重力魔法・第二位

 次元魔法・第三位 音響魔法・第三位

 予知魔法・第四位

 

 【適性技能】 

 〈極位〉

 鍛冶技能 金属鑑定 金属操作 

 貴石鑑定 鉱物操作

 〈最特〉

 錬金技能 成長操作 石工技能

 〈特位〉

 木工技能 植物鑑定 植物操作

 空間操作

 〈第一位〉

 身体鑑定 大気調整 大気鑑定

 魔眼鑑定

 〈第二位〉 

 陶工技能 土類鑑定 土類操作

 液体調整 液体鑑定 精神操作

 〈第三位〉

 方陣操作

 〈第四位〉

 予見技能 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 ん?

 なんで家名が青いんだ?

 前からだっけ?


 それにしてもこの短期間でまたしても、ガッツリと魔力量が増えていますね。

 四ヶ月程度なのに、この増え方は異常だよね?

 魔力切れ寸前までいったせいか?

 それとも黄魔法とか白魔法は、毎日使うと伸び率が高いとか?


 意図的に使っている魔法や技能が、レベルアップしているのはいいよ。

 うん。


 でも絶対に出ちゃいけない系の魔法やら技能やらが、うじゃって出てるのはなんでかな?

 使っていない魔法や技能のはずなのに、勝手に練度が上がっているのがあるのはなんでなのかなっ?



 まぁ【重力魔法】は……やっちゃったから、これは……御免なさいって感じなんだけど、【次元魔法】って何?

 もしかして、転移って次元とか時間軸とかにも関係するの?


 あーあ『精神操作』……出ちゃったねぇ……はい。

 やっちゃいましたからね……もう、反省しているので勘弁して欲しいです。

 でも便利だよなーとも思っちゃっているので、俺って酷い人間なのかもしれない……


 こっちの【音響魔法】ってのは、音源作成のせいだろうな。

 楽譜に起こすとか録音とか音量・音質調節なんかも、今までやってこなかった魔法だからね……

 あ、これ、黄魔法の説明で載ってる。


 はい、また使っちゃいましたね、黄属性。

 もうこうなったら、黄属性も表示しちゃうか?

 いやいや、やっぱまずいよ……止めておこう。


 あー……【予知魔法】『予見技能』は『魔眼鑑定』してる時に『なんとなく感じる』的なものからの派生かなー。

 例の『嫌な予感』が当たるのはこいつのせいなのかもなー。


 だけど『方陣操作』……って何?

 えーと、どっかの本に載ってないかな……?

 確か『方陣門』ってのが載っていた本があったはず……あ、これだ!


 あれ?

 載っているのは、操作じゃなくて【方陣魔法】だ。

 これは全ての方陣が使える魔法……

 俺のはこの魔法とは違って、その『方陣』とやらを操作できるってことか?

 つまり『方陣』の改良とか……改竄とか?


 ふぅん……『方陣』って【付与魔法】の図形バージョンみたいな感じだなぁ。

 あっ!

 あれかっ!

 中二病の必須アイテム『魔方陣』ってやつか!

 ほっほーぅ!

 これはちょっと高まるねっ!


 でも、今までそんなもの見たことないのに、なんでこの技能が出たんだ?

 秘密部屋の本でさえ詳しい説明がないし、俺の魔法や技能は相変わらず謎だらけだ……





*****

『魔方陣』はタクトが考えている『中二病的なもの』です。

『魔法陣』ではありませんw

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