第77話 アフタヌーン・ティー
さてさて、本日の俺的メインイベント、スイーツタイム。
「今日は焼き菓子の盛り合わせと、紅茶のご提供です。新作なので感想聞かせてくださいね」
ケーキスタンドは流石に無理なので、ティーセットと揃いで作った大きめの平皿に三種のミニケーキとクッキーを乗せてある。
ベリーのジャムと栗のクリーム、そして生クリーム。
ミニケーキはミルクケーキと蜂蜜ケーキ、そして紅茶のケーキである。
皆さんに説明しながらテーブルにセットしていく。
おお、皆様のお顔が輝いている。
そうだよねー、甘いものの盛り合わせなんて、高まるよねー。
「すぐにお茶をつぎますので、ちょっとだけそのまま待っててください」
そう言って予め蒸らしておいた紅茶のティーポットをワゴンで運び、温めたカップに少し高い位置から注ぐ。
流石にチャイみたいなパフォーマンスは無理だけど、練習したから六十センチくらいの高さなら大丈夫。
わぁっ
女の子達の声が上がる。
うんうん、こういうエンタメ性もたまにはいいよね。
「熱いのでお気を付けて。渋みが強いと思ったらこちらの砂糖をどうぞ」
お砂糖はバラの形に固めてみた。
こういう演出もいいかなーって。
皆さんに紅茶のサーブが終わり、どうぞごゆっくりと厨房に戻ろうとしたところでライリクスさんに呼び止められた。
「タクトくんは……この入れ方、どこかで習ったのかい?」
「いえ、以前見たものの見よう見まねですよ。本当はもう少し格好いいんですけどね。まだ練習不足で」
「紅茶は……どこで買ったの? 高かっただろうに」
「そんなことありませんでしたよ? 朝市で、端っこの方に店を出していたお婆さんが売ってました」
ライリクスさん、買い足したいのか。
そうだよなぁ、冬場は温かいお茶が飲みたい季節だ。
「朝市かぁ……盲点だったなぁ……」
「あ、でももう出てないですよ? 春になるまで仕入れないって。でも店が出てても次に買うなら、春の方がいいですよ」
「そうなのか……でもなぜ、春の方がいいんだい?」
「茶摘みは春から秋までだから、冬は仕入れ価格高くなるだろうし。俺は秋摘みの茶葉を買えて幸運でしたけど、春一番摘みも美味しいですからね」
「この紅茶は、秋の茶葉なのかい?」
「多分そうですよ。だって、薔薇の香りがしますから」
「……薔薇の? へぇ……僕はあんまり花には詳しくないから薔薇の香りってよく知らないんだけど……こういう香りなのか」
「この香りに合わせて、砂糖も薔薇の形で固めてみました」
「そうなんだねー……うーん、旨いなぁ、この紅茶」
お客さん達みんな、ほんわかした表情だなぁ。
うん、うん、お茶とケーキは心を和ませるよね。
紅茶の香りが店中に漂って、ほわほわの幸せムードだ。
スイーツ万歳。
皆さんが興奮気味に感想を聞かせてくださり、ご好評のようで安心した。
新しく来てくれたお客さんにも同じように説明したり、サーブしたりとちょっと時間がかかる。
これはなかなか楽しいが、ホールひとりは厳しい……
アフタヌーン・ティー形式はやっぱり無理があるなぁ。
次はケーキ、一種類にしよう。
ライリクスさんは、じっくりとスイーツを味わっている。
そんなに食べたかったのかぁ。
最後までゆっくり食べて、お皿の上をきれーーいに食べきった後、溜息をついて紅茶を飲み干している。
カップには保温効果を付与してあるから、温かいままなんだ。
「タクトくん、ほんっとうに美味しかった……! 最高だったよ、全部」
「ありがとう、ライリクスさん。どれが一番好きだった?」
「紅茶の菓子があんなに旨いなんて予想外だったし、蜂蜜のもよかった。見た目の美しさも抜群だったよ」
セットで食器を揃えたかいがあったというものです。
「どこの工房の食器だい?」
「俺が作ったんです。少しだけしか作らないと高く付いちゃうから頼めなくって。使いづらくなかったですか?」
「いや、とても使いやすかったよ。紅茶茶碗がもの凄くよかったんだが……そうか、君が……」
欲しかったのかなー。
まぁ、紅茶好きなら欲しくなるよねぇ。
ごめん、これは余分に作ってないんだ。
帰り道・女子達 〉〉〉〉
「美味しかったし、綺麗だった……あんな飲み物、初めて……」
「紅茶って貴族のものでしょ? あんなに綺麗で美味しいのね」
「タクトくんて本当になんでもできるんだね。素敵だった……!」
「あのお砂糖、すっごく可愛かったわ。売らないのかしら?」
「あれもお菓子みたいだったよね」
「紅茶に入れた時のあの砂糖がすっごく綺麗ね。本当に花が溶けたみたいで素敵」
「あたし、砂糖使わないで持って来ちゃった。うちで飾っておくの」
(信じられないわ……紅茶が、あんなに美味しくなるなんて……しかも焼き菓子にまで使うなんて! 天才過ぎない? あの砂糖とか! 神の造形じゃないの?)
「冬場は紅茶の焼き菓子、多く出してくれるって言ってたよね?」
「……通う。雪でも通う」
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