第78話 収穫祭
祭りというのは、どこの国でもどんちゃん騒ぎで楽しいもの……と思っていたが、午前中は祭祀やら伝統的な祈りの時間とかで厳かに神妙に行われた。
そうだよね、神様達への感謝がメインだもんな。
騒ぐだけが祭りではない。
うん。
そして午後になって音楽ががらりと変わり、明るく楽しい民族音楽のような演奏があちこちから響き楽しげな雰囲気になった。
露店も店を開き、縁日と祭り囃子のような風情だ。
うちも店頭で焼き菓子を袋詰めにしたものと、アルミパックにいれた煮込み料理を売っている。
寒い季節の甘いものは心の安らぎ、そしてひとり暮らしでも安心のレトルトパックの再現である。
本当なら樹脂製の内袋とアルミを貼り合わせてパッキングするのだろうが、俺の【文字魔法】ならアルミだけでも食品に影響なく真空パッキングが可能なのだ。
魔法、本当に便利。
料理ができなくても鍋でお湯さえ沸かせれば、パックのままお湯に入れて温められる料理はとても便利なものである。
ひとり暮らしだった俺は、もの凄くお世話になっていたものだ。
いや、ひとり暮らしの人でなくても、どうしても料理がしたくない時だってあるだろう。
そういう時にこれがあれば、ささっと用意できるのである。
ご家庭でうちの食堂の自慢の煮込みが食べられると宣伝し、試食販売したところ大盛況。
値段も店内で食べるより、安めなのもよかったようだ。
冬場の便利食品として、実はうちでも大量にストックしているのである。
【文字魔法】で劣化も酸化も防止できているし、殺菌消毒も完璧。
食べた後の空き袋を洗って、うちに持って来てくれたら次回購入割引のサービス付である。
アルミは俺の魔法で無駄なく再利用できるからね。
うーん、エコロジー。
「タクト、これを返したら割引って本当なのかい?」
「ああ、勿論だよ。食べ終わったら簡単に水で中をすすいで持ってきてよ。一枚に付き一個、次に買うものを一割安くするよ」
「じゃあ、十枚だったら……」
「一個に付き一枚分だから、新しいもの十個は一割引。つまり、九個分の値段で十個買えるってこと」
「そっか、ただで一個貰える訳じゃないのか」
「そこまで優しくないよ、俺」
「ははははっ」
ルドラムさんは、ヘビーユーザー候補である。
まだ結婚していないらしいし、冬場は荷運びの仕事も警護の仕事もなくなるから外に出る機会も減るのに、食事にだけ寒い中外出するのが億劫だと以前から溢していたのだ。
「今回はお祭り特典で十個買ってくれたら、こっちの焼き菓子をひとつ付けるよ」
「二十個くれ」
「毎度ありー! 沢山買ってくれたから、この袋に入れてあげるねー」
布の袋もサービスである。
お祭りなんでね。
このやりとりがいい宣伝になったのか、用意していた三百個はあっという間に完売だ。
あとはお菓子を何度か補充しながら、夕方まで販売する予定だ。
これで冬場の食堂の減収に対して、少しでも補填ができるだろう。
陽が傾いて、焼き菓子もなくなり、うちの店頭販売は店じまい。
店内で今日は少し豪華な夕食が食べられるので、お客さんの入りも上々だ。
忙しいのはいいんだけど、外に出て祭りも楽しみたいなぁ。
「やあやあ、今日は特別なご馳走と聞いて食べに来ましたよ!」
「お久しぶりです、ラドーレクさん」
「久しぶりタクトくん。君も随分忙しくやっているようだね」
「はい。魔法付与の依頼も増えてきて、嬉しいですね」
「君は指名依頼の顧客がかなりついているから、これからもっと忙しくなっちゃうかもしれないねぇ」
「だといいんですけどねー」
俺の【付与魔法】はなかなか切れないから、リピーターが増えてもスパンが長いんだよなー。
まぁ、質が悪いって言われるよりはいいか。
「こんばんは! お夕食をお楽しみの皆様!」
「えっ? トリティティスさんっ?」
「今宵の祭りでこの楽器が演奏できるのも、全てガイハックさんとタクトくんのおかげです! まずはこちらで演奏させていただきたいのですが、よろしいですかな?」
「おおーぅ! 大歓迎だぜ、トリティティス!」
「あら、嬉しいわねぇ! 聴きに行きたかったんですよ!」
父さんと母さんは大歓迎のようだし、俺もすっごく聴きたい!
「では、景気よく参りましょう!」
楽器が一斉に音楽を奏でる。
なんて楽しい曲なんだろう!
バグパイプなのにラテンっぽいけど。
でも演奏付の食事なんて、すっごく『祭り』って感じでいいぞ!
バグパイプだけじゃなくて縦笛とか弦楽器もある楽団の演奏で、食堂内は大盛り上がりだ。
母さんも俺も演奏を聴きに行くの諦めていたんだよね、お客さんいっぱいだし。
「ありがとう、トリティティスさん! 凄く嬉しいよ!」
「なんの、あなた方のためなら、私はいつでも音楽を奏でに参りますよ! この楽器達の恩人ですからね」
こんな風に好意が返ってくると、本当に引き受けてよかったなぁって思うよね。
祭りの夜はみんなみんな笑顔で、楽しくて、美味しくて最高だ。
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